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日曜の朝。
朝食を済ませるとタカシは出かける準備をした。
「ちょっと社会見学に行ってくる!」
「迷子になったらすぐ電話してね」
「おう!」
美貴はベランダで洗濯物を干していた。
マンションの前にある川沿いの公園で、タカシは、シェパードを連れてるいつもの老女に会った。
犬がワンワン吠えると、タカシもすぐに四つん這いになりウォンウォンと吠え返した。
ワンワン言う声がベランダまで届いた。
「でた.....ま、これも社会勉強の一つよね...」
美貴は気にせず洗濯物を干し続けた。
タカシは人目も気にせず犬と顔を近づけ、真剣にワンワン吠えながら会話をしていた。
「あの~、あなたは犬語が話せるの?」
戸惑いながら老女が訊いた。
タカシは起き上がり老女を見た。
「はい、今ジャックからあなたは足が弱っていると聞きました」
「まぁ! 本当に話せるの?」
老女が目を大きくして驚くと、タカシはドヤ顔を見せた。
「実は何年か前に膝を手術して治ったはずなんだけど、最近、またちょっと痛み始めて...」
「それなのにジャックと散歩するんですか?」
「ええ、だってジャックは散歩が大好きなのよ」
タカシはキョロキョロした。
「あの、よかったらあそこのベンチに座って少し休憩しませんか?」
二人は公園の中にある、小道沿いのベンチに座った。
「どこで犬語を習ったの?」
「あ~...昔、犬を飼ってたんです。犬の話してる言葉がわかりたくて一所懸命に勉強したんですよ。そしたら、なんとなくわかるようになって...ははは」
タカシは笑顔でごまかした。
「まぁ、そうなの。いいわね。私もジャックと会話したいわ。私はジャックと二人暮しなの。会話ができれば毎日楽しいでしょうね」
ジャックがタカシにワンワンと吠えた。
「ジャックはあなたの言ってることは理解しているそうです」
「知ってるわ。ジャックはとっても賢い子なの。朝、目が覚めると私のベッドの横に座って待っててくれてるのよ。何も言わなくても全部わかってくれるやさしい子なの」
老女は嬉しそうに語った。
タカシがワンワンと犬に伝えると、犬はワッフ~ンとドヤ顔をした。
「僕は本間タカシといいます。去年、結婚して、あそこのマンションに住んでます。まだ1年しか経ってないので、この街のことをよく知らないのです。今日はちょっと散歩していろいろ散策しようと思ってます」
「あら、新婚さんなの! いいわね~。今日は奥さんは?」
「家で掃除洗濯してます」
「家のことをちゃんとやってくれるなんていい奥さんね」
「はは、できた女房です」
「私は中川ミルです。よろしくね、タカシさん」
「ミルさん! 素敵なお名前ですね」
「ふふふ。ありがと。私には甥っ子が一人いるのだけど、甥の奥さんは家事は何もしないぐうたらなの。甥もぐうたらで、家の掃除や料理はすべて家政婦にお願いしてるの。自分たちで雇った家政婦なのに、家政婦の給料を私に払えと言うのよ。ひどいでしょ?」
「そりゃひどいですね」
「二人ともろくに仕事もしないで遊んでばかり。何を言っても聞かないの」
「困ったもんですね...他にご家族はいないのですか?」
「...孫が一人いるの。おとなしい男の子でね、子供の頃、両親が事故で帰らぬ人となって、中学校まで私と一緒に住んでいたんだけど、今は、全寮制の高校に行ってるわ」
タカシはミルの寂しそうな目で語るところが気になった。
「おばあちゃん一人、孫一人の二人暮しなら、僕は全寮制なんて行きませんけど、どうして全寮制の高校なんか選んだんでしょう?」
ミルはため息をついた。
「私がいけないのよ」
「なんかあったんですか?」
「孫は..男の子なんだけど、その..女装の趣味があるの..」
「女装..?」
タカシは頭の中で、インターネットから拾った情報を展開した。
「ある日、孫がスカートを買ってきて、それを着てすごく嬉しそうにしていたから、私が『男の子だからそんなの着ちゃダメよ、男らしくしなさい』と言ったら、それ以来、あまり口を聞いてくれなくなって..私もどう接していいのかわからなくて...そしたら高校は全寮制に行くって...」
「そうですか..」
(女装...楽しそうだな。オレもやってみるか)
