血と束縛と

北川とも

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第3話

(14)

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 和彦は、賢吾が自分に持っているかもしれない執着心を想像するだけで、ゾクゾクするような興奮を覚え、身震いする。三田村の腕がその震えすら受け止めてしまうことにも、快感めいたものを覚える。
 賢吾の手が尻から腰を撫で回し、さらに上へと移動して胸元に這わされる。興奮のため硬く凝ったままの突起を抓るように刺激され、引っ張られる。和彦は小さく悦びの声を上げ、三田村の首筋に顔を寄せた。意図しないまま熱い吐息をこぼすと、三田村の肩が微かに揺れる。
 ふいに賢吾に腰を抱え直され、和彦のものは掴まれる。
「まだイかせない。いつもは先にたっぷりイかせてやるのが俺のやり方だが、今日は違う。俺は甘やかすばかりじゃないぞ、先生」
 笑いを含んだ声でそう言った賢吾に、背後からあごを掴まれて顔を上げさせられ、熱い舌で耳を舐められる。
「くうっ……」
 おぞましさと紙一重の快感に、和彦が小さく声を洩らすと、その瞬間の顔を間近から三田村に見つめられた。数秒ほど見つめ合ったが、すぐに和彦は三田村にしがみつき、肩に顔を埋める。賢吾が侵入を始めたのだ。
「ううっ、うっ、うあっ」
 乱暴に腰を引き寄せられるたびに、三田村から手が離れそうになり、和彦は手繰り寄せるように三田村の肩に掴まる。それに応えるように三田村もまた、和彦をしっかりと抱き締めてくれる。
「……自分のオンナが、うちの若い衆と抱き合っている姿を見ながら、その尻を犯すってのは、初めての趣向だが――興奮する。息子とオンナを共有するぐらいにな」
 そんなことを言いながら賢吾に、内奥に太い部分を呑み込まされる。和彦は荒い呼吸を繰り返しながら、背後から押し寄せてくる衝撃をなんとか耐える。
 賢吾は緩やかに腰を揺らしながら、苦しさに呻く和彦に愛撫を与え始めた。
「んうっ」
 反り返ったまま震える和彦がてのひらに包み込まれ、柔らかく扱かれる。
「――三田村、先生の髪を撫でてやれ。今なら、おもしろいほど感じるぞ」
 賢吾は、和彦の体の反応を知り抜いていた。従順に命令に従った三田村にそっと髪を撫でられた瞬間、和彦は鳥肌が立つような快美さに全身を貫かれた。
「感じているな。中がいやらしく蠢いている」
 残酷なほど的確に動く賢吾の指に和彦のものはいたぶられ、極めそうになると根元をきつく指の輪で締め付けられて、太いもので内奥を容赦なく犯される。
「あうっ、あうっ、んっ、あんっ――」
 和彦が苦しがっていると思ったのか、三田村に何度も髪を撫でられ、付け根を刺激するように梳かれる。絶妙のタイミングで、根元までしっかり埋め込まれた賢吾の肉の凶器に、内奥深くを抉るように突かれていた。
「ひっ……、あっ、はあぁ……」
「もう限界か?」
 はしたなく透明なしずくを滴らせている先端を優しく指の腹で撫でながら、賢吾に問われる。愉悦に喘ぐ和彦は、一片の悔しさを噛み締めて頷いた。
 だが次の瞬間、自分を貫いているのはヤクザなのだと、嫌というほど思い知らされる。
「――イかせてもらいたかったら、うちの組の加入書に名前を書くと誓え。用紙と万年筆やここに持ってきている。『書く』と答えれば、お前の望み通りにしてやる」
 再び、限界を迎えかけている和彦のものを指で縛めて、賢吾が大胆に腰を使う。内奥を熱いもので強く擦り上げられることが、たまらなく気持ちいい。和彦は顔を上げて悦びの声を上げる。
「さあ、『書く』と言え」
「あっ、あっ……、ここを見てから、ぼくに、答えを出せとっ……。これは、無理強いと同じ、だ ――」
 必死の和彦の抗弁を、賢吾は鼻で笑った。
「懲りないな、先生。ヤクザの言葉を何度信じるんだ」
 腰を引き寄せられ、強く突き上げられる。全身が痺れるほどの快感を送り込まれながら、決定的な絶頂感はやってこない。賢吾の指に塞き止められているせいだ。
 助けを求めるように三田村を見つめると、抱き締めてくる腕の力が強くなる。息も止まりそうなきつい抱擁に、和彦は甘い眩暈を覚えた。
「はっ……」
 内奥で賢吾のものがドクンと力強く脈打ち、震える。賢吾が獣のように低い唸り声を洩らし、熱い精を放った。和彦は腰を震わせ、歓喜しながら賢吾のものをきつく締め付け、放たれた精をすべて自分の内で受け止める。
「――書くか?」
 荒い息を吐きながらの賢吾の言葉に、逆らう術もなく頷いていた。
「いい子だ。それでこそ、俺のオンナだ」
 そう言って賢吾が、内奥から自分のものをゆっくりと引き抜いていく。和彦はうろたえ、なんとか振り返ろうとするが、体内に留まり続ける快感のせいで、自由が利かない。少しでも動けば、せっかく育てた快感が逃げていってしまいそうだ。
「しっかりケツを締めてないと、溢れ出すぞ」
「な、んで……」
「今言っただろ。ヤクザの言葉を何度信じるんだって。――昨日事務所から逃げ出したお仕置きだ。ケジメは、つけておかないとな」
 怒鳴りたいのに、言葉が出てこない。これがこの男のやり方なのだと、一瞬にして体に思い知らされたからだ。そして、自分が悪かったのだとすら思ってしまう。
 短期間で、見事にヤクザに調教されていた。
 名残惜しそうに和彦の高ぶりを撫でてから、スッと賢吾が手を離す。決定的な瞬間を逃してしまい、和彦の欲望は熱く震えるばかりだ。
「三田村、先生の後始末を手伝ってやってから、送り届けてやれ。もちろん、うちの加入書を書かせろ。俺は、総和会に顔を出してくる。もう一度藤倉を呼ぶ段取りをつけないとな。後日、先生にはにっこり笑って、長嶺組の人間ですと名乗ってもらって、藤倉の苦虫を噛み潰した顔を拝んでやる。先生が総和会の加入書に名前を書くなんざ、そのついでだ」
 好き勝手言ってから賢吾は部屋を出ていき、あとには和彦と三田村の二人が残される。この状況にも、少しぐらい免疫ができてもいいようなものだが、和彦は羞恥と屈辱で体を震わせる。
「――先生、後始末をしよう」
 落ち着いた声で三田村が言い、慎重に体を離そうとする。和彦は必死に告げた。
「自分で、するっ……。窓のほうを向いていてくれ」
 三田村は何も言わず、和彦の手に自分のハンカチを握らせて、窓のほうを向く。
 いまさら三田村に対して、賢吾との情交の後始末を任せることを恥らっても仕方ないのだ。この男は、もう何度も和彦の体にそのために触れている。機械的な手つきは、和彦のささやかなプライドを守ってくれさえする。
 なのに今は、耐えられなかった。きつく抱き締めてくる腕の強さや、髪を撫でてくる手の優しさを知ってしまうと――。
 こちらに背を向けている三田村に対して、さらに和彦も背を向けて自分の下肢の汚れを簡単に拭う。とりあえず、マンションに帰りつくまで不快さに耐えられればいい。
 片足だけ脱がされていたスラックスと下着をなんとか穿いたが、それだけで足元がふらつき、息が乱れる。解放されていない欲望が出口を求め、体内で暴れている。
「――先生」
 すべてを察したようなタイミングで三田村に呼ばれる。和彦が振り返ると、いつの間にか三田村がこちらを見ていた。
「ひどい格好だ」
 そう言って片手を差し出され、引き寄せられるように和彦はその手を取っていた。ぐいっと強い力で引っ張られ、三田村の胸に受け止められた。
「俺にしてもらいたいことは?」
 ハスキーな声をさらに掠れさせて三田村に囁かれる。和彦は目を見開いて、無表情の三田村を凝視してから、こう告げた。
「……ぼくの、後始末を……手伝ってくれ」

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