血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
593 / 1,289
第26話

(21)

しおりを挟む
「そんなこと言って、どうなっても知らないからな」
 三田村の胸元に顔を伏せ、舌先で肌を舐め上げる。すると三田村が大きく息を吸い込んだ。
「先生――……」
 わずかに動揺を滲ませた声を発した三田村だが、あえて無視した和彦は、微かに濡れた音を立てながら肌を吸い上げ、舌を這わせる。
 三田村が深くゆっくりとした呼吸を繰り返すたびに、胸が大きく上下する。落ち着いているようだが、触れている三田村の肌が熱を帯びていくのを、和彦は感じていた。それだけではなく――。
 腹筋のラインを舌先でくすぐりながら、スウェットパンツの上から三田村の両足の間に触れる。何よりも明らかな反応がそこにはあった。上目遣いで三田村の表情をうかがう。優しいだけではない、狂おしい欲情を湛えた眼差しが、じっと和彦を見つめていた。
 次の瞬間、三田村に腕を掴まれて引っ張られる。体を引き上げられてベッドに押さえつけられ、間近で三田村と目が合ったかと思うと、強引に唇を塞がれた。
 これが今日、三田村と初めて交わす口づけだった。一瞬にして和彦の全身が、燃え上がりそうに熱くなり、身悶えしたくなるような強い欲情が胸の奥で生まれる。
 唇と舌を貪り合いながら、三田村の指がパジャマの上着のボタンにかかる。ボタンを一つ外されるごとに期待が高まり、和彦は小さく声を洩らす。そんな和彦を宥めたいのか、煽りたいのか、三田村の舌が口腔に入り込み、感じやすい粘膜をじっくりと舐め回される。
 ようやくパジャマの上着を脱がされると、和彦は両腕を三田村の背に回し、虎の刺青を夢中でてのひらで撫でる。三田村の筋肉がぐっと引き締まり、一際体が熱くなった。普段は誠実で優しい男だが、背の虎に触れると簡単に猛々しい獣に変わり、その変わり様に、和彦は惚れ惚れとしてしまう。
 自分が、この男を変えられる特別な存在なのだと、強く認識できるからだ。
 背の虎に夢中になっている間に、三田村に下肢を剥かれる。さらに、すでに高ぶっている三田村の欲望を両足の間に擦りつけられ、互いのものがもどかしく擦れ合い、焦れるような感覚を生み出す。
「――先生、俺に舐めさせてくれ」
 三田村が耳元で、掠れた声で囁く。耳朶に触れる感触だけで、ゾクゾクするような疼きを感じた和彦は、首をすくめた。その反応に感じるものがあったのか、三田村が唇で耳の形をなぞり、耳朶を舌先でくすぐってくる。心地よさに喘ぐと、三田村の唇が首筋から肩先まで、丹念な口づけを繰り返しながら移動する。
 次に胸元に唇が押し当てられ、すでに期待で硬く凝った二つの突起を、左右交互に吸い上げられる。和彦が喉を反らして伸びやかな声を上げると、三田村の愛撫は熱を帯び、胸の突起を舌先で転がし、軽く歯を立てて引っ張る。
「んっ……」
 再び突起を舌先で転がされる。和彦は、愛撫を施す三田村の顔に、いつの間にか見入っていた。物騒な肩書きを持つ男が、こんなにも必死に自分を貪っている姿が、いまさらながら新鮮だった。同時に、たまらなく愛しい。
「……三田村」
 呼びかけると、顔を上げた三田村が心得たように口づけを与えてくれる。たっぷりと唇と舌を吸い合ってから和彦は、三田村のあごに残る傷跡に舌先を這わせた。
「ダメだ、先生。俺が、舐めるんだ」
 荒い息を吐き出して三田村が言う。和彦が返事をする前に、三田村は両足の間に頭を潜り込ませていた。身を起こしかけた欲望を、熱い舌にベロリと舐め上げられる。和彦はビクリと身を震わせ、上げそうになった声を寸前のところで堪える。しかし、二度目は耐えられなかった。
「あうっ」
 下肢の力がふっと抜ける。その瞬間を見逃さず、三田村に大きく左右に足を広げられ、秘部をすべて、晒すことになる。慣れない羞恥に身を熱くした和彦だが、その一方で、三田村の視線を受けている欲望は、羞恥すら刺激に変えたのか、あからさまな反応を示す。
 三田村は愛しげに、そんな和彦の欲望に舌を這わせる。ますます反り返り、先端から透明なしずくを垂らすようになると、待ちかねていたように唇で吸い取られた。硬くした舌先で先端を突かれ、くすぐられてから、ゆっくりと口腔に呑み込まれる。熱く濡れた粘膜に包み込まれたとき、全身を駆け抜ける快美さに和彦は恍惚とする。
「うっ、うあっ……、あっ、い、い――。三田村、気持ちいい……」
 片手で枕を握り締めながら、もう片方の手で三田村の髪を掻き乱して、和彦は煩悶していた。
 強弱をつけて欲望を唇で締め付けられ、扱かれる。ときおり先端に歯列が擦りつけられて、刺激の強さに腰を震わせると、まるで機嫌を取るように今度は舌を這わされる。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ
BL
※3部をもちまして、休載にはいります※ 「この国では、星神の力を戴いた者が、唯一の王となる」 王に選ばれ、商人の青年は男妃となった。 美しくも孤独な異民族の男妃アリム。 彼を迎えた若き王ラシードは、冷徹な支配者か、それとも……。 王の寵愛を受けながらも、 その青い瞳は、周囲から「劣った血の印」とさげすまれる。 身分、出自、信仰── すべてが重くのしかかる王宮で、 ひとり誇りを失わずに立つ青年の、静かな闘いの物語。

処理中です...