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戦備をよこせ
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皇国歴一九六〇年 中秋
「どうなってやがる」
真実は怒っていた。いつものことではあるが、それにしてもよく感情をばらまくやつだ。
「二人しかいないからって戦備をけちるやつがあるかぁ!」
笠置と巡にしぼられた後、待っていたのは資金繰りと戦備調達だった。もちろん軍から引っ張ってくるのだが、かなり苦労している。
隊の人数によって弾薬や武器などがそれに応じた量だけ支給されるのだが、うちは二人しかいないために、厄介払いの部隊という前例もないため、重火器が数丁、刀剣二本、弾薬だって考えなしに使っては一分ももたないほどしか支給されなかった。これではほとんど戦闘ができない。個人で買うのであれば別にどれほど充実させてもよいのだが、天使討伐の褒賞金をつぎ込んでも、俺たちにはあればまし程度しか揃えられない。
それで真実は布で巻かれた長い棒状の砲火器をどこかから調達してきた。資金をほとんどつぎ込んだらしい。
「これか? 花火だよ」
と、へらへらしていたのが先日で、目下の悩みは人員と、俺たちの待遇にある。
「軍人って普段はなにしてんの」
素朴すぎる疑問をぶつけると真実はうんざりしたように手をふった。
「特派はそれどころじゃないって。あいつらまともなやつらはよ、報告事項を提出したり、体を鍛えたり、陳情書類を書いたり、射撃訓練とか……」
そこで彼女の脳内に雷が鳴ったのだろう、閃きに指を弾いた。
「そうだ、射撃場がある! 行くぞ誠、あそこには馬鹿みたいに弾がある」
射撃場にはあるにはあった。訓練用の模擬弾、それはたしかにあったのだが、部隊名や使った弾数を書類で申告しなければならない。彼女はすらすらと記入を終えた。
利用者は多く、どの視線も噂の狸に注がれていた。
「なあ、模擬弾なんてどうする。役に立つのか? それに人が多くて悪いことなんかできないぞ」
「大丈夫だって」
よく見てろよ。そう言って真実は長銃をとった。四〇年に軍の正式採用された、やや型落のものだった。最新は五五年製造のものだが、この古い型を使うのは当て勘を養うためだったり、まあ理由をあれこれとつけても結局は型落ちだからだろう。五五年製もあったが、彼女はあえて古い四〇年製を選んだ。
一発撃つごとに装填し、また引き金を引く。一連の動作は素早く、そして的を外さなかった。
「目をつぶってたって当たるよ、簡単簡単」
言葉通り、人のシルエットの的は穴だらけになり、ついには胴体の辺りから真横に亀裂が入って倒れた。どよめきのなか、彼女は「こんなもんか」と満足も不足もないような様子だった。
その後もひたすら続け、二時間はやっていただろう、人もまばらになってきた頃、ようやく銃をおいた。
「久しぶりだったけど、うまいもんだろ?」
的を交換してはなぎ倒し、ぼこぼこと無数の穴の空いたそれは、ちょうど頭や胸の部分が焼け焦げ、向こうの壁が大きく覗ける。狙ってそれができる味方というのは心強いが、それは殺傷の方法を知っているということでもある。背中には冷たい汗が流れた。
「ここの掃除をするんだ。そうしたら弾が手には入るだろ」
掃除中の看板を立て掛け、散らばった薬莢を集めだした。殊勝な行動、それとも点数稼ぎにも見えるだろうが、大抵は狸がなにかしているくらいにしか考えておらず、冷ややかな眼差しを向けるだけだった。
薬莢は九ミリサイズの円柱形で、それが麻の大きな袋三つ分にもなった。
「町の金物屋で売るんだ」
声をひそめ、一度グラウンドの端に置いた。その夜、トラックで回収し売った。
「これって、許可が必要だったりしないのか」
軍服はまずいということで、ハネさんが用意したジーンズとジャケットを着て、大量の弾を売った帰り道。想像よりもずっと少ない金額を眺めながらそう聞くと、
「さあね。まあいいじゃん」
