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第3話
(13)
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「ここは、気に入ったか?」
顔を間近に寄せた賢吾に囁かれ、さすがに意地は張れなかった。
「……ああ」
「この物件を見つけて、手付を打った俺に感謝しているか?」
和彦は賢吾を睨みつけながら、乱暴に答えた。
「しているっ」
このあと賢吾がなんと言うか、わかっているのだ。案の定、賢吾はニヤニヤと笑いながらこう言った。
「なら、ご褒美をくれ、先生」
「くれ、と言いながら、いつも強引にもぎ取っていくくせに――」
唇を塞がれて、和彦はあとの言葉を奪われる。痛いほど激しく唇を吸われ、あまりの勢いに和彦の後頭部がガラスにぶつかるが、一向に気にした様子もなく賢吾は本格的に和彦を貪ってくる。
押し込まれてきたふてぶてしい舌に口腔を犯されながら、両手が体に這わされ、スーツのジャケットを脱がされて、ネクタイも解かれる。スラックスからワイシャツが引っ張り出されると、片手で脇腹を撫で上げられながら、もう片方の手にワイシャツのボタンを外されていく。
「こんな、ところでっ……、何考えてるっ」
賢吾の唇が首筋に這わされる頃になって、やっと和彦は抗議の声を上げることができる。ワイシャツの前を開かれ、ごつごつとした感触のてのひらが胸元を這い回り、危うく声が上擦りそうになる。
唇を引き結んだ和彦が反射的に賢吾の肩に手をかけたそのとき、部屋の隅に立った三田村と目が合った。
今日も三田村は、絡み合う二人から視線を逸らさない。
自分たちを見つめながら、この男は何を考えているのだろうかと、純粋に和彦は知りたかった。嫌悪しているのだろうか、それとも――。
「あっ……」
ふいに胸に小さな痛みが走り、和彦は声を上げる。腰を屈めた賢吾が、和彦の胸の突起にいきなり歯を立てたのだ。だがすぐに、熱く濡れた舌にくすぐるように舐められて、心地よさが胸に広がる。
顔を上げた賢吾と唇を啄ばみ合っていると、両足の間に片手が押し付けられた。自分の足で立っていられる自信がなくなった和彦は、やむなく賢吾の首に両腕を回してしがみついた。
「乗り気だな」
「誰がっ……」
耳元で賢吾が短く笑った気配がしたあと、スラックスのベルトを緩められる。
和彦は窓に押さえつけられながら、スラックスと下着を下ろされ、下肢を剥き出しにした姿にさせられる。賢吾に首筋を舐め上げられてから、大きなてのひらに和彦のものは握り込まれた。
「あっ、あぁっ」
「やっぱり乗り気だ。ここがもう、こんなに熱くなってるぞ、先生」
握り込まれたものを手荒く扱かれて、和彦は声を洩らしながら懸命に賢吾にしがみつく。容赦なく敏感な先端も責められ、爪の先で弄られると、両足がブルブルと震えてくる。鋭い快感を与えられて腰が引けそうになるが、弱みをしっかり賢吾に握られているため、逃れることもできない。
「……こんな、ところで、しなくても――」
「ここだからいいんだ。まだなんの思い出もない場所に最初に刻み付けるのが、俺と先生の〈愛の行為〉の思い出なんて、素敵だろ」
賢吾の指に先端を擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。和彦は小刻みに体を震わせ、熱い吐息をこぼした。
「ヤクザが、似合わない言葉を、口にするな……」
「なら、ヤクザらしく言ってやろうか? ――早く突っ込ませろ。ケツに、お前が悦ぶものをたっぷり注ぎ込んでやる」
「最低だっ」
「ヤクザだからな」
間近で睨みつけると、和彦の反応が楽しくて仕方ないといった様子で賢吾が笑う。それから濃厚な口づけを与えられ、たっぷりの唾液を流し込まれた。唇の端から滴り落ちる、どちらのものとも知れない唾液をベロリと舐め取られ、そのまま和彦は賢吾と舌を絡ませる。
口づけと、絶えず与えられる敏感なものへの愛撫に、つい目を閉じて酔っていた和彦だが、ある気配を感じてハッと目を開く。いつの間にか、二人のすぐ傍らに三田村が立っていた。
困惑する和彦に対し、賢吾がこう言った。
