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第1話
しおりを挟む「こほん。静粛に。では、定例会議、百合レズ談義を始めます」
「静粛とかそんな厳かなものじゃないじゃん!! いえーい!!」
「進行は、わたくし折笠百合子が担当致します。何を言っているの、今日こそ百合とレズは別物だってこと証明してやるわよ!!」
「んなもん、どっちでも良いで結論で良いと思うけどなぁ。まぁ、その前に百合について語りましょうや。あ、我々の名前のことではなく、女性同士の友情、恋愛についてのね」
ここは高校の1年A組の教室。今は放課後、クラスメイトは各々帰宅したり、部活に向かったりして残っているのは、この百合談義なるものをしている進行役の折笠百合子と、能天気に参加している白澤百合である。
「いいわ。百合の醍醐味と言ったらやはり、綺麗な女の子同士が魅せる清らかな関係でしょ? 作品にもよるけど、たいてい現実の関係性はドロドロとしたものであるけどもそれを潔癖な麗しい友情やさらには昇華された愛情が描かれていることであるわね。現実では表面上は仲良くても裏では……って感じで女同士の友情って難しい所あるし」
「さすが、議長の百合子さんですなぁ。あたしはキスシーンが好きだな。柔らかな体と柔らかな体が接するというというところが癒しだなぁ」
「そうね、女の体というのは特徴的に丸みを帯びていて安心感をもたらすからね。百合は女性向け、百合を邪魔する野郎に制裁を」
「男の娘で百合というのもいけすかねぇよな。LGBTQIA(+)を否定するわけではないが、百合はやはり純粋な女の子と女の子でくっついているのが百合と言って欲しい」
「純粋な女の子×純粋な女の子=百合。これに異論は互いにないのはいつものこと」
百合子は机を裁判で裁判官がハンマーを叩くかのように、拳で机を叩く。
「しかし、ここからが議題の本題よ。百合とレズは同じか否か。私は百合とレズは別物であるとするわ」
「えぇ~時間かけて議論することかなぁ。では、議長の百合子さん、あたしは百合とレズは同じものであると思うので違う点を述べてください」
百合子は大きく息を吸い、そして吐ききった。そして大声で叫ぶ。
「レズは、AV(アダルトビデオ)のジャンルでしょー!!」
「は? え? どういうこと?そして、AVにルビがふってある……」
「ルビは心の清らかな読者がアニマルビデオやオーディオビジュアルの略かもしれないということに考慮されてふってあるのよ!! レズは純潔な百合への冒涜だと思っているのよ。描写が何もかも汚い。今回取るのはアダルトビデオのAVよ。アニマルビデオの百合を取り上げるのもありだけど!! 人間同士じゃなくたって語れるわよ、私達!!」
「はぁ、それは一理あるな。百合は花言葉にある通り、純潔のイメージがあるからな。そして、高校1年生、AV見てんじゃねぇ」
「今時の少年漫画にしても少女漫画にしてもエロ描写が結構過激なのもあるくらいだし、もはや全年齢とR-18の違いすらわからなくなっているわね。あぁ、もうこれは百合じゃないわ!! って怒りたくなる作品沢山あるのよね、AVにしても、メジャー作品でも、ネットの無名の作品でも、タグ付けが違ーーーう!!って思わず叫びたくなってしまうの。キスの音は汚い、愛撫の仕方が雑、避妊具つけないというエチケットがなっていないと、とにかく見ていて不快なのよ。ヤバイ奴では、常識の身だしなみすらないのよ」
「なるほどな。AVのくだりは無視されたが、そう言われてみたらそうかもしれないと納得できるな」
うんうんと頷いている百合に百合子はなんでやねんとビシィと手を当てる。
「っと、突っ込み入れてやるわ。あんたも見ているわね、この説明を聞いて納得できるということは。」
「もうこれ、AVの話だよね……?」
「一番、五感に訴えかけてくる媒体というのは動画になるから必然的にAVの話が長くなるわね。あ、でも漫画とか官能小説とかでも、擬音が汚らしいのはレズ判定ね」
「何が大人な行為だ。幼児退行を見せつけてくれるんじゃねぇ!!!!!相手を思いやれず一方的な行為は幼稚なんだぜ」