ただ上機嫌な真実だった。その後も備品をばれないようにこっそり売るということが続いた。しかし持ち出し禁止の張り紙があちこちに出現するようになったから、また彼女は頭を悩ませる。
「あいつら完全に疑ってやがる」
「疑うもなにも、俺たちだろ」
「動きづらくなったってことだよ。古新聞すら持ち出し禁止だぜ」
「でもだいぶ金は増えただろう」
「恒久的なもんじゃねえからなぁ。今は真っ最中なんだぜ、戦争の」
「……お前は正しいのに、敵は増えるばっかりだな」
「は? 正しいって、なにが」
俺の部屋からは部屋番号が取り外され、皇国陸軍特別派遣部隊会議室となっていた。真実自筆の、かなり悪筆の表札が誇らしげである。彼女の部屋は本部とした。
だからもっぱら話し合いは俺の部屋で行われている。
「ものを売ったりすることだよ」
「いやぁ、私が言うのもなんだけど、どうかな」
「だって金がいるんだろ? 支給されないんだから別な手段で集めるしかない。お前はその通りやった。だから正しい」
「変なやつだなぁお前」
まあいいや、でさ。彼女は話を変えた。
「あいつはどうなんだ」
「誰だ」
「あの学校のだよ。巡ってやつ」
「誘った。あとはわからない」
「それじゃあ意味がねぇんだよ。人がいれば環境が変わると思って企画したんだから。笠置さんにも即戦力の卒業間近のやつを紹介してくれってお願いしたんだけどなぁ」
だからあんなに小さい子が、しかもみんな強かったのか。
「私はまた陳情しに行くから、お前も来いよ」
その結果は散々で、不孝な学ランはもう立派な害獣だとひどい言われようだった。人事に経理、兵站倉庫の管理者にまで陳情したが、
「戦果なし、特派は帰投せよ、だ。ああ、ちくしょう!」
真実の叫びが全てだった。
「他から分けてもらうことはできるのか」
「できるけど渡さねえよ。どこだって溜め込んで、いざってときにタンタン撃つんだからな」
帰路は秋風よりも寂しく、言葉少なに軍服のポケットに手を突っ込んだ。
「ああそうだ。真実、俺の学ランはどうなった」
行方知れずは継続していて、無くしたままにしておくには愛着がありすぎた。
「……知らないよ。んなもん、怪我したときにどこかにいったんだろ」
自分のものくらい管理しておけ。そう言って背を丸めた。
「あの棒、なんなの」
俺の部屋、今は会議室か、そこに鎮座する長い棒。二メートルはある鉄の支柱、重さはどう見積もっても二十キロはあった。その先端に筒がついているのだが、彼女のいう花火とはそこの部分なのだろう、黒く焦げていた。
「秘密兵器さ。気になるか? 天使の前で打ち上げるんだ。綺麗だぜ、きっと」
その意味はよくわからなかったが、彼女の機嫌は良くなった。
「会議はなし。寝る」
気まぐれな真実ではあるが、意見という意見は出尽くしていたので、妥当な判断だった。
タオルケットだけで寝る季節でもなく、しかし毛布がなかった。
「明日、ハネさんに相談しよう」
掃除の当番でもあるしちょうどいい。これから冬になる、皇都は赤間ほど雪が降るのだろうか。
特別派遣部隊には狸という名が付いている。これはそれぞれの個性を示していて牛とか馬とか理由があって命名される。狸については作物を荒らす害獣、軍に悪さをする厄介者として名付けられたが、その狸の親玉は連日子分を連れてあちこちうろつく。仕事がもはやそうなっていたのだ。
目的はあったりなかったりで、時にはハネさんをも誘って釣りに行く。今日はそういう、経理の上官と殴り合い寸前まで舌戦するとか、廃車をただで引き取って売り払うとか、害獣としてではなく普通の軍人としての貴重な休暇だった。
「寒いので暖房を買う。行くぞ一等兵」
町の家電屋、真実はエアコンを欲していたが予算の都合上無理だった。
「ふざけるな! 今秋今冬は寒いとの予報が気象観測庁からで出ているんだぞ」
困った店員は頭を下げてバックヤードへ逃げた。次の矛先は俺だ。
「誠、我が隊に金はなく、同時に防寒設備がない」
「知ってるよ。住んでいるんだから」
「呑気はやめろ、むかつくぜ」
「別にこたつとかでいいだろ」
