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聖なる武器と勇者様
しおりを挟む「武器が欲しかったのに……」
アミーリアことリアは手渡されたソレを見て落胆した。
それは一見紙製、実は触っても紙製。事実紙製のものだった。
蛇腹状に折られていて、片方の端は赤いテープで巻かれている。どうやらその赤い部分が取っ手のようであるが……。
「立派な武器だぞ?」
そう真面目な顔で言ったのは仲間のレンだ。
黒い髪に黒い瞳。どこか他の人とは違った顔つきの彼は、この世界では人外の証であるはずの同色の色を持つ稀有な人間だった。だがもちろん、彼はれっきとした人間だ。ただ、異世界からの訪問者ゆえ、この世界の常識の枠の外にあるというだけだ。
ひょんなことからこの世界に落ちてきた彼は、他の人間が思いもつかない武器や技の知識があり、魔法や武力以外の面で勇者一行の要となっていた。
だからリアは自分にも使える武器を考えてほしいと依頼したのだ。なのに――――
「これは俺の世界でれっきとした鈍器なんだ。ハリセンという名前の由緒正しいツッコミ専用の武器なんだぞ? マティアスのツッコミ要員であるリアにぴったりだ。あ、これはこっちは扇状に広げてだな」
などといい、ハリセンの蛇腹を広げるレン。
「で、こっちで対象物の頭を叩く、と。いい音するぞ~。ルファーガに依頼してリーリスの花を織り込んだ紙を特別にエルフに梳いてもらったんだ。神官のエルゼにももちろん、祝福してもらってある。どうだ、立派な対勇者と魔族用の武器だろう?」
「……」
ドヤ顔でそんなことを言うレンの頭こそハリセンで叩いてやりたいと思ったリアだった。
リアの幼馴染のマティアスは勇者だ。二年前女神の宣託を受けて魔王と戦うために立ち上がった。
だがそこにリアの多大なる犠牲があったことを知る人間は少ない。
藍色の髪に、新緑の瞳。鍛え上げられた体躯。端整な顔立ちと、卓越した戦闘センスで歴代最強と呼ばれる勇者マティアス。
一見完璧の彼に憧れる女性は後を絶たない。
だが、本人は寝ても覚めてもリア一筋。
べったりリア一筋。
リアが居なければきっと夜も眠れないという鬱陶しい残念な人物であった。
勇者の宣託を受けたときだって、
「俺はリアと離れたくない。だから勇者なんてやらない。旅している間にリアが別の男とくっついたら困るだろう?」
と言って、勇者になるのを拒否した男だ。
神官たちや周囲に懇願され、仕方なくリアも勇者一行のメンバーとして旅をすることになったのは、ひとえにリアが傍にいないと彼女恋いしさに勇者の役目を放棄しかねないマティアスのせいである。
おまけにマティアスときたら、
「リア、魔王を倒すことができたら俺と結婚して欲しい。リアがそうしてくれるなら、頑張れる気がする。いや、死ぬ気で頑張る」
と言われ、これまた周囲の哀願と圧力に屈して結婚の約束をしてしまったリアであった。
――つまり今のリアの身分は「勇者の婚約者」なのだ。
だがはたから見たら無理矢理婚約者にさせられた形のリアではあるが、その点に関しては実はすでに諦めの境地だった。何しろ生まれた時から一緒に育ってきた幼馴染。昔からマティアスはリアにべったりで、周囲もいずれくっつくものと暗黙のように思っていたし、本人も漠然とそうなるだろうなと思っていた。
