4 / 4
第4章:モンブラン
しおりを挟む
朝食後、俺たちは役場へ向かうことになった。
もちろん、俺は行きたくなかったが、エリーに「当然でしょ?」と一蹴されて渋々同行することに。
役場までの道中、少女は目を丸くしてあたりを見回していた。
人の多さに驚いているようだった。
それも無理はない。
この国には、ヒトだけではなく、獣人、ドワーフ、エルフなど、様々な種族が共に暮らしている。
通りにはしっぽを揺らす子ども、耳の長いエルフの老婦人、金属の腕を持つドワーフの職人たち――多様な存在が入り混じって生活しているのだ。
初代国王の方針だと聞いたことがある。
戦争を終わらせ、多種族を迎え入れ、奴隷制度を撤廃した――英雄と呼ばれる人物。
人種・出自にかかわらず共に暮らせる国をつくるため、あえて“辺境”から始めたのだと、歴史書に記されていた。
この国の自由と平和な日々が、その人の理想から始まったのだと思うと、少しだけ胸が熱くなる。
今、俺たちがこうして歩けているのも、その人のおかげなのだろう。
俺は心の中で、初代国王に礼を述べた。
──
役場に着き、事情を説明する。
やはり、少女の迷子届けは出ていなかった。
係員が申し訳なさそうな表情で言った。
「最近、隣国の動きが活発になっていましてね……。実は、あの森で“他国の者”を見たという報告が入っているんです。どうか、お気をつけて」
不安が胸に広がる。
この子は――やはりこの国の出身ではない。
それどころか、もしかすると運ばれていた“途中”だったのかもしれない。
どこから? 誰の手によって?
謎は深まるばかりだった。
帰りに立ち寄ったカフェで、エリーが突然提案した。
「この子に、名前をつけましょう!」
「……は?」
「そのままだと呼びにくいし、何より“存在”として認識してあげたいの。名前って、そういうものだと思うのよ!」
なんか立派なこと言ってるが、目がキラキラしてる。
……絶対、楽しんでるだけだろ。
「かわいい名前がいいよね? えーっと……モンブラン!」
「……今エリーが食べたいものじゃないか?」
「ふふん、バレたか。じゃあ、アスナが考えてよ」
「そうだな……“リン”とか、どうだ?」
「リン? それって、アスナのお気に入りの人形の――」
「注文しようか。ナズナ、何飲む?」
アスナが食い気味に被せてきた。声も妙に大きい。
何かを隠そうとしたのが、あからさまに分かる。
俺は反射的に返す。
「……え? あ、ああ、水でいいよ……?」
急に話を振られて戸惑ったが、やり取りの内容は聞こえてなかった。
ただ、アスナが焦ってるのだけは伝わってきた。
少女――まだ名前のないその子は、
俺のことをじっと見ていた。不器用な笑顔を浮かべながら。
……やめろ。俺を見るな。
「この子に選ばせましょう。どの名前が好きか、反応を見ればいいのよ」
「いいわね、勝負よ。ナズナ、あなたにも一つだけ考える許可をあげるわ」
なぜか俺にも参加権が与えられた。
断ろうとしたが、自然と口が動いていた。
「……ミヤ」
その瞬間、少女が俺の服をぎゅっと掴んだ。
まるで、最初からその名前が自分のものだったかのように、
小さく、けれど確かに、微笑んだ。
「……俺の勝ちだな」
「むぅ……悔しい……」
「ミヤちゃん。あなたを名前で呼べて、すっごく嬉しいわ」
エリーが優しく頭を撫でる。
「ミヤ、モンブラン食べるか?」
アスナが笑って声をかける。
「モンブランは私が食べます!」
すかさずエリーがツッコミを入れ、2人が笑い合う。
そのやり取りに、ミヤも――ほんの少しだけ、肩を揺らして笑ったように見えた。
……不思議と、静かなあたたかさに包まれていた。
目の前にある、ささやかだけど賑やかな光景。
誰かが料理して、誰かが笑って、誰かがすねて、誰かがそれをフォローする。
――子どもの頃の記憶がふとよみがえる。
朝の食卓。
笑い声。
気の抜けた会話。
両親がいて、俺がいて――なんでもない、けれど確かな幸せ。
ああ、似てる。
今、この瞬間が。
あのころの“家族”に。
俺は黙って、目の前の光景を見つめていた。
もちろん、俺は行きたくなかったが、エリーに「当然でしょ?」と一蹴されて渋々同行することに。
役場までの道中、少女は目を丸くしてあたりを見回していた。
人の多さに驚いているようだった。