「……話には聞いている。あれだろ? 机と布団が合体したような」
「うん、そんなに高くもないし、暖かいぜ」
「任せる。だが私はこたつを信用していない」
どういうことなんだよ。信用とかそういうことじゃないだろう。
ハネさんに確認したところ布団は何組かあるそうで、天板とヒーター部だけを買えばよかった。それに対しても真実は不服そうに、
「つかまされたんじゃねえの」
と、あくまでも不安、というかこたつというものをどこまでも知らなかった。
「大丈夫だって。どこに置くんだ」
「会議室だろ。いちいち聞くなよそんなこと」
「そうだろうと思った」
ハネさんはこたつを、当然だが知っていたし、着々と進むお化け屋敷の、翠湖寮という綺麗な名前がついていた、充実に喜んでいた。
「で、コードを繋ぐ。これで完成」
部屋を大きく占拠するこたつだが、これがなければ冬は来ない。冬が先じゃなくて、こたつが先なのだ。それなりに古くからある暖房器具なのだが、真実は水を怖がる犬のように、落ち着かない様子で足を伸ばす俺を注視していた。
じんとする温い光りが心地よい。時期でいえばちょっと早いが、気温に合わせることこそが重要なのだ。
「おお、暖かい。へえ、凄いな」
これがこたつか。真実はすっかり気に入ったようだった。しかし悩みは尽きないのである。
「まだ軍人じゃないやつを狙うのはどうだ」
こういう場所で会議をしているのは俺たちくらいだ。そんな誇りがあった。
「それもいいが、できれば力のあるやつがいい。金だ人だと騒いじゃいるが、それは戦争のためだ。戦争は人がするんだ。だいたい特派に入隊届けを出すやつがいるかよ。どんな現状か私たちが説明する前にあいつらがしてしまう。事細かに、もしかしたら言わなくてもいいことまでな」
現実を直視することは、時に辛い場合がある。しかし彼女はそれしか、辛いものしか見ていないのだ。だから行動をするのだ。動かなければ変わらないということを骨の髄まで知っているようだった。
「……寒いな、今日」
「おう」
次の出番はいつなのだろうか。死んでしまうかもしれないし、そうでないかもしれない、不吉な可能性で出来上がったあの戦場。しかしそれがなければ打破できない現状なのかもしれない。
「どうなってやがる」
真実は怒っていた。いつものことではあるが、それにしてもよく感情をばらまくやつだ。
「二人しかいないからって戦備をけちるやつがあるかぁ!」
笠置と巡にしぼられた後、待っていたのは資金繰りと戦備調達だった。もちろん軍から引っ張ってくるのだが、かなり苦労している。
隊の人数によって弾薬や武器などがそれに応じた量だけ支給されるのだが、うちは二人しかいないために、厄介払いの部隊という前例もないため、重火器が数丁、刀剣二本、弾薬だって考えなしに使っては一分ももたないほどしか支給されなかった。これではほとんど戦闘ができない。個人で買うのであれば別にどれほど充実させてもよいのだが、天使討伐の褒賞金をつぎ込んでも、俺たちにはあればまし程度しか揃えられない。
それで真実は布で巻かれた長い棒状の砲火器をどこかから調達してきた。資金をほとんどつぎ込んだらしい。
「これか? 花火だよ」
と、へらへらしていたのが先日で、目下の悩みは人員と、俺たちの待遇にある。
「軍人って普段はなにしてんの」
素朴すぎる疑問をぶつけると真実はうんざりしたように手をふった。
「特派はそれどころじゃないって。あいつらまともなやつらはよ、報告事項を提出したり、体を鍛えたり、陳情書類を書いたり、射撃訓練とか……」
そこで彼女の脳内に雷が鳴ったのだろう、閃きに指を弾いた。
「そうだ、射撃場がある! 行くぞ誠、あそこには馬鹿みたいに弾がある」
射撃場にはあるにはあった。訓練用の模擬弾、それはたしかにあったのだが、部隊名や使った弾数を書類で申告しなければならない。彼女はすらすらと記入を終えた。
利用者は多く、どの視線も噂の狸に注がれていた。
「なあ、模擬弾なんてどうする。役に立つのか? それに人が多くて悪いことなんかできないぞ」
「大丈夫だって」
