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第35話
(19)
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意識を必死に留めようとするが、ふっと意識が揺らいで堪らず目を閉じる。すかさず鷹津に軽く頬を叩かれ、再び内奥を突き上げられる。普通であれば、とっくに欲望は萎えてしまい、行為そのものを苦痛に感じるはずなのに、睡眠薬の効き目は正常な思考力さえ抑えつける。
それとも、異常すぎる状況に、和彦の本能が精神を保つために、なんらかの働きをしているのかもしれない。
「うっ、あぁ……」
欲望が萎えないというなら、鷹津は、和彦以上だった。内奥でますます熱く猛り、今にも爆ぜそうなほど膨らんでいる。ゆっくりと大きく腰を動かされ、掠れた悲鳴を上げさせられる。
電話の向こうではどんな顔をしているのかは予測もつかないが、少なくとも俊哉の声の調子は変わらなかった。
『あの男との交渉には、万全を期したい。忌々しいが、お前の身はその準備が整うまで、総和会と長嶺組に預けておこう。お前は従順な〈オンナ〉でいて、何も知らないふりをしていろ。わたしと話したことは、絶対に誰にも悟られるな。交渉がこじれる恐れがある。――用があれば、いつでも連絡してこい』
そこで電話が切れ、鷹津はすぐに携帯電話の電源自体を切った。和彦が物言いたげな表情をすると、鷹津から皮肉に満ちた笑みを向けられた。
「俺の携帯の留守電に、総和会や長嶺組からの脅しのメッセージばかり吹き込まれていた。連中、血眼になって俺を捜しているみたいだな」
「……当たり前だ。あんた、頭がおかしくなったんじゃないか……」
和彦は、鷹津の頬を殴りつけようと懸命に手を伸ばしたが、途中で力なく落ちる。鷹津は悠々と唇を塞いできた。
荒々しく唇を貪り、口腔を舌でまさぐりながら、律動を続ける。和彦は両手を投げ出したまま、されるがままになるしかない。
「これはこれで、やみつきになりそうだな。具合のいい人形を抱いているみたいだ」
性質の悪い冗談を窘めることもできず、和彦は何度も瞬きを繰り返し、必死に鷹津を見つめる。すでにもう焦点を定めることすら難しい。
和彦の意識が限界まできていると察したらしく、ふいに表情を改めて鷹津が話し始めた。
「――いいか、よく頭に叩き込んでおけ。さっき、お前の父親も言ったことだ。俺が間を取り持ったことも含めて、誰にも、父親と話したことは他言するな。お前はあくまで、血迷った刑事に一時誘拐されて、体を自由にされたことにしろ。それが、お前のためだ」
「それだと、あんただけが、恨まれることになる……」
和彦の耳元で鷹津が短く声を洩らして笑う。
「さっき、電話をかける前に言った言葉にウソはない。惚れた相手を、性質の悪い連中のもとから連れて逃げたいんだ。だが、それは俺一人じゃ無理だ。だから、お前の父親と手を組むことにした。……いろいろとやってくれたからな。俺は少しばかり、総和会にはムカついている」
「……何を、されたんだ?」
「お前は知らなくていい」
聞きたいことはいくらでもあるが、それを鷹津は許してくれない。和彦をきつく抱き締め、乱暴に内奥を突き上げてきたかと思うと、ふいに動きを止めた。
精を注ぎ込まれたことはわかったが、体は、快感を認識することはできない。必死に眠気に抗おうとした和彦だが、鷹津に髪を撫でられたところで、意識が完全に途切れた。
異常な喉の渇きで目が覚めた和彦は、小さく呻き声を洩らして緩く頭を振る。すっきりしない目覚めはたまにあることだが、頭の芯に靄がかかったようで、喉の渇きよりもそれが不快だった。それに、体がひどくだるい。
自分の身に何が起こったのだろうかと考えたのは、ほんのわずかな間だった。
和彦は目を見開くと、じっとしていられず緩慢な動作ながらも起き上がる。分厚いカーテンの隙間からわずかに差し込む陽射しの明るさは、朝であることを示している。
ふらつく頭を懸命に支えながら、慎重に辺りを見回す。ベッドの上にはもちろん、室内のどこにも鷹津の姿はなかった。数瞬ためらってから、そっと呼びかける。
「――……秀?」
返ってくる声はなく、空虚な静けさだけが和彦を包み込む。裸であることも関係あるのだろうが、急に寒気を感じて大きく身震いをする。
唐突に、恐ろしい現実が一気に和彦に襲いかかってきた。鷹津が今どこにいるのか気になり、連絡をしようと考えたが、その携帯電話を昨日、鷹津に取り上げられた。しかし、何げなくナイトテーブルに視線を向けると、和彦の携帯電話が置いてある。鷹津はきちんと返してくれたのだ。
