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第二章
真実の狂騒
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皇国歴一九六一年 厳冬
「撃てー」
間延びした御岳さんの号令はどこかユーモラスだ。締まりはないけど、銃声よりも私たちを奮起させる。
「狸が前に出る。烏も倣え」
素晴らしい。真実と呼んでもらえるいい機会、いやねえな、巡が特別なだけだ。
「行くぜ。軍服を着た天使ども。榊の戦法、御覧じろ」
合流してから乱戦に持ち込もうって魂胆だったのかな、撃たれてんだぜ、着剣抜刀照準覗いたって無駄なのさ。
「おらぁ! 天使相手の商売だぞ、ちんけなナマクラと玩具の鉄砲でどうする! 狸一匹殺せねえのか!」
見知った顔がある。だからなんだ。やると決めたんだ、こいつだって狸とやり合うと決めてここにいるんだ、その覚悟を無駄にしたくない。
衣服と肉とをまとめて斬ると、なんだか砂を蹴ったような音がする。そう聞こえるんだ。
私はその音を自らの手で創りあげる。雪原は砂漠へと変化し、紅の風が目に痛い。同胞と悪事は同化し一つになって、これをいっぺんに斬るというこの行為は、誇るべきか懺悔するべきか悩むところだ。
戦闘はわずか二十分ほどで終了した。
生き残ったのは肩に銃弾を受け気絶した者と、腰を抜かした大尉の二人。烏は軽症者を少し出しただけですんだ。御岳さんも前線に出たくせに、なんてことない顔をしていて、頼もしくもあり怖くもある。
「曹長、これを」
御岳さんの副官里中軍曹がタオルを持ってきてくれた。
「汗をかくほどの運動じゃないよ」
いくらか年上だけど、我ながら自然なタメ口だ。階級はこっちが上だからいいよね。
「いえ、あの、汗で凍傷になりかねませんので」
「そっか。ありがと」
なるほど知恵だね。北楽に来てからそれなりに経っているけど、思い至らなかった。
顔をこすり、軽く汗を拭う。
「……あー」
まっさらなタオルは、ひどいみてくれになった。もはやそれは他に使い道もはないだろう、汗ではなく私の被った命の水を吸ったボロ布が、鮮やかに私の手に産まれ出でたのだ。
彼女を伺うと、表情を殺し、視線をやや上に向けている。そこにはないもないが、見たくないものもない。賢明な判断だ。
「汚いな。今度そういう姿の誰かがいたら、狸だといってからかおう」
「御岳少佐!」
「あはは。ごめんね里中さん。これは捨てておくからさ。ありがと」
里中さんは私の見た目を口にせず、回りくどく気にかけてくれたのだ。知恵者であり、心の優しい人だ。御岳さんがそばに置くのもわかる。
「あの、榊曹長。ご協力感謝致します」
「いいのさ。私が押しかけてたんだし、本来御岳さんがすることをしちゃったし、これは越権だ。もし感謝してくれるなら、このことは秘密に」
「馬鹿か。報告するに決まっているだろう」
見習いたくない頭のかたさだ。どうしようかなあ、とりあえずヘラヘラしておくか。
「間抜け面はやめろ、それと里中、タオルくらいもっと持ってこい。この様で戦場をうろつかせるな」
「わは、流石だ姉御。報告なら、佐野中佐にだけ……なんてわけにはいかないかな」
彼女は舌打ちをした。理解のない者ならば、これを否定と受け取るだろうが、私たちは、どうかな、理解しあえているかなあ。
「それは、まあ、熟慮した上で決める。ごちゃごちゃ言っている暇があれば、次の行動を考えろ。ここは烏がけつを持つ」
「ああん姉御! 素直じゃねえんだから!」
「うるさい! 決めた、報告義務のあるところ全てにする!」
嬉しくなってはしゃいだら殴られた。籠いっぱいタオルを持ってきた里中さんに看病された後、私は一度梟の元に戻ることになっていたのでその旨を改めて告げた。すると御岳さんに耳を貸せと離れた場所に呼ばれた。
「烏が何羽かあっちについていただろう、散開させていた連中の中にもいるかもしれん。応答のない連中がいるから、そいつらも殺しておけ」
また容赦のないこって。それをせよと命令する心境はきっとひどいものだろう。だから、確かめることはしない。