よく見てろよ。そう言って真実は長銃をとった。四〇年に軍の正式採用された、やや型落のものだった。最新は五五年製造のものだが、この古い型を使うのは当て勘を養うためだったり、まあ理由をあれこれとつけても結局は型落ちだからだろう。五五年製もあったが、彼女はあえて古い四〇年製を選んだ。
一発撃つごとに装填し、また引き金を引く。一連の動作は素早く、そして的を外さなかった。
「目をつぶってたって当たるよ、簡単簡単」
言葉通り、人のシルエットの的は穴だらけになり、ついには胴体の辺りから真横に亀裂が入って倒れた。どよめきのなか、彼女は「こんなもんか」と満足も不足もないような様子だった。
その後もひたすら続け、二時間はやっていただろう、人もまばらになってきた頃、ようやく銃をおいた。
「久しぶりだったけど、うまいもんだろ?」
的を交換してはなぎ倒し、ぼこぼこと無数の穴の空いたそれは、ちょうど頭や胸の部分が焼け焦げ、向こうの壁が大きく覗ける。狙ってそれができる味方というのは心強いが、それは殺傷の方法を知っているということでもある。背中には冷たい汗が流れた。
「ここの掃除をするんだ。そうしたら弾が手には入るだろ」
掃除中の看板を立て掛け、散らばった薬莢を集めだした。殊勝な行動、それとも点数稼ぎにも見えるだろうが、大抵は狸がなにかしているくらいにしか考えておらず、冷ややかな眼差しを向けるだけだった。
薬莢は九ミリサイズの円柱形で、それが麻の大きな袋三つ分にもなった。
「町の金物屋で売るんだ」
声をひそめ、一度グラウンドの端に置いた。その夜、トラックで回収し売った。
「これって、許可が必要だったりしないのか」
軍服はまずいということで、ハネさんが用意したジーンズとジャケットを着て、大量の弾を売った帰り道。想像よりもずっと少ない金額を眺めながらそう聞くと、
「さあね。まあいいじゃん」
ただ上機嫌な真実だった。その後も備品をばれないようにこっそり売るということが続いた。しかし持ち出し禁止の張り紙があちこちに出現するようになったから、また彼女は頭を悩ませる。
「あいつら完全に疑ってやがる」
「疑うもなにも、俺たちだろ」
「動きづらくなったってことだよ。古新聞すら持ち出し禁止だぜ」
「でもだいぶ金は増えただろう」
「恒久的なもんじゃねえからなぁ。今は真っ最中なんだぜ、戦争の」
「……お前は正しいのに、敵は増えるばっかりだな」
「は? 正しいって、なにが」
俺の部屋からは部屋番号が取り外され、皇国陸軍特別派遣部隊会議室となっていた。真実自筆の、かなり悪筆の表札が誇らしげである。彼女の部屋は本部とした。
だからもっぱら話し合いは俺の部屋で行われている。
「ものを売ったりすることだよ」
「いやぁ、私が言うのもなんだけど、どうかな」
「だって金がいるんだろ? 支給されないんだから別な手段で集めるしかない。お前はその通りやった。だから正しい」
「変なやつだなぁお前」
まあいいや、でさ。彼女は話を変えた。
「あいつはどうなんだ」
「誰だ」
「あの学校のだよ。巡ってやつ」
「誘った。あとはわからない」
「それじゃあ意味がねぇんだよ。人がいれば環境が変わると思って企画したんだから。笠置さんにも即戦力の卒業間近のやつを紹介してくれってお願いしたんだけどなぁ」
だからあんなに小さい子が、しかもみんな強かったのか。
「私はまた陳情しに行くから、お前も来いよ」
その結果は散々で、不孝な学ランはもう立派な害獣だとひどい言われようだった。人事に経理、兵站倉庫の管理者にまで陳情したが、
「戦果なし、特派は帰投せよ、だ。ああ、ちくしょう!」
真実の叫びが全てだった。
「他から分けてもらうことはできるのか」
「できるけど渡さねえよ。どこだって溜め込んで、いざってときにタンタン撃つんだからな」
帰路は秋風よりも寂しく、言葉少なに軍服のポケットに手を突っ込んだ。
「ああそうだ。真実、俺の学ランはどうなった」
行方知れずは継続していて、無くしたままにしておくには愛着がありすぎた。
