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FT
幸福の鳥
しおりを挟むこれは私たちを守ってくれる幸福の鳥なのよ。
記憶の中の母はそう言って、代々受け継がれてきた青い鳥のネックレスを私にくれた。
十歳になった日のことだ。
遠い日の思い出は美しくて、ただただ美しいだけのものだった。
もう、あの日は戻ってこない。
胸元で光る鳥のネックレスはとっくに色あせ、所々黒ずんでいる。手にとり太陽にかざすと、きらりとも反射せず、鈍く、どこまでも鈍かった。
眼下に広がる街並は、かつて両親と共に歩き、アイスクリームで口元を汚せば、綺麗な刺繍をほどこされたハンカチで拭われる。そんな、当たり前の家族と愛があった。
しかし、それはもう過去でしかない。
「ジン。」
名を呼べば、音もなく横に現われる男がいる。
「始めましょう。全て壊してはじめるの。」
ちらりと視界の端にうつった騎士姿の男は、私の心を刺激するが封じ込める。もう、それはいらないものだ。
私は私であってもういない。広げた両手からうまれた無数の黒い鳥たちが空に飛び立つと、瞬く間に暗雲と化し悲劇の雨を降らせはじめる。頭上にふっと影が降り、見上げればジンが傘を差していた。かわいらしい苺柄の傘だ。
「あの男がこちらに来ている。」
「ならば招待状を送りましょう。ダンスパーティの始まりよ。」
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