血と束縛と

北川とも

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第46話

(17)

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 うつ伏せとなり腰を抱え上げられた和彦は、背後から緩く突き上げられて呻き声を洩らす。内奥深くには楔のようにしっかりと鷹津の欲望が埋め込まれていた。内奥の粘膜と襞を時間をかけて擦られているうちに、和彦の理性は蜜に浸かったように蕩け、ただ貪欲に肉の悦びを求める。
 すでに一度、内奥に鷹津の精を受け止め、そのとき和彦自身も達しているのだが、肉欲は鎮まるどころか、ますます強く燃え上がっていた。
 薪ストーブの放つ熱のせいではなく、身の内からの熱に火傷しそうだと思った。実際、和彦の肌は汗で濡れており、さきほどから何度も鷹津のてひらに拭ってもらっている。
「あっ……ん、んっ」
 鷹津の手が両足の間に差し込まれ、柔らかな膨らみを揉みしだかれる。和彦は身をのたうたせ、強い刺激から本能的に逃れようとしたが、動きを封じるように内奥を突かれる。さらにもう一度突かれて、腰の動きを同調させていた。
「んうっ、あっ、あっ、あぁっ――」
 秘められた肉を掻き分けるように突き上げられる。内奥を淫らに蠕動させ、鷹津の欲望をこれ以上なくきつく締め付けると、背後から大きく荒い息遣いが聞こえてきた。
 背筋から這い上がってくる狂おしい肉の愉悦に喉を鳴らす。
「しゅ、う……、秀……、秀ぅ……」
 うわ言のように名を呼ぶと、鷹津には和彦が今どんな状態なのかわかったらしい。いきなり、内奥から欲望が引き抜かれ、わけもわからないまま和彦はビクヒクと下肢を震わせる。鷹津に抱き起されてすがりつくと、口づけを与えられながら、喘ぐようにひくつく内奥の入り口を指先でまさぐられる。もっと深くに強い刺激を求めて、和彦は腰をもじつかせていた。
 毛布の上に鷹津が仰臥して、即座に意図は察した。熱っぽい眼差しを向けられて顔を背けることもできず、和彦はおずおずと鷹津の腰に跨る。興奮しきった猛々しい欲望を片手で掴み、位置を合わせる。初めての行為ではないのだが、だからといって平気ではない。和彦は身を焼くような羞恥と、鷹津からの射るような視線に耐えつつ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
 緩んだ内奥はさほど抵抗なく鷹津のものを呑み込む。下腹部にじわりと重苦しい感覚が広がっていき、肉同士の繋がりを強く意識する。和彦は慎重に息を吐き出しながら、鷹津の胸元に手を突き、腰を揺らす。
 目を閉じ、体内で脈打つ逞しい肉の感触だけに集中しているうちに、いつの間にか喘ぎ声をこぼしていた。円を描くように腰を動かし、内奥深くに鷹津のものを擦りつけると、自分だけでなく、鷹津もまた歓喜に震えているのが伝わってくる。
「――和彦」
 呼ばれて目を開けると、鷹津が片手を伸ばしてきた。和彦は前屈みとなり、頬をすり寄せた。
 緩やかな交歓を時間をかけて堪能する。次第に和彦の腰の動きは大きくなり、汗が肌を伝い落ちていく。そんな和彦の姿を、鷹津は一心に見上げていた。体の内側がざわつくのは、視線にすら感じてしまうからだ。
 もっと触れてもらいたいと強く願ったとき、声に出すまでもなく、鷹津の両てのひらが体をまさぐり始める。
「あっ、あっ、ふぁっ、くうっ……ん」
 興奮のため凝ったままの胸の突起を、捏ねるようにてのひらで転がされてから、軽く抓られる。尻の肉を爪が食い込むほど手荒く鷲掴まれたが、繋がっている部分をなぞる指先の動きは優しい。
 和彦は淫らな衝動に促されるまま、反り返って揺れる己の欲望を掴むと、鷹津に見せつけるように上下に扱く。刺激に呼応するように、内奥で鷹津のものが力強く脈打った。
 下から突き上げられると、和彦は脆かった。白濁とした精をトロトロと垂れ流し、鷹津が見ている前で絶頂に達する。頭の先から爪先にまで駆け抜ける快美さを堪能している最中に、鷹津の精を内奥深くに注ぎ込まれていた。
 悦びが声となって溢れ出ていることに気づいたが、自分でもどうしようもできなかった。鷹津の腰の上で身を震わせ、内奥でまだ硬さを失っていないものをきつく締め付け続ける。快感の余韻はなかなか消えなかった。
「――お前は本当に性質が悪い」
 深く息を吐き出してから鷹津が呟く。まだ陶然としていた和彦だが、鷹津の引き締まった下腹部に飛び散らしてしまった精を、その鷹津が指先で掬い取る姿にうろたえる。脱ぎ捨てた服を掴み寄せて拭おうとして、止められた。
「もったいない」
「……バカじゃないか」
「触るぐらいなんともない。お前なんて、俺のを〈飲んだ〉じゃねーか。ここに」
 意味ありげに腰を揺らされ、もう何も言えない。もう見飽きた――とまではいかなくても、見慣れているであろう和彦のことを、鷹津はただ熱を帯びた眼差しで見上げてくる。繋がったままの痴態を晒しながら、いまさら羞恥しても仕方ないのだろうが、平気ではいられない。和彦は腰を浮かせようとしたが、鷹津に手首を掴まれて止められる。さきほどからなんなのだと、さすがに恨みがましい視線を向ける。
「おい……」
「お前は性質が悪い」
「わかったから、繰り返すな」
「お前が何人もの男を咥え込んできたと知ってるのに、それでも、お前がよがっている姿を見ると、のぼせ上がるんだ。俺だけは特別だと、錯覚しそうになる。誰も知らない姿を、俺だけが見ていると――」
 精を掬った鷹津の指が、鳩尾から腹部へと這わされて和彦はそっと息を詰める。さらに指は下腹部へと下りていき、陰りをまさぐられる。
「なあ、前に俺が言ったことを覚えてるか?」
「……あんたには何回も罵られたから、心当たりがありすぎるんだが」
 ふっと鷹津が笑い、力を失った和彦の欲望を弄んでくる。
「お前の〈ここ〉を剃ってやろうか、って。……皮肉なもんだな。あのとき、お前を連れて逃げてやろうかと唆したが、今はこうして、本当にお前と逃げ隠れて一緒にいるんだから」
 その鷹津とのやり取りはよく覚えていた。意味ありげな会話のあと、和彦は薬で意識を朦朧とさせられながら、鷹津が実は俊哉と繋がっていたことを残酷な形で知らされた。
 目が覚めたとき、鷹津が目の前からいなくなっただけではなく、所在すらわからなくなったと知ったときの絶望感が蘇り、身震いをする。そんな和彦を宥めるように、鷹津は欲望を優しく擦り上げてくる。そのくせ、再び欲望が滾ったようなギラギラとした目を向けてくるのだ。
 鷹津という男がかつて、どんなふうに自分を求めてきていたのか、唐突に和彦は思い出す。荒んだ粗野な獣のようで、そんな男を拒むどころか、自分は嬉々として受け入れていたことも。
「――全部、俺に見せろよ。どうせここには誰も来ねーんだ」
 抗いがたい強烈な疼きが背筋を駆け抜け、和彦は喉を鳴らす。この状況で鷹津の求めを拒めるはずがなかった。

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