血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
423 / 1,289
第20話

(12)

しおりを挟む
「……俺はいままで、屑以下の最低な奴らと会ってきたが、お前はその誰とも違う。唾を吐きかけたくなるほど忌々しくて憎たらしい。ズルくてしたたかな嫌な人間だ」
「蛇蝎の片割れに、そこまで言葉を費やして貶されると、かえって嬉しいな」
 皮肉半分、本音半分でそう洩らすと、和彦はミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。このとき首筋を、髪先から落ちた水のしずくが伝い落ちる。シャワーを浴びたあと、よく髪を拭かなかったせいだ。
 鷹津の奢りで食事をしたあと、〈美味い餌〉の前払いを改めて求められ、和彦は拒まなかった。鷹津には、働きに対する報酬だけでなく、里見の件に関して口止め料も払わざるをえなくなったのだ。鷹津をどこまで信用していいかはわからないが、和彦が自分の事情に巻き込めるのはこの男しかいない。
「今になって初めての男を調べさせるということは、会う気なのか?」
「里見さんを使って、佐伯家がぼくのことを調べようとしている。だったらぼくは、里見さんを使って佐伯家の動向を探るだけだ。ただそのためには、あの人がいまだに信頼に値する人間なのか、それが知りたい」
「妙に色気のある目をして、言うことはえげつない奴だ」
「あんたの品性に合わせているんだ」
 もう一度鼻先で笑った鷹津が立ち上がる。
「人に頼み事をしておきながら、よくそんな口が聞けるな」
「――……あんたに餌は与えるんだ。口の聞き方ぐらい大目に見ろ」
 鷹津にきつい眼差しを向けながらそう言い放った和彦は、ペットボトルの水を飲み干す。空になったペットボトルを鷹津が床に放り出し、そのまま和彦はベッドの上に押し倒された。
 のしかかってきた鷹津にバスローブの紐を解かれ、前を開かれる。じっと見下ろしてくる鷹津の眼差しの強さに、堪らず和彦は顔を背けた。鷹津の舌にベロリと首筋を舐め上げられ、嫌悪感に鳥肌が立ちそうになるが、それも一瞬だ。腰からじわじわと疼きが這い上がってくる。
「うっ……」
 胸元に手が這わされ、すでに硬く凝っている突起を指で転がすように刺激されたかと思うと、いきなり鷹津の熱い口腔に含まれた。まるで和彦に聞かせるように濡れた音をさせながら、激しく吸われる。半ば反射的に和彦は鷹津の頭を押し退けようとしたが、それが気に食わなかったのか、突起に歯を立てられた。
 和彦は痛みに身をすくめ、息を詰める。その間に鷹津に強引に両足を開かされ、タオルを落とした腰が割り込まされてきた。押し当てられてきた鷹津のものは、すでに熱く高ぶっている。和彦は片手を取られると、その欲望を握らされた。
「おい、俺を見ろ」
 傲慢に命令され、ずっと顔を背けたままだった和彦は、仕方なく鷹津を見上げる。すかさず唇を塞がれ、噛み付くような口づけを与えられた。和彦の中で、嫌悪感が完全に肉の疼きへと変わった瞬間だった。
 口腔に捻じ込まれた舌に粘膜を舐め回され、たっぷりの唾液を流し込まれる。鷹津らしい粗野で下品な口づけに、和彦は舌を絡めることで応え、微かに喉を鳴らして唾液を飲む。鷹津は恐ろしいほど興奮していた。覆い被さってくる体は熱くなり、筋肉が張り詰めている。力ずくで和彦を犯したいところを、ギリギリで抑えている感じだ。
 鷹津の欲望は、和彦の手の中で力強さを増している。〈これ〉を愛しいとは欠片ほども思わないが――欲しいとは思った。
 このとき自分がどんな表情をしたのか、和彦に自覚はない。ただ、唇を離した鷹津が、瞬きもせず凝視してきた。
「……初めての男相手にも、そんな顔をしたのか?」
「何、言って――」
「物欲しそうな、いやらしいオンナの顔だ。早く突っ込んでくれと言ってる」
「勝手なことを言うなっ」
 和彦が睨みつけても、鷹津は薄ら笑いを浮かべて気にする様子はない。それどころか、いきなり和彦の片足を抱え上げ、高ぶった欲望を内奥の入り口に押し当ててきた。動揺した和彦は慌てて身じろごうとしたが、かまわず鷹津は挿入を開始しようとする。
「やめろっ。いきなりは、つらいんだっ……」
「いきなりじゃねーだろ。バスルームで、たっぷり指で弄ってやっただろ」
 明け透けな鷹津の物言いに和彦は、いまさらながら自分がどんな男を相手にしているのか痛感する。この男の行動は欲望に基づき、少なくとも今、和彦相手に遠慮する必要はないのだ。なんといっても、鷹津に餌を与えると言ったのは、和彦自身だ。
 バスルームで、ソープの滑りを借りて指で解された内奥が、今度は鷹津の逞しいものでこじ開けられる。感じやすい襞と粘膜を強く擦り上げられ、痺れるような痛みと肉の疼きが交互に押し寄せては、和彦を呻かせる。
「うっ……、うっ、うあっ、あっ――」

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

帝は傾国の元帥を寵愛する

tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。 舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。 誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。 だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。 それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。 互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。 誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。 やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。 華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。 冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。 【第13回BL大賞にエントリー中】 投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...