上 下
27 / 83

第8話-3 婚約破棄しようとしていたのはだあれ。

しおりを挟む
ん…困った。
この頃エディシスフォード殿下が優しい。
エディシスフォード殿下の笑顔が眩しい。
記憶を失くして意識を取り戻した日には嫌な顔をされていた。
しかしあの嫌な顔されたのを忘れてしまうくらいだ。

なんかエディシスフォード殿下の笑顔しか浮かばない。
私はどうしたんだ!

昨日だって夕陽バックの殿下にドキドキしてしまった。
おかげでお腹空いたとかわけのわからない事口走っていた。

一人ソファの上でクッションをポンポン叩いて悶えていた。
「お嬢様?何しているんですか?おかしいですよ。
赤くなったり、考え込んだり…ははあああん。」

カーラさんが私を覗きこんできた。
「なな、な、何よ。」
いきなりどもった。
「もしかして…ふふ」
「も、も、もしかして?」
「お嬢様は王太子殿下が気になりますね。」
「えっ!いや…っ…って違…」
私はクッションをバンッと膝に勢いよく置いた。

確かに今はエディシスフォード殿下のことしか考えていなかったです。
「違うって言っても無駄ですよ。その言動全てでそう言っていますよ。ふふふ」

カーラさんの目つきが怖い…。

「そんなんじゃないから!もう!」
「いいんじゃないですか?私は素直なお嬢様が好きですよ。
記憶をなくす前のお嬢様も王太子殿下のことを思っていましたし、そうなる運命なんですよ。」
「はい?運命ってなんでそこに行くの?」
「だって初恋なんですよね?」
「でも…もう8年も前じゃない。」
「あらぁ?ふふふ。顔が赤いですよ。もう嘘つけませんね。バレバレです。」

そう8年も前なんだ。
私からしたらついこの間、殿下に名前を呼んで貰って
ドキドキしていたのに…。
それから5年も経っていたんだ。

その間に何があったかわからない。
何故私が婚約破棄したかったのか…。
やはり好きな人とかいたのかしら?
ここを素通りしてはいけないかもしれない。

「カーラさん…。あなたは言っていたわよね?私が婚約破棄したかったのだと…」
少し声が震えた。
聞いたら私はここに居れなくなる気がしていた。
聞いちゃダメだと言う気持ちと聞かないといけない気持ちがある。

「私はそのように伺っておりました。」
「詳しく教えて…。」

ダメだ…聞いてはダメ。
聞かないで…。
しかし私の気持ちとは裏腹に口が動いていく。
まだ赤のアネモネのことやペンダントのこともわからない。
知りたいと言う好奇心が私の中で勝っていた。

「でも、今はお嬢様は記憶を失くされています。もしかして聞かない方がいいのではないでしょうか?」
「聞かなきゃいけないの。」
「本当に言ってしまっても大丈夫ですか?」

私はじっとカーラさんを見た。
カーラさんも私の顔をじっと見た。

ダメだ…聞きたい…聞かなきゃいけない。
そんな気持ちが私を動かしてしまう。

「お願い。わからないといろいろ困るの。」
「わかりました。本当に言ってしまいますよ。いいですか?」

少しカーラの真剣な表情にごくりと唾をのみ込んだ。
「お嬢様は公爵家に大変なことが起こると言っておりました。」
「大変なこと?」
「申し訳ありません。詳しいことは聞いてはおりませんでした。
 ただ爵位が取り上げられるくらい大変なことだと・・・。」
「爵位取り上げ?!!」
私は思わず大声をあげてしまった。
少し扉の前に誰かいないか確認してしまった。

何をしでかすの?お父様?

「そんな家の娘が王太子妃になるわけにはいかないと。
 王太子殿下に迷惑がかかると申し訳ないと。」
「だから悪く思われるように演じて婚約破棄しようとしていたってこと?」
「はい。その通りです。結構名演技でしたよ。」
「あ、いや。そこを褒められても・・・。」
「お嬢様はお買いになってもらった服や宝飾物は全部売り払っていました。そしてそのお金で修道院や孤児院に食べ物や服を寄付しておりました。」
「はい?」
「お嬢様はとても優しい方です。」
「私が?そんなことを?」
「はい。ストラヴィー公爵家の使用人はみんなお嬢様が心優しことを知っています。
お嬢様は使用人みんなに対等に接してくれていました。
しかしお嬢様本人がそのことは外には絶対言わないように指示されていました。」

私は悪役を演じていたのは婚約破棄するため。
エディシスフォード殿下に迷惑かかるから?
ちょっと待って。それだけ聞いてしまうと私って殿下のこと好きすぎるじゃない。

なんだか今まで周りに驚かれてきたがここにきて自分が、驚くことになるとは思わなかった。

「ねえ、お父様に何が起こるのか本当に私は何も言わなかったの?」
「詳しくはお話ししてくれなかったんです。というか私が聞かなっただけかもしれません。今思えばお聞きしておけばよかったです。」
「爵位が無くなる・・・。お父様の?かなりの罪状よね。」
よ。」?????

何となくわかってきた。
私が王太子妃であるわけにはいかない。罪人の家から王太子妃が出るわけにはいかない。
子供でもいたら大変だ。

なぜ私はそんな未来のことを知っていた?
そこを思い出さなければいけないような気もする。
しかし記憶を失くした今それはかな困難なことになるだろう。

じゃあ、あのアネモネは何?
このペンダントは何?
カーラさんの知らないことだってあると思う。

ひとまずわかるところから片づけていこう。
私はカーラに同意を求めることにした。
「私は王太子殿下の迷惑になるから婚約破棄したかった。」
「そう言っていました。だからお嬢様はエディシスフォード殿下を思っておいでなんだと感じました。」
そう考えるのが普通だ…。
しかしそんな安易な考えでいいの?
「私はエディシスフォード殿下が好きだった…?」
何故だか動揺してしまった。
私の心がドキドキしていた。
「じゃないかと思うんですが…そういう気持ちも忘れてしまうものなのですか?」
私はギュッとペンダントを握りしめた。

婚約破棄したかったのは私。
悪役を演じて殿下の気持ちが私から離れるようにしたのも私。
殿下に嫌われるようにしたのは私。

あんなに嫌そうな顔されるのも当然のことだったんだ。

殿下はまんまと私の演技に騙されただけ。
婚約破棄されるのは至極普通のこと。

でも・・・今の私は。
今の私の気持ちは・・・。

記憶を失くして三週間。
エディシスフォード殿下の優しさを感じてそこにずっといたいと思っている私がいた。
自分でそんな気持ちを持ってしまったのも少しは感じていた。
このまま記憶が戻らなくてもいいと思っていた。
記憶が戻るとこの関係が終わってしまう不安にいつも押しつぶされそうになっていた。
怖かった・・。

聞かなければよかった。
こんなすぐに後悔するなら聞かなければよかった…。

これを聞いても私はエディシスフォード殿下の側にいれるの?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,960pt お気に入り:257

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:171,153pt お気に入り:7,831

処理中です...