正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

文字の大きさ
45 / 71

懐かれるのは不本意です2

しおりを挟む
「なるほど、状況は理解しました」

グリーンの視線が、俺の腕に収まった子猫へと落ちる。
そこにあるのは柔らかな愛情ではなく――獲物を見張る獣のような、鋭い独占欲。

……おい、猫にまで嫉妬するなよ。

「それなら、私も一緒に病院へ行きましょう」

ブルーは驚き、レッドは楽しそうに返事する。

「いいな!みんなで行こう!」

まだ俺は「行く」なんて一言も言ってないけどな。にもかかわらず、空気はすっかり決定事項。
俺に拒否権は……なさそうだ。

レッドが元気よく前に出て、「よし行こう!」と先頭を切ろうとしたその時。
ラブラドールの茶々丸が、俺の足元にどっしり腰を下ろした。

「茶々丸~?行くぞー?」

レッドが声をかけ、リードを軽く引く。
だが茶々丸は尻尾を千切れそうに振りながら、俺の顔をまっすぐ見上げている。

試しに俺が一歩足を動かしてみると――同じタイミングで、茶々丸もすっと立ち上がって歩き出す。

……おい。完全に俺に合わせて動いてんじゃねぇか。
グリーンもブルーもレッドもいるだろ。他にいくらでも人間はいるのに、なんでよりによって俺なんだよ。

茶々丸の熱い視線に耐えきれず、俺はそっと身をずらし、グリーンを盾にして距離を取った。
……これならひとまず飛びかかられずに済むだろう。

「……?」

その行動にブルーが怪訝そうに眉をひそめる。
一方のレッドは、まるで気づく様子もなく能天気に声を張り上げた。

「茶々丸~?ほら、行くぞー!」

だが――グリーンだけは違った。
俺の仕草を肩越しに追い、その一瞬を逃さず口元にゆるやかな笑みを浮かべる。

「トオルさん。もしかして――」

「……黙っとけよ」

俺が動物苦手であることはバレるだろうとは思っていたが、気づくのが早すぎんだよ。
否定する間もなく、グリーンは俺の肩に身を寄せるように近づき――吐息がかかる距離で笑った。

「私を盾にするなんて……トオルさん、可愛すぎませんか」

耳元に落ちる低い声。ぞわりと背筋が震える。
さらにグリーンは、俺にしか届かない小さな声で続けた。

「……想像以上にキますね。こんなの、守りたくて仕方なくなるじゃないですか」

……おい、近い。耳元で囁くな。頼むから頭の中だけでやってくれ。至近距離で勝手に悶えているグリーンを横目に、俺は深々とため息を吐いた。
ちょうどその時、ブルーがわざとらしく咳払いをして、場の空気を立て直す。

「……とにかく、病院に急ごう」

その一言で、結局俺たちはぞろぞろと動物病院へ向かうことになった。

歩き出したところで、グリーンが俺の腕に目をやり、子猫を引き取ろうと手を伸ばしてきた。だが子猫は俺のシャツに爪を立て、必死にしがみついたまま離れない。
さらに追い打ちとばかりに、グリーンへ向かって小さく「シャーッ」と威嚇の声を上げた。

……まぁ、だろうな。あんな目で見られたら、俺だって拒否する。

結局、俺は子猫を腕に抱いたまま、病院への道を歩くしかなかった。



自動ドアをくぐった瞬間、待合室の空気がわずかに揺れた。
白い壁に並ぶ椅子、壁掛けテレビから流れる穏やかなBGM――どこにでもある動物病院の光景。

……だったはずなのに。

「イケメン集団……」

「え、あの赤い髪の子……テレビで見たことあるような」

「まさか……正義のゼットレンジャーたちじゃ……?」

小さな囁きが連鎖し、視線が一斉に突き刺さる。好奇心と興奮のざわめきは、あっという間に待合室全体へ広がっていった。

レッドはそんな空気をまるで気にせず、にかっと笑って茶々丸のリードを引き、ブルーは落ち着いた仕草のまま周囲をさりげなく観察している。
そしてグリーンは――楽しげに口元を緩め、俺の肩へと当然のように身を寄せてきた。

……やめろ、近い。余計に目立つだろ。

「では、受付してくる」

低く静かな声を残し、ブルーは迷いなく受付カウンターへと歩いていった。

「では、私たちは座って待ちましょうか」

そう言って、グリーンの掌がそっと俺の背に触れる。
自然な仕草に見えたのに、そのわずかな導きに抗えず――気づけば彼の隣に腰を下ろしていた。

やがてレッドもやって来て、グリーンのもう一方の隣に腰を下ろす。茶々丸はレッドの足元にのんびりと腰を落ち着けた。

いつの間にか受付を終えたブルーは静かに俺の前に立っている。目立つ彼らと一緒にいるせいで、周りの視線がやけに気になって落ち着かない。

腕の中の子猫は薬品の匂いに怯えたのか、小さな体をぎゅっと丸め、胸に顔を押しつけてくる。
布越しに伝わる爪の感触に思わず肩をすくめた。

「……おい、爪。シャツに穴あくだろ」

文句を言っても、返ってくるのは喉を鳴らすごろごろという音だけ。隣でグリーンが、愉快そうに口元をほころばせた。

「私ですら触れたことのない場所に、あっさり顔を埋めるなんて……妬けますね」

やわらかな声音に反して、瞳の奥が一瞬きらりと光る。笑みのままでも、空気はぴんと張りつめた。

「……そこで嫉妬すんなよ」

俺がそう突っ込んだ瞬間、グリーンの肩越しにレッドがぐいっと身を乗り出してきた。

「トオルさんのとこが安心するんだよ!な、茶々丸!」

「ワン!」

茶々丸は尻尾をぶんぶん振り回し、全力で賛同していた。そのとき――

「青井さーん」

受付から名前を呼ばれ、ブルーが静かに振り返る。
診察室の扉が開き、白衣の獣医が中へと促した。淡々とした声に、場の空気が一瞬だけ引き締まる。

「では……子猫を預かろう」

差し伸べられたブルーの手が、まっすぐ俺と子猫へ向けられる。だが子猫は当然のように胸元にしがみつき、爪をシャツに食い込ませて離れようとしない。喉を鳴らしながら、必死に俺へ縋りついてくる。

「……おい、今度こそ穴が開くって」

ため息まじりにぼやいた瞬間、隣から伸びたグリーンの手が子猫の首根っこをひょいとつかむ。「にゃっ」と短い声を上げ、子猫はあっさり俺の腕から離され、そのままブルーの胸元へと収まった。
ぽかんとした顔で抱かれた子猫は、一瞬だけ大人しくなる。

「すぐ戻る」

子猫を抱え直しながら、ブルーは短くそう告げると、そのまま診察室へと足を運んでいった。
だが、扉をまたいだ瞬間――「しゃあっ!」と鋭い威嚇が待合室にまで響き渡った。

重みが消えた腕を振りながら、俺は深くため息をついた。
空いた手が所在なく宙をさまよい、やがて無意味に指先をいじり始める。
……やっぱり俺は動物が苦手だ。

「手が寂しいなら、繋ぎましょうか――恋人繋ぎで」

さらっと俺の手を絡め取ってきたグリーンに、待合室がざわりと揺れた。冷めた目を向けながら、俺はその手を振り解く。

「……公共の場で何してんだ」

「じゃあ、二人きりなら許してくれるってことですか?」

振り払われてもなお、どこか嬉しそうに笑うグリーン。そのポジティブさに言葉を失い、俺は小さくため息をついた。

……やっぱり、動物よりお前の方がよっぽど苦手だ。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...