「百合に汚らしさは不要。それは言葉遣いだろうと、行動だろうと。どう、これを聞いてあんたも百合とレズは違うものだということにも納得できたでしょう?」
「ふむ、具体的に示されるとわかりやすい。AVはないなと。だが、思ったことがある」
「何?」
「女性向けAVのレズものならばどうだろうか?百合とも言える?」
「女性向けAV…!! それは、女性向けに作られた演出が映像に虜にされるべく、登場俳優にこだわり、脚本にこだわり、愛撫の仕方にこだわりがあるAV…!!」
「女性向けAVは百合なのかレズなのか…!! ごくりっ……」
固唾を飲んで見守る百合。決断を迫られる百合子。
「女性向けAVは……」
「女性向けAVは……?」
「レズね」
「レズなんだ」
「もう出版会社がそう定義してるから。我々が女性向けAVのジャンルを今更百合とは呼ばないわよ。でも見るなら女性向けね。あれは好感度高いわね。過去の男性向けレズものを焚書ならぬ焚映像したいくらいだもの」
「百合警察か……!!」
「百合を愛する公務員ここに爆誕……!!」
「政治家の方が良いかしら。憲法から変えて」
「どんどん規模がでかくなっていく。そういえば、もう一つある」
「GLはどうよ? 百合と同義で良いの? それともレズ寄り?」
「その作品の作風によってとしか言いようがないわね。清いならば百合、汚れならばレズ!!」
「なるほど。GLと表記の場合は読んでみてからの判断と。でも、現状の作者のこれらの表記の振り方って、結局好みだよな」
「まぁ、その通りなのよね。私達、ただの百合好き高校生が、清い女性同性愛ものならば百合、汚れ女性同性愛ものならばレズとか決めたところで、他の作者の割り振り方が変わるわけではない。私は花言葉と掛けているから百合という表記が好きなのよね。百合の花言葉は純潔と素敵だから」
「それはわかる。あたしなんか百合という名前だけど、純潔に当てはまっているかな?」
「この人という人に純潔を捧げればそれは清い百合になるわよ。あとついでに言うならば、私にだって百合が含まれるわよ。百合子だもの。私も純潔に相応しい名前になっているかしら」
「そういえば、お互いの恋愛話ってしたことがなかったよね。じゃあ、聴こう。あたし達の関係って何だ?」
「私達の関係? そうね。清き百合を愛し守る。友愛の百合を咲かせし仲よ」
「友情の方の百合だよな。だもん、お前と恋愛関係になれる気がしない」
「それはこちらの台詞よ。互いの性癖知った百合仲間ってだけで、愛情が育つわけではない。百合舐めんなよ百合」
「最後あたしのこと呼んでだが、百合のこと指しているんだかわかりにくいな文字だと。イントネーションで判断しないとな」
「私、百合子はプラトニックな百合が好きなのに対して、百合はキスとか手繋ぐとか触れ合う百合が好きなのよね。これって恋愛観にも当てはまるのかしら?」
「さぁ、恋人いたことないからわからないね。恋人と青春する時間を百合子と過ごしているからさー。じゃあ、もう百合子が恋人でよくね?」
「私はプラトニックな百合が好きだから……触れ合いはないのよ、それでも……良いの?」
百合子は頬をほんのり赤く染めながら問う。
「何故、急にしおらしくなってやがんだ。まぁ、最初は清い関係も悪くないだろう? 慣れてきたらあたし色に染めてやるよ……」
「レズにしないなら……って何、このノリ」
「え、自分から振ってきておいてそりゃないだろ」
「でも、確かに私達、作品内の恋愛事はよく語っていても、自分達の恋愛観って語ったことないわよね。百合と過ごしてきているのに」
「入学早々、休み時間に百合本読んでいる同士を見つけたあたしが百合子に話掛けてこうして放課後一緒に過ごすようになって。もうすぐ冬休みを迎えようとしている」
「春夏秋冬、ずっと百合のことを放課後に百合について語らい続けていただなんて。百合の話題は時を進めるのを早くするわね」
「毎日、百合の話しようとトキメキを覚えていたわ……私、百合に対して恋愛感情あったのかな……?」
「また、文章だとややこしいよな。この場合ならば、恋に恋している自分みたいな感じじゃないか?」
「え、違うよ。あんたに対して恋愛感情あったのかな?って思ったのよ。あんたと過ごす時間にトキメいていたんだから」
