【完結】砂の香り

黄永るり

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旅立ち

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 その日の夕刻。
 さらに荷物を積みつけられたラクダ二頭と共に、サマラとファジュルは中庭に立っていた。
 サマラはファジュルと同じ格好をしている。
 つまり何も知らない人間が見たら、少年が二人いるとしか思えない。
 タージルに男の格好をしていたほうが危険に遭う確率が格段に低くなると言われて男装させられたのだ。
 当然、着替え用に持ってきた普段着のほとんどはここに置いていくことになった。
 着替えて中庭に降りてきてさらに驚いたことに、サマラが紛れられるような商団の一行がいなかった。
 不安げに周囲を見回した。
 商団ともなると人数が多いから王都の外にいるのだろうか。
「サマラ様、ファジュルと二人で不安だとは思いますが、どうかご安心下さいませ。外門の外で待機している者たちがおりますので、その者たちが合流させていただきます」
 サマラはあからさまにほっとした。
「ご存じでいらっしゃるとは思いますが、太陽が落ちると全ての門が閉まります。お急ぎ下さいませ。道中お気をつけて」
「はい。タージル殿、今回のご助力感謝申し上げます」
「我が息子ファジュルを、サマラ様の手足のように自由にお使い下さいませ。ファジュル、サマラ様を頼んだぞ」
 ファジュルは黙って頷いた。
「では行って参ります」
 サマラはファジュルと共にタージルに頭を下げると一頭のラクダの手綱を引きながら館の外に出た。
 王都から外へ。
 この先何が待っているのか、想像もつかないが、サマラは頭をもたげてくる不安を心の底へ必死に沈めながら、一歩ずつラクダと共に進んでいく。
 そして日没寸前に、ティジャーラの王都・円形都市の外へ出た。
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