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犀の角・別役実
『舞え舞えかたつむり』 広田ゆうみ+二口大学 犀の角(上田市)
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日時: 2023/10/6-8
作品名: 舞え舞えかたつむり』(別役実)
主催: 広田ゆうみ+二口大学
場所: 犀の角(上田市)
ホームドラマ的夫婦喧嘩な「驟雨」の翌日にこれを観る面白さ。
犀の角で別役作品を観るのも「いかけしごむ」「受付」「部屋」に続いて4作品目。ワークショップにも参加でき嬉しい。
前年の演劇イベント松本FESTAで観た「舞え舞えかたつむり」はまぁまぁなスプラッターで、広田さんならどうするだろう?とは思ってた。結果、完全無血。過去に観劇した作品よりは少なからず動きは多かったものの、凛とした着物美人が日常の延長として、どこか歪んだ境界線の先でくるくると舞う姿が愛おしい。
そして、不思議なことに、一番、愛を感じた。
夫婦についての物語である。前日岸田國士さんの「驟雨」では「まぁまぁ許しなさいよ」ってな雰囲気だったものが、こちらでは容赦ない。というより、その「許せない」を正当化するがごとくの理由がこれでもかと積まれる。そして除かれる。そのうえで残った深淵。
不条理劇として、深淵は深淵のままで十分である。なので、以下は観劇に便乗しての持論展開である。
個人的に「他人が家にいるストレス」は予想外に耐え難たい。正直、職場ですらそれを感じることがある。そして、じわりじわりと蓄積される。許せない自分の心が狭いなと感じるし、敬うべき相手もしくは愛おしい相手にそれを感じるのもなかなかに絶望である。「存在が嫌」。そこまでではなくても、本人も気づかないような些細な積み重ねが大なり小なり生じる可能性はある。そして、人間には「飽き」の機能も存在する。ある時代の男性なら「嫁と畳は…」と悪気なく言えただろうが、社会の秩序やそれに対する責任を考慮すれば、そうそう無邪気にも要られない。敬うべき、愛おしい相手に「飽き」が適用されること自体も絶望である。
自分の狭量さもしくは不道徳さ、「人でなし」ぐあいを正当化するため、無意識に相手を下げることもある。ただでさえ欠点が目に付くし、頭の中で誇張されたりもする。それでもその正当化は自己を守るために必要なものであり、婚姻関係の継続にもつながる。「人」でいられる。一時しのぎとしての愚痴や夫婦喧嘩がガス抜きになり発散になる。そうして、時間が経過していくうちに互いの成長や変化、そして「情」が生まれる…だから「犬も食わん」となる。旦那デスノートは時として深刻だが、根底にあるのはそれなんじゃないかとは思う。
一方で、正当化の基準にも個人差はある。「新婚旅行で初夜も果たさず、置き去りにされた」も「まぁまぁ」とされる世の中で些細な事を訴えたところで、「まぁまぁ」と言われるのは目に見える。当時の新聞やテレビという存在の現れは、閉じたコミュニティーの外の価値観を目にする機会が増えたことにもなる。そして、今、我々がいるSNS時代では、それがより広がり、双方向にもなっている。それはガス抜きの手数を増やすことにもなるが、「まぁまぁ」の数も増えることになる。
ガス抜きにならぬ。そして、紛れもなくガスはある。ガスが凶行を起こす。
実は、些細でも目に付く程度の欠点があるうちは「人」でいることができ、「新婚旅行で初夜も果たさず、置き去りにされた」もガス抜きの存在としては、見方によっては幸福なことかもしれない。むろん、その後の成長も見られず、無能を垂れ流すばかりであれば、ガス抜きではなくガス発生装置にしか過ぎないわけだが…まぁ、少なくともこちらは「人」でいられる。「人」のまま〇せる。