「……知らないよ。んなもん、怪我したときにどこかにいったんだろ」
自分のものくらい管理しておけ。そう言って背を丸めた。
「あの棒、なんなの」
俺の部屋、今は会議室か、そこに鎮座する長い棒。二メートルはある鉄の支柱、重さはどう見積もっても二十キロはあった。その先端に筒がついているのだが、彼女のいう花火とはそこの部分なのだろう、黒く焦げていた。
「秘密兵器さ。気になるか? 天使の前で打ち上げるんだ。綺麗だぜ、きっと」
その意味はよくわからなかったが、彼女の機嫌は良くなった。
「会議はなし。寝る」
気まぐれな真実ではあるが、意見という意見は出尽くしていたので、妥当な判断だった。
タオルケットだけで寝る季節でもなく、しかし毛布がなかった。
「明日、ハネさんに相談しよう」
掃除の当番でもあるしちょうどいい。これから冬になる、皇都は赤間ほど雪が降るのだろうか。
特別派遣部隊には狸という名が付いている。これはそれぞれの個性を示していて牛とか馬とか理由があって命名される。狸については作物を荒らす害獣、軍に悪さをする厄介者として名付けられたが、その狸の親玉は連日子分を連れてあちこちうろつく。仕事がもはやそうなっていたのだ。
目的はあったりなかったりで、時にはハネさんをも誘って釣りに行く。今日はそういう、経理の上官と殴り合い寸前まで舌戦するとか、廃車をただで引き取って売り払うとか、害獣としてではなく普通の軍人としての貴重な休暇だった。
「寒いので暖房を買う。行くぞ一等兵」
町の家電屋、真実はエアコンを欲していたが予算の都合上無理だった。
「ふざけるな! 今秋今冬は寒いとの予報が気象観測庁からで出ているんだぞ」
困った店員は頭を下げてバックヤードへ逃げた。次の矛先は俺だ。
「誠、我が隊に金はなく、同時に防寒設備がない」
「知ってるよ。住んでいるんだから」
「呑気はやめろ、むかつくぜ」
「別にこたつとかでいいだろ」
「……話には聞いている。あれだろ? 机と布団が合体したような」
「うん、そんなに高くもないし、暖かいぜ」
「任せる。だが私はこたつを信用していない」
どういうことなんだよ。信用とかそういうことじゃないだろう。
ハネさんに確認したところ布団は何組かあるそうで、天板とヒーター部だけを買えばよかった。それに対しても真実は不服そうに、
「つかまされたんじゃねえの」
と、あくまでも不安、というかこたつというものをどこまでも知らなかった。
「大丈夫だって。どこに置くんだ」
「会議室だろ。いちいち聞くなよそんなこと」
「そうだろうと思った」
ハネさんはこたつを、当然だが知っていたし、着々と進むお化け屋敷の、翠湖寮という綺麗な名前がついていた、充実に喜んでいた。
「で、コードを繋ぐ。これで完成」
部屋を大きく占拠するこたつだが、これがなければ冬は来ない。冬が先じゃなくて、こたつが先なのだ。それなりに古くからある暖房器具なのだが、真実は水を怖がる犬のように、落ち着かない様子で足を伸ばす俺を注視していた。
じんとする温い光りが心地よい。時期でいえばちょっと早いが、気温に合わせることこそが重要なのだ。
「おお、暖かい。へえ、凄いな」
これがこたつか。真実はすっかり気に入ったようだった。しかし悩みは尽きないのである。
「まだ軍人じゃないやつを狙うのはどうだ」
こういう場所で会議をしているのは俺たちくらいだ。そんな誇りがあった。
「それもいいが、できれば力のあるやつがいい。金だ人だと騒いじゃいるが、それは戦争のためだ。戦争は人がするんだ。だいたい特派に入隊届けを出すやつがいるかよ。どんな現状か私たちが説明する前にあいつらがしてしまう。事細かに、もしかしたら言わなくてもいいことまでな」
現実を直視することは、時に辛い場合がある。しかし彼女はそれしか、辛いものしか見ていないのだ。だから行動をするのだ。動かなければ変わらないということを骨の髄まで知っているようだった。
「……寒いな、今日」
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