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誘えよ
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皇国歴一九六〇年 晩夏
「痛い」
ベッドからみる景色は味気なく、蛍光灯の紐がぶら下がっているいつもの部屋がどれほど恋しいかしれない。軍医はうたた寝をしている。この隙に宿舎へ戻ってしまおうか。
暦はちっとも進んでおらず、狼男とのケンカから数時間も経っていない。
苦しそうな呻きが聞こえた。カーテンで仕切られた向こう、いや、部屋中がそういった声で満ちていた。
起き上がろうとするも脱力感がそれを阻んだ。腹を撫でると分厚く巻かれた包帯の上からでもえぐれているのがわかる。元から赤いのではないかと疑うほど変色し、それがどんどん広がる様を直視していると、またまぶたが重くなった。枕に頭を乗せると、すぐに夢の世界へ落ちていく。
そこは原っぱだった。短い草が茂る代わりに折れた刀が刺さり、岩のごろつきではなく人の死骸が積まれる、死の原っぱだった。暗雲と血煙の中を俺は走っていた。葉の無い林はみすぼらしく、しかしそこで足を止め腰を下ろす。なにも持たず、腰から下げた水筒は穴が空いていた。
土を食った。若干の水分があって、たったそれだけが喉を潤す手段だった。常軌を逸した食事を終えるとまた走った。どうやら天使がいるらしい。これが俺の未来なのか。
目が覚めると夢は夢で、霧がかかり思い出せなくなった。ただこびりついた死の原っぱだけが暫くあったが、それもすぐ消えた。涼しい昼下がりだった。
「え、もう?」
軍医は俺を見るなる仰天していた。こんなに早く目が覚めるはずがないという。
「死んでいてもおかしくなかったんだよ。それなのに……あ、抜け出すのはなしね。今回は程度が違うから」
彼は四十代くらいの優男だ。新島というらしい。
「まだ寝ていた方がいい」
「あの」
「傷が傷むのはしょうがないよ」
「いえ、腹がへって。なにか飯があれば」
新島は唖然として「固形物はだめ」と言った。
「そうですか」
了承したが腹はへる。俺は前閉じの薄緑の着物姿だった。学ランはなく、どちらにしても目立つだろうが、これよりはましなはずだ。
「俺の学ランはどこですか」
「さあ。榊曹長にでも聞いてみたら?」
すると彼は思い出したように声をあげ、
「そうだ、きみのことを報告にいかないと」
そこにいてねと言ってどこかへ行ってしまった。
取り残されると思い出したかのように傷が痛んだ。両腕の包帯を苦心して取ると、おぞましく膿んでいる。右手は手首から先が腫れ、左の腕には穴が五つ連なり、そこは肉がむき出しになっている。包帯をとったことを後悔し、しかし巻き直すこともできない。空気に触れると痛みは増し、連鎖的に腹も疼いた。
悲鳴など絶対にあげたくはない。落ち着けと言い聞かせ脂汗を垂れ流していると、
「おまたせ……え、なんでとっちゃったの!?」
と、新島が血相を変えて手当てをしてくれた。
「面倒をかけないでよ。きみは重症なんだよ。その説明もするから」
彼は手早く消毒と包帯を巻いた。気絶しそうな痛みを唇を噛んでやり過ごす。
「壮絶だな」
斉藤と奥田がいた。俺の怪我に顔を歪ませている。
「新島さん。怪我について教えてくれ」
「ひどいもんですよ。手首と、指が計六本骨折。刺傷が五ヶ所、腹は高深度の裂傷。臓物だけ無事なんて奇跡的です。それに全身の打身に極度の疲労、未だ危険な状態、なのですが」
「こんなの、痛いだけです」
「それが危険なの!」
「はっはっは。大したもんだよ」
斉藤は豪快に笑った。
「怪我はわかった。それで、次はきみがどうなるか、それを話そう」
奥田が封筒から書類を取りだし、簡単に説明するからと言った。
「きみは命令もなく出撃した。これは間違いないね」
「はい」
「軍の物品を無断使用した」
