深窓の令嬢はダンジョンに狂う ~ハイエルフの姫に転生したけどなかなかダンジョンに行かせてもらえません~

吉都 五日

文字の大きさ
34 / 49
2章

謀ったな!

しおりを挟む

魔力を綺麗に纏う操作とそれを維持する事は難しい。でも他にも難しいことがあった。
魔力の操作を維持することではなく、魔力の量自体の問題だ。


2日目は朝から夕方まで頑張って『纏い』を続けていた。ドアは開けられないしコップはもてないのでカリナにドアを開けてもらって、銀のコップにストローをつかった。それでもいっぱいコップを曲げたけどガラスよりはマシだ。たたけば直るからね。

そんなことより問題は寝るときまで『纏い』を続けようと思ったんだけど、夕食後のお風呂タイムあたりで魔力がだんだん出しづらくなったと思ったらお風呂の中で真っ暗になった。

一緒に入っていたカリナが言うには突然気絶してお風呂の中にブクブクブクっと沈んでいったらしい。
慌てて風呂から出し部屋へ連れて行ってもらったらしいけど、一人だと風呂で溺れて危ないところだったらしい。

私が気が付いたのは次の日の朝になってからだ。またお漏らしを……いや、なんでもない。

こそこそと着替えて食堂へ行くともうみんな勢ぞろいしていた。
勢ぞろいと言ってもシエラ先生は居ない。さみしいなあ。


「おはようアーシャちゃん。昨日も頑張ったみたいね。でも頑張りすぎは危ないわよ」

「そうだよ。パパも心配しちゃったよ。今日からはお風呂とか、危ないところではやめておいたらどうだい?」

「だいじょうぶだよ!今日からは!」

「そうは言ってもアーシャちゃん。もう11歳なのに毎日……おっと。これはまずいね」


パパは毎日の後の言葉は引っ込めた。でもなにを言おうとしたかは分かる


「パパ~?」

「ごめんごめん。ちょっとダメだったね。でもさ、アーシャちゃんがやってる修行はかなり難しいレベルなんだよね。殆どのエルフは出来ない事なんだ。もちろん人間や魔族だってほんの一部しか出来ない。そんなに頑張らなくってももっとゆっくり大きくなって欲しいなって、お父さんとしては思うんだ」

「でも、そうするとなかなか強くなれないし、ダンジョンも……」

「ダンジョンも、もう少し待ってからでいいんじゃないかなあって思うんだけどね。まあそれはいいよ、仕方ないことさ。まあ、究極のところダンジョンの外だから安全と言うわけでもないし、早めに実力をつけるに越したことはない。でもそのために家のお風呂で溺死というのはどうかなあと」

「そうね、風呂で死ぬっていうのは古今よくあることだわ。出来ればその気になれば簡単に対応出来る危険はきちんと避けて欲しい、っていうパパの気持ちも分かってあげて欲しいわ」

「うん……わかった」


言いたい事はわかる。それにママがこういうって事は多分そこまでしなくてもいいんだろうなって。

でも私はなんとしても早く強くなって、早くダンジョンの底へたどり着きたい。
そうしなければいけないという強迫観念に駆られている。

でも、今の私じゃダンジョン深層へフラフラと行くと多分死んじゃうんだ。
そういうことくらいはも分かっている。でもだからっていつまで修行をすればいいのか。


何もできないまま時間だけが過ぎていくようで。
そんな焦燥ともなんともいえないこの気持ち。
この言葉に出来ない気持ちをどう表せばいいのか。
そしてどう行動すればいいのか。今の訓練内容で本当にいいのか。

分からないからその分、頑張って訓練に取り組んでいるというところもあるんだけど。


「ねえ、ママはどうやって強くなったの?」

「ん?昔の話?」

「そうそう。1万年前だっけ?」

「ブフッ!い、1万年!?」


パパがミルクを噴き出しながら聞く。
今日も当然のように我が家の食卓には絞りたて?スライム牛乳が並んでいます。


「やーね!アーシャちゃんったら!10年まえだっけ?」

「10年だと私がもう産まれてるでしょ?」

「そうだっけ、おほほ」


また強引に誤魔化した。1万年前設定はパパには内緒なんだ?そうだよね。
ハイエルフだって寿命は5000年もないんだし。
パパは確かまだ600歳くらいでハイエルフの中では若僧だって言ってたし。


そのパパより何歳年上なんだって話だもんね。


「スラちゃんミルクは美味しいわねえ。アーシャちゃんは牛乳スライムちゃんにはお名前つけないの?」

「そうだなあ……じゃあ『ミルク』でどうかな!」

「ものっすごくストレートだけど、まあいいんじゃないかしら?」

「いいんじゃない?プリンちゃんにミルクちゃんだね。ついでに他のこの名前も考えたらどうかなあ?」

「うーん。じゃあヒーリングスライムは、特にぽよぽよしてるから……ホイミンで。」

「いいんじゃないの?パパは好きだなあ」

「すごく残念だけど却下よ。スラリンと同じ理由でね」


そうなのか。おのれ異世界の文化め!私のつけようとした名前をどんどん先に取っていって!
全くずるい奴らだ!じゃあ何にしようかなあ、うーんと????