「壁に先生をすがりつかせるのも、危なっかしいからな」
軽く突き飛ばされ、足元にスラックスと下着が留まっている和彦は簡単によろめき、そこを三田村に受け止められたうえに、向き合う形できつく抱き締められた。
「なっ――……」
「三田村、しっかり支えてやってくれ。感じ始めると、よく暴れるからな、先生は」
和彦は目を見開き、三田村を見上げる。三田村はいつものようにごっそりと感情を置き忘れたような無表情で和彦を見ていた。そのくせ、抱き締めてくる腕の力は強い。
賢吾に、スラックスと下着を片足から抜き取られ、足を広げさせられる。羞恥や屈辱を感じる間もなく、唾液で濡れた指が和彦の内奥を押し開き始めた。
「あっ……、うっ、うっ」
賢吾に背後から腰を引き寄せられ、指の侵入が深くなる。同時に賢吾のもう片方の手には、すでに反り返って硬くなっているものを握られ、緩やかに扱かれる。
「うあっ……」
信じられない状況に陥っても、体は与えられる愛撫を素直に受け入れる。しかも、総毛立つような興奮を付加してくれた。
内奥に付け根まで挿入された指がゆっくりと曲げられ、腰が震える。足に力が入らなくなっているが、三田村が支えているため座り込むこともできない。和彦は耐えきれなくなり、三田村の背に両腕を回してすがりついていた。
「はあぁっ、んっ、んあっ」
内奥から指が出し入れされ、攻めるタイミングを知り尽くしたように、ときおり浅い部分を強く指の腹で押される。
「――変わった趣向で興奮しているのか? 中がもう、ビクビクと痙攣しっぱなしだ。……三田村にしがみつくだけで、この感じっぷりだ。日ごろ、先生を大事にしている俺としては、少々妬けるな」
背後からの賢吾の言葉は、冗談のようであり、そこに本気を込めているようにも聞こえる。内奥を指で掻き回され、声を上げながら和彦は、ますますきつく三田村にしがみつくことになる。
なんとか顔を上げて確認したが、三田村はやはり無表情だった。その三田村は、絶えず賢吾の表情を見ているはずだ。今、賢吾がどんな顔をしてるのか、ひどく知りたかった。
妬けると言ったその顔は、どんな表情を浮かべているのか――。
顔を間近に寄せた賢吾に囁かれ、さすがに意地は張れなかった。
「……ああ」
「この物件を見つけて、手付を打った俺に感謝しているか?」
和彦は賢吾を睨みつけながら、乱暴に答えた。
「しているっ」
このあと賢吾がなんと言うか、わかっているのだ。案の定、賢吾はニヤニヤと笑いながらこう言った。
「なら、ご褒美をくれ、先生」
「くれ、と言いながら、いつも強引にもぎ取っていくくせに――」
唇を塞がれて、和彦はあとの言葉を奪われる。痛いほど激しく唇を吸われ、あまりの勢いに和彦の後頭部がガラスにぶつかるが、一向に気にした様子もなく賢吾は本格的に和彦を貪ってくる。
押し込まれてきたふてぶてしい舌に口腔を犯されながら、両手が体に這わされ、スーツのジャケットを脱がされて、ネクタイも解かれる。スラックスからワイシャツが引っ張り出されると、片手で脇腹を撫で上げられながら、もう片方の手にワイシャツのボタンを外されていく。
「こんな、ところでっ……、何考えてるっ」
賢吾の唇が首筋に這わされる頃になって、やっと和彦は抗議の声を上げることができる。ワイシャツの前を開かれ、ごつごつとした感触のてのひらが胸元を這い回り、危うく声が上擦りそうになる。
唇を引き結んだ和彦が反射的に賢吾の肩に手をかけたそのとき、部屋の隅に立った三田村と目が合った。
今日も三田村は、絡み合う二人から視線を逸らさない。
自分たちを見つめながら、この男は何を考えているのだろうかと、純粋に和彦は知りたかった。嫌悪しているのだろうか、それとも――。
「あっ……」
ふいに胸に小さな痛みが走り、和彦は声を上げる。腰を屈めた賢吾が、和彦の胸の突起にいきなり歯を立てたのだ。だがすぐに、熱く濡れた舌にくすぐるように舐められて、心地よさが胸に広がる。
顔を上げた賢吾と唇を啄ばみ合っていると、両足の間に片手が押し付けられた。自分の足で立っていられる自信がなくなった和彦は、やむなく賢吾の首に両腕を回してしがみついた。
「乗り気だな」