なにしろマティアスのせいで男が寄ってこないのだから他に選択肢はない。
それになんだかんだ言っても、リアはマティアスに弱いのだ。見捨てられないし、情がすっかり移っている。
だから遅かれ早かれ、マティアスと結婚ということになっていただろう。結果は変わらないのだから、それを励みに魔王を討伐してくれれば御の字である。
だが、勇者一行のメンバーとして旅をするのは別だ。何しろリアは癒しの力はもっていたが、勇者一行と旅をするほど魔力や実力があるわけでもない。
幸い、いつの間にやら身につけていた【隠密】スキルのおかげで戦闘時は隠れて巻き込まれてないですんでいるが、みんなが戦っているのに一人安全圏にいるのが心苦しくて仕方ないのだ。
だから、こんな自分でも扱える武器を作って欲しいとレンに依頼したのだが――――
「ハリセンなんて……」
ハリセンをぶんぶん振り回しながら嘆くリア。それでも受け取って練習しているのは根が真面目だからである。
『叩けば一定時間魔族を動けなくすることができるんだ。もちろん、人間には普通のハリセンと変わらんから、遠慮なくマティアスを叩いてもいい。もっともマティアスの動きは止められないけど』
魔族を動かせなくする、つまりその間に逃げろということだ。
だけど動きを止めるくらいなら、魔獣を殲滅できるくらいの武器が欲しかった。それも、近接武器より遠距離武器。それだったら自分だって何とかできたかもしれないのに……。
しかもマティアスは止められないときている。むしろマティアスこそ止めたいくらいなのに。
なぜなら最近彼ときたら――――
「リア! 次の宿屋に着いたら一緒に風呂に入ろう。そしてベッドも一緒に――」
近づいてきたかと思うと抱きつきながらいきなりそんな事を言う勇者に、リアの手の中のハリセンが唸る。
スパーーーーン!!
小気味いい音がマティアスの頭で鳴った。
「痛っ」
「一緒になんて入らないわよ」
「昔は一緒に入ってたじゃないか」
口を尖らせて涙目でそんなことを言う勇者マティアス、二十歳。これが勇者だなんて世も末である。
「子供だったからでしょ!」
「いいじゃないか。婚約しているんだし。エルゼとラーシュだって婚約してるけど――」
「人は人、私たちは私たちなの!」
リアは叫んだ。
これが最近の大きな悩みのタネだった。
魔法戦士であるラーシュと神官のエルゼは仲間として出会って以来愛を育み、このほど婚約したのである。
非常にめでたい話だし、マティアスもリアも喜んだ。
だが、婚約を機にやたらと二人でイチャイチャするのはものすごく迷惑なのだった――主にリアにとっては。
何しろ戦闘中や旅の道中はともかく、宿につくや否ややたらと人目を憚らずイチャつくのだあの二人は。部屋も一緒にして欲しいと言い張る。つまりは行き着くところまでいっているのである。
おかげで今まで彼らと同室になることが多かったマティアスとリアはそれぞれあぶれて――更に二人に感化されたのか、マティアスがやたらと迫ってくるのだ。
「結婚するまで同じベッドになんか入らないわよ!」
「酷いな、リア。俺がずっと我慢しているのを知っているのに、イチャつく二人を見せられてもまだ我慢しろというのか。なんてイケズなんだ。……ああ、だけどそんなSなところも好きだ!」
「誰がSだ!」
スパーーーーン!!
