血と束縛と

北川とも

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第28話

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 荒々しい気配とは裏腹に、千尋の動きは慎重だ。ゆっくりと内奥をこじ開けながら、猛る欲望を確実に挿入してくる。
「先生、感じる? 俺とじいちゃんが、先生と一つになっているところを、じっと見てるの。先生のここ、すげー、いやらしい。真っ赤になって、ヒクヒクして、俺のを必死に締め付けて、呑み込んでいってる。もう何度も見てるのに、飽きないんだよ。先生が精一杯、俺を甘やかしてくれてるんだと思ったら。……ずっと見ていたい。でもそれ以上に、もっと気持ちよくなりたい。こうして――先生の奥まで入って」
 千尋に一度だけ腰を突き上げられ、和彦は苦しさに声を洩らす。今にも暴れ出しそうな凶暴なものを、それでも和彦の内奥は懸命に締め付け、甘やかす。背後で千尋がため息を洩らし、腰や腿を余裕なく撫で回してくる。そして、両足の間に片手を差し込み、熱くなったまま震えている和彦の欲望を握り締めた。
「あっ、いや――……」
 性急に欲望を扱かれて、和彦は腰を揺らす。その瞬間を見逃さず、内奥深くを突き上げられ、思いがけず体中に痺れにも似た心地よさが駆け抜ける。それを数回繰り返されたところで、和彦は千尋に完全に支配されていた。
 千尋の力強い律動に、浅ましく腰を同調させる。布団の端を握り締め、悦びの声を上げていた。
「中、蕩けちゃったね」
 行為の激しさとは対照的に、どこか子供っぽい口調で千尋が洩らす。その言葉にすら感じてしまい、ゾクゾクとするような感覚が鼓膜から広がる。千尋の手に促され、和彦は布団の上に精を飛び散らせていた。
「うあっ、あっ――、んっ、んうっ」
 乱暴に腰を引き寄せられ、これ以上なくしっかりと千尋と繋がる。律動を一度止めた千尋にとっくに解けた帯と浴衣を剥ぎ取られ、露わになった汗ばんだ背を、愛しげにてのひらで撫でられる。和彦は荒い呼吸を繰り返しながら、心地よい感触にそっと目を細めていた。
 和彦と千尋の交歓を、ずっと傍らで眺めていたのだろう。わずかな熱を帯びた守光の言葉が耳に届く。
「力に溢れる若い獣そのものだな。長嶺は、いい跡目を得た。その跡目のおかげで――いいオンナを得た」
 守光の言葉で滾るものがあったのか、千尋の欲望が内奥でさらに膨らむ。官能を刺激された和彦は上擦った声を洩らし、背をしならせた。その動きに誘われたように、千尋が再び力強い律動を刻み始める。
「あっ、あっ、千、尋っ……、千尋っ」
「いいよ、先生。すぐに、中にいっぱい出してあげる」
 その言葉通り、千尋の欲望が内奥深くで爆ぜ、熱い精を注ぎ込まれる。意識しないまま内奥がきつく収縮し、千尋を呻かせる。内奥でビクビクと震える存在が、ただ愛しかった。
「じいちゃん、これが、俺の大事で可愛いオンナだよ。――将来、絶対俺だけのものにする」
 そう語りながら千尋が、ゆっくりと繋がりを解く。与えられた快感に陶然としている和彦には、千尋の行動を止めることはできなかった。尻の肉を掴まれて左右に割られると、注ぎ込まれたばかりの精が溢れ出してくる。
 千尋が、自分が所有しているという証を守光に見せているのだと理解し、和彦は強い羞恥に身じろぐ。体を起こそうとして、反対に布団に押さえつけられ、仰向けにひっくり返される。真上から和彦の顔を見下ろしてきたのは、守光だった。
 そして、さきほどの千尋の言葉を引き継ぐように、こう続けた。
「――だが今は、長嶺の男〈たち〉の、大事で可愛いオンナだ」
 力が入らない片足を抱え上げられ、千尋の精が垂れている蕩けた内奥の入り口に、今度は守光の高ぶりを擦りつけられる。
「あっ」
 和彦が声を洩らしたときには、内奥を押し広げられていた。千尋に愛されたばかりの内奥の襞と粘膜は、熱く発情したまま、新たな侵入者を嬉々として呑み込み、締め付ける。和彦の体の歓喜に、守光はすぐに応えてくれた。
「うっ、くうっ……ん」
 和彦の体を悦ばせる術を知っている守光は、一息に欲望を内奥深くまで突き込むと、達したばかりの欲望を片手で扱き始める。和彦は声にならない声を上げて上体をくねらせ、乱れていた。千尋の見ている前で。
「ひっ……、あっ、あぁっ、ひあっ――」
 無意識に手を伸ばすと、その手を強く握り締めてくれたのは、傍らから顔を覗き込んできた千尋だった。強い執着心や独占欲を感じさせる発言をしたばかりだというのに、千尋は落ち着いていた。
「このオンナには、長嶺の男に骨の髄まで愛される姿がよく似合う。お前は今は、その姿を堪能すればいい。いずれは、お前だけのものになるオンナだ。それぐらいの度量は、若いお前にもあるだろう」
 和彦を犯しながら、守光は千尋に語りかける。内奥で息づく欲望は熱く逞しいというのに、やはり守光は少しも乱れない。
 快感を与えられながら、世代のまったく違う長嶺の男二人のやり取りを聞き、姿を交互に見ているうちに、和彦は混乱してくる。いや、惑乱していた。思考が正常に働くことを、放棄したがっていた。
 追い討ちをかけるように、守光が薄い笑みを浮かべて言った。
「さっきも言ったが、あんたの体の中を長嶺の血で満たすことはできん。だが、どんな男も甘やかして、蕩けさせる場所を、長嶺の男の精で満たすことはできる。――いままで、ここまでしたオンナはいない。あんたが、唯一の存在だ」
 囁きかけてきながら、守光が深く力強い律動を繰り返す。まるで、和彦の体の奥深くに、自分の刻印を刻み付けるように。実際、そのつもりなのだろう。
 これはやはり、儀式なのだ。和彦が、長嶺の男たちの手の届かない場所に逃げ出さないよう、見えない鎖で体と心を縛り付けてくる。
 自ら両足を大きく開き、守光を受け入れ、奔放に乱れる。長嶺の二人の男から与えられる濃厚な情が、息苦しいのに、眩暈がするほど心地よかった。
「うあっ、あっ、あっ、も、う……、ダメですっ……」
「かまわんから、また出すといい。苦しそうだ」
 開いた足の間で、和彦のものは再び反り返り、先端から透明なしずくを垂らしている。守光の手で軽く扱かれると、呆気なく二度目の精を噴き上げていた。嗚咽を洩らすと、甘えるように千尋に唇を吸われ、和彦は必死に千尋の肩に掴まる。
「……先生、たまんない……。また、したくなった」
 荒い息の下、そう洩らした千尋が、熱い舌を和彦の口腔に押し込んでくる。同時に内奥深くを、守光の欲望に強く突き上げられた。
 口腔に千尋の唾液が流し込まれ、内奥には守光の精が注ぎ込まれる。
 言葉はなくとも、このとき長嶺の男二人が何を考えているか、和彦にはわかった気がした。
 このオンナを、絶対に逃がしたりはしない、と――。

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