おそるおそる携帯電話を手にはしたものの、電源を入れることはできなかった。入れた途端、電話がかかってくるような気がしたからだ。きっと、残された留守電の数は凄まじいことになっているはずだ。
それとも、異常すぎる状況に、和彦の本能が精神を保つために、なんらかの働きをしているのかもしれない。
「うっ、あぁ……」
欲望が萎えないというなら、鷹津は、和彦以上だった。内奥でますます熱く猛り、今にも爆ぜそうなほど膨らんでいる。ゆっくりと大きく腰を動かされ、掠れた悲鳴を上げさせられる。
電話の向こうではどんな顔をしているのかは予測もつかないが、少なくとも俊哉の声の調子は変わらなかった。
『あの男との交渉には、万全を期したい。忌々しいが、お前の身はその準備が整うまで、総和会と長嶺組に預けておこう。お前は従順な〈オンナ〉でいて、何も知らないふりをしていろ。わたしと話したことは、絶対に誰にも悟られるな。交渉がこじれる恐れがある。――用があれば、いつでも連絡してこい』
そこで電話が切れ、鷹津はすぐに携帯電話の電源自体を切った。和彦が物言いたげな表情をすると、鷹津から皮肉に満ちた笑みを向けられた。
「俺の携帯の留守電に、総和会や長嶺組からの脅しのメッセージばかり吹き込まれていた。連中、血眼になって俺を捜しているみたいだな」
「……当たり前だ。あんた、頭がおかしくなったんじゃないか……」
和彦は、鷹津の頬を殴りつけようと懸命に手を伸ばしたが、途中で力なく落ちる。鷹津は悠々と唇を塞いできた。
荒々しく唇を貪り、口腔を舌でまさぐりながら、律動を続ける。和彦は両手を投げ出したまま、されるがままになるしかない。
「これはこれで、やみつきになりそうだな。具合のいい人形を抱いているみたいだ」
性質の悪い冗談を窘めることもできず、和彦は何度も瞬きを繰り返し、必死に鷹津を見つめる。すでにもう焦点を定めることすら難しい。
和彦の意識が限界まできていると察したらしく、ふいに表情を改めて鷹津が話し始めた。
「――いいか、よく頭に叩き込んでおけ。さっき、お前の父親も言ったことだ。俺が間を取り持ったことも含めて、誰にも、父親と話したことは他言するな。お前はあくまで、血迷った刑事に一時誘拐されて、体を自由にされたことにしろ。それが、お前のためだ」
「それだと、あんただけが、恨まれることになる……」
和彦の耳元で鷹津が短く声を洩らして笑う。
「さっき、電話をかける前に言った言葉にウソはない。惚れた相手を、性質の悪い連中のもとから連れて逃げたいんだ。だが、それは俺一人じゃ無理だ。だから、お前の父親と手を組むことにした。……いろいろとやってくれたからな。俺は少しばかり、総和会にはムカついている」
「……何を、されたんだ?」
「お前は知らなくていい」
聞きたいことはいくらでもあるが、それを鷹津は許してくれない。和彦をきつく抱き締め、乱暴に内奥を突き上げてきたかと思うと、ふいに動きを止めた。
精を注ぎ込まれたことはわかったが、体は、快感を認識することはできない。必死に眠気に抗おうとした和彦だが、鷹津に髪を撫でられたところで、意識が完全に途切れた。
異常な喉の渇きで目が覚めた和彦は、小さく呻き声を洩らして緩く頭を振る。すっきりしない目覚めはたまにあることだが、頭の芯に靄がかかったようで、喉の渇きよりもそれが不快だった。それに、体がひどくだるい。
自分の身に何が起こったのだろうかと考えたのは、ほんのわずかな間だった。
和彦は目を見開くと、じっとしていられず緩慢な動作ながらも起き上がる。分厚いカーテンの隙間からわずかに差し込む陽射しの明るさは、朝であることを示している。
ふらつく頭を懸命に支えながら、慎重に辺りを見回す。ベッドの上にはもちろん、室内のどこにも鷹津の姿はなかった。数瞬ためらってから、そっと呼びかける。
「――……秀?」
返ってくる声はなく、空虚な静けさだけが和彦を包み込む。裸であることも関係あるのだろうが、急に寒気を感じて大きく身震いをする。
唐突に、恐ろしい現実が一気に和彦に襲いかかってきた。鷹津が今どこにいるのか気になり、連絡をしようと考えたが、その携帯電話を昨日、鷹津に取り上げられた。しかし、何げなくナイトテーブルに視線を向けると、和彦の携帯電話が置いてある。鷹津はきちんと返してくれたのだ。
おそるおそる携帯電話を手にはしたものの、電源を入れることはできなかった。入れた途端、電話がかかってくるような気がしたからだ。きっと、残された留守電の数は凄まじいことになっているはずだ。
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