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2章

謀ったな!

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魔力を綺麗に纏う操作とそれを維持する事は難しい。でも他にも難しいことがあった。
魔力の操作を維持することではなく、魔力の量自体の問題だ。


2日目は朝から夕方まで頑張って『纏い』を続けていた。ドアは開けられないしコップはもてないのでカリナにドアを開けてもらって、銀のコップにストローをつかった。それでもいっぱいコップを曲げたけどガラスよりはマシだ。たたけば直るからね。

そんなことより問題は寝るときまで『纏い』を続けようと思ったんだけど、夕食後のお風呂タイムあたりで魔力がだんだん出しづらくなったと思ったらお風呂の中で真っ暗になった。

一緒に入っていたカリナが言うには突然気絶してお風呂の中にブクブクブクっと沈んでいったらしい。
慌てて風呂から出し部屋へ連れて行ってもらったらしいけど、一人だと風呂で溺れて危ないところだったらしい。

私が気が付いたのは次の日の朝になってからだ。またお漏らしを……いや、なんでもない。

こそこそと着替えて食堂へ行くともうみんな勢ぞろいしていた。
勢ぞろいと言ってもシエラ先生は居ない。さみしいなあ。


「おはようアーシャちゃん。昨日も頑張ったみたいね。でも頑張りすぎは危ないわよ」

「そうだよ。パパも心配しちゃったよ。今日からはお風呂とか、危ないところではやめておいたらどうだい?」

「だいじょうぶだよ!今日からは!」

「そうは言ってもアーシャちゃん。もう11歳なのに毎日……おっと。これはまずいね」


パパは毎日の後の言葉は引っ込めた。でもなにを言おうとしたかは分かる


「パパ~?」

「ごめんごめん。ちょっとダメだったね。でもさ、アーシャちゃんがやってる修行はかなり難しいレベルなんだよね。殆どのエルフは出来ない事なんだ。もちろん人間や魔族だってほんの一部しか出来ない。そんなに頑張らなくってももっとゆっくり大きくなって欲しいなって、お父さんとしては思うんだ」

「でも、そうするとなかなか強くなれないし、ダンジョンも……」

「ダンジョンも、もう少し待ってからでいいんじゃないかなあって思うんだけどね。まあそれはいいよ、仕方ないことさ。まあ、究極のところダンジョンの外だから安全と言うわけでもないし、早めに実力をつけるに越したことはない。でもそのために家のお風呂で溺死というのはどうかなあと」

「そうね、風呂で死ぬっていうのは古今よくあることだわ。出来ればその気になれば簡単に対応出来る危険はきちんと避けて欲しい、っていうパパの気持ちも分かってあげて欲しいわ」

「うん……わかった」


言いたい事はわかる。それにママがこういうって事は多分そこまでしなくてもいいんだろうなって。

でも私はなんとしても早く強くなって、早くダンジョンの底へたどり着きたい。
そうしなければいけないという強迫観念に駆られている。

でも、今の私じゃダンジョン深層へフラフラと行くと多分死んじゃうんだ。
そういうことくらいはも分かっている。でもだからっていつまで修行をすればいいのか。


何もできないまま時間だけが過ぎていくようで。
そんな焦燥ともなんともいえないこの気持ち。
この言葉に出来ない気持ちをどう表せばいいのか。
そしてどう行動すればいいのか。今の訓練内容で本当にいいのか。

分からないからその分、頑張って訓練に取り組んでいるというところもあるんだけど。


「ねえ、ママはどうやって強くなったの?」

「ん?昔の話?」

「そうそう。1万年前だっけ?」

「ブフッ!い、1万年!?」


パパがミルクを噴き出しながら聞く。
今日も当然のように我が家の食卓には絞りたて?スライム牛乳が並んでいます。


「やーね!アーシャちゃんったら!10年まえだっけ?」

「10年だと私がもう産まれてるでしょ?」

「そうだっけ、おほほ」


また強引に誤魔化した。1万年前設定はパパには内緒なんだ?そうだよね。
ハイエルフだって寿命は5000年もないんだし。
パパは確かまだ600歳くらいでハイエルフの中では若僧だって言ってたし。


そのパパより何歳年上なんだって話だもんね。


「スラちゃんミルクは美味しいわねえ。アーシャちゃんは牛乳スライムちゃんにはお名前つけないの?」

「そうだなあ……じゃあ『ミルク』でどうかな!」

「ものっすごくストレートだけど、まあいいんじゃないかしら?」

「いいんじゃない?プリンちゃんにミルクちゃんだね。ついでに他のこの名前も考えたらどうかなあ?」

「うーん。じゃあヒーリングスライムは、特にぽよぽよしてるから……ホイミンで。」

「いいんじゃないの?パパは好きだなあ」

「すごく残念だけど却下よ。スラリンと同じ理由でね」


そうなのか。おのれ異世界の文化め!私のつけようとした名前をどんどん先に取っていって!
全くずるい奴らだ!じゃあ何にしようかなあ、うーんと????


