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収束
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力の源である杖を失い、ゾルタンはあっけなく捕縛された。彼が倒れると、まるで操り主を失った人形のように、霊廟にいたスケルトンたちも、そして地下墓地全体に満ちていたアンデッドたちも、一斉にその動きを止め、崩れ落ちるようにしてただの骨や骸へと還っていった。
後に残されたのは不気味な静寂と、俺たち討伐隊の荒い息遣いだけだった。
「……終わった、のか?」
仲間の一人が信じられないといった様子で呟く。その言葉を合図に、張り詰めていた緊張の糸が切れ、皆、その場に座り込んだ。
俺は捕らえたゾルタンをギルド職員に引き渡し、リリの元へと駆け寄った。
「大丈夫か、リリ。怖かっただろう」
「ううん、大丈夫。おにいちゃんが、絶対に何とかしてくれるって、信じてたから」
リリは気丈にも笑顔を見せた。だがその小さな体が、まだかすかに震えているのを俺は見逃さなかった。
俺はリリを優しく抱きしめ、その背中をゆっくりとさすってやった。
やがてギルドマスターのバルトと、ドルガンたちが率いる防衛隊も、霊廟へと到着した。アンデッドの動きが完全に止まったことで、事態の収拾を確信したのだろう。
「アルゼスト君!」
バルトは霊廟の惨状と、捕らえられたゾルタンの姿を見ると、俺の肩を力強く叩いた。
「見事だ! 実に見事な戦いぶりだった! 君がいなければ今頃、街は壊滅的な被害を受けていただろう。街を代表して、心から礼を言う」
「いえ……俺一人の力ではありません。ここにいる、皆がいたからこそです」
俺がそう言うと、周りの冒険者たちが少し照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張った。
「何言ってやんでい旦那!」
ドルガンがその大きな体で俺の背中をバンバンと叩く。
「あんたのあの鉄壁の盾があったからこそ、俺たちは安心して戦えたんだ。それに……」
ドルガンは俺の隣にいるリリに、優しい視線を向けた。
「この嬢ちゃんの、的確な助言がなけりゃ、今頃、俺たちのうちの何人かは、あっち側に行ってたかもしれねえな」
「そうだぜ! 最初は子供が戦場で何するんだって思ったが、とんでもねえ嬢ちゃんだ!」
「小さいのに大したもんだ!」
冒険者たちが口々にリリを賞賛する。リリは突然のことに戸惑い、俺の後ろに隠れようとするが、その顔はまんざらでもないように、嬉しそうに赤らんでいた。
バルトはそんな俺たちの様子を、満足そうに眺めていた。
「君たちはこの街の英雄だ。ギルドは君たちの功績に対し、最大限の報酬と、名誉を与えることを約束しよう。アルゼスト君、君のような有能な指揮官が、今まで無名であったことが信じられん。よければ、私の下で、ギルドの専属として働いてみる気はないか? 破格の待遇を約束するが」
ギルドマスターからの破格のスカウト。それは普通の冒険者であれば、喉から手が出るほど欲しい申し出だろう。追放された俺にとっては、願ってもない名誉回復の機会のはずだった。
だが俺の心は、不思議なほど穏やかだった。
「……お気持ちは、大変ありがたいのですが」
俺はリリの頭を優しく撫でながら、静かに言った。
「今は誰かの下で働く気はありません。今の俺のパーティは、この子と俺の二人。俺はこの子と一緒に居るだけで十分なんです」
俺の答えにバルトは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに全てを理解したように、深く頷いた。
「……そうか。君ほどの男がそう決めたのなら、俺が口を挟むことではあるまい。だが、覚えておいてくれ。この街と冒険者ギルドは、いつでも君たちの味方だ。困ったことがあれば、いつでも私を頼ってほしい」
「……感謝します」
俺はギルドマスターに、そして、この一夜を共に戦い抜いた仲間たちに、深く頭を下げた。
地下墓地から地上へと戻ると、東の空が白み始めていた。長い、長い夜が、ようやく明けようとしている。街の人々は、アンデッドの脅威が去ったことを知り、安堵の表情で俺たちを迎えてくれた。
彼らは俺たちを「英雄」と呼び、その功績を称えてくれた。
だが俺にとって、そんな賞賛の言葉は、もはや重要ではなかった。
