深窓の令嬢はダンジョンに狂う ~ハイエルフの姫に転生したけどなかなかダンジョンに行かせてもらえません~

吉都 五日

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2章

鍛冶

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あれから地獄のような日々が始まった。

礼儀作法に始まり、ダンス、言葉遣いから他国の貴族への挨拶の仕方、名前の暗記などなど。
顔も記録水晶を見せられて一人ひとり名前と顔と経歴が一致するまで暗記暗記暗記。

ダンスはいい。まだ体を動かしているだけ気が紛れる。
でも暗記は……


「あああああ無理だああああ!こんなの無理だよおお」

「おちついてくださいアーシャ様!」


カリナが落ち着けって言うけど無理!
こんなのアタマ爆発しちゃうよ!


「無理だ無理!こんなの覚えらんないよ!」

「アーシャ様?その言葉遣いはどうなのかしら?」

「私には無理ですわ。このような事、覚える価値があるとは思えませんもの。おほほほほ!」


ニッコリ微笑んだし言葉遣いも問題ないだろう。どやっ!


「全く駄目です。喋っている間こそ使徒様かと思うような微笑でしたが、終わった瞬間の気の緩みようは酷いの一言です。それに加えて言っている事は論外ですよ。アーシャ様がご立派な所を見せないとお父様やお母様の評価も下がります。それでは困るでしょう?」

「ハイ……ガンバリマス」


パパとママが困る。それは私も困る。
2人には自慢の娘にならないと、って気持ちは私も一応持っているのだ。
『ダンジョンにいきたいなあ』って気持ちの次の次くらいには。

両親のために頑張ってこの苦行に耐える。つまらない名前を覚える作業だって耐えるのだ!














「あああああ!無理いいいいい!」


ふっ……無理だ!無理!

大会に来そうな人という括りなら何十人じゃ足りない。
何百人もの会った事がない人を覚えろって無理でしょ。


どこかの王様とか王妃様だけなら覚えられた。
10人くらいしかいないからそのくらいは楽勝だ。でも、その息子である王子が3人に姫が5人、お付きで一緒にいそうな何とか侯爵とか公爵とか伯爵とか。

覚えられるはずがない。更にその配偶者は勿論、息子や娘、引退した先代、側室にその子供、兄弟姉妹、先代の配偶者に側室。

覚えられるわけないでしょ!ふざけるなって話ですよ!


「覚えられるはずないよねカリナ!?」

「そうですね。私は無理です。でもアーシャ様、この地獄の特訓の間に『纏い』の制御が良くなってるのは気付いてますか?」

「そうだっけ……あんまりそっちを考える余裕がなかったよ」


そういわれてみたらそうかも。
1日10枚はドアをぶっ壊し、割ったコップは数知れず。初日2日目だけで練習用のナイフとフォークは全部折れてしまったのだ。仕方ないので普通のお店で売ってる安い食器を買ってきて練習していたけどそれもバキバキ折って全部鍛冶屋さんで直すことに。

鍛冶屋さんといっても、お城お抱えの鍛冶屋さんだけど。


私が『纏い』の修行を始めてからお城の鍛冶屋と大工が忙しくて仕方ないらしい。
今まで暇だったからね。たまにはいいよね。


「たまにはいいよね?カリナ」

「鍛冶屋さんのことでしたら怒ってましたよ。姫はモノを大事にしないって。ちょうどいいから今から謝りに行きましょう。」

「ちょうどいい……そうだね」


私は部屋の壊れた水差し(銀製)を持って鍛冶屋さんのところに向かう。
たいしたことはない。寝起きにほんの少し寝ぼけて水差しを掴んだだけだ。

取っ手がもげて水がじょばじょば漏れるようになってしまっただけだ。しょうがないね。


「おねしょをしなくなったからって調子に乗って毎日魔力を使いすぎなんじゃないですか?」

「別に調子に乗ってなんかないよ。訓練は欠かしちゃ駄目だと思って頑張ってるだけなんだ。なんだか空回りしてるようなっていうのは自分でも分かってるよ。そんなことより鍛冶屋さんへの謝り方を考えてくれないかなあ?」

「別にいつも通りでいいですよ。王妃様直伝のごめんねポーズをすればイチコロですよ」

「鍛冶屋さんってドワーフのおじさんでしょ?それで大丈夫かなあ?」

「全く問題ありません。堅物ぶっても姫のファン倶楽部に……」

「ワシが何だって?」

「ひょえっ!」


後ろから突然現れたのはお城で鍛冶屋さんをやっているドワーフのベルレットさんだ。
これぞドワーフだって感じのヒゲもじゃのおじさん。


「む。姫さんまた何か壊してきたのかい?」

「うん。これなんだけど……」


そういって朝に壊しちゃった銀の水差しを渡す。
取っ手の部分からへし折れていて、水も正門と搦め手の2箇所から出てくるステキな仕様だ。


「また派手に壊したもんだなあ」


そういってベルレットさんはしげしげと壊しちゃった水差しを見る。
なんだかとっても申し訳ないなあ。


「ごめんね、ベルレットさん。アーシャまた失敗しちゃったの。お願い、また直してほしいな?」

「うぐ……姫さんにそういわれるとしょうがねえなあ。」

「直してくれる?ありがと!」

「鍛冶してるとこなんざ見たことねえだろ?ちょっと見ていけよ」


ママ直伝のお願いポーズの効果は抜群だ!
ベルレットさんはなんだか楽しそうにしてるし、断るのも悪い。
それに今から帰ったらまた地獄の暗記タイムか怒られまくりながらの礼儀作法タイムだ。


それだけは絶対嫌だし、鍛冶も楽しそうだからみていこっと。












「いいか?この熱し具合だ。ここで叩くと伸びる。そして折り返して打つ事によって粘りが出るんだ。ほらやってみろ」

「うん。」


どうもアーシャちゃんです。
今、私はどういうわけか今私は鍛冶仕事を行っております。

銀の水差しをお城の鍛冶屋さんのベルレットさんがあっさり直しちゃったので、その腕前がすごいって褒めたの。そしたらお姫さんもやってみるか?ってことになって、それからは壊れたスプーンやフォークにナイフなんかを直している所を見学したの。

みるみる直ってすごいって褒めたら、なぜか今は私がハンマーを握っている。

やってみてよく分かったけど、鍛冶はかなり楽しい。
火加減、叩き具合、それから叩く場所に寄って鉄の反応が違う。
うまく叩けた時には鉄が喜んでいるように見える。これは楽しい。


よっ!ほっ!はっ!

カン!キン!コン!


見る見る出来上がっていく。鉄が望む形、なりたい形にしてあげる。
ちょこっとだけこっちの希望も伝えてだ。それでできたものは……槍の穂先だなあ。


「姫さん……鍛冶は初めてだったよなあ……?」

「うん。楽しかった!見てた?カリナ!」

「見てましたよアーシャ様!すばらしいものを見せて頂きました。アーシャ様から滴る汗!アーシャ様の吐息!そして見る見る生まれ変わる鉄に、それを見るアーシャ様の慈母の如き微笑み!これだけでカリナはあと80年は戦えそうです!」

「う、うん?そりゃよかったね?」

「はい。すばらしいものを見せて頂きました。記録水晶を持ってきていなかったのが残念でなりません」

「そう?私はもってきてなかって良かったかな?じゃ、じゃあ、もうかえろっか。ベルレットさんもうかえります。ありがとうねー!」

「おう、姫さん何時でもまた来いよ!姫さんなら大歓迎だぜ!それと、この穂先はきちっと仕上げて持っていくから楽しみに待ってなよ!」

「はーい。」


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