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45 総力戦
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「僕の見立てでは、アリスとユルにかけられた呪いは、質が似ています。今も、二人の力が互いに結び付き、少しずつ中和しているようです。働きかけによっては、穏やかな解呪に導けるかもしれません」
レオンの話が本当ならば、ユルを助けられるかもしれないのか。話の輪に加わりたくて、ラウル様に下ろしてもらうようお願いする。
「そのままではダメだ」
シーツを体に巻くか、着替えることを条件に、開放してくれると言う。ドレスが切れていることを、気にかけてくれているのだ。
「このくらい平気ですよ?」
裂けた布の間から、腹部や足が少し見える程度で、たいしたことはない。
「俺が平気じゃない。嫌なら、このままだ」
なるほど。令嬢として見苦しいとか、はしたないということだろう。私が露出狂として痴漢行為を行うのも申し訳ないので、仕方なく提案を受け入れることにした。ドレスは一人では脱げないため、シーツを巻くことにする。作業する私を背に隠しながら、ラウル様は話を進めた。
「策はあるのか」
「術の進行には、ユルの精神状態が大きく影響しています。外からアリスがエネルギーを削いでいますが、並行して、内側からも攻めましょう」
「理屈は分かるけれど、具体的にはどうしたらいいの?」
「本人が喜ぶこと、渇望しているものを思い出させて、生きる希望に繋げるんだ」
いや、言うのは簡単だけど、大変だよ。
信頼関係が築けていない人の言葉で、絶望の淵に立つ彼の心を動かすことができるとは思えないし、私には自信がない。同じことを考えたのだろう、ラウル様がクロードに振る。
「いけるか?」
「もちろん。ユル様は、俺の恩人だ」
ラウル様に促されて、彼はユルの前に跪く。
「まずは、感謝を。あなたのおかげで、俺は大切な仲間とも出会えましたし、教養を身に付けることもできました。ユル様は、俺にとって父であり、兄です」
「……俺は、おまえが思っているほど、できた人間じゃない。それでも、おまえのことは、弟のように思っている」
ユルにとっても、クロードは家族のような存在なのだろう。ポツリポツリと語るうちに、声に力が宿っていく。
「嬉しいです」
クロードはニッコリ笑い、ユルの雰囲気も柔らかくなった。
二人が話している間にも、闇同士は互いの体から自動的に影を補充し、ポゥッと打ち消し合っていく。それは、慰め合っているようにも見えた。解呪はうまくいっているようだ。
これなら、私も参戦できるかもしれない。ユルには、母親思いの息子という印象を受けたから、そこに訴えかけてみよう。私もクロードの隣に膝をついて、ユルと視線を合わせる。
「ユルさん、お母さまはご存命なのですね。では、ご自分で無事をお伝えしてはいかがでしょうか。きっと、お喜びになりますよ」
私の言葉を聞いて、ユルの機嫌は急降下した。
「……気休めはよせ。俺が今夜、死ななかったとしても、逮捕されて裁きを受け、やがては死罪だ。どうやって故郷へ行けと言うのだ。ああ、そうだな。いっそのこと、重い体を脱ぎ捨てて、魂だけになれば自由になれるか」
いかん、失言!
私は術を解くことに夢中で、彼に多くの罪があることを忘れていたのだ。ユルの気分は一気に落ち込み、闇は再び濃さを増していく。
「ごめんなさい! あなたを傷付けるつもりはありませんでした! 浅はかな私を、お許しください!」
思わず、彼の手を握った。咄嗟に行動してしまったが、さきほど私を切り刻んだものは、消失していて助かった。
ユルは驚き、頬を赤く染める。意外にも初心な反応に、私もビックリだ。もしや、彼の故郷は男女の触れ合いを禁じる風習でもあったのだろうか。今どき、古風なお土地柄だが、ありえない話ではない。
ならば、さらにショックを与えれば、いろいろ吹き飛ぶんじゃないかな!? ついでに、私のミスも含めて、全てなかったことにしてください!
思い切って、私は彼をハグした。ラウル様とレオンから、息を呑む気配がする。家族以外の男性と抱き合うことに抵抗はあったが、これ以外、挽回する方法が私には思い付かなかったのだ。
レオンの話が本当ならば、ユルを助けられるかもしれないのか。話の輪に加わりたくて、ラウル様に下ろしてもらうようお願いする。
「そのままではダメだ」
シーツを体に巻くか、着替えることを条件に、開放してくれると言う。ドレスが切れていることを、気にかけてくれているのだ。
「このくらい平気ですよ?」
裂けた布の間から、腹部や足が少し見える程度で、たいしたことはない。
「俺が平気じゃない。嫌なら、このままだ」
なるほど。令嬢として見苦しいとか、はしたないということだろう。私が露出狂として痴漢行為を行うのも申し訳ないので、仕方なく提案を受け入れることにした。ドレスは一人では脱げないため、シーツを巻くことにする。作業する私を背に隠しながら、ラウル様は話を進めた。
「策はあるのか」
「術の進行には、ユルの精神状態が大きく影響しています。外からアリスがエネルギーを削いでいますが、並行して、内側からも攻めましょう」
「理屈は分かるけれど、具体的にはどうしたらいいの?」
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いや、言うのは簡単だけど、大変だよ。
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「いけるか?」
「もちろん。ユル様は、俺の恩人だ」
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「……俺は、おまえが思っているほど、できた人間じゃない。それでも、おまえのことは、弟のように思っている」
ユルにとっても、クロードは家族のような存在なのだろう。ポツリポツリと語るうちに、声に力が宿っていく。
「嬉しいです」
クロードはニッコリ笑い、ユルの雰囲気も柔らかくなった。
二人が話している間にも、闇同士は互いの体から自動的に影を補充し、ポゥッと打ち消し合っていく。それは、慰め合っているようにも見えた。解呪はうまくいっているようだ。
これなら、私も参戦できるかもしれない。ユルには、母親思いの息子という印象を受けたから、そこに訴えかけてみよう。私もクロードの隣に膝をついて、ユルと視線を合わせる。
「ユルさん、お母さまはご存命なのですね。では、ご自分で無事をお伝えしてはいかがでしょうか。きっと、お喜びになりますよ」
私の言葉を聞いて、ユルの機嫌は急降下した。
「……気休めはよせ。俺が今夜、死ななかったとしても、逮捕されて裁きを受け、やがては死罪だ。どうやって故郷へ行けと言うのだ。ああ、そうだな。いっそのこと、重い体を脱ぎ捨てて、魂だけになれば自由になれるか」
いかん、失言!
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「ごめんなさい! あなたを傷付けるつもりはありませんでした! 浅はかな私を、お許しください!」
思わず、彼の手を握った。咄嗟に行動してしまったが、さきほど私を切り刻んだものは、消失していて助かった。
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