隣で少し眠そうに目をこすりながら、それでも嬉しそうに俺の手を握る、小さな相棒。この子の笑顔を守れたこと。それこそが俺にとって、何物にも代えがたい、最高の報酬だった。
朝日が疲弊した街と、新たな絆で結ばれた俺たちを、優しく照らし始めていた。
後に残されたのは不気味な静寂と、俺たち討伐隊の荒い息遣いだけだった。
「……終わった、のか?」
仲間の一人が信じられないといった様子で呟く。その言葉を合図に、張り詰めていた緊張の糸が切れ、皆、その場に座り込んだ。
俺は捕らえたゾルタンをギルド職員に引き渡し、リリの元へと駆け寄った。
「大丈夫か、リリ。怖かっただろう」
「ううん、大丈夫。おにいちゃんが、絶対に何とかしてくれるって、信じてたから」
リリは気丈にも笑顔を見せた。だがその小さな体が、まだかすかに震えているのを俺は見逃さなかった。
俺はリリを優しく抱きしめ、その背中をゆっくりとさすってやった。
やがてギルドマスターのバルトと、ドルガンたちが率いる防衛隊も、霊廟へと到着した。アンデッドの動きが完全に止まったことで、事態の収拾を確信したのだろう。
「アルゼスト君!」
バルトは霊廟の惨状と、捕らえられたゾルタンの姿を見ると、俺の肩を力強く叩いた。
「見事だ! 実に見事な戦いぶりだった! 君がいなければ今頃、街は壊滅的な被害を受けていただろう。街を代表して、心から礼を言う」
「いえ……俺一人の力ではありません。ここにいる、皆がいたからこそです」
俺がそう言うと、周りの冒険者たちが少し照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張った。
「何言ってやんでい旦那!」
ドルガンがその大きな体で俺の背中をバンバンと叩く。
「あんたのあの鉄壁の盾があったからこそ、俺たちは安心して戦えたんだ。それに……」
ドルガンは俺の隣にいるリリに、優しい視線を向けた。
「この嬢ちゃんの、的確な助言がなけりゃ、今頃、俺たちのうちの何人かは、あっち側に行ってたかもしれねえな」
「そうだぜ! 最初は子供が戦場で何するんだって思ったが、とんでもねえ嬢ちゃんだ!」
「小さいのに大したもんだ!」
冒険者たちが口々にリリを賞賛する。リリは突然のことに戸惑い、俺の後ろに隠れようとするが、その顔はまんざらでもないように、嬉しそうに赤らんでいた。
バルトはそんな俺たちの様子を、満足そうに眺めていた。
「君たちはこの街の英雄だ。ギルドは君たちの功績に対し、最大限の報酬と、名誉を与えることを約束しよう。アルゼスト君、君のような有能な指揮官が、今まで無名であったことが信じられん。よければ、私の下で、ギルドの専属として働いてみる気はないか? 破格の待遇を約束するが」
ギルドマスターからの破格のスカウト。それは普通の冒険者であれば、喉から手が出るほど欲しい申し出だろう。追放された俺にとっては、願ってもない名誉回復の機会のはずだった。
だが俺の心は、不思議なほど穏やかだった。
「……お気持ちは、大変ありがたいのですが」
俺はリリの頭を優しく撫でながら、静かに言った。
「今は誰かの下で働く気はありません。今の俺のパーティは、この子と俺の二人。俺はこの子と一緒に居るだけで十分なんです」
俺の答えにバルトは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに全てを理解したように、深く頷いた。
「……そうか。君ほどの男がそう決めたのなら、俺が口を挟むことではあるまい。だが、覚えておいてくれ。この街と冒険者ギルドは、いつでも君たちの味方だ。困ったことがあれば、いつでも私を頼ってほしい」
「……感謝します」
俺はギルドマスターに、そして、この一夜を共に戦い抜いた仲間たちに、深く頭を下げた。
地下墓地から地上へと戻ると、東の空が白み始めていた。長い、長い夜が、ようやく明けようとしている。街の人々は、アンデッドの脅威が去ったことを知り、安堵の表情で俺たちを迎えてくれた。
彼らは俺たちを「英雄」と呼び、その功績を称えてくれた。
だが俺にとって、そんな賞賛の言葉は、もはや重要ではなかった。
隣で少し眠そうに目をこすりながら、それでも嬉しそうに俺の手を握る、小さな相棒。この子の笑顔を守れたこと。それこそが俺にとって、何物にも代えがたい、最高の報酬だった。
朝日が疲弊した街と、新たな絆で結ばれた俺たちを、優しく照らし始めていた。
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