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瞬く時
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あれから僕はたくさんのことをライラに教えて貰った。
相変わらず暗くなるとライラはどこかへ帰っちゃうけれど、それは仕方がないことらしい。
人間というのはお日様が出ている明るい時にしか動けないんだって。
じゃあ僕はなに?
まえにライラに僕は何かって聞いたら首を捻って、人間じゃない?と言われたけど絶対に違うと思う。
だけど、僕自身にも僕がなにかはわからない。
「あ、ライラ」
「おはようラシール。今日も早いわね」
「ライラは勉強じゃないの? 昨日、ムジナさんが慌てて走りながら愚痴こぼしてたよ。ライラはちっともおとなしくしてくれないって」
「あらまあ、そんなことはどうでもいいじゃないの。今が大事なのよ今が。勉強なんてしていたら………ううん、なんでもないわ」
「ライラ? 顔色悪いよ」
「ラシール? そういうときは黙っているものよ」
ライラは随分と大きくなった。
もうあのころの小さいじゃない。
うんと背が高くなって、綺麗な黒い髪も長くなった。
長くて風が吹くとひらひらしていたからつい手でぐしゃって掴んだら怒られた。
うん、いい思い出。
「そういえば最近モリーみないね」
「モリーはもうおばあさんだからね。ちょっと休憩中よ」
「へえ、おばあさん」
大きくなったライラは朝の少しの時間だけここにくる。
それで少し喋ったらすぐにどこかへ行っちゃうんだ。
もっと喋りたいけど、それを言ったらなんだか悲しそうな顔をしたからあれから一度も聞けない。
なんでライラは僕とずっと遊ばなくなったんだろう。
どれだけ考えてもその答えは見つからなくて。
―――無駄だ止めよう。
そう、考えるのを止めるように言われる。
でもそんなことをしたら…。
ぼくはなんだか怖くなって頭を振った。
「ラシールよくきいて。もうこれからあなたとは会えない」
「な、なんで!?」
その日は空の機嫌が悪くて、だからライラも機嫌が悪くてそんなことを言ったんだと思った。
「わたし、結婚するのよ」
「結婚………? それってなに?」
「遠くへ行くの。だから、ここにはもう来れないのよ」
「遠く………」
「ラシール………あなたをここに残していくのはとても怖い。でも、わたしにはどうすることもできないのよ」
「ライラ、それはよくないもの? ライラ苦しい? 痛い顔してる」
「ううん、とても幸せよ。大好きな人なの」
「大好き………」
「でもいつかきっとまた、ここに誰か来るわ。小さいころのわたしのように。だから寂しくない。待っててラシール。きっとまたここで会えるから」
ライラはそう言って去って行った。
それからは、誰も来ない。
だからぼくも、またはじめのときのようにずっと箱にいる。
なにもない日々。
以前の僕なら当たり前のことすぎて何も思わなかっただろう。
だけど、今の僕は知っている。
これは孤独だ。
さびしいって気持ちだ。
ライラは大丈夫だって言ったけど、それはいつまでだろう。
いつまでぼくはこの気持ちを抱えて待てばいいんだろう。
知らなかったあのころなら耐えられたのに、今は………。
さびしいさびしいさびい。
さびしいよライラ。
なんでぼくはずっとひとりなんだろう。
ここはどこ?
なんでぼくはずっとここにいるの。
なぜ、なんのために?
あの時消したはずの疑問が次々と現われては消えていく。
頬を流れるこれは涙だろうか。
拭っても拭っても溢れてきて止められない。
どうして。
なぜ。
どれだけの月日が経っただろう。
あれから僕はずっと目を閉じている。
たまに意識が浮上しては変わらない現実に打ちのめされて再び全てを閉じることを繰り返していた。
「―――いけません王! ここは封印された塔なのです! ここには呪われた獣が!」
「ええい、うるさいわい。そうでもしなければこの国はどうなるんじゃ! そんな迷信にも頼らねばならないほどの事態じゃろう!」
「―――なりません!」
「どけ!」
久しぶりの音だ。
でもライラじゃない。
「―――おお、真じゃった。これが呪いの子か」
「…なんて醜い」
「そこの獣、いや子よ。わしはこの国の王ストラス。おまえの力が必要じゃ。この国のためにその力を使うのじゃ」
「―――ライラ」
「ん? 今言葉を発したのか? おい、喋れるなど聞いたことがないぞい。まあ、でもそのほうがやりやすいのう」
「…ライラとはあなたの十四番目のお子様の名ではないでしょうか?」
「んん! そうかライラのことを知っておるのか。ならば早く力を貸したほうがいいのではないかのう。早くしなければライラが死んでしまうかもしれんからなあ」
「死ぬ………?」
「もう二度と会えないということです」
「会えない…二度と」
きっとまたここで会えるから。
そうライラの言ったあのときの言葉を思い出す。
死んだら会えない。
ライラが死ぬ?
それはいやだ。
「いや、だ………」
「そうでしょう? ならばおまえのその呪われた力で、愚かにもこの国に攻め入ってきた敵国を一掃しなさい」
呪われた力。
呪われた獣。
呪われた子。
それが僕の本当の姿?