再びハリセンが唸りマティアスの頭にヒットした。
思春期を共にすごしてきた二人だったが、未だにそういう関係ではない。
もちろん、年が年なのでお互いそういう欲求はある。だが、ひとたびそういう関係になったら絶対夜も離してくれなさそうなマティアスに、リアは結婚するまではダメだと言い張っているのだ。
昼だってべったりなのに、夜までそうなったら鬱陶しいことこの上ない。そう思うリアはできるだけその時を延ばすつもりでいる。そして迫るものの、リアに無理強いはできないマティアスが事に及ぶことはない。
よって二人はまだ未だに清らかな身体だった。
そんな二人に、ラーシュとエルゼのイチャイチャぶりは目の毒だった。特に我慢に我慢を重ねているマティアスにとっては。
「くそう……一刻も早く魔王を倒すぞ……! 俺とリアの新婚生活の為に!」
「あー、頑張ってね」
宣言するように叫ぶマティアスに、内心でそんなに急がなくていいと思いながら気のない声援を送るリアだった。
***
「リア、離れていろ!」
「は、はい!」
リアは自身のスキル【隠密】を発動させて、街道沿いの大きな木の陰に身を隠した。
隠密とはその名の通り、敵に発見されにくくなるスキルだ。自分から目立つような行動を取らない限り敵にリアの存在が気取られることはない。
――次の街に向かって大きな街道を移動している最中、魔獣の一群と出くわした。
普通、こんな主要な街道に、しかも昼間から堂々と魔獣が現れることはあまりない。しかも団体さんだ。単独行動を好む魔族は徒党を組むことはめったに無い上に、現れるのも夜と相場は決っていた。
だが、今は魔王がこの世に存在している。
魔王がいると魔族は凶暴化し、群れをつくって人間を襲うのだ。個々の力も強くなっている。だからこそ勇者が必要とされるのだった。
女神レフェリアが選んだ、魔族と魔王を討伐する存在――勇者が。
勇者に与えられた専用の武器である聖剣を鞘から抜いて、赤い目を不気味に光らせる魔獣に向かって振るうマティアス。
一撃の元に、聖剣によって魔力の核を分解されたその魔獣は霧散した。
普段はリア命のただの変なイケメンだが、マティアスの戦闘技術は優れていた。おそらく天賦のものだろう。大して大きくない村の鍛冶職人の息子なのだが、それ故に幼い頃から剣や武器に慣れ親しんでいたこともあって、その強さは戦士であるラーシュも舌を巻くほどである。
それに女神の宣託後に磨かれた魔力が加わって、驚くほど短期間に勇者として恥じない力を身につけるようになった。
そうこうしているうちに周囲を複数の魔獣に取り囲まれたマティアスは、剣を握っている手とは反対の手を目の前にかざした。そしてたった一言だけつぶやく。
「《聖なる焔》」
魔法の詠唱の最後の単語だった。高い魔力をもつゆえ、魔法の詠唱は最小限で済むのだ。
その単語を言い終わった直後、マティアスの手から生まれた炎が放たれた。オレンジ色に輝くその火はマティアスを守護している火の精霊の力と彼の炎の魔法が組み合わさったものだ。
その炎は瞬く間に周囲にいた複数の魔獣を飲み込み――炎が治まった頃、魔獣は一握りの灰を残すこともなく消え去っていた。
リアが他方に目を転じてみれば、ラーシュが大きな両手剣を振るっていた。その少し下がった場所では神官であるエルゼが自分とレンの両方に神聖魔法による結界を張りながらラーシュの剣やレンの武器に『祝福』を与えている。
マティアスが持つ聖剣とは違い、通常の武器は魔族に傷をつけることすら叶わないのだ。なぜなら魔力で作られた魔族の身体は頑強で、たとえ傷つけても斬った先から魔力で修復されてしまうからだ。
一般の武器が魔族に傷を付けようと思ったら神官の神聖魔法による『祝福』が必要だった。だがそれは一定の時間で切れてしまう。追加の『祝福』が必要なのだ。
そのエルゼの背後でレンが自身の武器であるラケットを手に、魔力で作られた光の珠を魔獣に向かって打ち込んでいた。