「はい」
「配属もされていないためこれらの責任は全て……朝日くん自身が負うことになるが、異論はあるかい」
「いいえ。ありません」
奥田が言ったことは間違いなく、ただ俺の行いの履歴を読み上げたようなものだ。そう、上官もいないから、その責任は俺にある。
「……やけに淡々としているね。どんな処分でも受けますって感じだ」
そうではない。これはただ晩にしたことを確認する作業じゃないか。その後の処分については何も考えられない。
「処分は嫌です。できることなら、俺はまだ軍にいたいです」
「誰だってそうだ。ただ、きみは、ちょっとおかしい」
斉藤はちょっと奥田を睨んだが、彼は止めない。
「うちの部下と揉めたときも感じたが、きみは行動を徹底する。あれはおそらく、あの状況に立ったから、榊軍曹に協力を求められたからしたのだろう」
「俺が勝手にやったことで」
「いいから、聞きなさい」
奥田は眼鏡のつるをなでた。神経質そうな手つきだった。
「あの場を納めるでなく逃げるでもなく、仲裁に銃を持ち出されるまで続けた」
彼は続ける。
「背格好と前後の背景を考えれば般若面はきみだ」
これはうちにも非があるから今更混ぜ返しはしないけど。そう言ってまた眼鏡に触れた。
「それで今度のことだ。経緯はともかくきみは戦場に出た。大怪我までして、きみはおそらくだが、すべきと思ったことをしたのだろう。後先を考えず、ただ天使をどうにかしなければと、その一念だけで動いた。違うかい?」
概ねあっている。が、天使がどうこうではなく、真実がどうこうなのだ。あいつが行くと、戦うと決めたから俺も続いたのだ。他人をだしに使ったようでダサいが、だって、放っておけないじゃないか。
「徹底しているつもりはないのですが、その、やりすぎました」
「それでは困るんだ。無茶をすると、そうなる。学んだだろ」
奥田は優しく俺を諭した。説教ではあるが、どうもそれ一辺倒だけではないらしい。
「それくらいでいいだろ、こいつも疲れてるし、無茶だったってわかってるよ、な?」
「は、はい。無茶でした」
「よし。それじゃあ本題だ」
「いや、本題は今の注意じゃないか」
「そんなのいいだろ。それより……気になるだろ? 初戦果だ、俺はワクワクしたね」
ため息をつく奥田は書類をめくった。はつせんかとはなんだ。
「朝日誠、きみは天使『ウルフ』を二体討伐した」
あれはウルフというのか。それを倒すとなんだ。
戸惑う俺に斉藤は「そうか、なんにも知らないのか」と呟いた。
「……褒賞金が出る。出世にも影響する」
「それは、ありがとうございます……」
出世もなにも、俺は単身で部隊もないまま昇級するのか。だったらなんで部隊があるのだ。
「よくわかってない顔だな」
「はぁ、すいません、でも想像もしていなかったので。その、出世とか、お金も」
「無欲だねぇ」
「我々からは以上だ。きみは、まあ、お手柄だった。それに応じたものが支給されるというだけだ」
「それじゃあな。養生しろよ」
彼らが出ていって俺はまた包帯を替えた。新島軍医は平然としている俺を不思議がった。少しでも不調が現れればすぐに中止しようとしていたらしい。
「痛い、よね?」
「とても」
当たり前のことを確認する先生だ。
「よう! 元気か!」
夜になって真実が見舞いにきた。ハネさんからの差し入れだと握り飯を持ってきたが新島が断っていた。
「死んだかと思ったぜ、ホント」
あの晩、彼女は相当騒いだらしい。絶叫して暴れ、怪我人を増やしたそうだ。
「大丈夫だよ。大袈裟だ」
「かなりひどい怪我だったからね?」
「あんなに血が出てて、お前覚えているか? 中身は平気だって言ったんだぜ? 周りにいた連中が引いてたよ」
「触ったらちゃんとあったから、そうだと思ったんだよ」
「触っちゃだめだからね朝日くん」
「それで、ああ! 戦果のことは聞いたか? 私は八体だった。近々金も振り込まれる」