「でも、孫はとってもやさしい子なのよ。口では何も言わないけど、子供の頃から毎日私の入れ歯をきれいに磨いてくれるの。たまに週末に家に帰ってくるのだけど、そのときはピカピカに磨いてくれるの」
「なんだかんだ言っても、大好きなおばあちゃんですからね」
「ふふふ..」
タカシはミルが嬉しそうに微笑む顔に和みを感じた。
突然、ジャックが吠えだした。
タカシは何かを察知したように小道の向こう側を見ると、タカシと同じ年頃の男性が白い犬を連れてこっちへ向かって歩いてきた。
「あ! あの犬です」
タカシが向こう側を指さしてミルに言った。
「え? なあに?」
ミルはきょとんとした。
「あの白い犬、ジャックが好きな犬です!」
ジャックはハァハァと息を荒くし、尻尾を振った。
「んまぁ!」ミルは驚いた。
タカシは男性に声をかけた。
「こんにちは。白いシェパードですか。かわいいですね」
「はは、こんにちは。ありがとうございます。雑種なんですけどね、意外に上品なんですよ」
男性は端正な顔立ちで落ち着いた雰囲気だった。
「うちのジャックがそちらのかわい子ちゃんに一目惚れしたようです」
「ははは。ジャック、ごめん、あきらめてくれ。うちの娘は誰にもあげません」
男性は笑ってさっさと断った。
しかし、ジャックと白い犬は顔をペロペロ舐め合い、いちゃつきだした。
「お宅の娘さんもまんざらでもなさそうです」
タカシがチャラけて言うと男性は少し怒った。
「モモコ! こっちにおいで! ダメだよ」
ミルが慌て、
「ジャック、ダメよ。こっちに来なさい!」
と叫ぶと、ジャックは白い犬から離れ、ミルのもとへ行った。
「しつけがいいですね」
男性は少し驚いた様子だった。
「ジャックは本当は盲導犬なの。いずれ目や耳が悪くなる私のために孫が選んだ盲導犬なの。だから、飼い主がよしと言わない限り、メス犬に勝手に近づくことなんてないんだけど、よっぽどあなたの犬が好きみたいね。ごめんなさいね」
ミルは白いシェパードにも「驚かせて、ごめんなさいね」と毛をなでながらニコニコして謝った。
「私は日曜日はこの辺を散歩してますので、いつでも声をかけてください。犬同士を会わせるのは問題ないです」
男性がミルにやさしく言うと、タカシがニヤッとした。
朝食を済ませるとタカシは出かける準備をした。
「ちょっと社会見学に行ってくる!」
「迷子になったらすぐ電話してね」
「おう!」
美貴はベランダで洗濯物を干していた。
マンションの前にある川沿いの公園で、タカシは、シェパードを連れてるいつもの老女に会った。
犬がワンワン吠えると、タカシもすぐに四つん這いになりウォンウォンと吠え返した。
ワンワン言う声がベランダまで届いた。
「でた.....ま、これも社会勉強の一つよね...」
美貴は気にせず洗濯物を干し続けた。
タカシは人目も気にせず犬と顔を近づけ、真剣にワンワン吠えながら会話をしていた。
「あの~、あなたは犬語が話せるの?」
戸惑いながら老女が訊いた。
タカシは起き上がり老女を見た。
「はい、今ジャックからあなたは足が弱っていると聞きました」
「まぁ! 本当に話せるの?」
老女が目を大きくして驚くと、タカシはドヤ顔を見せた。
「実は何年か前に膝を手術して治ったはずなんだけど、最近、またちょっと痛み始めて...」
「それなのにジャックと散歩するんですか?」
「ええ、だってジャックは散歩が大好きなのよ」
タカシはキョロキョロした。
「あの、よかったらあそこのベンチに座って少し休憩しませんか?」
二人は公園の中にある、小道沿いのベンチに座った。
「どこで犬語を習ったの?」
「あ~...昔、犬を飼ってたんです。犬の話してる言葉がわかりたくて一所懸命に勉強したんですよ。そしたら、なんとなくわかるようになって...ははは」
タカシは笑顔でごまかした。
「まぁ、そうなの。いいわね。私もジャックと会話したいわ。私はジャックと二人暮しなの。会話ができれば毎日楽しいでしょうね」
ジャックがタカシにワンワンと吠えた。
「ジャックはあなたの言ってることは理解しているそうです」
「知ってるわ。ジャックはとっても賢い子なの。朝、目が覚めると私のベッドの横に座って待っててくれてるのよ。何も言わなくても全部わかってくれるやさしい子なの」
老女は嬉しそうに語った。