「だって俺テニスしかできないし!」
とはレンの談だ。
テニスとは彼の世界の球技の一つで、コート上で玉を打ち合うスポーツだったらしい。県大会とやらまでいったというレンの腕は確かで、彼の放つサーブは確実に魔獣を沈めていった。
だが、本人はその武器にいたく不満らしい。
「だってテニスが武器なんて恰好悪いだろうが! くそう、弓道や剣道とかやっておくべきだった……!」
と常日頃からそう文句を言っている。
もっとも、彼の武器はテニスだけではない。スマホと呼ばれる彼の世界の魔具から流れる神聖魔法に似た旋律の言葉は魔族を弱体化させることができるのだ。
「まさかこんなところで気まぐれに入れておいたラテン語のアプリが役立つとはね……」
とはまたもや本人の談だ。もっとも他のメンバーには彼が何を言っているのかさっぱり理解できなかったのだが。
ちなみにそれを動かすには魔力ではなくて電気と呼ばれるものが必要らしいが、たまたま買ったばかりの手回し充電機付き懐中電灯のおかげで補充できるらしい。
「防災意識が高まっていたからなぁ。とりあえずあの日、偶然にもこれを買ってこいと命じたオカンに感謝しておこう」
そんなレンの少し離れたところではルファーガが杖を手に魔法を繰り出していた。少年の姿をしているが、エルフである彼はパーティの中で一番魔法に長けている。
「《光の雷》」
雷光が矢のように魔族を打ち据える。
「《闇の疾風》」
闇色の小さな竜巻が不意に現れ、魔獣を飲み込むと同時に消失させる。
ルファーガは最後の鍵となる単語の詠唱だけで強力な魔法を繰り出しては魔獣を屠っていった。
そんな彼らの様子をリアは歯がゆい思いで眺めていた。
みんな命がけで戦っているのに、自分だけが安全圏で眺めているだけなんて……!
これではいつまで経ってもリアはマティアスの付属品でお荷物という状態から脱出できないではないか。
……始めはマティアスに強引に連れ出された旅だった。もちろん戦うつもりもなかったしそんな技術もない。
だけど、旅を始めて仲間がどんどん増えていって、そしてみんなを好きになって仲間意識が芽生えてくると、そんな状況が嫌になってきた。
回復役というだけじゃなくてもっとみんなの役に立ちたかった。だからレンに武器を頼んだのだ。
だが、自分が下手に出て行けば足手まといになるのは目に見えている故にどうすることもできない。魔獣の動きを止めるだけじゃ倒せないのだから。
そんな自分を情けなく思いながらハリセンを握り締めるリア。
だがそんな彼女に声が掛けられた。レンだった。
「リア、【隠密】を発動させたままあいつらのところへいってそのハリセンで叩いてみて」
と攻撃の手を止めた彼が言いながら指したのはこっちを窺ってまだ攻撃をしかけてきていない複数の魔獣だった。熊や狼に似た形態の魔獣で、出来るならお近づきにはなりたくない類の魔族だ。
だけど――――
リアはおそるおそる木の陰から出て行った。
怖いといえば怖いけど、マティアスの視線がリアに勇気を与えた。
大丈夫だと言っているように見えたのだ。何かあったら必ず自分が守ってみせると。だから大丈夫だと。
リアは【隠密】スキルを発動させたままハリセンを持って魔獣たちの背後からそっと近づいていった。
そして振りかぶり――まずは狼型の魔獣の頭を一発。
スパーーーーン!!
ハリセンの音が街道にこだました。
だがそれをノンビリ聞いているまもなく、リアはその横にいた巨大な熊の背中をハリセンで叩く。
スパーーーーン!!
さらに横にいたヒョウ型の魔獣の頭に一発。
立て続けにその場にいた魔獣をハリセンで叩いていくリア。叩かれた魔獣は振り返ることなく一様にその場に固まっている。それに勇気付けられたリアは更に近くにいる魔獣を叩いていく。
スパーーーーン!!
スパーーーーン!!
スパーーーーン!!