王だという太った男と痩せ細った眼鏡の男の瞳にうつるその姿は―――。
伸び放題の毛に埋もれた鋭い牙と尖った耳。
黒い獣だ。
そうか、僕は人間じゃないのか。
相変わらず暗くなるとライラはどこかへ帰っちゃうけれど、それは仕方がないことらしい。
人間というのはお日様が出ている明るい時にしか動けないんだって。
じゃあ僕はなに?
まえにライラに僕は何かって聞いたら首を捻って、人間じゃない?と言われたけど絶対に違うと思う。
だけど、僕自身にも僕がなにかはわからない。
「あ、ライラ」
「おはようラシール。今日も早いわね」
「ライラは勉強じゃないの? 昨日、ムジナさんが慌てて走りながら愚痴こぼしてたよ。ライラはちっともおとなしくしてくれないって」
「あらまあ、そんなことはどうでもいいじゃないの。今が大事なのよ今が。勉強なんてしていたら………ううん、なんでもないわ」
「ライラ? 顔色悪いよ」
「ラシール? そういうときは黙っているものよ」
ライラは随分と大きくなった。
もうあのころの小さいじゃない。
うんと背が高くなって、綺麗な黒い髪も長くなった。
長くて風が吹くとひらひらしていたからつい手でぐしゃって掴んだら怒られた。
うん、いい思い出。
「そういえば最近モリーみないね」
「モリーはもうおばあさんだからね。ちょっと休憩中よ」
「へえ、おばあさん」
大きくなったライラは朝の少しの時間だけここにくる。
それで少し喋ったらすぐにどこかへ行っちゃうんだ。
もっと喋りたいけど、それを言ったらなんだか悲しそうな顔をしたからあれから一度も聞けない。
なんでライラは僕とずっと遊ばなくなったんだろう。
どれだけ考えてもその答えは見つからなくて。
―――無駄だ止めよう。
そう、考えるのを止めるように言われる。
でもそんなことをしたら…。
ぼくはなんだか怖くなって頭を振った。
「ラシールよくきいて。もうこれからあなたとは会えない」
「な、なんで!?」
その日は空の機嫌が悪くて、だからライラも機嫌が悪くてそんなことを言ったんだと思った。
「わたし、結婚するのよ」
「結婚………? それってなに?」
「遠くへ行くの。だから、ここにはもう来れないのよ」
「遠く………」
「ラシール………あなたをここに残していくのはとても怖い。でも、わたしにはどうすることもできないのよ」
「ライラ、それはよくないもの? ライラ苦しい? 痛い顔してる」
「ううん、とても幸せよ。大好きな人なの」
「大好き………」
「でもいつかきっとまた、ここに誰か来るわ。小さいころのわたしのように。だから寂しくない。待っててラシール。きっとまたここで会えるから」
ライラはそう言って去って行った。
それからは、誰も来ない。
だからぼくも、またはじめのときのようにずっと箱にいる。
なにもない日々。
以前の僕なら当たり前のことすぎて何も思わなかっただろう。
だけど、今の僕は知っている。
これは孤独だ。
さびしいって気持ちだ。
ライラは大丈夫だって言ったけど、それはいつまでだろう。
いつまでぼくはこの気持ちを抱えて待てばいいんだろう。
知らなかったあのころなら耐えられたのに、今は………。
さびしいさびしいさびい。
さびしいよライラ。
なんでぼくはずっとひとりなんだろう。
ここはどこ?
なんでぼくはずっとここにいるの。
なぜ、なんのために?
あの時消したはずの疑問が次々と現われては消えていく。
頬を流れるこれは涙だろうか。
拭っても拭っても溢れてきて止められない。
どうして。
なぜ。
どれだけの月日が経っただろう。
あれから僕はずっと目を閉じている。
たまに意識が浮上しては変わらない現実に打ちのめされて再び全てを閉じることを繰り返していた。
「―――いけません王! ここは封印された塔なのです! ここには呪われた獣が!」
「ええい、うるさいわい。そうでもしなければこの国はどうなるんじゃ! そんな迷信にも頼らねばならないほどの事態じゃろう!」
「―――なりません!」
「どけ!」
久しぶりの音だ。
でもライラじゃない。
「―――おお、真じゃった。これが呪いの子か」
「…なんて醜い」
「そこの獣、いや子よ。わしはこの国の王ストラス。おまえの力が必要じゃ。この国のためにその力を使うのじゃ」
「―――ライラ」
「ん? 今言葉を発したのか? おい、喋れるなど聞いたことがないぞい。まあ、でもそのほうがやりやすいのう」
「…ライラとはあなたの十四番目のお子様の名ではないでしょうか?」
「んん! そうかライラのことを知っておるのか。ならば早く力を貸したほうがいいのではないかのう。早くしなければライラが死んでしまうかもしれんからなあ」
「死ぬ………?」
「もう二度と会えないということです」
「会えない…二度と」
きっとまたここで会えるから。
そうライラの言ったあのときの言葉を思い出す。
死んだら会えない。
ライラが死ぬ?
それはいやだ。
「いや、だ………」
「そうでしょう? ならばおまえのその呪われた力で、愚かにもこの国に攻め入ってきた敵国を一掃しなさい」
呪われた力。
呪われた獣。
呪われた子。
それが僕の本当の姿?
王だという太った男と痩せ細った眼鏡の男の瞳にうつるその姿は―――。
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黒い獣だ。
そうか、僕は人間じゃないのか。
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