54 / 1,289
第4話
(5)
しおりを挟むすっかり不精が身につき、最近の和彦はバスローブをパジャマ代わりにして寝ている。寝返りを打っているうちにはだけて、脱げてしまうことが大半だが、広いベッドで手足を思いきり伸ばせる心地よさに裸という解放感も加わり、到底パジャマを着る気にはなれない。
もっとも、このベッドを選んだ相手は、和彦が一人寝で満足することにいい顔はしないだろう。
熟睡というほどではなく、だが目を開けられるほど意識が覚醒しているわけではない、非常に曖昧で、だが、いつまでもこの状態でいたくなるようなまどろみに、和彦はどっぷりと浸っていた。
そこに、さらに心地よさを与えるように髪に触れられた。まるで愛撫するように、髪の付け根から優しく、丁寧に。
体にかけたブランケットが除けられ、エアコンの柔らかな風が控えめに体を撫でていく。
ぼんやりとした意識ながら、さすがに和彦が異変を感じたとき、ベッドが微かに揺れて、和彦以外の誰かの重みも受け止めたことを知らせた。さらに、覆い被さられ、真上から覗き込まれている気配も感じる。
飛び起きて身構えても不思議ではない状況だが、そんな危機感は和彦の中では湧き起こらない。なんといってもこの部屋にはまだ、賢吾の〈忠実な番犬〉が留まっているはずだ。帰っていいと和彦が言っても、その和彦が眠るまで、自分の務めを果たすような男なのだ。だから、今もまだ――。
大きく温かな手に頬を撫でられ、指先で唇をくすぐられる。それから、半ば脱げかけたバスローブの前を完全に開かれていた。覆い被さっている〈誰か〉に、体のすべてを曝け出すことになる。
ゆっくりと押し寄せてこようとする羞恥や戸惑いより先に、相手は和彦にさらなる心地よさを与え始める。腹部から胸元にかけて、慰撫するようにてのひらを這わせてきたのだ。
違和感なく馴染む乾いた手の感触に、完全に警戒心を奪われる。それどころか和彦は、官能を刺激されていた。
「んっ……」
期待に凝っていた胸の突起をてのひらで擦り上げられ、思わず息を吐き出す。一瞬、手は止まりかけたが、すぐに何事もなかったように動き、指で軽く摘まみ上げられる。それどころか、熱い感触が胸元にかかったかと思うと、指で弄られていた突起をさらに熱く湿った感触に包まれた。
胸の突起を口腔に含まれたのだと察したときには、和彦は小さく喘ぎをこぼして顔を背ける。眠気で曖昧な意識に、与えられる感触は快美で、甘美だった。
本当は目を覚ますべきなのに、和彦の本能は、完全に覚醒することを拒んでいた。はっきりと現状を認識することで、今与えられているものを失いたくないと思っているのだ。このままの状態なら、欲しいものは与えられるはずだ。
和彦が目を開けないとわかったのか、相手の行為がひたむきさと熱を帯びる。
左右の胸の突起を貪るように愛撫されながら、片足ずつ抱えられて左右に開かれる。当然のように大きな手は今度は、和彦の敏感なものを握り締めてきた。
「あっ、あっ……」
はっきりと声を上げ、片手で手繰り寄せたシーツを握り締める。和彦のものは緩やかに上下に扱かれていた。性急でも、焦らすわけでもなく、淡々と快感を送り込んでくるのだ。
最初は身を強張らせて耐えていた和彦だが、括れを強く擦り上げられる一方で、先端をくすぐるように撫でられる頃になると、腰が揺れるのを止められなくなっていた。
「くっ……う、い、ぃ――」
これは淫らな夢だと思い込めと、頭のどこかで声がした。そうすれば、どれだけ恥知らずな反応をしても、〈誰か〉に対して羞恥しなくて済む。それどころか相手は、和彦が乱れることを望んでいるはずだと、自分勝手な想像までしてしまう。
しかし、そう思わせるだけの真摯さが、与えられる愛撫にはあった。
激しさとは無縁の、穏やかで心地いい愛撫を絶えず与えられ、和彦は目を閉じたまま、次第に乱れ始める。
胸元や腹部、腿や膝に丁寧に唇が押し当てられ、熱い舌で舐め上げられる間に、和彦はすっかり、次にどの部分に愛撫が与えられるのか、待ちかねるようになっていた。
反り返り、悦びの涙で濡れそぼったものを軽く扱かれてから、両足を抱え上げられて、大きく左右に開かれる。このとき危うく、目を開けて、〈ある人物〉の名を呼びそうになったが、その前に、熱く濡れた舌に和彦のものは舐め上げられていた。
「うああっ」