「よし、エルゼ、あの技だ!」
レンがエルゼを振り返って言った。
「了解!」
エルゼは懐からリーリスの花の紋章が描かれた本を取り出すと、それを開いて神聖魔法の詠唱を始めた。
我は願う、我は請う
その世を作りし光の女神よ
其は始め 其は終わり
始めと終わりを司りし女神よ
古き誓約のもと 我は願う
光の戒めの輪
「リア、そこから離れて!」
「は、はい!」
レンの指示が飛び、リアは慌てて動かない魔獣から離れてエルゼたちの下へと走った。
リアがその場を離れると同時に固まった魔獣たちを大きくぐるりと取り囲むように光のラインが地面に現れる。
清らかなる水よ
其は命の源 其は天の祝福
再生を司るものよ
古き誓約のもと 我は願う
揺蕩う流れ 永久に下らん――
「――《寄せる波動》(アクアクトゥス)!」
エルゼが最後の鍵となる単語の詠唱を終えたと同時に、光のラインの内側がブゥンと唸りを発し、それから内側にいた魔獣全てがまるで二重写しになったかのように形をブレさせ始めた。
「へぇ、面白いことをしますね。結界に閉じ込めて神聖魔法の韻を増幅させてぶつけているわけですか」
ルファーガが感心したように言った。
その間もブゥンと内側の不快な音は止まらない。ますます高くなる一方だった。
「おうよ。神聖魔法は基本的には守るための魔法で、攻撃するためのものじゃない。与えたりすることは得意でも奪うことは得意じゃないんだ。だが魔族は神聖魔法に含まれるラテン語に近い音の韻を嫌うんだろう? 彼らの魔力の核が揺らぐから。だったらもっと揺らがせてやれば存在を保てなくなるんじゃないかと踏んだんだ」
思惑が当たったことにちょっぴり得意げな顔になってレンは言った。
ルファーガが目を細めて魔獣たちの様子を見ながら頷く。
「いい着眼点です。魔力で形成させた器だけじゃない――魔力の核の輪郭すら揺らぎ始めていますよ。ほら」
ルファーガがそう言うのと同時に唸るようなその音が不意に止んだ。するとどうだろう、魔力の核もゆらぎ始めていた魔獣たちの姿が大きく歪んだと思ったら、一斉に光のラインの中から消えうせたのである。
――まるで始めから何もなかったかのように。
この光景は残りの魔獣たちに恐怖を与えたようだった。
魔獣はそれほど知能は高くない。だが、それ故に本能と感に優れている部分があり、彼らはこの場に色濃く残る神聖魔法の気配に本能的に恐怖と忌避を感じたのだ。自分の存在があやうくなるようなものがここにあると。
そして本能からくる恐れは人を襲えと言う上位からの存在の命令を凌駕したらしい。生き残った魔獣たちは一斉に姿を消した。自分の足でその場から去るもの、移動の魔法でこの場から消えるもの、それぞれの方法で。
――ふと気づくとその場に残っていたのは勇者一行の姿だけであった。
半ば呆然とそれらを見ていたリアにレンが声を掛けた。
「お疲れさん、リア。お前のおかげで魔獣の動きを止められた。サンキューな」
その言葉にのろのろとレンを見返したリアは尋ねた。少しおずおずとして。
「わ、私、少しは役に立ったのかな」
「もちろん立ったわよ!」
エルゼが力強く頷いた。
「あの技、詠唱が長いのが難点でね。そのうち改良してもっと短くさせたいんだけど、とにかく詠唱しているその間、やつらを光の輪の中で大人しくさせる必要があったから実用的じゃなかったのよね。今回、リアが魔獣の動きを止めてくれたからうまくいったのよ」
「リアの魔力は魔族を抹殺するほど強くないですからね。だけどリーリスの花を織り交ぜたその武器なら、少ない魔力でも敵の動きを止めることができます。隠密のスキルを持つリアにはちょうどいい武器だと思いますよ」
とルファーガ。
「よく頑張ったな、リア」
ラーシュが微笑みながらリアの頭を撫でた。
「みんな……」
リアはつんと鼻が痛くなるのを感じた。
涙が零れそうになった。
みんなにはリアの足手まといになりたくない、役に立ちたいと焦る気持ちがわかっていたのだろう。だからリアでも何とか使える武器を考えてくれたのだ――それがハリセンなところが何がひっかかるものを感じるが。