それも無理はない。
この国には、ヒトだけではなく、獣人、ドワーフ、エルフなど、様々な種族が共に暮らしている。
通りにはしっぽを揺らす子ども、耳の長いエルフの老婦人、金属の腕を持つドワーフの職人たち――多様な存在が入り混じって生活しているのだ。
初代国王の方針だと聞いたことがある。
戦争を終わらせ、多種族を迎え入れ、奴隷制度を撤廃した――英雄と呼ばれる人物。
人種・出自にかかわらず共に暮らせる国をつくるため、あえて“辺境”から始めたのだと、歴史書に記されていた。
この国の自由と平和な日々が、その人の理想から始まったのだと思うと、少しだけ胸が熱くなる。
今、俺たちがこうして歩けているのも、その人のおかげなのだろう。
俺は心の中で、初代国王に礼を述べた。
──
役場に着き、事情を説明する。
やはり、少女の迷子届けは出ていなかった。
係員が申し訳なさそうな表情で言った。
「最近、隣国の動きが活発になっていましてね……。実は、あの森で“他国の者”を見たという報告が入っているんです。どうか、お気をつけて」
不安が胸に広がる。
この子は――やはりこの国の出身ではない。
それどころか、もしかすると運ばれていた“途中”だったのかもしれない。
どこから? 誰の手によって?
謎は深まるばかりだった。
帰りに立ち寄ったカフェで、エリーが突然提案した。
「この子に、名前をつけましょう!」
「……は?」
「そのままだと呼びにくいし、何より“存在”として認識してあげたいの。名前って、そういうものだと思うのよ!」
なんか立派なこと言ってるが、目がキラキラしてる。
……絶対、楽しんでるだけだろ。
「かわいい名前がいいよね? えーっと……モンブラン!」
「……今エリーが食べたいものじゃないか?」
「ふふん、バレたか。じゃあ、アスナが考えてよ」
「そうだな……“リン”とか、どうだ?」
「リン? それって、アスナのお気に入りの人形の――」
「注文しようか。ナズナ、何飲む?」
アスナが食い気味に被せてきた。声も妙に大きい。
何かを隠そうとしたのが、あからさまに分かる。
俺は反射的に返す。
「……え? あ、ああ、水でいいよ……?」
急に話を振られて戸惑ったが、やり取りの内容は聞こえてなかった。
ただ、アスナが焦ってるのだけは伝わってきた。
少女――まだ名前のないその子は、
俺のことをじっと見ていた。不器用な笑顔を浮かべながら。
……やめろ。俺を見るな。
「この子に選ばせましょう。どの名前が好きか、反応を見ればいいのよ」
「いいわね、勝負よ。ナズナ、あなたにも一つだけ考える許可をあげるわ」
なぜか俺にも参加権が与えられた。
断ろうとしたが、自然と口が動いていた。
「……ミヤ」
その瞬間、少女が俺の服をぎゅっと掴んだ。
まるで、最初からその名前が自分のものだったかのように、
小さく、けれど確かに、微笑んだ。
「……俺の勝ちだな」
「むぅ……悔しい……」
「ミヤちゃん。あなたを名前で呼べて、すっごく嬉しいわ」
エリーが優しく頭を撫でる。
「ミヤ、モンブラン食べるか?」
アスナが笑って声をかける。
「モンブランは私が食べます!」
すかさずエリーがツッコミを入れ、2人が笑い合う。
そのやり取りに、ミヤも――ほんの少しだけ、肩を揺らして笑ったように見えた。
……不思議と、静かなあたたかさに包まれていた。
目の前にある、ささやかだけど賑やかな光景。
誰かが料理して、誰かが笑って、誰かがすねて、誰かがそれをフォローする。
――子どもの頃の記憶がふとよみがえる。
朝の食卓。
笑い声。
気の抜けた会話。
両親がいて、俺がいて――なんでもない、けれど確かな幸せ。
ああ、似てる。
今、この瞬間が。
あのころの“家族”に。
俺は黙って、目の前の光景を見つめていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。
絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。
一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。
無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる