血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
380 / 1,289
第18話

(19)

しおりを挟む
 ここで、和彦の体をまさぐっていた手がふっと離れ、布越しに見ていた影が大きく動く。何をしているのかと思って目を凝らしていると、いきなり視界がいくらか明るくなった。どうやら、布団の傍らに置いてあるライトをつけたようだ。ただ、明るさを最小に絞ってあるせいか、顔にかけられた布の色すら判別できない。
 それでも相手にとっては、和彦の体の反応をつぶさに観察するには困らない明るさなのだろう。
 身を起こした和彦の欲望の輪郭を指先でなぞったかと思うと、先端を擦り上げられる。このときの滑る感触で、自分がすでに先端を濡らしていることを知り、和彦は体を熱くする。そんな和彦を煽るように、さらに愛撫を与えられる。弄んでいるとも、可愛がっているともいえる手つきで。
 否応なく和彦の呼吸は乱れ、意思に反して腰が揺れる。すると、相手の興味は別の場所に移ったのか、片足を抱え上げられた。秘裂をくすぐるように指先が行き来し、内奥の入り口を探り当てられる。
 さすがに飛び起きようとした和彦だが、相手のほうが上手だった。秘裂に、トロリと何かが垂らされ、滑りを帯びた感触に和彦は身をすくめて動けなくなる。一瞬、唾液かとも思ったが、塗り込めるように秘裂に指を滑らされると、それが潤滑剤だとわかる。
「ふっ……」
 予期した通り、内奥の入り口をこじ開けるようにして指が入り込んできた。異物感に呻き声を洩らしていると、それに重なるように、内奥の襞と粘膜に潤滑剤を擦り込んでいく湿った音が重なる。
 ねっとりと内奥を撫で回されてから、指が引き抜かれる。和彦は息を喘がせながら、同時に内奥の入り口も喘ぐようにひくつかせる。こんな状況にありながらも和彦の体は、与えられる愛撫に順応し、受け入れつつあった。
 虐げられ、痛みを与えられれば、悲鳴ぐらい簡単に上げられるのだが、相手からは一切加虐的なものは感じられない。冷静に的確に和彦の体を探り、官能を引き出していくだけだ。
 慎重に内奥を解されながら、施される潤滑剤の量が増やされる。比例するように、指が出し入れされるたびに響く湿った音は大きくなり、淫靡さを増していく。同時に、否応なく内奥から快感を引き出されていた。
 付け根まで挿入された指が、内奥深くで淫らに蠢く。繊細な動きに、たまらず和彦は細い声を上げていた。
「はっ、あっ、あぁっ――」
 襞を掻かれ、粘膜を撫で上げられると、狂おしいほどの肉の愉悦が全身を巡る。
 溢れ出るほどたっぷりの潤滑剤を内奥に施される頃には、敷布団の上で身悶え続けた和彦は全身を汗で濡らし、浅く速かった呼吸は、大きく深いものへと変わっていた。いつの間にか、両手首を縛っていた紐も解けている。だが、相手は紐を結び直そうとはしなかった。必要ないと知っているのだ。
 和彦は、布越しにぼんやりと透ける相手の姿を見つめる。両手が自由な今、布を取って相手の顔を確認するのは容易だ。しかし、手を持ち上げることはできない。
 どれだけ快感に思考が侵されようが、それだけはやってはいけないと本能が制止していた。なんといっても和彦は、自分が逆らえない力に対して巧く身を委ねることで、今いる世界を生きている。相手も、和彦がどんな判断をするか計算の上で、こんなことをしている。
 目的を持って――。
 両足を抱え上げられ、大きく左右に開かれる。和彦は両手でしっかりと、敷布団の端を握り締めていた。
 たっぷり与えられた潤滑剤と刺激で、はしたないほど綻んだ内奥の入り口に熱い感触が押し当てられる。嫌悪とも恐怖ともつかない感情に突き動かされ、逃げ出したくなった。
 その瞬間、この家の主に言われたことが脳裏を過る。掛け軸の若武者が添い寝をしてくれるかもしれない、という言葉だ。今にして、あれが冗談ではなかったのだと知る。
 和彦が布越しに見ているのは、胸をざわつかせるほど美しい若武者の姿だ。
 そう思い込むことを、和彦は求められているのだ。
 言葉の深意が、この異常な事態を受け入れさせる気遣いのためなのか、従順さを試すためなのか、それは知りようがないが、なんにしても和彦の体はあさましいほど反応してしまう。
 火がついたように激しい欲情が燃え上がり、煩悶する。そんな和彦の体を敷布団の上に縫い止めるように、潤滑剤で潤んだ内奥を押し開かれた。
「うっ、ううっ――……」
 感じやすくなっている襞と粘膜を強く擦り上げられ、あまりの刺激に一瞬和彦の意識が遠のく。我に返ったとき、下腹部が濡れている感触に気づいた。絶頂に達し、精を噴き上げたのだ。
 荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、完全に相手に支配される。内奥深くに欲望を呑み込まされてしっかりと繋がっていた。
 不思議なほど、組み敷かれて犯されているという意識は湧かなかった。恐怖や羞恥といった感情も薄れ、夢の中で交わっているような現実感のなさだ。そのくせ、体ははっきりと相手の欲望を感じている。
 同時に耳は、乱れることのない、深く落ち着いた息遣いを聞いていた。ただ、相手は一切言葉を発しなかった。和彦に、必要以上の情報を与える気はないらしい。
「あっ……ん」
 内奥にしっかりと埋め込まれ、興奮による淫らな蠢動を堪能するように動かなかった欲望が、ふいに揺れる。完全に虚をつかれた和彦は、上擦った声を上げて身悶える。
 誤魔化しようがなかった。正体の知れない相手に貫かれて、和彦の体は快感を貪り始めていた。
 ゆっくりと内奥を突き上げられながら、和彦は布越しに相手を見つめる。目を凝らせば、相手の顔を捉えられるぐらい距離が近い。和彦はそこに若武者の美しい顔を重ね、決して相手にしがみつかないよう、必死に頭上の枕を握り締める。
 繋がってはいるものの、触れ合うことのない交わりは、和彦から時間の感覚を奪っていた。
 激しさとは無縁の律動を、丹念にゆっくりと繰り返されたかと思うと、ふいに動きが止まる。その代わり、和彦の体に両てのひらが這わされ、じっくりと撫で回されるのだ。よがり狂って甲高い嬌声を上げるほどではないが、律動と愛撫を交互に与えられるのは、拷問に近い。
 和彦はずっと息を喘がせていた。何時間も甘い責め苦を与えられているような錯覚を覚え、悦楽に溺れていると思った。少し前に、二度目の絶頂を迎えて精を放ったというのに、もう和彦のものは身を起こし、相手の手に弄ばれている。
「……も、う……、許して、ください――」
 たまらず掠れた声で訴えると、内奥深くを小刻みに突かれ、腰から背筋へと痺れるような快感が這い上がる。
 背を反らして深い吐息を洩らした和彦は、はっきりと感じていた。相手の精が、内奥に注ぎ込まれる感触を。
 その瞬間、恍惚とするほどの絶頂感が、和彦の体を駆け抜けた。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ
BL
※3部をもちまして、休載にはいります※ 「この国では、星神の力を戴いた者が、唯一の王となる」 王に選ばれ、商人の青年は男妃となった。 美しくも孤独な異民族の男妃アリム。 彼を迎えた若き王ラシードは、冷徹な支配者か、それとも……。 王の寵愛を受けながらも、 その青い瞳は、周囲から「劣った血の印」とさげすまれる。 身分、出自、信仰── すべてが重くのしかかる王宮で、 ひとり誇りを失わずに立つ青年の、静かな闘いの物語。

帝は傾国の元帥を寵愛する

tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。 舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。 誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。 だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。 それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。 互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。 誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。 やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。 華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。 冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。 【第13回BL大賞にエントリー中】 投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

処理中です...