ラスト、「捏造された理由」を剥ぎ取った男が「正当な理由」を与えようとし、女が拒絶する。拒絶に対して、悔し気に怒りをしめして退場する二口さんが切なかった。「人として、仲間として迎えるための救いの手をどうして断るのか」「人の厚意を踏みにじって」「分からずや」。貴方の善意は理解しているし、有難いとも思う。が、本当に申し訳ないが、私には不要なものである。不快なありがた迷惑でしかないのですよ。
…といった言葉があったわけではないが、なんだか大きい熱量のあるものが行きかい行き場をなくすようで、それがここいちの「愛」に見えて切なかった。
どうなんだろうな。単に「かたつむり」への残酷さを許容するだけでもよいのかもしれない。人間社会の成立のため、是とする訳ではないが、認めないよりは認める方がよい。そして、自由であれば。かつて、私は殺したいと思い、それが具体性を帯びてきたところで逃げた。そこに正当な理由なんてなかった。前夫は正しかった。それでも、自分は正しかったんだと思う。正しくないという点で、正しい在り方だったんだと思う。
繰り返すが、深淵は深淵のままで十分であり、劇中でこれらの解釈がなされたわけではない。自分の体験と理屈によって、そう見えただけだけのこと。思っていた以上に「女」に自分を重ねてしまえたこと。それに過ぎない。ただ、そんな解釈の幅を持つことができる、深みを感じる、そんな時間だったと思う。有難い。
尚、ワークショップの題材は「受付」。集まった5組が絶妙に奇跡で、何ひとつ被らぬ5者5様の「受付」となった。個人的な好みとしては、直前の心理状態に忠実な黒岩さんの男とそれにシンプルに呼応したお嬢さんの組が異世界かつ衝撃だった。自分らは友人の実験に付き合う形で、ある種のコメディへ。特に自分は、これまで目にしてきた長期休暇明けの人を模倣してただけなんだが、本人達に見られたら病状を悪化させそうなので、ほどほどにしておきたい。が、いずれも優劣を枠を超えた多様性であり、芝居の奥深さ、はまる理由を感じた。んで、ゆうみさんと二口さんのコメントが温かいんだわ。
二口さんは『Before the Dawn 第二部 ~島崎藤村「夜明け前」を巡る旅~』にも主演。皆、楽しみやがれ。ちきしゃう。
いやいや、是非また。楽しみにしています。
作品名: 舞え舞えかたつむり』(別役実)
主催: 広田ゆうみ+二口大学
場所: 犀の角(上田市)
ホームドラマ的夫婦喧嘩な「驟雨」の翌日にこれを観る面白さ。
犀の角で別役作品を観るのも「いかけしごむ」「受付」「部屋」に続いて4作品目。ワークショップにも参加でき嬉しい。
前年の演劇イベント松本FESTAで観た「舞え舞えかたつむり」はまぁまぁなスプラッターで、広田さんならどうするだろう?とは思ってた。結果、完全無血。過去に観劇した作品よりは少なからず動きは多かったものの、凛とした着物美人が日常の延長として、どこか歪んだ境界線の先でくるくると舞う姿が愛おしい。
そして、不思議なことに、一番、愛を感じた。
夫婦についての物語である。前日岸田國士さんの「驟雨」では「まぁまぁ許しなさいよ」ってな雰囲気だったものが、こちらでは容赦ない。というより、その「許せない」を正当化するがごとくの理由がこれでもかと積まれる。そして除かれる。そのうえで残った深淵。
不条理劇として、深淵は深淵のままで十分である。なので、以下は観劇に便乗しての持論展開である。
個人的に「他人が家にいるストレス」は予想外に耐え難たい。正直、職場ですらそれを感じることがある。そして、じわりじわりと蓄積される。許せない自分の心が狭いなと感じるし、敬うべき相手もしくは愛おしい相手にそれを感じるのもなかなかに絶望である。「存在が嫌」。そこまでではなくても、本人も気づかないような些細な積み重ねが大なり小なり生じる可能性はある。そして、人間には「飽き」の機能も存在する。ある時代の男性なら「嫁と畳は…」と悪気なく言えただろうが、社会の秩序やそれに対する責任を考慮すれば、そうそう無邪気にも要られない。敬うべき、愛おしい相手に「飽き」が適用されること自体も絶望である。
