血と束縛と

北川とも

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第4話

(5)

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 すっかり不精が身につき、最近の和彦はバスローブをパジャマ代わりにして寝ている。寝返りを打っているうちにはだけて、脱げてしまうことが大半だが、広いベッドで手足を思いきり伸ばせる心地よさに裸という解放感も加わり、到底パジャマを着る気にはなれない。
 もっとも、このベッドを選んだ相手は、和彦が一人寝で満足することにいい顔はしないだろう。
 熟睡というほどではなく、だが目を開けられるほど意識が覚醒しているわけではない、非常に曖昧で、だが、いつまでもこの状態でいたくなるようなまどろみに、和彦はどっぷりと浸っていた。
 そこに、さらに心地よさを与えるように髪に触れられた。まるで愛撫するように、髪の付け根から優しく、丁寧に。
 体にかけたブランケットが除けられ、エアコンの柔らかな風が控えめに体を撫でていく。
 ぼんやりとした意識ながら、さすがに和彦が異変を感じたとき、ベッドが微かに揺れて、和彦以外の誰かの重みも受け止めたことを知らせた。さらに、覆い被さられ、真上から覗き込まれている気配も感じる。
 飛び起きて身構えても不思議ではない状況だが、そんな危機感は和彦の中では湧き起こらない。なんといってもこの部屋にはまだ、賢吾の〈忠実な番犬〉が留まっているはずだ。帰っていいと和彦が言っても、その和彦が眠るまで、自分の務めを果たすような男なのだ。だから、今もまだ――。
 大きく温かな手に頬を撫でられ、指先で唇をくすぐられる。それから、半ば脱げかけたバスローブの前を完全に開かれていた。覆い被さっている〈誰か〉に、体のすべてを曝け出すことになる。
 ゆっくりと押し寄せてこようとする羞恥や戸惑いより先に、相手は和彦にさらなる心地よさを与え始める。腹部から胸元にかけて、慰撫するようにてのひらを這わせてきたのだ。
 違和感なく馴染む乾いた手の感触に、完全に警戒心を奪われる。それどころか和彦は、官能を刺激されていた。
「んっ……」
 期待に凝っていた胸の突起をてのひらで擦り上げられ、思わず息を吐き出す。一瞬、手は止まりかけたが、すぐに何事もなかったように動き、指で軽く摘まみ上げられる。それどころか、熱い感触が胸元にかかったかと思うと、指で弄られていた突起をさらに熱く湿った感触に包まれた。
 胸の突起を口腔に含まれたのだと察したときには、和彦は小さく喘ぎをこぼして顔を背ける。眠気で曖昧な意識に、与えられる感触は快美で、甘美だった。
 本当は目を覚ますべきなのに、和彦の本能は、完全に覚醒することを拒んでいた。はっきりと現状を認識することで、今与えられているものを失いたくないと思っているのだ。このままの状態なら、欲しいものは与えられるはずだ。
 和彦が目を開けないとわかったのか、相手の行為がひたむきさと熱を帯びる。
 左右の胸の突起を貪るように愛撫されながら、片足ずつ抱えられて左右に開かれる。当然のように大きな手は今度は、和彦の敏感なものを握り締めてきた。
「あっ、あっ……」
 はっきりと声を上げ、片手で手繰り寄せたシーツを握り締める。和彦のものは緩やかに上下に扱かれていた。性急でも、焦らすわけでもなく、淡々と快感を送り込んでくるのだ。
 最初は身を強張らせて耐えていた和彦だが、括れを強く擦り上げられる一方で、先端をくすぐるように撫でられる頃になると、腰が揺れるのを止められなくなっていた。
「くっ……う、い、ぃ――」
 これは淫らな夢だと思い込めと、頭のどこかで声がした。そうすれば、どれだけ恥知らずな反応をしても、〈誰か〉に対して羞恥しなくて済む。それどころか相手は、和彦が乱れることを望んでいるはずだと、自分勝手な想像までしてしまう。
 しかし、そう思わせるだけの真摯さが、与えられる愛撫にはあった。
 激しさとは無縁の、穏やかで心地いい愛撫を絶えず与えられ、和彦は目を閉じたまま、次第に乱れ始める。
 胸元や腹部、腿や膝に丁寧に唇が押し当てられ、熱い舌で舐め上げられる間に、和彦はすっかり、次にどの部分に愛撫が与えられるのか、待ちかねるようになっていた。
 反り返り、悦びの涙で濡れそぼったものを軽く扱かれてから、両足を抱え上げられて、大きく左右に開かれる。このとき危うく、目を開けて、〈ある人物〉の名を呼びそうになったが、その前に、熱く濡れた舌に和彦のものは舐め上げられていた。
「うああっ」
 抑えきれない声を上げて、和彦は仰け反る。歓喜に震えるものは、相手の口腔深くに含まれ、湿った粘膜に包まれながら吸引される。
「はっ……、あっ、あっ……」
 括れを唇で締め付けられながら、一層歓喜のしずくを溢れさせる先端を舌で攻め立てられると、満足に息もできないほど、気持ちよかった。
 何度となく賢吾と千尋と体を重ねているが、和彦は自分からこの愛撫を求めたことはない。感じすぎて乱れる自分を見られたくないからだ。裏を返せば、こうされるのが好きだということだ。
「く、うっ、あっ……ん、いっ――、あっ、やめ……」
 口腔深くに呑み込まれたかと思うと、ゆっくりと口腔から出され、また呑み込まれていく。ほんの数回、そうされただけで、絶頂に追い上げられていた。
「ふっ……」
 相手の口腔に精を迸らせると、当然のように受け止められ、嚥下される。脈打つ和彦のものは舌で丹念に舐め上げられ、また口腔深くまで呑み込まれる。再び和彦の欲情を促すように。
 すべての欲望を飲み干されてしまいそうな甘美な恐怖を覚え、小さく身震いする。だが、抗えなかった。
 どうせこれは、自分が見ている都合のいい夢だ。しかも、淫夢だ。だったら、どれだけよがり狂おうが、誰にも遠慮はいらないと和彦は思った。

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