「違うだろ、話している話題についてだろ。そして、それはさっきお前さんが定義つけた友愛を咲かせし同士なんだろ?」
「そっか。そうね。私達はあくまで友愛の百合ね。あやうく無理矢理百合にするところだった」
「無理矢理でなるものか!?」
「さて、あと千字何について語ろうか」
「何というメタ発言……この小説はもはや、小説というよりは作者の百合とレズは違うもんだろという突っ込みをただ、文字に書き起こしたものだから落ちがないのだよな」
「ねぇ、百合、気になる人……いないの? 実はいるんじゃないの?」
「いないよ。これからも百合子と百合談義する為に作って暇なんてありはしないよ。ほら今週も共に小遣いを割り勘して買った百合雑誌について語って締めよう」
「巻頭カラー、『約束などしなくても』ついに漫画化来たー!!!!! 作者のシィータソルトよくやったわ」
「本当はなってないけど、この小説の世界線では、第2回百合文芸小説コンテスト作品の1つが漫画化したんだよね。またしてもメタ発言。百合よりギャグ寄りになっているよ、この小説やりたい放題だな。さて、気を取り直して、社会人百合。学生の頃ならば、平日約束なんて交わさなくても体調不良などで休まない限り毎日会うことは約束されている。大して、社会人は同じ職場に勤め、同じシフトなど条件が重ならないと共に過ごす時間というのは休みの日と限られてしまう……あぁ、社会人百合切ないよ」
「そうね。こうして、百合と友愛の百合百合できているのも期間限定。これからも百合について語りましょう。私達の青春はとっくに百合色に染まっているわね」
「またしても文字だとややこしいな。あたしとの青春は百合色だな。卒業までやるからな。恋人作んなよ。百合子」
「百合こそ」
「これからも百合談義で百合百合しましょうね」
「ねぇねぇ、今度さぁ、自分達の好きなシチュエーションを描いた創作物で百合談義するのよくない?」
「楽しそう!! 創作で表現した方が言葉で表現するよりも好きをよりわかりやすく表現できるわ」
「あたしは絵を描くの好きだから、イラストで好きなシチュエーション描いてみるよ」
「私は実は小説書いているから、持ってくるわ!!」
「あたしは二次創作なんだよね。実は一緒に読んでる百合雑誌の『願わくばもう一度会いたい』の2人を描いてる」
「イラスト描けるの良いわよね~。百合のイラストはちゃんと百合なのでしょうね?」
「もちろんさ、全年齢向けの制服着て手繋いでいる程度のイラストさ。そういう百合子こそ、R-18レズもの官能小説なんか書いていないだろうな?」
「何てこと……身近な人からファンアートが貰えるだなんて……」
「へっ?どういうこと?」
「つまり、『願わくばもう一度会いたい』の作者は私ってことよ」
「ななな、なんだってーーー!!!!! 思えば、この作品、プラトニックだ。あれでも触れ合ってるじゃないか。キスシーンだってあるし」
「別に良いじゃない……!! 実は触れ合いシーンがあるのも好きって言うのが何か、照れくさかったのよ……!!」
「何だよ~、じゃあ、これからは百合の触れ合いについても語りあえるじゃん!!」
百合が百合子の手を取りぶんぶん振って喜ぶ。
百合子はみるみる顔が赤くなる。
「どうした、百合子、顔を赤くして」
「急にあんたが手を取るから照れてしまったじゃない……!! やっぱり、私、百合のこと……意識して……!?」
「はははっ、面白いからこのまま手繋いでいてやれ~!!」
「やめなさいよっ!!暑くなるでしょ!!」
「ほれほれ~」
「ああ~っもう!!」
ただ、ぎゅっと握られていただけの手を振りほどき、百合子はこう言う。
「では、明日の議題は、来週発売される百合雑誌の新作について!!これにて閉廷!!」
「待て、百合子が商業デビューしていたことについてもだ!! いつからしていたのか、小説を何歳から書いていたのかとか色々質問攻めしてやるからな!! よっ、先生!!」
百合レズ談義の結果、百合とレズは違うものとなった。そして、2人の関係は友愛の百合を咲かせし同士から、少し変わりつつある……かも?
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