「そんなにか。俺は二体だった。あんなのよく相手にできるな」
「あとはあれだ、あのときさ……!」
真実は異常な、いや、普段と変わらないようでもあるが、どこか不自然なテンションだった。
口ごもり、ベッドのへりに腰掛ける。
「新島先生、ちょっとこいつと外にいってもいいか?」
「え? いや、だめだよ。安静にしていなきゃ。それに歩こうとしてもまだ無理だ」
真実はそうかと言って、へりから腰をあげた。
「大袈裟だって。先生も、お前も」
潰れた指に、穴の空いた腕に、鮮血煌めく腹に力を注ぎ、ぐっと上体を起こし、足をベッドの外に向けた。勢いをつけ裸足のままヒタヒタと歩いてみせると、軍医は口もきけず、頭をふった。
「もう一回勉強しなおそうかな……ああ、そうじゃなくて!」
「おい寝てろよ! 何をして……」
「外に行くんだろう。早くしよう」
足首に温かいものがゆっくりと伝わっている。血が腹から漏れたのだ。グラウンドの外れにベンチがあると真実は言い赤い足形が外へと延びた。
街灯、本部の中だからどう呼ぶのかはわからないが、小さな明りが三メートルほどの支柱の先に灯り、妙に幻想的だった。
「人気がなければどこでもよかったんだけど」
「あまり遠いと帰るのが大変だから、ここでいい」
風はなく、暑さも失せた心地のよい夜だった。火照る体には少し、違うな、それなりの堪えるが、上々な夜だった。
「お前さ」
気になっていることがある。だからこそ俺から切り出した。
彼女は新入隊員を欲し東奔西走した。策を考え実行し、障害には挫けたが諦めなかった。次の案をどうするか常に頭におき、そして引きこもりもした。
だから気になる。いや、わからないことがあるのだ。
「なんで俺を誘わなかった」
あれほど時間を共有し、行動し、馬鹿もやった。付き合いは短いが、誘うには手頃じゃないか。だけど彼女は俺を無視し、厳しい状況を受け入れた。直情的で短慮なのは否めないが、だからこそそこに気がつかないはずがない。
意図的にしなかったのだ。俺を同じ穴には入れようとしなかったのだ。
「痛い」
ベッドからみる景色は味気なく、蛍光灯の紐がぶら下がっているいつもの部屋がどれほど恋しいかしれない。軍医はうたた寝をしている。この隙に宿舎へ戻ってしまおうか。
暦はちっとも進んでおらず、狼男とのケンカから数時間も経っていない。
苦しそうな呻きが聞こえた。カーテンで仕切られた向こう、いや、部屋中がそういった声で満ちていた。
起き上がろうとするも脱力感がそれを阻んだ。腹を撫でると分厚く巻かれた包帯の上からでもえぐれているのがわかる。元から赤いのではないかと疑うほど変色し、それがどんどん広がる様を直視していると、またまぶたが重くなった。枕に頭を乗せると、すぐに夢の世界へ落ちていく。
そこは原っぱだった。短い草が茂る代わりに折れた刀が刺さり、岩のごろつきではなく人の死骸が積まれる、死の原っぱだった。暗雲と血煙の中を俺は走っていた。葉の無い林はみすぼらしく、しかしそこで足を止め腰を下ろす。なにも持たず、腰から下げた水筒は穴が空いていた。
土を食った。若干の水分があって、たったそれだけが喉を潤す手段だった。常軌を逸した食事を終えるとまた走った。どうやら天使がいるらしい。これが俺の未来なのか。
目が覚めると夢は夢で、霧がかかり思い出せなくなった。ただこびりついた死の原っぱだけが暫くあったが、それもすぐ消えた。涼しい昼下がりだった。
「え、もう?」
軍医は俺を見るなる仰天していた。こんなに早く目が覚めるはずがないという。
「死んでいてもおかしくなかったんだよ。それなのに……あ、抜け出すのはなしね。今回は程度が違うから」
彼は四十代くらいの優男だ。新島というらしい。
「まだ寝ていた方がいい」
「あの」
「傷が傷むのはしょうがないよ」
「いえ、腹がへって。なにか飯があれば」
新島は唖然として「固形物はだめ」と言った。