タカシがワンワンと犬に伝えると、犬はワッフ~ンとドヤ顔をした。
「僕は本間タカシといいます。去年、結婚して、あそこのマンションに住んでます。まだ1年しか経ってないので、この街のことをよく知らないのです。今日はちょっと散歩していろいろ散策しようと思ってます」
「あら、新婚さんなの! いいわね~。今日は奥さんは?」
「家で掃除洗濯してます」
「家のことをちゃんとやってくれるなんていい奥さんね」
「はは、できた女房です」
「私は中川ミルです。よろしくね、タカシさん」
「ミルさん! 素敵なお名前ですね」
「ふふふ。ありがと。私には甥っ子が一人いるのだけど、甥の奥さんは家事は何もしないぐうたらなの。甥もぐうたらで、家の掃除や料理はすべて家政婦にお願いしてるの。自分たちで雇った家政婦なのに、家政婦の給料を私に払えと言うのよ。ひどいでしょ?」
「そりゃひどいですね」
「二人ともろくに仕事もしないで遊んでばかり。何を言っても聞かないの」
「困ったもんですね...他にご家族はいないのですか?」
「...孫が一人いるの。おとなしい男の子でね、子供の頃、両親が事故で帰らぬ人となって、中学校まで私と一緒に住んでいたんだけど、今は、全寮制の高校に行ってるわ」
タカシはミルの寂しそうな目で語るところが気になった。
「おばあちゃん一人、孫一人の二人暮しなら、僕は全寮制なんて行きませんけど、どうして全寮制の高校なんか選んだんでしょう?」
ミルはため息をついた。
「私がいけないのよ」
「なんかあったんですか?」
「孫は..男の子なんだけど、その..女装の趣味があるの..」
「女装..?」
タカシは頭の中で、インターネットから拾った情報を展開した。
「ある日、孫がスカートを買ってきて、それを着てすごく嬉しそうにしていたから、私が『男の子だからそんなの着ちゃダメよ、男らしくしなさい』と言ったら、それ以来、あまり口を聞いてくれなくなって..私もどう接していいのかわからなくて...そしたら高校は全寮制に行くって...」
「そうですか..」
(女装...楽しそうだな。オレもやってみるか)
「でも、孫はとってもやさしい子なのよ。口では何も言わないけど、子供の頃から毎日私の入れ歯をきれいに磨いてくれるの。たまに週末に家に帰ってくるのだけど、そのときはピカピカに磨いてくれるの」
「なんだかんだ言っても、大好きなおばあちゃんですからね」
「ふふふ..」
タカシはミルが嬉しそうに微笑む顔に和みを感じた。
突然、ジャックが吠えだした。
タカシは何かを察知したように小道の向こう側を見ると、タカシと同じ年頃の男性が白い犬を連れてこっちへ向かって歩いてきた。
「あ! あの犬です」
タカシが向こう側を指さしてミルに言った。
「え? なあに?」
ミルはきょとんとした。
「あの白い犬、ジャックが好きな犬です!」
ジャックはハァハァと息を荒くし、尻尾を振った。
「んまぁ!」ミルは驚いた。
タカシは男性に声をかけた。
「こんにちは。白いシェパードですか。かわいいですね」
「はは、こんにちは。ありがとうございます。雑種なんですけどね、意外に上品なんですよ」
男性は端正な顔立ちで落ち着いた雰囲気だった。
「うちのジャックがそちらのかわい子ちゃんに一目惚れしたようです」
「ははは。ジャック、ごめん、あきらめてくれ。うちの娘は誰にもあげません」
男性は笑ってさっさと断った。
しかし、ジャックと白い犬は顔をペロペロ舐め合い、いちゃつきだした。
「お宅の娘さんもまんざらでもなさそうです」
タカシがチャラけて言うと男性は少し怒った。
「モモコ! こっちにおいで! ダメだよ」
ミルが慌て、
「ジャック、ダメよ。こっちに来なさい!」
と叫ぶと、ジャックは白い犬から離れ、ミルのもとへ行った。
「しつけがいいですね」
男性は少し驚いた様子だった。
「ジャックは本当は盲導犬なの。いずれ目や耳が悪くなる私のために孫が選んだ盲導犬なの。だから、飼い主がよしと言わない限り、メス犬に勝手に近づくことなんてないんだけど、よっぽどあなたの犬が好きみたいね。ごめんなさいね」
ミルは白いシェパードにも「驚かせて、ごめんなさいね」と毛をなでながらニコニコして謝った。
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