深窓の令嬢はダンジョンに狂う ~ハイエルフの姫に転生したけどなかなかダンジョンに行かせてもらえません~

吉都 五日

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2章

開眼

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「いやあ、鍛冶って本当にすばらしいですね!」


鍛冶小屋の外に出るともう夕方だった。朝から夕方までここで過ごしていたみたい。
いやあ、それにしても鍛冶は楽しかった。自分の力で物を作り出すってすごく楽しいもんだねえ。


カリナは何だかまた変なテンションになってるけど、それは問題ない。大体いつものことだし。
それにしても魔力を纏ったままで鍛冶仕事をしたけど、全く変な力が入らなくって綺麗にできたのだ。
これは私もついに『纏い』に開眼したんじゃないか。ぬふふ。


そう思って自室のドアを開ける。

ドアは今回はドアノブではなく蝶番の部分から壊れた。



……解せぬ。

でも、またこれで鍛冶屋さんにいく口実ができた。
こういうのも自分で作ってみても良いかもね。いやあ、考えるだけで楽しいなあ。


「ずいぶんとご機嫌ですね、姫様」

「え……!?」


ギギギギっと後ろを振り向く。
そこにはエンヤさんのお姿があるではないか。どういうことだろう?フシギダナア


「今日一日授業をサボってどちらへお出かけでしたか?ずいぶんと楽しかったみたいですが?」

「や、やだなあ。サボってたわけじゃないよ。ちゃんと私なりに色々とだね」

「色々……なんですか?」

「色々と鍛冶仕事なんかを……」

「ほう、姫は鍛冶仕事が他国の王に対しての礼儀作法なんかより遥かにいいという事ですね?」

「いや、そうは言ってないけど、まあ概ねそう思ってなくもないけど、いやあ参ったなあ」

「参ったのはこのエンヤです。姫は国王様や王妃様が恥をかいても問題が無いと仰るご様子で」

「そんなことはないよ!」

「では、今からでも頑張りましょう」

「い、いまから?ご飯は!?」

「勿論食事の前までに出来る事、暗記をしましょう。その後の食事時間も食事マナーの練習あるのみです。むしろ実践練習ができて好ましいですな」

「ひええ!」

「ではまいりますよ、姫!」

「カリナアアア!」


カリナは私が連れて行かれる姿を静かに見送っていた。
見送るカリナには『頑張ってくださいアーシャ様、私は係わりたくありません』って顔に書いてあった。








酷い目に遭った……

1日中鍛冶仕事をしてすっごく楽しんだ分、夕食前の暗記特訓が余計につらく感じた。
落差があんまり酷くて地獄に落とされたような気分だった。

そのあとは夕食を食べながらテーブルマナーの練習だ。
鍛冶の時には『纏い』続けたままハンマーを振るっていても全く失敗しなかったのに、ご飯の時になると突然スプーンもフォークもナイフもバッキバキに折れる。


仕方なく出してくれたお箸もやっぱり折れた。
どうなってるんだ!とは思わない。これがいつも通りだから特におかしくも何ともないのだ。


「姫様、もう少し残念そうな顔をしてください」

「だってしょうがないよ。『纏い』の練習が難しすぎるんだもん。私は悪くないんだもーん」

「しょうがないじゃありません。全くもう。仕方ないので私が見本を見せて差し上げます。」


そう言うとエンヤさんは『纏い』を発動した。
私のと少し魔力の色が違って緑色だ。ちなみに私は白っぽい色。


そしてナイフとフォークを使って全く音を立てずに料理を食べる。
やってることはご飯を食べているだけなのに、その所作は優雅としか言いようがない。


「うわあ……きれい」

「姫も頑張れば同じ事がで来ますよ。一緒に頑張りましょう」

できるかなあ?

『纏い』を続けながら食べている姿は体の周囲が光り輝いていてすごく綺麗だったのだ。
それにその所作も加わって天女のようだった。

エンヤさんはうちのメイドエルフの中でも厳しいお局さんっぽい人 (ママ談)なんだけど、昔は上流階級の人たちから息子の妻に来てくれないか?という誘いが後を絶たなかったらしい。

あの所作を見ているとそれも納得だわ。


「さあ、姫も頑張って!」

「う、うん!」


私は気を取り直して新しく修理した食器を使って食べ始める。
集中……集中だ!そーっとそーっと。

プルプルしない、すーっと滑らかな動きで。手に力を入れずに……!
パクっと!できた!


「れきは(できた)!」

「口に物を入れて喋らない!」

「ふぁい。」


あまりの喜びでつい。でへへ。でも出来た物はできた。よっしゃ!
コツがなんとなく分かった。食器も『纏い』で強化してしまえばいいのだ。
そういえば鍛冶をしていたときもハンマーごと『纏い』を使っていた気がする。ついでに金床もだ。
そうと分かればどうって事はない。


この調子でどんどん食べ進む。そういってもあせったり汚い食べ方をしたりはしない。
音を立てずに、スムーズな動きで。ナイフの切れ味も良くなったし、フォークも良く刺さる。
だから余計に力は要らない。力が要らないから動きもスムーズだ。

ナイフもフォークもスプーンも、手の延長だ。
一緒に『纏い』の中に入れてしまえばいい。
それだけでずんっと食器が強化されたし、それに自分の一部になったように自然に扱える。

なるほど。『纏い』の範囲を広げてしまえばいいのだ。


そう思えばこの部屋全体が私の知覚の中にするっと入ってきた。
全く見えない後ろの様子もよく分かる。壁の花瓶に刺してあるマランの花の花びらが落ちそう。
そういうのもわかるんだ。これが本当の『纏い』?
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