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第35話
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言葉で辱められながら、ゆっくりと律動を繰り返される。
「ふっ……、んっ、んっ、んくっ……、うぅっ、いっ……、気持ち、いぃ」
「ああ。だが、あまり飛ばすなよ。もう少し、ゆっくり楽しもうぜ」
鷹津に両手を掴まれてベッドに押さえつけられる。和彦は荒い呼吸を繰り返しながら、すがりつくように鷹津を見上げる。頭がぼうっとしてきて、体中が火照っている。ワインの酔い――とは少し様子が違う気がするが、大した問題ではない。
手をしっかりと握り合うと、鷹津が顔を近づけてくる。そっと唇が重なり、柔らかく吸い上げられてから、和彦は吐息をこぼす。やはり、この男と交わす口づけが好きだと思った。
鷹津の唇が耳に押し当てられ、耳朶に歯が立てられる。和彦は痛みに声を上げたが、鷹津が低く笑い声を洩らして指摘した。
「中、締まったぞ。痛くされるのが好きなのか?」
「そんなわけないだろ。……痛いのは、嫌いだ」
「だったら、俺が相手だからか?」
その問いかけに返事はできなかった。和彦が唇を噛むと、鷹津はもう一度耳朶に歯を立ててきた。同時に、内奥深くで欲望が蠢く。
鷹津の攻めはおそろしく緩慢で、じっくりと時間をかけてくる。和彦は思うさま乱れさせられ、声を上げさせられ、わずかに残っていた体力のすべてを奪い尽くされてしまいそうな、甘い恐怖を覚えるほどだった。
ふっと意識が遠のきかけて、目が空ろになる。鷹津が顔を覗き込み、手荒に頬を撫でてきた。
「まだ寝るなよ」
「……もう、無理だ。疲れて、いるんだ。それに、頭がぼうっとする……」
「だが、お前の体はまだ俺を欲しがっているぞ」
違うと首を横に振ると、それだけで頭がふらつく。
「なんか、おかしい……。何も、考えられなく、なる……」
「――どうやら、効き目は本物らしいな」
唐突な鷹津の言葉に、和彦の思考はすぐには追いつかなかった。何度も目を瞬き、自分を見下ろしてくる男の表情から意図を読み取ろうとする。
鷹津は相変わらず、欲情していた。興奮もしている。なのに、さきほどとは何かが違う。
「……効き目って、なんのことだ?」
「お前に飲ませた一杯目のワインの中に、睡眠薬を溶かしておいた」
鷹津の言葉が、毒のようにじわじわと和彦の意識に効いてくる。
「すぐに寝入られると困るから、量を少し減らしてな。……なかなか色っぽいもんだな。眠気でトロンとした目になる様は」
不穏なことを言われているという認識はできた。和彦は本能的な怯えから体に力を入れようとするが、まったく言うことを聞かない。薬の効き目はじっくりと現れていた。
鷹津は、寸前まで異変を悟らせまいと、和彦の興奮を煽り、再び淫らな行為に及んだのだ。
「なんのために、そんなこと……」
「暴れられると困るんだ。これからお前には、ある人物と電話で話してもらう」
そう言って鷹津がクッションの下に手を突っ込み、携帯電話を取り出す。こんなところに携帯電話を入れた覚えはないので、和彦がウトウトしている間に、鷹津が準備を整えていたのだろう。
鷹津は手早くどこかに電話をかけてから、和彦の耳元に当てる。咄嗟に顔を背けようとしたが、強引に唇を塞がれて阻まれる。さらに、下肢は繋がったままなのだ。和彦は呻き声を洩らして拒もうとしたが、このとき、呼出し音が途切れる。
電話の向こうから聞こえてきた声に、一気に肌が粟立った。
『――ずいぶん待たせる。おかげで、会食をキャンセルすることになった。それで、本当に息子の声を聞かせてくれるんだろうね、鷹津くん』
柔らかく深みのある、耳当たりのいい声だった。しかし、声の主をよく知っている和彦はどうしても、氷同士がぶつかるような冷たい響きが、声から滲み出ていると感じるのだ。
「父、さん……」
思わず呟きを洩らすと、すかさず鷹津は携帯電話を取り上げて操作したあと、傍らに放り出した。自分も電話の会話を聞くために、スピーカーに切り替えたようだ。
『久しぶりだな、和彦。お前の現状については、鷹津くんからすべて教えてもらった。英俊がずいぶんがんばって、お前の消息を調べて、結局徒労に終わったと思っていたんだが……。正直、こうしてお前の声を聞くまでは、鷹津くんのことはまったく信用していなかった』
和彦は顔を強張らせたまま鷹津を見上げる。鷹津は、和彦の動揺すら愛でるように見つめてくる。体中の血が凍りつきそうになっている和彦とは対照的に、鷹津は高ぶったままだった。内奥深くに収まっている欲望は力強く脈打ち、強引にでも和彦の官能を揺さぶろうとしてくる。
