【完結】LILACの花言葉は思い出

日野リア

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本当のぼく

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 ライラは安全な所に避難しているんだって。
 そう言われて、言われたままに力をふるった。
 まずは敵の兵士。
 大きな体で散り散りに投げ飛ばして、何人かを噛み砕いたら汚い音をたてて逃げていく。
 はじめて口にいれた人間の味は最悪だった。
 伸びっぱなしの毛がもつれて、そこに血がたくさんつくからさらにひどい。
 そのまま敵の国に行って蹂躙する。
 たくさんたくさん音がする。
 どれも聞いたことのない音だ。
 あれは恐怖っていうんだ。
 そう、きっとそう。
 よくないことだ。
 ライラがそう言っていた。
 でも、ライラを助けるためだからしょうがない。
 あの太った男が言っていた。
 全てが終わったらライラに会わせてくれるって。
 だから頑張らないと。
 
 その時、僕は見た。
 まだ小さい女の子が僕から逃げて逃げて逃げて。
 同じように逃げる馬車にひかれそうなった。
 咄嗟に馬車に体当たりして女の子を守る。
 驚いて転んで僕を見上げる目は恐怖でいっぱいだけど、どこか見覚えのある―――。

「お嬢様!」

「うわあああん。まりあー!」

 女の子を素早く助け出して走り出す大人の女。
 その手にあるのは―――。
 ―――モリーだ!
 見覚えのあるもじゃもじゃの体。
 前に見た時よりもくすんでよれていたけれど僕にはわかる。
 あれはモリーに違いない。
 あれ、でもどうしてモリーがここにあるんだろう。
 気になって追いかける。
 もう敵国だとかあの男の命令とかどうでもよかった。
 そんなことよりもモリーの方が気になる。
 モリーを持っているあの子はだれ?

「ねえ、それってモリー?」

 ずっと追いかけてるのも大変だから前に回って思い切って聞いてみた。
 ライラも思い切りは大事だって言ってた。
 でも、いきなり音をだしたからか二人はびっくりして反対に逃げ始めた。

「ねえ、まって。まってよ。もうなにもしないよ」

「ひ、ひいいいいい! お、おたすけを!」

「ままああああああ!」

 追いかけっこを続けていたらいつのまにか敵の兵士に囲まれていた。
 なんだこいつらモリーに何かするつもりか?
 モリーはライラの大事なお友達なんだ。
 僕が守ったって知ればライラはきっと喜んでくれる。



 ――――――。
 ―――…。
 …。

 結論。
 僕は何もできなかった。
 いきなり体が動かなくなって、気がついたら僕の体は地に伏せていたんだ。
 喋ろうとすると美味しくない液体が口から溢れてきてうまくできない。
 これは血?
 人間を噛んだときと同じ味がする。
 化け物の僕も人間と同じ味がするんだなあ。
 モリーを抱えた女の子が敵国の兵士に守られているのが見える。
 そっか、ここは安全なんだ。
 よかった…よかった…。
 
「ねえ! あなたモリーしってるの!?」

 遠くから音がする。
 あの女の子だ。
 ああ、答えてあげたいけど僕は今喋れないんだごめんね。

「モリーはおばあさまの大事なものなの! あなた、おばあさましってる!? ライラっていうのよ! おばあさまのなまえ!」

 ライラ。
 そうか、ライラの…。

「ライラ………ぼくのともだち…」

 かすれていたけれど、少しだけ喋れた。
 それを聞いて女の子が周りの制止を振り切って僕の方へやってくる。

「ちょっと! わたしはこうしゃくけのレイラよ! じゃましないで!」

「―――お嬢様お待ち下さい危険です!」

 高飛車なところとかそっくりだなあ。
 気が強くて、しっかりしてて、真っ直ぐなあの目。

「わたしのなまえはレイラ! あなたは?」

「―――ラシール」

「そう、やっぱりね。おばあさまがなくなるまえによくはなしてくれたもの。こきょうのおともだちのこと!」
「あなたはわるいわんわんだけど、でもおばあさまのさいこうのともだちだったのね」

 優しく鼻先を撫でられる。
 ああ、ライラ。
 ぼくのはじめての友達。
 この子はきみにそっくりだ。
 僕はこの子の国の人をたくさん殺したのに、この子は僕を優しく撫でる。
 やさしくやさしく。
 そうしているうちに目が閉じていく。
 ライラ。
 ライラ。
 また会いたい。





■■■





 気がついたらいつもの箱にいた。
 いや、もう箱とはいえない壊れて機能を放棄した檻の中で。
 長い年月が経ったのか植物が生えて建物は風化している。
 そうか。
 僕はずっとここにいた・・・・・んだな。
 この檻にいれられたあの日、僕は死んだんだ。
 ライラと会うずっとずっと前のこと。
 たぶん父だろう人に閉じ込められて、食料も水もなくて死んだんだ。
 そして、いつのまにかこんな姿になっていた。
 
 ここは死んだあとの世界?
 そろりそろりと外に出てみる。
 はるか向こうに崩れた大きな建物と、その中央から複雑に顔をだす巨木が見えた。
 ここはどこだろう。

「ちょっと! あなたなにしてるの!? それ、わたしのだいじなものなの!」

「―――うぇ!? え、あっとごめんなさい」

「ふふ。じょうだんよ!」

「え―――」

 いきなりかけられた声にびっくりして反射的に謝ると、くすくすと笑われた。
 女の子だ。
 僕の足元になにかが落ちている。
 これはもじゃもじゃな………。

「これ、きみの?」

「そうよ。モリーっていうの。わたしのだいじなおともだち」

「モリー………」

「モリーはね。わたしのおかあさまからもらったもので、おかあさまもおばあさまからもらったのですって」

「君は………」

「わたし? わたしはライラよ! あなたは?」

「ぼく、は………ラシール」
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