「承りました」
そして烏の裏切り者、と断定しよう、その最終位置をきいて、虱潰しに探すことにした。この裏切りは梟には知らせない。こっそり戦死扱いにしてしまおう。
二羽落とした。確かな証拠もなく、疑いがあるというだけでそうした。
彼らの最後の弾丸が天使へ放たれたものだとしても、家族とか守るべきものがいたとしても、この国や軍を愛していたとしても、だからどうした。
(なにも防げないんじゃあわせる顔がない。やりきるしかないんだ)
とにかく脅威は排除しなければならない。その一心で烏たちを斬った。
集団でいた奴らも、じっとしている奴も、無線に怒鳴りつける奴も、みんな平等だ。私の手は赤く、手袋は新調しないといけない。
そしてあと数羽を残すだけとなったとき、
(……心じゃどこかで、狂って仲間を殺した狸のボスでいたかった気もするが)
見つけてしまった。そこは巡に指示した地点からそう遠くない場所で、レベト軍人と山羊、それに烏と梟がいた。それだけなら、裏切りには繋がらず、それどころか戦地の奥深くまでやってきた外国人の胆力を称賛すべきだろう。
「伝令です」
と駆け寄ったとき、奴らは表情を強張らせた。緊張感がもたらすものだろうか、それともいるはずのない狸の出現に驚いたのか。それはすぐにわかることだ。
「どうした」
「御岳少佐に散開した烏を集合指させよと命じられております」
烏と梟が一羽ずつ、山羊が三匹、白熊が五匹。たったこれだけの数で三名のレベト軍人を護衛か。しゃらくせえ、本来なら亀を出張らせるくらい厳重にするんだよ。
「そうか。だが必要ない。我々は、護衛を仰せつかっている」
「護衛ですか。亀がその任にあたるときいていましたが」
「下がれ曹長」
『落ち着けワタリ中尉。面倒だ、ここで戦死とさせよう』
レベト語だった。榊を舐めるなよ、あんたらの国にいつ出向になったってやっていけるんだ。
「しかし」
『目障りな狸め、あそこの男もさっさと殺せばいいだろう。フェンリルに手傷を与えるまで生かすなどという馬鹿らしいことはせずにな。どうせ我々はすぐ北楽から離れるんだ、むしろフェンリルを傷物にさせられては堪らん』
心じゃどこかで、イカれた妄想に取り憑かれた狂女でありたかった、なんてね。
予想は的中、義母さん仕込みのダンスでも披露しようか、社交界じゃ真千の姉貴と一緒に踊ったもんだが、あー、姉貴のことは思い出さない方がよかったな。加減ができなくなるかもしれねえ。
「なるほど。そこの山羊が撃つ。白熊は見張りでレベトのあんたが指示を出して、そんで見届ける。そういうことか」
飛び出すなというほうが無理な話で、白刃は弧を描き山羊の首を落とした。すぐさま拳銃の小さな弾丸がレベトの膝を抜いた。
「血迷ったか榊、なんて言うんじゃねえぞ」
今日は天使よりこいつらを斬った数の方が多いかもしれないね。各部隊一人ずつ残そうかな。
『撃て』
と命令は下る。照準の先にいるのは、フェンリルと遊ぶ狸だ。
しかし実行犯の手元は動揺からうまく狙いが定まらない。あれが発射される前にかたをつけなくてはならない。
『何をしている! 早くしろ!』
「させねえよ」
踏み込み、道を阻む白熊を斬った。その先にいるレベト軍人は、顔を歪ませながらも口角を上げた。
『どれだけ貴様が死をもたらそうとも、飛ぶ弾丸には劣るだろう』
発射まで、あとどれくらいだろう。彼のいう弾丸が、何に着弾するまで、私は何人斬れるのだろう。
「けっ、撃ってみやがれ。あいつは飛ぶ弾丸より強いぜ」
誠には悪いが、撃たれてもらう。焦って私が手傷を負えば、奴らは標を失うんだ。
秤にかけろ、選び取れ。そういえば姉貴を重りにしたら怒ったなあ、あいつ。だけど、てめえと北楽ならヘラヘラして、きっと迷わないはずだ。
だから私は間違えない。自分を厭わない奴らがいるから、私は絶対間違えない。
「あ、頭はやめてやれよ。流石に死ぬかもしれない」
残り四人。互いにのしかかるプレッシャーは凝縮され、
「着弾確認! 腹部を貫通しました!」
と絶叫がそれを打ち破る。
『次弾急げ』
と言ったその口を右目ごと縦に割った。腹を蹴りつけ、そして伏せながら銃を構える下手人の両腕を刀の二振りでふっ飛ばす。