そんな鷹津が、今は堪らなく怖かった。
「……嫌だ……。離して、くれ……」
「ふっ……、んっ、んっ、んくっ……、うぅっ、いっ……、気持ち、いぃ」
「ああ。だが、あまり飛ばすなよ。もう少し、ゆっくり楽しもうぜ」
鷹津に両手を掴まれてベッドに押さえつけられる。和彦は荒い呼吸を繰り返しながら、すがりつくように鷹津を見上げる。頭がぼうっとしてきて、体中が火照っている。ワインの酔い――とは少し様子が違う気がするが、大した問題ではない。
手をしっかりと握り合うと、鷹津が顔を近づけてくる。そっと唇が重なり、柔らかく吸い上げられてから、和彦は吐息をこぼす。やはり、この男と交わす口づけが好きだと思った。
鷹津の唇が耳に押し当てられ、耳朶に歯が立てられる。和彦は痛みに声を上げたが、鷹津が低く笑い声を洩らして指摘した。
「中、締まったぞ。痛くされるのが好きなのか?」
「そんなわけないだろ。……痛いのは、嫌いだ」
「だったら、俺が相手だからか?」
その問いかけに返事はできなかった。和彦が唇を噛むと、鷹津はもう一度耳朶に歯を立ててきた。同時に、内奥深くで欲望が蠢く。
鷹津の攻めはおそろしく緩慢で、じっくりと時間をかけてくる。和彦は思うさま乱れさせられ、声を上げさせられ、わずかに残っていた体力のすべてを奪い尽くされてしまいそうな、甘い恐怖を覚えるほどだった。
ふっと意識が遠のきかけて、目が空ろになる。鷹津が顔を覗き込み、手荒に頬を撫でてきた。
「まだ寝るなよ」
「……もう、無理だ。疲れて、いるんだ。それに、頭がぼうっとする……」
「だが、お前の体はまだ俺を欲しがっているぞ」
違うと首を横に振ると、それだけで頭がふらつく。
「なんか、おかしい……。何も、考えられなく、なる……」
「――どうやら、効き目は本物らしいな」
唐突な鷹津の言葉に、和彦の思考はすぐには追いつかなかった。何度も目を瞬き、自分を見下ろしてくる男の表情から意図を読み取ろうとする。
鷹津は相変わらず、欲情していた。興奮もしている。なのに、さきほどとは何かが違う。
「……効き目って、なんのことだ?」
「お前に飲ませた一杯目のワインの中に、睡眠薬を溶かしておいた」
鷹津の言葉が、毒のようにじわじわと和彦の意識に効いてくる。
「すぐに寝入られると困るから、量を少し減らしてな。……なかなか色っぽいもんだな。眠気でトロンとした目になる様は」
不穏なことを言われているという認識はできた。和彦は本能的な怯えから体に力を入れようとするが、まったく言うことを聞かない。薬の効き目はじっくりと現れていた。
鷹津は、寸前まで異変を悟らせまいと、和彦の興奮を煽り、再び淫らな行為に及んだのだ。
「なんのために、そんなこと……」
「暴れられると困るんだ。これからお前には、ある人物と電話で話してもらう」
そう言って鷹津がクッションの下に手を突っ込み、携帯電話を取り出す。こんなところに携帯電話を入れた覚えはないので、和彦がウトウトしている間に、鷹津が準備を整えていたのだろう。
鷹津は手早くどこかに電話をかけてから、和彦の耳元に当てる。咄嗟に顔を背けようとしたが、強引に唇を塞がれて阻まれる。さらに、下肢は繋がったままなのだ。和彦は呻き声を洩らして拒もうとしたが、このとき、呼出し音が途切れる。
電話の向こうから聞こえてきた声に、一気に肌が粟立った。
『――ずいぶん待たせる。おかげで、会食をキャンセルすることになった。それで、本当に息子の声を聞かせてくれるんだろうね、鷹津くん』
柔らかく深みのある、耳当たりのいい声だった。しかし、声の主をよく知っている和彦はどうしても、氷同士がぶつかるような冷たい響きが、声から滲み出ていると感じるのだ。
「父、さん……」
思わず呟きを洩らすと、すかさず鷹津は携帯電話を取り上げて操作したあと、傍らに放り出した。自分も電話の会話を聞くために、スピーカーに切り替えたようだ。
『久しぶりだな、和彦。お前の現状については、鷹津くんからすべて教えてもらった。英俊がずいぶんがんばって、お前の消息を調べて、結局徒労に終わったと思っていたんだが……。正直、こうしてお前の声を聞くまでは、鷹津くんのことはまったく信用していなかった』
和彦は顔を強張らせたまま鷹津を見上げる。鷹津は、和彦の動揺すら愛でるように見つめてくる。体中の血が凍りつきそうになっている和彦とは対照的に、鷹津は高ぶったままだった。内奥深くに収まっている欲望は力強く脈打ち、強引にでも和彦の官能を揺さぶろうとしてくる。
そんな鷹津が、今は堪らなく怖かった。
「……嫌だ……。離して、くれ……」
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