夫が宇宙人になりまして...

ハミデタニク・イトヲカシ

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 広大な宇宙。

 太陽系の外から最新型の宇宙船が土星に向かって飛んでいた。ものすごいスピードで土星のガスの中に入り、位置を変えながらあっという間に3周回って土星の外へ出た。
 速すぎて光にしか見えない宇宙船。そのまま木星へ行き、同様に3周回ると火星へ向かった。
 地球をスキップして、火星から金星、そして水星へ行き、それぞれ3周ずつ回った後、太陽の中へ入っていった。
 太陽を3周回ったら太陽の外へ抜け出し、大きくUターンをして地球へ向かった。地球の大気圏へ突入すると、軌道を変えて3周した。

 宇宙船の中で大きなスクリーンに地球上のマップが映し出されていた。
 ある小さな島国に矢印が付いていた。
 宇宙船搭載のスーパーコンピューターが乗組員に、着地場所をこの島国に選んだと教えていた。
 選んだ理由として、この国は法律が甘く、国民は騙されやすいと表示していた。
 宇宙船は島国の真ん中へ向かって着地態勢に入った。

 東京のある川沿いを二人の男女が歩いていた。
 男性は少し天然パーマがかかった髪で黒縁メガネをかけていた。女性はセミロングでサイドにレイヤーが入った髪型だった。

「結婚して一年って早かったね。来年の結婚記念祝いは海外でする?」

 二人は夫婦だった。
 妻の質問に夫は回答しなかった。何か考えごとをしているようだった。

「どうしたの、たかし?」
美貴みき、実は相談があるんだ」
「もしかして、お義母かあさんのこと?」
「え! なんでわかったの?」
「同居するのはオッケーよ」
 美貴は笑顔で言った。

「美貴...」
「私、喬のお母さん、大好きよ。初めて会った時から本当の娘のように扱ってくれたし。私、子供の時に両親を亡くしてるから、本当の娘のように扱ってくれてすごく嬉しかった。去年、お義母さんが病気になってから私も心配だったわ。お義父とうさんが亡くなってから、喬を女手一つで育ててきて、その喬が私と結婚して、お義母さんってば、きっと寂しかったんだと思うの」
「美貴...」
 喬は美貴をやさしい目で見つめていた。

 夜空にシューっと流れ星のような線を描き、宇宙船が地上に降りてきた。

 コツン!

 美貴をジッと見つめる喬の頭に、何か小さな石コロのようなものが当たった。
 喬は白目を剥き、その場に倒れた。

「た、喬! 大丈夫? 喬!」
 美貴は喬を揺すった。喬は気を失ったままだった。
「やだ、どうしよう...救急車? 喬、喬! 目を開けて!」

 美貴がバッグからスマホを取り出している間、喬の鼻の穴に透明なアメーバ状のものが入っていった。
 美貴が救急車を呼ぼうと電話しかけたその時、
 パチ!
 喬の目が開いた。

「喬! 大丈夫!?」
「あ...」喬は美貴をジッと見た。「..大丈夫」
 喬は無表情で答えた。
 美貴はホッと一息つき、喬の隣に座った。
「焦った~。よかった...」

 美貴は地面へ手を着いたとき何かに触った。
 見ると、キノコのような形をしたキラキラ光る小さなものだった。美貴は手のひらに乗せてよく見た。
「かわい~。すっごいキレイ! 誰かが落としたペンダントトップかしら? 落ちてたものを拾ったから私のものにしていいわよね。ふふ、キーホルダーにしよっ」
 美貴は拾ったものをバッグの中に入れた。

 喬は物珍しそうに周りの景色をキョロキョロしながらずっと見ていた。

「さ、おうちに帰りましょう!」
 美貴が喬の手をとると、喬はギョッとして美貴を見た。

 立ち上がると、2人は手を繋いだまま帰り道を歩いた。
 その間、喬はずっと美貴を見ていた。

 二人の家は去年の結婚と同時に購入した新築マンションの8階にあった。

「喬、先にお風呂入っていい?」
「..あ、ああ、いいよ」

 喬は美貴がお風呂に入っている間、ベランダに出て、外の景色を180度ジーッと見た。
 その後、部屋の中をキョロキョロ見回し、デスクの上にあるノート型パソコンに目が止まった。
 ゆっくりと近づきパソコンを開いた。