半分だけ生きている者が数人、それと元気な私。他は死者としてしか扱われない私お手製の物体。勧善懲悪ではないかもしれないけど、これはこれで悪い気分じゃない。
「あ、白熊が残ってないや。まあいいか」
レベト軍人は顔をおさえ悲鳴を殺し、口を大きく開けた。
素早くハンカチを突っ込み、気絶させる。自害なんかさせると思うなよ。
生きている者を拘束し、湯ノ島さんに人を寄越してもらうよう連絡した。
「うん、烏は近くにいるけど、湯ノ島さんのところから、なるべく信頼できる人をお願い。それと、猫を前線に出して欲しい」
どさくさ紛れに全員を始末する。平場さんの部下ってだけで裏切り者はいないのかもしれないけど、徹底的にやった方がいい。山羊たちも、離反者がいた部隊は全員殺すくらいの気持ちで行こう。無論、烏も梟もだ。佐野さんか中央の、あの柳生中将とかに調べてもらおう。
「ああ、あいつが撃たれたのは知ってるよ。見てたからね。それじゃ、また後で」
あとは猫が戦場に出るまで待って、一気に潰す。仲間殺しの時間稼ぎのためにフェンリルは少しだけ生かしておく。誠にはフェンリルの相手をさせておけばいい。あいつなら腹に穴が空いたって平気だろうし、どうせ手を出すなって言うに決まってる。見逃したけじめをつけたいはずだ。
『榊曹長』
巡からの無線だ。鼓動が戦闘よりも激しく胸を上下させる。彼女が生きていたのは嬉しいが、声が泣いていた。
『なんだ今の音は』
拳をぶち当てる、誠の得意なあの音が聞こえた。交戦中なのかな。
報告の内容は完璧だった。亀には悪いが、姉貴が無事ならそれでいい。
(最高だ。それでこそお前だよ)
無線で指示を出したから、巡と合流して、猫を片付けよう。
しかし肩に弾を受けても平然と連絡してくるあたり、只者じゃねえな。あの不気味な腕立てには本当に効果があるのかもしれない。
あ、誠も一発くらってんだった。まあ平気だろう。蛇の噛み跡の方が穴はでかかったと思うし、
「フェンリルと一対一だぜ、そんなやつが今更射たれたところで、くっくっく、レベトの野郎め、狸に喧嘩ふっかけるからこうなるんだぜ」
わからせてやる。北楽戦なんて呼ばせねえ、狸の乱、と私は呼ぶぜ。
「撃てー」
間延びした御岳さんの号令はどこかユーモラスだ。締まりはないけど、銃声よりも私たちを奮起させる。
「狸が前に出る。烏も倣え」
素晴らしい。真実と呼んでもらえるいい機会、いやねえな、巡が特別なだけだ。
「行くぜ。軍服を着た天使ども。榊の戦法、御覧じろ」
合流してから乱戦に持ち込もうって魂胆だったのかな、撃たれてんだぜ、着剣抜刀照準覗いたって無駄なのさ。
「おらぁ! 天使相手の商売だぞ、ちんけなナマクラと玩具の鉄砲でどうする! 狸一匹殺せねえのか!」
見知った顔がある。だからなんだ。やると決めたんだ、こいつだって狸とやり合うと決めてここにいるんだ、その覚悟を無駄にしたくない。
衣服と肉とをまとめて斬ると、なんだか砂を蹴ったような音がする。そう聞こえるんだ。
私はその音を自らの手で創りあげる。雪原は砂漠へと変化し、紅の風が目に痛い。同胞と悪事は同化し一つになって、これをいっぺんに斬るというこの行為は、誇るべきか懺悔するべきか悩むところだ。
戦闘はわずか二十分ほどで終了した。
生き残ったのは肩に銃弾を受け気絶した者と、腰を抜かした大尉の二人。烏は軽症者を少し出しただけですんだ。御岳さんも前線に出たくせに、なんてことない顔をしていて、頼もしくもあり怖くもある。
「曹長、これを」
御岳さんの副官里中軍曹がタオルを持ってきてくれた。
「汗をかくほどの運動じゃないよ」
いくらか年上だけど、我ながら自然なタメ口だ。階級はこっちが上だからいいよね。
「いえ、あの、汗で凍傷になりかねませんので」
「そっか。ありがと」
なるほど知恵だね。北楽に来てからそれなりに経っているけど、思い至らなかった。
顔をこすり、軽く汗を拭う。
「……あー」
まっさらなタオルは、ひどいみてくれになった。もはやそれは他に使い道もはないだろう、汗ではなく私の被った命の水を吸ったボロ布が、鮮やかに私の手に産まれ出でたのだ。
