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大巫女

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 神殿の大巫女ルシュドゥは、その日も執務室に籠っていた。
 様々な書類に署名をしては、黙々と捺印をしていく。
 側仕えの巫女が先ごろ降嫁した巫女・アーシャの文を持ってきた。
 定期的な便での文ではないだけに、ルシュドゥは少しいぶかしんだ。
 書類を処理していた手をとめて、すぐにアーシャからの文を開封した。
 文面には簡単な挨拶の後、後宮の書庫で見つけた先代巫女ラアナの文章の内容がそのまま書かれていた。
「ラアナ、なんてことを……」
 そこに綴られていた内容に、ルシュドゥは驚きつつも、あの誇り高いラアナならばと妙に納得もした。
 文の最後には、ラアナの企みを知ってしまったことでどうすれば良いかと、アーシャからの切実な問いかけで終わっていた。
 低く呻きながら軽く額に手をあてる。
 アーシャの問いかけに、大巫女の自分ですら今は満足な答えを返してはやれない。
 何とかなるように方法はこちらでも考えてみる、とは返書にしたためられるが。
 すでにラアナの強い意志は、未来へ向けて今も現在進行形で動いている。
(今の私にいったい何ができるのだろうか?)
 ルシュドゥは、大巫女の位についてから幾度目かの無力感に襲われた。
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