「誰がっ……」
耳元で賢吾が短く笑った気配がしたあと、スラックスのベルトを緩められる。
和彦は窓に押さえつけられながら、スラックスと下着を下ろされ、下肢を剥き出しにした姿にさせられる。賢吾に首筋を舐め上げられてから、大きなてのひらに和彦のものは握り込まれた。
「あっ、あぁっ」
「やっぱり乗り気だ。ここがもう、こんなに熱くなってるぞ、先生」
握り込まれたものを手荒く扱かれて、和彦は声を洩らしながら懸命に賢吾にしがみつく。容赦なく敏感な先端も責められ、爪の先で弄られると、両足がブルブルと震えてくる。鋭い快感を与えられて腰が引けそうになるが、弱みをしっかり賢吾に握られているため、逃れることもできない。
「……こんな、ところで、しなくても――」
「ここだからいいんだ。まだなんの思い出もない場所に最初に刻み付けるのが、俺と先生の〈愛の行為〉の思い出なんて、素敵だろ」
賢吾の指に先端を擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。和彦は小刻みに体を震わせ、熱い吐息をこぼした。
「ヤクザが、似合わない言葉を、口にするな……」
「なら、ヤクザらしく言ってやろうか? ――早く突っ込ませろ。ケツに、お前が悦ぶものをたっぷり注ぎ込んでやる」
「最低だっ」
「ヤクザだからな」
間近で睨みつけると、和彦の反応が楽しくて仕方ないといった様子で賢吾が笑う。それから濃厚な口づけを与えられ、たっぷりの唾液を流し込まれた。唇の端から滴り落ちる、どちらのものとも知れない唾液をベロリと舐め取られ、そのまま和彦は賢吾と舌を絡ませる。
口づけと、絶えず与えられる敏感なものへの愛撫に、つい目を閉じて酔っていた和彦だが、ある気配を感じてハッと目を開く。いつの間にか、二人のすぐ傍らに三田村が立っていた。
困惑する和彦に対し、賢吾がこう言った。
「壁に先生をすがりつかせるのも、危なっかしいからな」
軽く突き飛ばされ、足元にスラックスと下着が留まっている和彦は簡単によろめき、そこを三田村に受け止められたうえに、向き合う形できつく抱き締められた。
「なっ――……」
「三田村、しっかり支えてやってくれ。感じ始めると、よく暴れるからな、先生は」
和彦は目を見開き、三田村を見上げる。三田村はいつものようにごっそりと感情を置き忘れたような無表情で和彦を見ていた。そのくせ、抱き締めてくる腕の力は強い。
賢吾に、スラックスと下着を片足から抜き取られ、足を広げさせられる。羞恥や屈辱を感じる間もなく、唾液で濡れた指が和彦の内奥を押し開き始めた。
「あっ……、うっ、うっ」
賢吾に背後から腰を引き寄せられ、指の侵入が深くなる。同時に賢吾のもう片方の手には、すでに反り返って硬くなっているものを握られ、緩やかに扱かれる。
「うあっ……」
信じられない状況に陥っても、体は与えられる愛撫を素直に受け入れる。しかも、総毛立つような興奮を付加してくれた。
内奥に付け根まで挿入された指がゆっくりと曲げられ、腰が震える。足に力が入らなくなっているが、三田村が支えているため座り込むこともできない。和彦は耐えきれなくなり、三田村の背に両腕を回してすがりついていた。
「はあぁっ、んっ、んあっ」
内奥から指が出し入れされ、攻めるタイミングを知り尽くしたように、ときおり浅い部分を強く指の腹で押される。
「――変わった趣向で興奮しているのか? 中がもう、ビクビクと痙攣しっぱなしだ。……三田村にしがみつくだけで、この感じっぷりだ。日ごろ、先生を大事にしている俺としては、少々妬けるな」
背後からの賢吾の言葉は、冗談のようであり、そこに本気を込めているようにも聞こえる。内奥を指で掻き回され、声を上げながら和彦は、ますますきつく三田村にしがみつくことになる。
なんとか顔を上げて確認したが、三田村はやはり無表情だった。その三田村は、絶えず賢吾の表情を見ているはずだ。今、賢吾がどんな顔をしてるのか、ひどく知りたかった。
妬けると言ったその顔は、どんな表情を浮かべているのか――。
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