彼女を伺うと、表情を殺し、視線をやや上に向けている。そこにはないもないが、見たくないものもない。賢明な判断だ。
「汚いな。今度そういう姿の誰かがいたら、狸だといってからかおう」
「御岳少佐!」
「あはは。ごめんね里中さん。これは捨てておくからさ。ありがと」
里中さんは私の見た目を口にせず、回りくどく気にかけてくれたのだ。知恵者であり、心の優しい人だ。御岳さんがそばに置くのもわかる。
「あの、榊曹長。ご協力感謝致します」
「いいのさ。私が押しかけてたんだし、本来御岳さんがすることをしちゃったし、これは越権だ。もし感謝してくれるなら、このことは秘密に」
「馬鹿か。報告するに決まっているだろう」
見習いたくない頭のかたさだ。どうしようかなあ、とりあえずヘラヘラしておくか。
「間抜け面はやめろ、それと里中、タオルくらいもっと持ってこい。この様で戦場をうろつかせるな」
「わは、流石だ姉御。報告なら、佐野中佐にだけ……なんてわけにはいかないかな」
彼女は舌打ちをした。理解のない者ならば、これを否定と受け取るだろうが、私たちは、どうかな、理解しあえているかなあ。
「それは、まあ、熟慮した上で決める。ごちゃごちゃ言っている暇があれば、次の行動を考えろ。ここは烏がけつを持つ」
「ああん姉御! 素直じゃねえんだから!」
「うるさい! 決めた、報告義務のあるところ全てにする!」
嬉しくなってはしゃいだら殴られた。籠いっぱいタオルを持ってきた里中さんに看病された後、私は一度梟の元に戻ることになっていたのでその旨を改めて告げた。すると御岳さんに耳を貸せと離れた場所に呼ばれた。
「烏が何羽かあっちについていただろう、散開させていた連中の中にもいるかもしれん。応答のない連中がいるから、そいつらも殺しておけ」
また容赦のないこって。それをせよと命令する心境はきっとひどいものだろう。だから、確かめることはしない。
「承りました」
そして烏の裏切り者、と断定しよう、その最終位置をきいて、虱潰しに探すことにした。この裏切りは梟には知らせない。こっそり戦死扱いにしてしまおう。
二羽落とした。確かな証拠もなく、疑いがあるというだけでそうした。
彼らの最後の弾丸が天使へ放たれたものだとしても、家族とか守るべきものがいたとしても、この国や軍を愛していたとしても、だからどうした。
(なにも防げないんじゃあわせる顔がない。やりきるしかないんだ)
とにかく脅威は排除しなければならない。その一心で烏たちを斬った。
集団でいた奴らも、じっとしている奴も、無線に怒鳴りつける奴も、みんな平等だ。私の手は赤く、手袋は新調しないといけない。
そしてあと数羽を残すだけとなったとき、
(……心じゃどこかで、狂って仲間を殺した狸のボスでいたかった気もするが)
見つけてしまった。そこは巡に指示した地点からそう遠くない場所で、レベト軍人と山羊、それに烏と梟がいた。それだけなら、裏切りには繋がらず、それどころか戦地の奥深くまでやってきた外国人の胆力を称賛すべきだろう。
「伝令です」
と駆け寄ったとき、奴らは表情を強張らせた。緊張感がもたらすものだろうか、それともいるはずのない狸の出現に驚いたのか。それはすぐにわかることだ。
「どうした」
「御岳少佐に散開した烏を集合指させよと命じられております」
烏と梟が一羽ずつ、山羊が三匹、白熊が五匹。たったこれだけの数で三名のレベト軍人を護衛か。しゃらくせえ、本来なら亀を出張らせるくらい厳重にするんだよ。
「そうか。だが必要ない。我々は、護衛を仰せつかっている」
「護衛ですか。亀がその任にあたるときいていましたが」
「下がれ曹長」
『落ち着けワタリ中尉。面倒だ、ここで戦死とさせよう』
レベト語だった。榊を舐めるなよ、あんたらの国にいつ出向になったってやっていけるんだ。
「しかし」
『目障りな狸め、あそこの男もさっさと殺せばいいだろう。フェンリルに手傷を与えるまで生かすなどという馬鹿らしいことはせずにな。どうせ我々はすぐ北楽から離れるんだ、むしろフェンリルを傷物にさせられては堪らん』
心じゃどこかで、イカれた妄想に取り憑かれた狂女でありたかった、なんてね。
