追放された聖騎士は《武具分解》と《武具融合》を駆使して成り上がる

くぬぎ

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家探し

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 リリの装備を次々と強化。リリの戦闘能力は飛躍的に向上し、俺たちは、以前よりも安定して、効率よく依頼をこなせるようになっていた。

 そして必然的に、俺たちの「素材」のストックも日を追うごとに、その置き場所に困るようになっていった。

「……おいリリ。少し、まずいことになってきたな」

 その日。宿屋の部屋に戻った俺は目の前の光景に、頭を抱えていた。
 部屋の床は、もはや足の踏み場もないほど、ガラクタ武具で埋め尽くされている。ベッドの下には、分解待ちのショ ートソードが何十本も放置され、壁際には革鎧やチェインメイルがぎっしりと詰め込まれている。壁に立てかけた槍や斧が、いつ雪崩を起こしてもおかしくない、危険な状態だった。

 もはやここは冒険者の部屋というより、武器の密売人のアジトかあるいは、小さな戦場の跡地のようだった。

「おにいちゃん、ただいまー……って、わわっ!?」

 依頼の報告を終えて戻ってきたリリが、ドアを開けた途端、床に転がっていた兜に足を引っかけて派手にすっ転んだ。

「大丈夫か、リリ!」
「う、うん……。でも、お部屋が、なんだかすごいことになってるね……。キラキラさんたちが、狭いよーって、文句言ってる」

 リリは武具の山をかき分けながら、ようやくベッドへとたどり着いた。その姿はまるで、金属の海で遭難しているかのようだった。

「さすがに、もう限界か……」

 宿屋の主人からも、最近「アルゼストさんの部屋、少し床が軋むんだが、何を飼ってるんだい? まさか、鎧のゴーレムじゃあるまいな?」と、苦笑交じりの苦情を言われたばかりだ。このままでは、宿を追い出されるのも時間の問題だろう。

 俺は一つの決断を下す必要に迫られていた。

「リリ。家を買おう」

 その言葉は、ほとんど衝動的に、俺の口から飛び出していた。

「え? おうち?」

 リリは、兜を帽子のように被ったまま、きょとんと目を丸くした。

「ああ。俺たちの家だ。これだけの武具を心置きなく保管できる、広くて頑丈な家が、どうしても必要だ」

 それはスキルを使う上での、極めて現実的な問題から生まれた決断だった。だが、その言葉を口にした瞬間、俺の胸の中に別のもっと温かい感情が、じんわりと広がっていくのを感じた。

 リリと二人で暮らす、自分たちの家。
 それはいつかぼんやりと描いていた、俺のささやかな夢そのものだった。

「……ほんと? ほんとに、リリとおにいちゃんの、おうち?」
「ああ、そうだ。もう宿屋暮らしは終わりだ。俺たちの帰る場所を作るんだ」

 俺の言葉にリリの瞳がみるみるうちに潤んでいく。そして次の瞬間、リリは「わーい!」と歓声を上げ、武具の山をものともせず、俺に飛びついてきた。

「やったー! おうち、おうち! リリ、お庭にお花を植えたいな!」
「はいはい、わかったから。まずは、その家を探すところからだ」

 俺たちは早速、街の不動産屋へと向かった。

 ◇

 アンデッド事件を解決した英雄、という肩書はこういう時に役に立つ。不動産屋の主人は俺たちの顔を見るなり、普段は紹介しないような、とっておきの物件をいくつか見せてくれた。

「これは、商業地区のど真ん中にある物件ですな。元は商店だっただけに、品物の保管には困りませんぞ。何より、ギルドにも武器屋にも近くて便利です!」
「うーん、便利そうだが少し騒がしすぎるな。リリが落ち着かないだろう」

 次に主人が見せてくれたのは、貴族街の近くにある瀟洒な館だった。

「こちらはいかがですかな? 見てください、この美しい装飾! 英雄殿にふさわしい、気品のあるお住まいですぞ!」
「……俺たちには分不相応だ。それに、こんな綺麗な家すぐにガラクタ武具で傷だらけにしてしまう」

 俺はどうにも決めかねていた。
 広い倉庫は必須だ。だがそれだけではダメだ。リリが安心して、のびのびと暮らせる場所でなければならない。俺の都合だけで、決めるわけにはいかなかった。

「なかなか、難しいですな……」

 主人が困り果てた顔で、腕を組む。
 その時、今まで黙って絵図を見ていたリリが、おずおずと、一枚の古びた絵図を指さした。

「……あ、あのね。このおうち、なんだか、すごく優しい匂いがする」

 それは他の物件に比べて明らかに古く、人気のない物件のようだった。

「おや、嬢ちゃん。そいつはもう何年も買い手のつかない、街の南地区のはずれにある家でしてな……。少し曰く付きというか……」
「曰く付き?」
「ええ。元々は、引退した騎士団の方が住んでいた家なのですが、その騎士団員がどうも変わり者でしてな。夜な夜な、庭で剣を振るう音が聞こえたり、地下室から、奇妙なうめき声が聞こえてきたりと、あまり良い噂がなくて……」

 主人は、歯切れ悪く説明する。だが俺はその説明に逆に興味を惹かれた。

「地下室があるのか?」
「はあ。それなり広い、頑丈な倉庫になっていると聞いておりますが……」

 俺はリリの方を見た。リリはその絵図から目を離さず、じっと見つめている。

「リリ、その家、怖い感じはしないか?」
「ううん。しないよ。でも寂しそうな気配がするかも……」

 その言葉が俺の心を決めた。

「主人、その家を見せてもらえるか」
「ええっ!? よろしいのですか?」
「ああ。俺はこいつの『目』を、信じているんでな」

 俺たちは不動産屋の主人に案内され、街の南地区のはずれへと向かった。そこは、街の喧騒が嘘のように静かだった。

 石造りの質実剛健な佇まい。少し古びてはいるが、それが逆に長い年月を経てきた歴史と、風格を感じさせる。

「さあ、どうぞ」

 主人が、錆びついた鍵で、重い木の扉を開ける。
 中は少し埃っぽい匂いがしたが窓から差し込む陽の光が、部屋の隅々までを、優しく照らしていた。

「ひろーい!」

 リリはがらんとした部屋の中を、嬉しそうに駆け回っている。
 そして俺は、一番の目的である地下の倉庫へと向かった。
 地下へと続く階段を降りると、そこには、俺の想像を遥かに超える広大で、そして、驚くほど頑丈な空間が広がっていた。高い天井、分厚い石の壁。これならどれだけ武具を置いても、床が軋む心配はないだろう。

「……決めた。この家を買う」

 俺のその一言で俺たちの新しい家は、正式に決まった。
 アンデッド事件で得た報酬と、これまで貯めてきた資金を合わせれば、購入金額は十分に支払える。

 数日後。
 俺たちは荷物をまとめ、長年世話になった宿屋を後にした。
 そして二人で、新しい家の重い木の扉を開ける。

「今日から、ここが、俺たちの家だ」
「うん!」

 リリは満面の笑みで頷いた。
 追放され、全てを失ったと思っていた。
 だが今、俺の手の中には最高の相棒と、そして二人だけの城がある。

「さて、と」

 俺は、腕まくりをした。

「まずは、大掃除からだな。リリ、手伝え」
「はーい!」

 元気な返事と共に俺たちの、新しい生活が始まった。
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