「ありがとう、私、私、これからも頑張るから!」
指で涙を払いながらリアは言った。
「おうよ。あの技はお前の助力がなければできないんだからな」
「そうそう。よろしく頼むわね!」
「リア!」
声がして不意に後ろからギュッと抱きしめられた。マティアスだ。
「さすが俺のリア。あのハリセンを振りかぶる勇姿は一生俺の脳裏に焼きついたぞ。……だけど無理はしないでくれ。リアに何かあったりしたら、俺は生きていけないんだから」
「マティアス……」
「リア。俺のリア。リアが傍にいてくれるから俺は勇者として立っていられるんだから……」
少々震える声でそう言うと、マティアスはリアを抱きしめる腕に力を更に込めた。
そうだ、とリアは今更ながら思い出す。
卓越した戦闘技術をもっていてもマティアスは元はただの気のいい村人だ。人を傷つけることを嫌い、武器は守るためだけに使うものと言って、憚らなかった。それが相手は魔族とはいえ剣を手に戦っているのだ。その魔族がたとえ人を傷つけてないとしても殲滅しなければならないのだ――世界の存続のために。
このマティアスがそれに苦しまないわけはない。傷つかないわけがないのだ。
それを世界の為、いや、リアのためと言うことで歯を食いしばりながら耐えている。おそらくそう思うことで崩れ折れそうになる心をなんとか立たせているのだろう。
マティアスはリアを思い、リアを守ることで心の均衡を保とうとしてるのだ。
「マティアス……」
リアはぐるりとマティアスの腕の中で向きを変えると彼の身体に手を回した。
最初からリアは役立たずではなかったのだ。ずっとずっとマティアスを支えてるという大事な役目を果たしていたのだから。
「マティアス、大丈夫、私は傍にいる。ずっとあなたの傍にいるから」
「リア……」
マティアスは縋るようにリアの首筋に顔をうずめた。
そのマティアスの頭を抱きかかえるように手を回すリア。
だが――――
「ああ、リアのいい匂いがするー」
とリアの首筋でくんくん匂いをかぎ、しかも鼻をぐりぐり首の付け根に押し付け始めるマティアス。
リアの眉がピクリを上がった。ハリセンを持つ手にぐっと力が入る。
「ヤバイ、俺、興奮しそう。リア、リア、次の宿に着いたらぜひ一緒の部屋で休もう。そして俺と目くるめく世界へ――――」
「行くなら一人で行け!」
身を引き剥がすと同時にハリセンが唸りを上げる。
スパーーーーン!!
――勇者の頭の上で小気味良い音が鳴った。
「おやおや、この調子だとリアは魔族を叩く以上に勇者の頭を叩くことになりそうですね」
その様子を見ていたルファーガが苦笑しながら言った。
残念なことにこのエルフの予想は外れることはなく、リアのハリセンの活躍場所は魔族ではなく勇者の頭の上がほとんどということになるのだった――――。
――第十九代勇者マティアス。
その卓越した戦闘技術と高い魔力、そして「白の賢者」ことレン・シロサキによる異世界の知識の助力もあって、第二十一代目勇者が現れるまで歴代最強と呼ばれた勇者である。
だがその活躍の陰に、後の彼の妻であるアミーリアの聖なる武器――ハリセンの活躍があったことは今日ではあまり知られていない。
************************************************
勇者物語にマティアスの残念記述がないのは、レンの配慮によるものらしい……。
****
マティアス――第十九代目勇者。リア命のややヘタレ系残念勇者様。
リア――マティアスの幼馴染にして婚約者。苦労人。
エルゼ――女性の神官。ラーシュとラブラブ。
ラーシュ――魔法戦士。実は貴族でエリューシオン公国の大公の息子だったりする。
ルファーガ――おなじみ外見は白皙の美少年、なエルフ。
レン――白崎廉。異世界トリッパー。家電量販店に買い物に行った直後にこの世界に飛ばされた。ジャーナリスト志望。記録としてスマホで写真や動画を撮りまくっている。今一番の悩みは容量。そろそろメモリいっぱいになりそう。
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