抑えきれない声を上げて、和彦は仰け反る。歓喜に震えるものは、相手の口腔深くに含まれ、湿った粘膜に包まれながら吸引される。
「はっ……、あっ、あっ……」
括れを唇で締め付けられながら、一層歓喜のしずくを溢れさせる先端を舌で攻め立てられると、満足に息もできないほど、気持ちよかった。
何度となく賢吾と千尋と体を重ねているが、和彦は自分からこの愛撫を求めたことはない。感じすぎて乱れる自分を見られたくないからだ。裏を返せば、こうされるのが好きだということだ。
「く、うっ、あっ……ん、いっ――、あっ、やめ……」
口腔深くに呑み込まれたかと思うと、ゆっくりと口腔から出され、また呑み込まれていく。ほんの数回、そうされただけで、絶頂に追い上げられていた。
「ふっ……」
相手の口腔に精を迸らせると、当然のように受け止められ、嚥下される。脈打つ和彦のものは舌で丹念に舐め上げられ、また口腔深くまで呑み込まれる。再び和彦の欲情を促すように。
すべての欲望を飲み干されてしまいそうな甘美な恐怖を覚え、小さく身震いする。だが、抗えなかった。
どうせこれは、自分が見ている都合のいい夢だ。しかも、淫夢だ。だったら、どれだけよがり狂おうが、誰にも遠慮はいらないと和彦は思った。
115
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
オム・ファタールと無いものねだり
狗空堂
BL
この世の全てが手に入る者たちが、永遠に手に入れられないたった一つのものの話。
前野の血を引く人間は、人を良くも悪くもぐちゃぐちゃにする。その血の呪いのせいで、後田宗介の主人兼親友である前野篤志はトラブルに巻き込まれてばかり。
この度編入した金持ち全寮制の男子校では、学園を牽引する眉目秀麗で優秀な生徒ばかり惹きつけて学内風紀を乱す日々。どうやら篤志の一挙手一投足は『大衆に求められすぎる』天才たちの心に刺さって抜けないらしい。
天才たちは蟻の如く篤志に群がるし、それを快く思わない天才たちのファンからはやっかみを買うし、でも主人は毎日能天気だし。
そんな主人を全てのものから護る為、今日も宗介は全方向に噛み付きながら学生生活を奔走する。
これは、天才の影に隠れたとるに足らない凡人が、凡人なりに走り続けて少しずつ認められ愛されていく話。
2025.10.30 第13回BL大賞に参加しています。応援していただけると嬉しいです。
※王道学園の脇役受け。
※主人公は従者の方です。
※序盤は主人の方が大勢に好かれています。
※嫌われ(?)→愛されですが、全員が従者を愛すわけではありません。
※呪いとかが平然と存在しているので若干ファンタジーです。
※pixivでも掲載しています。
色々と初めてなので、至らぬ点がありましたらご指摘いただけますと幸いです。
いいねやコメントは頂けましたら嬉しくて踊ります。
帝は傾国の元帥を寵愛する
tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。
舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。
誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。
だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。
それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。
互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。
誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。
やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。
華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。
冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。
【第13回BL大賞にエントリー中】
投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる