正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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たいしたことない奴ですけど3

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「……これで完了だな」

頼まれていた書類の整理を終え、28番に任せていたスキャン作業もすべて終了。
電子化したデータの並び替えも今しがた済ませ、手が空いた28番は荷物の整理を引き受けてくれていた。

「そっちはどうだ」

「荷物はそんなに多くなかったし、あとは備品シール貼って終わり!」

やっぱり二人でやると作業が早い。残る作業もあとわずか。これならすぐに帰れそうだ――と思った矢先。

「終わったよ!」

元気な声とともに、段ボールを畳み終えた28番が駆け足で戻ってくる。
その勢いのまま、すぐ隣まで寄ってきた。視線はしっかりこちらを見ていて――妙に近い。

「ねぇ!次、このバイト来るのはいつ?」

「……さぁ」

「あ、まだ決まってない?じゃあ決まったら教えてよ。連絡先交換しよ!」

……こいつ、なんか押しが強いな。別に教えるのは構わないが、俺は返信がまめじゃないし、正直めんどくさい。

「あー……」

「……なに。嫌なわけ?」

少し唇を尖らせて、28番が拗ねたような視線を向けてくる。なんで知りたいんだよ、と思ったが、今日みたく、またクロウの部屋で働きたいからか。

「……返信遅くても文句言うなよ」

ポケットからスマホを取り出すと、画面が真っ黒だった。
電源ボタンを押しても無反応。おかしいな。

「……つかねぇ。充電あったはずなんだが…」

「え、なにそれ。…本当だ。つかない…なんだよ、交換できないじゃん」

28番がわずかに眉を寄せ、不満そうに言うここに来たときは普通についていたはずだ。バッテリーも8割くらいあった……はず。気のせいか。
「……じゃあ次来たときでいいよ」と口にしながらも、28番の頬は少し膨らんでいた。仕方ねぇだろ。

「……じゃ、頼まれた仕事は終わったし、俺は帰るぞ」

「え、ちょ、待ってよ!」

作業を終え、執務室を後にする。28番が慌てて足音を早め、すぐ横に並んだ。
廊下に出た瞬間、背後でドアが静かに閉まる音が、やけに耳に残った。



執務室を出て、廊下を28番が小さく足音を立てながら少し前を歩く。

「今日はありがと。色々助かったよ」

ここへ来たとき、何かと突っかかってきた態度とは打って変わって、今は妙にしおらしい。
俺は適当に相槌を打ちながら、その背中を追っていた。

「あ、そうだ。365番ってさ、本名は?よければ教えてよ」

そう言いながら振り返った28番の視線が空を切る。
さっきまで後ろにいたはずの俺は、もうそこにはいなかった。

「あ、あれ?365番…?」

呼びかける声が廊下に響くが、俺は答えられない。口を塞がれ、声を発することができないからだ。

ほんの数秒前――廊下の角へ足を踏み出した瞬間、腕をぐいっと掴まれ、脇へと強引に引き寄せられた。背後から抱き込まれる形で押さえつけられ、掌が静かに、しかし確実に口元を塞ぐ。背中越しに伝わる鼓動は、妙に落ち着いたリズムで、かえって不気味だった。

「……静かに」

耳元で低く囁く声。もう考えるまでもない、またお前か――と胸の内で吐き捨てながら、俺は黙って身を委ねる。

「……どこ行ったんだよ、もう!」

少し離れた場所で、28番の小さな声が聞こえる。

やがて足音が遠ざかり、完全に消えたのを確認したのだろう。背後の拘束がふっと緩み、かわりに視界の端へミントグリーンの髪がすっと差し込む。

「こんにちは、トオルさん」

敵陣のど真ん中だというのに、素の姿のまま、いつ見ても余裕の笑みを浮かべている。
……ここのセキュリティは、一度真剣に見直した方がいい。

「随分と――懐かれたものですね?」

「あ?」

「彼……今日は一緒に作業されていたのでは?」

「あぁ、28番?懐かれたわけじゃねぇよ」

即座に否定すると、グリーンの視線がふと俺の腕へと落ちる。袖口から覗く、細い赤い線。

「……その傷は?」

「……傷?」

腕を掴まれ、傷口を指先でなぞられる。
触れるだけで済むはずが、そのまま指の腹がゆっくりと円を描く。擦り傷はもう乾いて痛みはない――が、妙にくすぐったい感触に背筋が粟立つ。

「……猫に引っ掻かれた」

説明するのもめんどくさくて、そう答えた瞬間、口角がわざとらしく上がる。
そして、傷の縁を親指でそっと押しながら、囁く。

「そうですか。トオルさんの身体に傷がつくのは耐えられませんので――お気をつけくださいね」

息のかかる距離で言われ、思わず腕を引こうとしたが、その手は離れない。猫、でしたらよかったんですけどね――と、愉快そうに笑う声が耳に残った。その目の奥が、まるで「犯人」をもう知っていると告げているようで、背中に冷たい汗がにじむ。おい、何もしねぇよな?

「……ってかお前、敵陣に堂々と来んじゃねぇよ」

無理やり話題を切り替えるように、声を少し強める。グリーンは一瞬だけ目を細め、それからふっと笑った。

「……心配してくれてるんですか?」

「違ぇ」

言い返した途端、腕を押さえる指先にわずかに力がこもる。まるで「逃がさない」とでも言うように、笑顔だけは崩さないまま。

「トオルさんが魅力的すぎて、私の心配は尽きないんですよ。これ以上、周囲に信者を増やされても困りますし……そろそろ、私の目の届く場所にいていただこうかとも考えています」

……何言ってんだ、こいつ。そう思いながら横目で冷ややかに見ていたが、グリーンの口元は笑っているのに、目はまったく笑っていないことに気づいた。…おい、本気じゃねぇだろ。

「さ、送っていきますよ。このあとスイーツでもどうです?体重が増えたことも気にされているようでしたので、低カロリーで美味しいスイーツの候補をいくつかトオルさん宛に送っておきました」

……おい、なんで体重のことまで把握してんだ。
ストーカー臭しかしないのに、弱点を的確に突いてくるあたりが腹立つ。我ながらスイーツに釣られるのは単純だと思うが――まぁ、食べたいよな。
「候補を送った」ってことは、スマホか。
ポケットから取り出し、通知を開くと、グリーンから送られた店のリストがずらりと並んでいた。

(……この豆乳を使ったチーズケーキ、いいな)

スクロールしている途中で、ふと背筋を撫でるような違和感が走った。
――あれ、なんで普通にスマホが使えてるんだ?

さっきまで電源が入らず、充電切れだと思い込んでいたのに、表示されたバッテリー残量は八割。指が止まった俺を見て、グリーンが何気ない調子で口を開く。

「……どうかしましたか?スマホはもう、使えるはずですが」

隣から落ち着いた声が届く。視線を向けると、グリーンは微笑みを崩さず俺を見ている。

……まさか、とは思うが。そんなわけないよな。考えるだけ時間の無駄だ。その言葉の裏を探る気には――いや、探る勇気は俺にはなかった。

それより、この豆乳のチーズケーキだ。やっぱりこれにしよう。

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