夫が宇宙人になりまして...

ハミデタニク・イトヲカシ

文字の大きさ
8 / 24

しおりを挟む
 日曜の朝。
 朝食を済ませるとタカシは出かける準備をした。
「ちょっと社会見学に行ってくる!」
「迷子になったらすぐ電話してね」
「おう!」

 美貴みきはベランダで洗濯物を干していた。

 マンションの前にある川沿いの公園で、タカシは、シェパードを連れてるいつもの老女に会った。
 犬がワンワン吠えると、タカシもすぐに四つん這いになりウォンウォンと吠え返した。

 ワンワン言う声がベランダまで届いた。
「でた.....ま、これも社会勉強の一つよね...」
 美貴は気にせず洗濯物を干し続けた。

 タカシは人目も気にせず犬と顔を近づけ、真剣にワンワン吠えながら会話をしていた。

「あの~、あなたは犬語が話せるの?」
 戸惑いながら老女が訊いた。
 タカシは起き上がり老女を見た。
「はい、今ジャックからあなたは足が弱っていると聞きました」
「まぁ! 本当に話せるの?」
 老女が目を大きくして驚くと、タカシはドヤ顔を見せた。

「実は何年か前に膝を手術して治ったはずなんだけど、最近、またちょっと痛み始めて...」
「それなのにジャックと散歩するんですか?」
「ええ、だってジャックは散歩が大好きなのよ」

 タカシはキョロキョロした。
「あの、よかったらあそこのベンチに座って少し休憩しませんか?」

 二人は公園の中にある、小道沿いのベンチに座った。

「どこで犬語を習ったの?」
「あ~...昔、犬を飼ってたんです。犬の話してる言葉がわかりたくて一所懸命に勉強したんですよ。そしたら、なんとなくわかるようになって...ははは」
 タカシは笑顔でごまかした。
「まぁ、そうなの。いいわね。私もジャックと会話したいわ。私はジャックと二人暮しなの。会話ができれば毎日楽しいでしょうね」

 ジャックがタカシにワンワンと吠えた。
「ジャックはあなたの言ってることは理解しているそうです」
「知ってるわ。ジャックはとっても賢い子なの。朝、目が覚めると私のベッドの横に座って待っててくれてるのよ。何も言わなくても全部わかってくれるやさしい子なの」
 老女は嬉しそうに語った。

 タカシがワンワンと犬に伝えると、犬はワッフ~ンとドヤ顔をした。

「僕は本間タカシといいます。去年、結婚して、あそこのマンションに住んでます。まだ1年しか経ってないので、この街のことをよく知らないのです。今日はちょっと散歩していろいろ散策しようと思ってます」
「あら、新婚さんなの! いいわね~。今日は奥さんは?」
「家で掃除洗濯してます」
「家のことをちゃんとやってくれるなんていい奥さんね」
「はは、できた女房です」
「私は中川ミルです。よろしくね、タカシさん」
「ミルさん! 素敵なお名前ですね」
「ふふふ。ありがと。私には甥っ子が一人いるのだけど、甥の奥さんは家事は何もしないぐうたらなの。甥もぐうたらで、家の掃除や料理はすべて家政婦にお願いしてるの。自分たちで雇った家政婦なのに、家政婦の給料を私に払えと言うのよ。ひどいでしょ?」
「そりゃひどいですね」
「二人ともろくに仕事もしないで遊んでばかり。何を言っても聞かないの」
「困ったもんですね...他にご家族はいないのですか?」
「...孫が一人いるの。おとなしい男の子でね、子供の頃、両親が事故で帰らぬ人となって、中学校まで私と一緒に住んでいたんだけど、今は、全寮制の高校に行ってるわ」

 タカシはミルの寂しそうな目で語るところが気になった。
「おばあちゃん一人、孫一人の二人暮しなら、僕は全寮制なんて行きませんけど、どうして全寮制の高校なんか選んだんでしょう?」
 ミルはため息をついた。
「私がいけないのよ」
「なんかあったんですか?」
「孫は..男の子なんだけど、その..女装の趣味があるの..」
「女装..?」
 タカシは頭の中で、インターネットから拾った情報を展開した。

「ある日、孫がスカートを買ってきて、それを着てすごく嬉しそうにしていたから、私が『男の子だからそんなの着ちゃダメよ、男らしくしなさい』と言ったら、それ以来、あまり口を聞いてくれなくなって..私もどう接していいのかわからなくて...そしたら高校は全寮制に行くって...」
「そうですか..」
(女装...楽しそうだな。オレもやってみるか)

「でも、孫はとってもやさしい子なのよ。口では何も言わないけど、子供の頃から毎日私の入れ歯をきれいに磨いてくれるの。たまに週末に家に帰ってくるのだけど、そのときはピカピカに磨いてくれるの」
「なんだかんだ言っても、大好きなおばあちゃんですからね」
「ふふふ..」

 タカシはミルが嬉しそうに微笑む顔に和みを感じた。
 突然、ジャックが吠えだした。
 タカシは何かを察知したように小道の向こう側を見ると、タカシと同じ年頃の男性が白い犬を連れてこっちへ向かって歩いてきた。

「あ! あの犬です」
 タカシが向こう側を指さしてミルに言った。
「え? なあに?」
 ミルはきょとんとした。
「あの白い犬、ジャックが好きな犬です!」
 ジャックはハァハァと息を荒くし、尻尾を振った。
「んまぁ!」ミルは驚いた。

 タカシは男性に声をかけた。
「こんにちは。白いシェパードですか。かわいいですね」
「はは、こんにちは。ありがとうございます。雑種なんですけどね、意外に上品なんですよ」
 男性は端正な顔立ちで落ち着いた雰囲気だった。
「うちのジャックがそちらのかわい子ちゃんに一目惚れしたようです」
「ははは。ジャック、ごめん、あきらめてくれ。うちの娘は誰にもあげません」
 男性は笑ってさっさと断った。

 しかし、ジャックと白い犬は顔をペロペロ舐め合い、いちゃつきだした。

「お宅の娘さんもまんざらでもなさそうです」
 タカシがチャラけて言うと男性は少し怒った。
「モモコ! こっちにおいで! ダメだよ」

 ミルが慌て、
「ジャック、ダメよ。こっちに来なさい!」
 と叫ぶと、ジャックは白い犬から離れ、ミルのもとへ行った。

「しつけがいいですね」
 男性は少し驚いた様子だった。
「ジャックは本当は盲導犬なの。いずれ目や耳が悪くなる私のために孫が選んだ盲導犬なの。だから、飼い主がよしと言わない限り、メス犬に勝手に近づくことなんてないんだけど、よっぽどあなたの犬が好きみたいね。ごめんなさいね」

 ミルは白いシェパードにも「驚かせて、ごめんなさいね」と毛をなでながらニコニコして謝った。

「私は日曜日はこの辺を散歩してますので、いつでも声をかけてください。犬同士を会わせるのは問題ないです」

 男性がミルにやさしく言うと、タカシがニヤッとした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...