自分の狭量さもしくは不道徳さ、「人でなし」ぐあいを正当化するため、無意識に相手を下げることもある。ただでさえ欠点が目に付くし、頭の中で誇張されたりもする。それでもその正当化は自己を守るために必要なものであり、婚姻関係の継続にもつながる。「人」でいられる。一時しのぎとしての愚痴や夫婦喧嘩がガス抜きになり発散になる。そうして、時間が経過していくうちに互いの成長や変化、そして「情」が生まれる…だから「犬も食わん」となる。旦那デスノートは時として深刻だが、根底にあるのはそれなんじゃないかとは思う。
一方で、正当化の基準にも個人差はある。「新婚旅行で初夜も果たさず、置き去りにされた」も「まぁまぁ」とされる世の中で些細な事を訴えたところで、「まぁまぁ」と言われるのは目に見える。当時の新聞やテレビという存在の現れは、閉じたコミュニティーの外の価値観を目にする機会が増えたことにもなる。そして、今、我々がいるSNS時代では、それがより広がり、双方向にもなっている。それはガス抜きの手数を増やすことにもなるが、「まぁまぁ」の数も増えることになる。
ガス抜きにならぬ。そして、紛れもなくガスはある。ガスが凶行を起こす。
実は、些細でも目に付く程度の欠点があるうちは「人」でいることができ、「新婚旅行で初夜も果たさず、置き去りにされた」もガス抜きの存在としては、見方によっては幸福なことかもしれない。むろん、その後の成長も見られず、無能を垂れ流すばかりであれば、ガス抜きではなくガス発生装置にしか過ぎないわけだが…まぁ、少なくともこちらは「人」でいられる。「人」のまま〇せる。
ラスト、「捏造された理由」を剥ぎ取った男が「正当な理由」を与えようとし、女が拒絶する。拒絶に対して、悔し気に怒りをしめして退場する二口さんが切なかった。「人として、仲間として迎えるための救いの手をどうして断るのか」「人の厚意を踏みにじって」「分からずや」。貴方の善意は理解しているし、有難いとも思う。が、本当に申し訳ないが、私には不要なものである。不快なありがた迷惑でしかないのですよ。
…といった言葉があったわけではないが、なんだか大きい熱量のあるものが行きかい行き場をなくすようで、それがここいちの「愛」に見えて切なかった。
どうなんだろうな。単に「かたつむり」への残酷さを許容するだけでもよいのかもしれない。人間社会の成立のため、是とする訳ではないが、認めないよりは認める方がよい。そして、自由であれば。かつて、私は殺したいと思い、それが具体性を帯びてきたところで逃げた。そこに正当な理由なんてなかった。前夫は正しかった。それでも、自分は正しかったんだと思う。正しくないという点で、正しい在り方だったんだと思う。
繰り返すが、深淵は深淵のままで十分であり、劇中でこれらの解釈がなされたわけではない。自分の体験と理屈によって、そう見えただけだけのこと。思っていた以上に「女」に自分を重ねてしまえたこと。それに過ぎない。ただ、そんな解釈の幅を持つことができる、深みを感じる、そんな時間だったと思う。有難い。
尚、ワークショップの題材は「受付」。集まった5組が絶妙に奇跡で、何ひとつ被らぬ5者5様の「受付」となった。個人的な好みとしては、直前の心理状態に忠実な黒岩さんの男とそれにシンプルに呼応したお嬢さんの組が異世界かつ衝撃だった。自分らは友人の実験に付き合う形で、ある種のコメディへ。特に自分は、これまで目にしてきた長期休暇明けの人を模倣してただけなんだが、本人達に見られたら病状を悪化させそうなので、ほどほどにしておきたい。が、いずれも優劣を枠を超えた多様性であり、芝居の奥深さ、はまる理由を感じた。んで、ゆうみさんと二口さんのコメントが温かいんだわ。
二口さんは『Before the Dawn 第二部 ~島崎藤村「夜明け前」を巡る旅~』にも主演。皆、楽しみやがれ。ちきしゃう。
いやいや、是非また。楽しみにしています。
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