狂━クルイ━

狩野 理穂

文字の大きさ
上 下
8 / 12
狂部屋

非日常②

しおりを挟む
 やった。今回も成功だ。無事に入れ替われた。
 でも、ミスったな……。私の意識があっちに侵食するとは。
「彩香、職員室行かないの?」
 そういや、そうだった。呼び出されたのは私じゃないけど、私が原因なんだから。
「じゃあ、行ってくるね」
 教室を出る。廊下を歩く。だんだん面倒くさくなってきた。
 ただ、これも一興。いまつまらない思いをするほど狂部屋が楽しみになる。
「失礼します」
 私は退屈の巣窟に入る━━


「やっと終わった……」
 ようやく開放された。今日は部活がないから、こっそりどこかに隠れながら時間を待とう。
━━キュッキュッ
 だいたい7時くらいかな。足音が聞こえた。
 ゴム底の音だ。つまり、先生じゃないのか。
━━カチャリ
 ドアの開く音がする。この学校で引き戸じゃない扉を、私は狂部屋以外に知らない。
 誰かと一緒になるのは残念だけど、早くあの部屋に行きたい。
 3組と4組の間━━狂部屋のドアが出ていた。
 ……あれ?ドアノブが動かない。
 私はノブを揺する。まずは軽めに━━開かない。激しく━━開かない。ノブが外れそうなほど強く動かすが、ビクともしない。
 なんで?なんであかないの?今までは簡単に開けられたのに。中に人が入っているから?そんなのどうだっていい。人がいてもいなくても狂部屋に入りたい。壊れた机と黒板に囲まれたい。非日常を過ごしたい。
 気づけば、私はドアに体当りしていた。制服が擦り切れ、肩から血が流れても止まらない。
 どれくらいの間こうしていただろう━━
「おい、きみ!何をしている!」
 誰かの声が遠くから聞こえた。
 身体を掴まれ、止めれるが気にならない。私は肩を打ちつけ続ける。
「狂部屋に……早く狂部屋に……!」
 いつの間にか声に出ていたんだろう。
「狂部屋?何を言っているんだ!ここはただの壁じゃないか!」
 私を止めようとしていた人が言う。よく見れば、用務員のおじさんだ。
「あなたこそ何を言っているんですか?ここに、扉が━━」
 私が指さした先には、大量の血痕がついた壁が朝日の中で輝いていた。
しおりを挟む

処理中です...