「なんか古いな...博物館で見たヤツに似てるな」

 インターネットの検索エンジン『ゴーグル』を開いた画面を指で触ったまま喬は目を閉じた。
 指がピンク色に輝き、画面上で各サイトのページが次々と高速に展開した。
 しばらくすると目を開き、指を画面から離した。

「日本、東京、会社員..オレの名前は本間ほんま喬か...」

 ガチャッ
「あ~、いい湯だったぁ。喬も入れば?」
 お風呂からあがってきた美貴を喬はジーッと見た。
「...君はオレの奥さん....名前は美貴」

 美貴はきょとんとした。
「...うん。お風呂入らないの?」
「お風呂...入る」
 喬は無表情で答えた。
「お風呂あがったら、使ったタオル入れて洗濯機、回しといて」
「...ああ、わかった」

 無表情でぎこちない動きをする、喬の様子を変に思う美貴だったが、あまり気にせずお茶を淹れ、テレビを見ながらのんびりしていた。
 突然、ガタッ! ゴトッ! と大きな音が風呂場から聞こえた。美貴は慌てて風呂場へ駆けつけた。

「どうしたの?」

 覗くと、風呂場の横に設置してある洗濯機を喬が持ち上げて回そうとしていた。

「なに? 洗濯機がどうかしたの?」
 美貴は裸の喬に訊いた。
「え? 君が洗濯機を回してって言うから」
「やだぁ、洗濯機のスイッチを入れてってことよ。もーどうしちゃったの?」
「...あ、そ、そうか」
 喬は慌てて洗濯機を元に戻しスイッチを押した。
「あははは...」照れながら、美貴を見て笑った。

 変に思った美貴は、リビングに戻るフリをして、こっそり様子を見ることにした。
 喬は洗面所に行き、次はコレだ!と言わんばかりに歯ブラシを指した。
 歯磨きを始めると鏡をジーッと睨みつけ、シャカシャカと音を立てた。

(なんか変...)
 美貴はそーっと見ていた。

 喬はコップの水で口をゆすぐと、ゴクッと飲んだ。
 ガラガラガラガラガラ.....ゴクッ!

(うわっ、飲んだ..!?)
 美貴はドン引きした。

「あ~...」
 喬はうっとりと幸福感に浸る顔をしていた。

 クルッと振り返ると、こっそり見ていた美貴と目が合った。
「あっ、あっ...」
 美貴は慌てたが、喬は落ち着いたまま、
「今日ちょっとデータの整理するからもう寝るね」
 と美貴に微笑み、寝室に入っていった。

「データの整理?」
 美貴は首をかしげた。
(仕事のことかな? ま、いっか。こっちはやることあるし...それにしても、いつから飲むようになったんだろ...前はこんなことしなかったのに...新しい健康法かしら?)

 美貴は深く考えず、明日のお弁当のおかずを作ったり、洗濯物を乾燥機に入れたりと、テキパキと家事をこなしていた。
 その間、喬は真っ暗な部屋で、ベッドで横になりながら、目から壁に向かってピンク色のビームを出していた。
 壁には地球上のあらゆる映像が高速で映し出されていた。
 世界地図、飛行機、戦争、人種差別抗議デモ、オリンピック、災害、建物、学校、通勤ラッシュ、アニメ、携帯電話等々...。

「なーんか低い文明だな~...違う星にすればよかったかな~...」

 両腕を頭の下で組み、足を開き、目からビームを出したまま喬はため息をついた。

「ん?」
 映し出された映像をジッと見た。

 映像と同じ行為をマネた。右手の手のひらを口に持っていき、チュッと投げキッスをした。
 ニヤッと笑った。

「はっは~ん、これがこの星の挨拶か。楽勝だな」

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