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12 心は自由
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「えーと」
どこから突っ込めばいいのか、回らない頭で考える。口に出せば、混乱した頭が整理されるだろうか。
「私の思い違いであればいいと、心の底から願うのだけれど、もしかすると、あれはラウル様のお声かしら」
「もしかしなくても、ラウル様です」
「即答」
嘘でもいいから否定して欲しかった。しかも、先ほどのセリフは何だ。彼は二重人格者なのか。それはそれで、怖い。
「なぜ、私は、誘拐されたことになっているの?」
「想像の域を出ませんが……。私が屋敷を出た後、爆発音がしました。おそらく、お父様がドアを破壊したのでしょう。その時、ラウル様と思しき騎士が、血相を変えて屋敷に向かう姿をお見かけしましたから……」
たまたま騒動に気付いて、屋敷に駆けつけてみると、私はいない。だから、誘拐されたと勘違いしたのか。
その後、なぜ学園に来たかは謎だが、ちょうどそこにいた偽門番が怪しいと睨み、誘拐事件の犯人とした。多少のズレはあるが、思い込みで犯罪者を見抜くとは、めちゃくちゃな人だ。
「まさか、私を心配しているのかしら」
「……理性が吹き飛ぶほど」
「うわあ」
吹き飛ぶのは、ドアだけで十分だ。お父様も、適当な言い訳をしておいてくれればいいのに。しかも、散乱した部屋を見られたかもしれない。いつもは綺麗にしているのに。ナタリーが。
「お気を確かに」
いっそのこと倒れたい。でも、ここは数少ない大切な居場所だ。今後、学園に居づらくなったら、どうしてくれる。守るもののために、私は立ち上がった。
「ええ。的外れとは言え、私のために狼藉者と戦っておられるのは、理解しているわ。
今から、ラウル様の所へ参ります。会って話せば、誤解も解けるでしょう」
「まだ危険です。もう少し後にされては?」
もう少しどころか、行かなくて済むのなら永遠に行きたくない。だが、私にはやるべきことがある。
「ラウル様の通信器を取り上げたいの」
また放送が入ったらと思うと、居ても立っても居られない。妹は、秒で納得した。
「では、護衛を呼びましょう。
一つだけ、約束してください。婚約を取り消したいなどと、口が裂けても言わないで欲しいのです。
今までのラウル様の態度を見て、お姉様がそう思われるのは無理もありませんが、時期尚早です。早まった行動はお控えください」
「なぜ?」
「……えらいことになるからです」
ずいぶんと、ぼんやりしている。すでに結構な騒動に巻き込まれているのに、これ以上、何が起こると言うのだろう。
それに、貴族でも心は自由であるべきだ。行動は制限され、身分に相応しい振る舞いを求められても、夢見ることくらい、許されてもいいではないか。
思うようにならない現実に苦しくなった時も、想像の世界を旅することで、束の間の夢が見られる。
それは現実逃避ではなく、心のエネルギーをチャージしているのだ。前を向いて生きるために。
それすらも奪うなど、言語道断だ。私は、子孫繁栄のための人形ではない。
「お父様が、怒っていらした理由が分かったわ。ローズとレオンに『婚約者をやめたい』と伝えたのがいけなかったのね」
表現の自由まで奪われ憤慨する私とは逆に、妹は青ざめた。
「レ、レオン様に!? 大変! 止めなくちゃ!」
ソフィは令嬢モードをかなぐり捨てて、走って行った。ナタリーと同じ反応なのが気になるが、入れ違いで護衛が来てくれたので、考えるのをやめて馬屋に向かう。正門までは距離があるので、ソレイユに乗って行くのだ。
(あら、遅刻者かしら)
遅れて登校してきた生徒たちが、全力で走って来る。すれ違い様に「引き返せ! 巻き添えを食うぞ!」と忠告してくれるが、私だって行きたくはない。
しかし、暴走した彼の口を止めなければならないし、必要ならば加勢をせねば。非常時に備えて、スカートの下には、常に暗器を忍ばせているのだ。
「あれ?」
正門に着いたのに、誰もいない。移動したのだろうか。この辺りは、森のようになっていて見通しが悪い。ソレイユと周囲を見て回ろうとした時、護衛が動いた。
「アリス様、お下がりください!」
直後に、『キーン!』『ドン!』『ぐわっ!』と不穏な音がした。ソレイユは驚き暴れるが、何とか宥めて近くの木に手綱を結ぶ。落ち着くまでは、ここで待っていてもらうことにした。
「行かれますか?」
「ええ。無茶はしないわ」
護衛と安全を確認しながら歩くと、少し開けた所に、騎士の制服に身を包んだ、ラウル様を見つけた。足元には、四人の偽門番が転がっている。
その傍らに落ちている剣は、騎士団に支給されているものだ。全て真っ二つになっているが、あれは、そう簡単に折れる代物ではない。ラウル様の力量が分かる。
「終わったようですね。彼も怪我はなさそうだ」
護衛の言葉が、耳に入ってこない。
なぜならば、私の目は、ラウル様に釘付けだったから。
その一挙手一投足から、目が離せない。
(こんなの、おかしい。男性に対して免疫がないからだわ。一時的な、気の迷いよ)
木漏れ日がさす、明るい所に彼はいた。
剣を鞘に収めると、ふうっと、息を吐いて首元を緩める。