「そうですか」
了承したが腹はへる。俺は前閉じの薄緑の着物姿だった。学ランはなく、どちらにしても目立つだろうが、これよりはましなはずだ。
「俺の学ランはどこですか」
「さあ。榊曹長にでも聞いてみたら?」
すると彼は思い出したように声をあげ、
「そうだ、きみのことを報告にいかないと」
そこにいてねと言ってどこかへ行ってしまった。
取り残されると思い出したかのように傷が痛んだ。両腕の包帯を苦心して取ると、おぞましく膿んでいる。右手は手首から先が腫れ、左の腕には穴が五つ連なり、そこは肉がむき出しになっている。包帯をとったことを後悔し、しかし巻き直すこともできない。空気に触れると痛みは増し、連鎖的に腹も疼いた。
悲鳴など絶対にあげたくはない。落ち着けと言い聞かせ脂汗を垂れ流していると、
「おまたせ……え、なんでとっちゃったの!?」
と、新島が血相を変えて手当てをしてくれた。
「面倒をかけないでよ。きみは重症なんだよ。その説明もするから」
彼は手早く消毒と包帯を巻いた。気絶しそうな痛みを唇を噛んでやり過ごす。
「壮絶だな」
斉藤と奥田がいた。俺の怪我に顔を歪ませている。
「新島さん。怪我について教えてくれ」
「ひどいもんですよ。手首と、指が計六本骨折。刺傷が五ヶ所、腹は高深度の裂傷。臓物だけ無事なんて奇跡的です。それに全身の打身に極度の疲労、未だ危険な状態、なのですが」
「こんなの、痛いだけです」
「それが危険なの!」
「はっはっは。大したもんだよ」
斉藤は豪快に笑った。
「怪我はわかった。それで、次はきみがどうなるか、それを話そう」
奥田が封筒から書類を取りだし、簡単に説明するからと言った。
「きみは命令もなく出撃した。これは間違いないね」
「はい」
「軍の物品を無断使用した」
「はい」
「配属もされていないためこれらの責任は全て……朝日くん自身が負うことになるが、異論はあるかい」
「いいえ。ありません」
奥田が言ったことは間違いなく、ただ俺の行いの履歴を読み上げたようなものだ。そう、上官もいないから、その責任は俺にある。
「……やけに淡々としているね。どんな処分でも受けますって感じだ」
そうではない。これはただ晩にしたことを確認する作業じゃないか。その後の処分については何も考えられない。
「処分は嫌です。できることなら、俺はまだ軍にいたいです」
「誰だってそうだ。ただ、きみは、ちょっとおかしい」
斉藤はちょっと奥田を睨んだが、彼は止めない。
「うちの部下と揉めたときも感じたが、きみは行動を徹底する。あれはおそらく、あの状況に立ったから、榊軍曹に協力を求められたからしたのだろう」
「俺が勝手にやったことで」
「いいから、聞きなさい」
奥田は眼鏡のつるをなでた。神経質そうな手つきだった。
「あの場を納めるでなく逃げるでもなく、仲裁に銃を持ち出されるまで続けた」
彼は続ける。
「背格好と前後の背景を考えれば般若面はきみだ」
これはうちにも非があるから今更混ぜ返しはしないけど。そう言ってまた眼鏡に触れた。
「それで今度のことだ。経緯はともかくきみは戦場に出た。大怪我までして、きみはおそらくだが、すべきと思ったことをしたのだろう。後先を考えず、ただ天使をどうにかしなければと、その一念だけで動いた。違うかい?」
概ねあっている。が、天使がどうこうではなく、真実がどうこうなのだ。あいつが行くと、戦うと決めたから俺も続いたのだ。他人をだしに使ったようでダサいが、だって、放っておけないじゃないか。
「徹底しているつもりはないのですが、その、やりすぎました」
「それでは困るんだ。無茶をすると、そうなる。学んだだろ」
奥田は優しく俺を諭した。説教ではあるが、どうもそれ一辺倒だけではないらしい。
「それくらいでいいだろ、こいつも疲れてるし、無茶だったってわかってるよ、な?」
「は、はい。無茶でした」
「よし。それじゃあ本題だ」
