オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ

文字の大きさ
87 / 120

その29 この世界にて ルース視点(2)

しおりを挟む
「カール!ルース!」
突然窓の方からから声がした。

「父上!」
「2人とも大丈夫みたいだな。遅くなったな。カール、少し弱めてくれ?」

兄様が少しだけ魔法を弱めた。
アイザックはガクリと膝を着いて倒れ込んだ。
「氷の王、アイザック。
先程シルバーサ王国の貴族の家に囚われていた老人と娘は保護したことを確認した。少し衰弱しているが元気だ。」

「無事…無事…?」

「ああ、大丈夫だ。君に会いたがっていたよ。さあ君はどうしたい?」

答えは決まっている。
アイザックは崩れ落ちて泣き出した。もうこれ以上戦う必要はない。
兄様は手を下に下げて魔法を止めた。
赤の光が兄様の周りから消えた。

「こちらも情報不足で申し訳なかった。
初めからシルバーサのことがわかっていれば、他に方法があったと思う。
君には辛い思いをさせてしまった。
あの時捕らえた氷の魔族はみんな我が国に北の塔に閉じ込めてある。
君たちに反乱の意思がなければしばらくしたら解放しよう。
今、君がこのまま大人く私達と一緒に来てくれればそれを約束しよう。」

アイザックは背中を丸くして顔を床に付けたままうなずいた。

しばらく号泣していた。

母上と一緒に部屋を出て行く。
途中僕の前を通り過ぎようとした時、立ち止まった。
青い目が僕を見た。

「君がルースか。羨ましいよ。
彼女は強いな。すまなかった。」

頭を下げて部屋を後にした。

シャーリー…こんな時までヒロインの力を発揮しなくていいよ。

残るは…。
「ひぃ!何卒命だけは…」
「君が悪いんだよ。だってここはゲームじゃないんだよ。怪我をすれば痛い、人を傷つければ心は痛くなるんだ。君の中にあるゲームの登場人物ではないんだ。君はそれに気づかなかった。僕はこの世界で生きているんだ。君の世界で生きていたくはないんだよ。」

彼女は恐怖で少し後ろに下がった。
「君だけが主役じゃないんだ。」

「助けて……。た、たすけ……」

僕は赤の瞳を光らせた。
彼女はバタッとその場に倒れこんだ。

「こいつはひとまずまたマルクのところに送ろうか。」
父上が言った。
「青の魔法で元に戻されるなんてルースもまだまだ修行がたりないね。」
兄様が笑う。
「いやいや言うようになったな。ルースと同じ歳の頃のお前はサボってばかりで酷かったけどな。」
「父上、昔の話はやめましょうか…」
「兄様、父上…」
「まあ、更に私が赤の魔法を三重くらいかけておくよ。」

兄様が手をひょいと振り上げてルピアに向かって赤の魔法をかけた。
やはり僕とは比較できないほど強い赤の魔法だった。

「で、すごい告白じゃん。なあルース?」
と、いいながら兄様は僕の頭に大きな手を置いた。

いやいや、忘れてた!そういえばかなり衝撃な言葉を聞いた。あ~!良く思い出せない。しかし…確かに…

「おっ!お前真っ赤じゃないか。いやいやかわいい奴だ。」
頭をワシャワシャされた。
「兄様…今すごく感動してるんだからやめてよ。」

「お父様、カール、ルースお疲れ様。」
「姉様!」
「まあ、ひとまずシャーリーが無事でよかったわ。あんたの声聞いて緊張の糸が切れたのね。
愛されてるわね~。気を失っているだけだから大丈夫よ。怪我は治癒魔法かけたから傷と骨折は大丈夫。だけど縛られた跡はしばらく残るわね。」

シャーリーはサンドラに連れて帰ってもらったらしい。
今頃心地よく寝ているはずだ。
早く会いたい。

「ルースもだめね。いくら氷の魔族の青の魔力がすごいからって精神崩壊の魔法が解けるなんてね。まだまだ修行が足りないわね。」
「だからそれ!さっきも兄様に言われたから!!」
「そうそうそれにシャーリーの場所探すのにかなり時間かかったな。王太子殿下にヒントまでもらったし。ザイン家たるもの愛する者の場所なんて3分でみつけなきゃ。ねぇ父上?」
「私はザイン家当主だよ。タチヒアを見つけて助けるのに30秒もいらないさ。ああ、タチヒアに会いたくなったよ。さあガーシュイン、後は任せたよ。さあ、子供達帰ろうか。」

「私は別荘に帰るよ。ラリサが心配してるからね。せっかく今日は非番だからゆっくりしてたらエルシーに突然呼び出されたしね。休みの続きをしなきゃ。美味しい料理を作っておいてくれるらしいから楽しみだ。ああ、父上、週末には産まれると思うから母上にお願いしておいて下さい。」
「おや、じゃあ明日から別荘に行くようにさせるよ。」
「え~っ!私今日泊まっていくから明後日からにして。」

「ルース、大丈夫かい?」
父上の目は暖かい。
父上は僕の頭に手を載せた。
手も暖かい。
この家族で僕は本当に幸せだ。
「いろいろすみません。僕が未熟なばかりに…」
「いや、私達のミスでこんなことになってしまったんだ。こっちこそ申し訳ない。でもお前にとっては結果よかったんじゃないか?これでお前達も前に進めるな。」

父上が頭に載せた手に少し力を入れた。
僕はそれが心地よく感じていた。

「はい。」
顔をあげて真っ直ぐに父上を見て笑った。
兄様が優しく頷いた。

「で、シャーリーはいつお嫁さんに来てくれるんだい?
今日からでもいいぞ。大歓迎だ。」

「だから…あ、いや…もう少し余韻に浸らせてほしいな…。
ま、いいか。みんなありがとう。」

この家族はなんて暖かいんだろう。
僕は思いっきり笑ってみせた。

少し涙が出てきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲
恋愛
主人公ライナスを学生時代にいびる悪役令嬢、フェリシアに転生した。 原作通り、ライナスに嫌味を言っていたはずだけど。 「俺、貴族らしくなるから。お前が認めるくらい、立派な貴族になる。そして、勿論、この学園を卒業して実力のある騎士にもなる」 「だから、俺を見ていてほしい。……今は、それで十分だから」 こんなシーン、原作にあったっけ? 私は上手く、悪役令嬢をやれてるわよね?

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

処理中です...