「うーん、うーん……あー、じゃあ抹茶で。緑色だしね」

「プリン、ミルク、抹茶ね?まあいいんじゃない。食べ物シリーズね」

「いいと思うよ。ほかの子達はどうするか考えないとね。名前をつけるのって難しいね。パパもアーシャちゃんの名前を考えるときは苦労してたんだ。」

「それでどうやって決めたの?」

「ママが決めた。パパはそうだねって同意したんだよ。でも、簡単にいいよって言ったわけじゃないよ?アーシャちゃんのお名前はかわいくていいと思ったから同意したんだよ」


そうは言うが、ママがこうだって言ったらハイ。って言ったようにしか思えなくもない。
パパはつらいなあ。



「それはそうと、この間言っていたけど大会には行かないのかい?」

「ウ○コスライムの?やだよあんなの」


パパはなにを考えているのか!どうして私が○ンコ自慢大会になんか出なけりゃいけないんだ。
花も恥らう11歳の乙女だというのに。まったくもう!


「そうじゃないよ。モンスターの育成を研究、発表する大会があるのさ。それが今年は隣の魔族の国であるらしいよ。」

「魔族の国って北側だっけ?」

「そう。北側にある『フレスベルグ共和国』だよ。モンスター研究学会は各国に支部があるんだけど、年に一度その研究内容を発表する大会があるんだよ。ぼくらも招待されてるんだけど、アーシャちゃんも行ってみるかい?」


おお!なかなか良さそうな大会じゃないか。
てっきりまたスカベンジャースライム大会の話だと思ったけど、パパもなかなかやるな。


それならママも反対しないだろう。カリナのほうを見ると微妙な顔をして目をパチパチしていたけど、チラッとママのほうを見るとにっこりしていた。


「アーシャちゃんが行きたいならいいのよ」

「えっと、じゃあ行きたいです!」

「そう。じゃあ決まりね。そうとなれば頑張って準備しないとね。うふふ」

「準備???」

「お出かけの準備よ。楽しみね。がんばってね、アーシャちゃん」


なにを頑張るんだろう?分からないけどなんだかとっても嫌な予感が。

カリナが私の後ろを見ている。
まずい予感がする。すごく。

ギギギっと後ろを見ると、そこには


「それではアーシャ様。この不詳エンヤめがアーシャ様を立派な淑女に仕立て上げて見せます」

「淑女……って何のことかな?私は学者さんの発表に行くだけなんだけど?おかしいな?」


エンヤさんはメイドの指導係と礼儀作法の先生だ。
200歳くらいのエルフで、昔からお城にメイドとして勤めてきていたけど、結婚して子育てをしていたらしい。その後子供ももう独り立ちしてるし、ってことでお城でのお勤めに戻ってきた。

今まで私はかる~く作法を習っただけだと言うことだけど、すっごく厳しかった記憶しかない。
淑女?仕立て上げる?どういうことかな?あれれ?


「何もおかしくありませんよ。外国に行くと当然国王様も王妃様も、もちろん姫様も歓迎の宴に出なければなりませぬ。そのための服やダンス、作法の訓練を行うのは当然のことでございます」

「そ、そう?でも私は今『纏い』の訓練をしていて、とってもコントロールが難しいんだよね?だからさあ、なかなかダンスの訓練をする余裕はないんじゃないかなあ?」

「大変結構。ダンスの訓練は重りをつけて訓練することもあります。『纏い』の習得と同時にこなすと言うのもすばらしい訓練法です。ぜひ同時にやってみせましょう!」


だめだ。本気だこれは。
普通に大したことをしていなくても『纏い』の訓練をしているだけでぶっ倒れるくらいなのに、こんな時に礼儀作法だとかダンスなんてやってられない!


「ひえええ!カリナ!たすけて!」

「むりです。あきらめてください姫。外に出たいとうっかり王妃様に言ってしまった姫が悪いのです。私は駄目だとサインを送っていましたよ」

「は、謀ったな!ママあああああ!」

「ふふ。お外に行きたい等と言った過去のアーシャちゃんが悪いのだよ」



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