「いや、本題は今の注意じゃないか」
「そんなのいいだろ。それより……気になるだろ? 初戦果だ、俺はワクワクしたね」
ため息をつく奥田は書類をめくった。はつせんかとはなんだ。
「朝日誠、きみは天使『ウルフ』を二体討伐した」
あれはウルフというのか。それを倒すとなんだ。
戸惑う俺に斉藤は「そうか、なんにも知らないのか」と呟いた。
「……褒賞金が出る。出世にも影響する」
「それは、ありがとうございます……」
出世もなにも、俺は単身で部隊もないまま昇級するのか。だったらなんで部隊があるのだ。
「よくわかってない顔だな」
「はぁ、すいません、でも想像もしていなかったので。その、出世とか、お金も」
「無欲だねぇ」
「我々からは以上だ。きみは、まあ、お手柄だった。それに応じたものが支給されるというだけだ」
「それじゃあな。養生しろよ」
彼らが出ていって俺はまた包帯を替えた。新島軍医は平然としている俺を不思議がった。少しでも不調が現れればすぐに中止しようとしていたらしい。
「痛い、よね?」
「とても」
当たり前のことを確認する先生だ。
「よう! 元気か!」
夜になって真実が見舞いにきた。ハネさんからの差し入れだと握り飯を持ってきたが新島が断っていた。
「死んだかと思ったぜ、ホント」
あの晩、彼女は相当騒いだらしい。絶叫して暴れ、怪我人を増やしたそうだ。
「大丈夫だよ。大袈裟だ」
「かなりひどい怪我だったからね?」
「あんなに血が出てて、お前覚えているか? 中身は平気だって言ったんだぜ? 周りにいた連中が引いてたよ」
「触ったらちゃんとあったから、そうだと思ったんだよ」
「触っちゃだめだからね朝日くん」
「それで、ああ! 戦果のことは聞いたか? 私は八体だった。近々金も振り込まれる」
「そんなにか。俺は二体だった。あんなのよく相手にできるな」
「あとはあれだ、あのときさ……!」
真実は異常な、いや、普段と変わらないようでもあるが、どこか不自然なテンションだった。
口ごもり、ベッドのへりに腰掛ける。
「新島先生、ちょっとこいつと外にいってもいいか?」
「え? いや、だめだよ。安静にしていなきゃ。それに歩こうとしてもまだ無理だ」
真実はそうかと言って、へりから腰をあげた。
「大袈裟だって。先生も、お前も」
潰れた指に、穴の空いた腕に、鮮血煌めく腹に力を注ぎ、ぐっと上体を起こし、足をベッドの外に向けた。勢いをつけ裸足のままヒタヒタと歩いてみせると、軍医は口もきけず、頭をふった。
「もう一回勉強しなおそうかな……ああ、そうじゃなくて!」
「おい寝てろよ! 何をして……」
「外に行くんだろう。早くしよう」
足首に温かいものがゆっくりと伝わっている。血が腹から漏れたのだ。グラウンドの外れにベンチがあると真実は言い赤い足形が外へと延びた。
街灯、本部の中だからどう呼ぶのかはわからないが、小さな明りが三メートルほどの支柱の先に灯り、妙に幻想的だった。
「人気がなければどこでもよかったんだけど」
「あまり遠いと帰るのが大変だから、ここでいい」
風はなく、暑さも失せた心地のよい夜だった。火照る体には少し、違うな、それなりの堪えるが、上々な夜だった。
「お前さ」
気になっていることがある。だからこそ俺から切り出した。
彼女は新入隊員を欲し東奔西走した。策を考え実行し、障害には挫けたが諦めなかった。次の案をどうするか常に頭におき、そして引きこもりもした。
だから気になる。いや、わからないことがあるのだ。
「なんで俺を誘わなかった」
あれほど時間を共有し、行動し、馬鹿もやった。付き合いは短いが、誘うには手頃じゃないか。だけど彼女は俺を無視し、厳しい状況を受け入れた。直情的で短慮なのは否めないが、だからこそそこに気がつかないはずがない。
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