憂いをたたえた表情でありながらも、その姿は美しく、光り輝いていた。
まるで、理想の王子様のように。
どこから突っ込めばいいのか、回らない頭で考える。口に出せば、混乱した頭が整理されるだろうか。
「私の思い違いであればいいと、心の底から願うのだけれど、もしかすると、あれはラウル様のお声かしら」
「もしかしなくても、ラウル様です」
「即答」
嘘でもいいから否定して欲しかった。しかも、先ほどのセリフは何だ。彼は二重人格者なのか。それはそれで、怖い。
「なぜ、私は、誘拐されたことになっているの?」
「想像の域を出ませんが……。私が屋敷を出た後、爆発音がしました。おそらく、お父様がドアを破壊したのでしょう。その時、ラウル様と思しき騎士が、血相を変えて屋敷に向かう姿をお見かけしましたから……」
たまたま騒動に気付いて、屋敷に駆けつけてみると、私はいない。だから、誘拐されたと勘違いしたのか。
その後、なぜ学園に来たかは謎だが、ちょうどそこにいた偽門番が怪しいと睨み、誘拐事件の犯人とした。多少のズレはあるが、思い込みで犯罪者を見抜くとは、めちゃくちゃな人だ。
「まさか、私を心配しているのかしら」
「……理性が吹き飛ぶほど」
「うわあ」
吹き飛ぶのは、ドアだけで十分だ。お父様も、適当な言い訳をしておいてくれればいいのに。しかも、散乱した部屋を見られたかもしれない。いつもは綺麗にしているのに。ナタリーが。
「お気を確かに」
いっそのこと倒れたい。でも、ここは数少ない大切な居場所だ。今後、学園に居づらくなったら、どうしてくれる。守るもののために、私は立ち上がった。
「ええ。的外れとは言え、私のために狼藉者と戦っておられるのは、理解しているわ。
今から、ラウル様の所へ参ります。会って話せば、誤解も解けるでしょう」
「まだ危険です。もう少し後にされては?」
もう少しどころか、行かなくて済むのなら永遠に行きたくない。だが、私にはやるべきことがある。
「ラウル様の通信器を取り上げたいの」
また放送が入ったらと思うと、居ても立っても居られない。妹は、秒で納得した。
「では、護衛を呼びましょう。
一つだけ、約束してください。婚約を取り消したいなどと、口が裂けても言わないで欲しいのです。
今までのラウル様の態度を見て、お姉様がそう思われるのは無理もありませんが、時期尚早です。早まった行動はお控えください」
「なぜ?」
「……えらいことになるからです」
ずいぶんと、ぼんやりしている。すでに結構な騒動に巻き込まれているのに、これ以上、何が起こると言うのだろう。
それに、貴族でも心は自由であるべきだ。行動は制限され、身分に相応しい振る舞いを求められても、夢見ることくらい、許されてもいいではないか。
思うようにならない現実に苦しくなった時も、想像の世界を旅することで、束の間の夢が見られる。
それは現実逃避ではなく、心のエネルギーをチャージしているのだ。前を向いて生きるために。
それすらも奪うなど、言語道断だ。私は、子孫繁栄のための人形ではない。
「お父様が、怒っていらした理由が分かったわ。ローズとレオンに『婚約者をやめたい』と伝えたのがいけなかったのね」
表現の自由まで奪われ憤慨する私とは逆に、妹は青ざめた。
「レ、レオン様に!? 大変! 止めなくちゃ!」
ソフィは令嬢モードをかなぐり捨てて、走って行った。ナタリーと同じ反応なのが気になるが、入れ違いで護衛が来てくれたので、考えるのをやめて馬屋に向かう。正門までは距離があるので、ソレイユに乗って行くのだ。
(あら、遅刻者かしら)
遅れて登校してきた生徒たちが、全力で走って来る。すれ違い様に「引き返せ! 巻き添えを食うぞ!」と忠告してくれるが、私だって行きたくはない。
しかし、暴走した彼の口を止めなければならないし、必要ならば加勢をせねば。非常時に備えて、スカートの下には、常に暗器を忍ばせているのだ。
「あれ?」
正門に着いたのに、誰もいない。移動したのだろうか。この辺りは、森のようになっていて見通しが悪い。ソレイユと周囲を見て回ろうとした時、護衛が動いた。
「アリス様、お下がりください!」
直後に、『キーン!』『ドン!』『ぐわっ!』と不穏な音がした。ソレイユは驚き暴れるが、何とか宥めて近くの木に手綱を結ぶ。落ち着くまでは、ここで待っていてもらうことにした。
「行かれますか?」
「ええ。無茶はしないわ」
護衛と安全を確認しながら歩くと、少し開けた所に、騎士の制服に身を包んだ、ラウル様を見つけた。足元には、四人の偽門番が転がっている。
その傍らに落ちている剣は、騎士団に支給されているものだ。全て真っ二つになっているが、あれは、そう簡単に折れる代物ではない。ラウル様の力量が分かる。
「終わったようですね。彼も怪我はなさそうだ」
護衛の言葉が、耳に入ってこない。
なぜならば、私の目は、ラウル様に釘付けだったから。
その一挙手一投足から、目が離せない。
(こんなの、おかしい。男性に対して免疫がないからだわ。一時的な、気の迷いよ)
木漏れ日がさす、明るい所に彼はいた。
剣を鞘に収めると、ふうっと、息を吐いて首元を緩める。
憂いをたたえた表情でありながらも、その姿は美しく、光り輝いていた。
まるで、理想の王子様のように。
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