予想は的中、義母さん仕込みのダンスでも披露しようか、社交界じゃ真千の姉貴と一緒に踊ったもんだが、あー、姉貴のことは思い出さない方がよかったな。加減ができなくなるかもしれねえ。
「なるほど。そこの山羊が撃つ。白熊は見張りでレベトのあんたが指示を出して、そんで見届ける。そういうことか」
飛び出すなというほうが無理な話で、白刃は弧を描き山羊の首を落とした。すぐさま拳銃の小さな弾丸がレベトの膝を抜いた。
「血迷ったか榊、なんて言うんじゃねえぞ」
今日は天使よりこいつらを斬った数の方が多いかもしれないね。各部隊一人ずつ残そうかな。
『撃て』
と命令は下る。照準の先にいるのは、フェンリルと遊ぶ狸だ。
しかし実行犯の手元は動揺からうまく狙いが定まらない。あれが発射される前にかたをつけなくてはならない。
『何をしている! 早くしろ!』
「させねえよ」
踏み込み、道を阻む白熊を斬った。その先にいるレベト軍人は、顔を歪ませながらも口角を上げた。
『どれだけ貴様が死をもたらそうとも、飛ぶ弾丸には劣るだろう』
発射まで、あとどれくらいだろう。彼のいう弾丸が、何に着弾するまで、私は何人斬れるのだろう。
「けっ、撃ってみやがれ。あいつは飛ぶ弾丸より強いぜ」
誠には悪いが、撃たれてもらう。焦って私が手傷を負えば、奴らは標を失うんだ。
秤にかけろ、選び取れ。そういえば姉貴を重りにしたら怒ったなあ、あいつ。だけど、てめえと北楽ならヘラヘラして、きっと迷わないはずだ。
だから私は間違えない。自分を厭わない奴らがいるから、私は絶対間違えない。
「あ、頭はやめてやれよ。流石に死ぬかもしれない」
残り四人。互いにのしかかるプレッシャーは凝縮され、
「着弾確認! 腹部を貫通しました!」
と絶叫がそれを打ち破る。
『次弾急げ』
と言ったその口を右目ごと縦に割った。腹を蹴りつけ、そして伏せながら銃を構える下手人の両腕を刀の二振りでふっ飛ばす。
半分だけ生きている者が数人、それと元気な私。他は死者としてしか扱われない私お手製の物体。勧善懲悪ではないかもしれないけど、これはこれで悪い気分じゃない。
「あ、白熊が残ってないや。まあいいか」
レベト軍人は顔をおさえ悲鳴を殺し、口を大きく開けた。
素早くハンカチを突っ込み、気絶させる。自害なんかさせると思うなよ。
生きている者を拘束し、湯ノ島さんに人を寄越してもらうよう連絡した。
「うん、烏は近くにいるけど、湯ノ島さんのところから、なるべく信頼できる人をお願い。それと、猫を前線に出して欲しい」
どさくさ紛れに全員を始末する。平場さんの部下ってだけで裏切り者はいないのかもしれないけど、徹底的にやった方がいい。山羊たちも、離反者がいた部隊は全員殺すくらいの気持ちで行こう。無論、烏も梟もだ。佐野さんか中央の、あの柳生中将とかに調べてもらおう。
「ああ、あいつが撃たれたのは知ってるよ。見てたからね。それじゃ、また後で」
あとは猫が戦場に出るまで待って、一気に潰す。仲間殺しの時間稼ぎのためにフェンリルは少しだけ生かしておく。誠にはフェンリルの相手をさせておけばいい。あいつなら腹に穴が空いたって平気だろうし、どうせ手を出すなって言うに決まってる。見逃したけじめをつけたいはずだ。
『榊曹長』
巡からの無線だ。鼓動が戦闘よりも激しく胸を上下させる。彼女が生きていたのは嬉しいが、声が泣いていた。
『なんだ今の音は』
拳をぶち当てる、誠の得意なあの音が聞こえた。交戦中なのかな。
報告の内容は完璧だった。亀には悪いが、姉貴が無事ならそれでいい。
(最高だ。それでこそお前だよ)
無線で指示を出したから、巡と合流して、猫を片付けよう。
しかし肩に弾を受けても平然と連絡してくるあたり、只者じゃねえな。あの不気味な腕立てには本当に効果があるのかもしれない。
あ、誠も一発くらってんだった。まあ平気だろう。蛇の噛み跡の方が穴はでかかったと思うし、
「フェンリルと一対一だぜ、そんなやつが今更射たれたところで、くっくっく、レベトの野郎め、狸に喧嘩ふっかけるからこうなるんだぜ」
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