「うーん、うーん……あー、じゃあ抹茶で。緑色だしね」

「プリン、ミルク、抹茶ね?まあいいんじゃない。食べ物シリーズね」

「いいと思うよ。ほかの子達はどうするか考えないとね。名前をつけるのって難しいね。パパもアーシャちゃんの名前を考えるときは苦労してたんだ。」

「それでどうやって決めたの?」

「ママが決めた。パパはそうだねって同意したんだよ。でも、簡単にいいよって言ったわけじゃないよ?アーシャちゃんのお名前はかわいくていいと思ったから同意したんだよ」


そうは言うが、ママがこうだって言ったらハイ。って言ったようにしか思えなくもない。
パパはつらいなあ。



「それはそうと、この間言っていたけど大会には行かないのかい?」

「ウ○コスライムの?やだよあんなの」


パパはなにを考えているのか!どうして私が○ンコ自慢大会になんか出なけりゃいけないんだ。
花も恥らう11歳の乙女だというのに。まったくもう!


「そうじゃないよ。モンスターの育成を研究、発表する大会があるのさ。それが今年は隣の魔族の国であるらしいよ。」

「魔族の国って北側だっけ?」

「そう。北側にある『フレスベルグ共和国』だよ。モンスター研究学会は各国に支部があるんだけど、年に一度その研究内容を発表する大会があるんだよ。ぼくらも招待されてるんだけど、アーシャちゃんも行ってみるかい?」


おお!なかなか良さそうな大会じゃないか。
てっきりまたスカベンジャースライム大会の話だと思ったけど、パパもなかなかやるな。


それならママも反対しないだろう。カリナのほうを見ると微妙な顔をして目をパチパチしていたけど、チラッとママのほうを見るとにっこりしていた。


「アーシャちゃんが行きたいならいいのよ」

「えっと、じゃあ行きたいです!」

「そう。じゃあ決まりね。そうとなれば頑張って準備しないとね。うふふ」

「準備???」

「お出かけの準備よ。楽しみね。がんばってね、アーシャちゃん」


なにを頑張るんだろう?分からないけどなんだかとっても嫌な予感が。

カリナが私の後ろを見ている。
まずい予感がする。すごく。

ギギギっと後ろを見ると、そこには


「それではアーシャ様。この不詳エンヤめがアーシャ様を立派な淑女に仕立て上げて見せます」

「淑女……って何のことかな?私は学者さんの発表に行くだけなんだけど?おかしいな?」


エンヤさんはメイドの指導係と礼儀作法の先生だ。
200歳くらいのエルフで、昔からお城にメイドとして勤めてきていたけど、結婚して子育てをしていたらしい。その後子供ももう独り立ちしてるし、ってことでお城でのお勤めに戻ってきた。

今まで私はかる~く作法を習っただけだと言うことだけど、すっごく厳しかった記憶しかない。
淑女?仕立て上げる?どういうことかな?あれれ?


「何もおかしくありませんよ。外国に行くと当然国王様も王妃様も、もちろん姫様も歓迎の宴に出なければなりませぬ。そのための服やダンス、作法の訓練を行うのは当然のことでございます」

「そ、そう?でも私は今『纏い』の訓練をしていて、とってもコントロールが難しいんだよね?だからさあ、なかなかダンスの訓練をする余裕はないんじゃないかなあ?」

「大変結構。ダンスの訓練は重りをつけて訓練することもあります。『纏い』の習得と同時にこなすと言うのもすばらしい訓練法です。ぜひ同時にやってみせましょう!」


だめだ。本気だこれは。
普通に大したことをしていなくても『纏い』の訓練をしているだけでぶっ倒れるくらいなのに、こんな時に礼儀作法だとかダンスなんてやってられない!


「ひえええ!カリナ!たすけて!」

「むりです。あきらめてください姫。外に出たいとうっかり王妃様に言ってしまった姫が悪いのです。私は駄目だとサインを送っていましたよ」

「は、謀ったな!ママあああああ!」

「ふふ。お外に行きたい等と言った過去のアーシャちゃんが悪いのだよ」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

アタシたち第四救護団!~頭を使う戦場の天使は回復魔法ゼロで駆け抜ける~

夕姫
ファンタジー
怪我して治すのは二流。怪我させないことこそ一流。分かるか?頭を使え! 自称「布団の妖精」ことガチニートのアリス・ミリエル(18)の野望は、一生働かずに寝て暮らすこと。 しかし、その夢は地上最強の母・マリアンヌの物理攻撃(ドア爆破)で粉砕される。 「誕生日おめでとう、今日で子育て終了よ♡」 という慈愛に満ちた宣告と共に、アリスは家から物理的に追い出され、所持金ゼロで庭に放置。野宿回避の道は、嫌々ながらも王宮騎士団に就職することのみ。 ​安眠と食い扶持のため、不純度MAXの動機で試験会場へと殴り込むが、元々、魔力ゼロで態度も悪い彼女は、騎士団の就職試験にことごとく不合格。 路頭に迷い、空腹の限界で辿り着いたのは、変人ばかりが集まる掃き溜め部署「第四救護団」だった そして、アリスは屁理屈を使い、なんとか「第四救護団」に採用されることになるのだが…… 凝り固まった戦況を打破し、歪んだ常識を打ち砕く、回復魔法ゼロの彼女の衝撃的な「手当て」とは――。 痛みこそが生きている証。最底辺の救護団が世界を揺るがす、痛快医療(?)ファンタジー開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...