夫が宇宙人になりまして...

ハミデタニク・イトヲカシ

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 美貴みきは食器を洗った。
 義母はもう自分の部屋に戻っていた。

「さてと、洗濯物片付けたら私も寝るか」
 乾燥機から洗濯物を取り出した。

 がチャッ!
 突然タカシが部屋から慌てて出てきた。
「美貴、ジャックが...ジャックがオレを呼んでる!」
「へ? ジャックが?  ってか具合は?」
 ベランダに行くタカシの後をついていった。
「治った! ウィルスをやっつけたよ。美貴の言う通りアイツらマジ弱ぇの」
「? ホントに治したの?」
 笑顔で話すタカシをマジマジと見た。

「うん! それよりミルさんに何かあったらしい。ジャックが呼んでるからちょっと行ってくるよ!」
 タカシは靴を持ちながらベランダから飛び降りた。
「ちょっと! そんなところから!!」
 美貴は慌ててベランダの下を見たが、タカシはもういなかった。
「はぁぁ~、誰も見てないわよね。明日、新聞とかに載ったりしないわよね...」
 深いため息ついて振り返ると義母がいた。
「ひっ!」
 美貴は凍りついた。

 今にも飛び出しそうな大きな目で、口をポカンと開けて義母がこっちを見ながら硬直して立っていた。
「た、たかしが..喬が飛び降りた..たか...」
 白目をむいてバタッと倒れた。

「違うの! お義母かあさん、違うの! これは夢なの! お義母さーん!!」
 美貴はすぐに駆けつけ義母を抱えた。


 暗い夜道をタカシは走った。
 ジャックがワンワンと叫んでいる声を頭の中でキャッチした。
「わかってる、ジャック。今行く!」

 タカシは道沿いの家を2、3軒飛び越えたいのだが、前から3人の男達がこっちに向かって歩いており、できずにいた。
「アイツらどっか道に逸れてくんねーかな...」
 しばらくまっすぐ走っていると、ようやく3人が脇の通路へ入った。
「っしゃ! 今だ!」
 速攻で高くジャンプして、スーパーウルトラCを2回転半しながら家を飛び越えた。
 向こう側の道路にカッコよく着地した。が、

 ブロロロローーーッ!!

 トラックに轢かれてしまった。

 タカシの頬にタイヤの痕がつき、目玉が少し飛び出て、鼻と口は曲がって潰れ、所々に血が出ていた。

 トラックはすぐ止まった。
「あぁ~、やってしまった...」
 ドライバーの男はそばに立て掛けてある写真を見た。
奈々子ななこ睦美むつみ、すまない...父ちゃん、やってもた..うっ、うっ...睦美、人殺しの子と石を投げられるかもしれんが...うっうっ...父ちゃん、ちゃんと刑期を全うするから、それまでの辛抱だから...許してくれ...奈々子、オレが刑期終えるまで睦美を頼む...うっうっ...」
 男は泣きながら携帯電話を持つとすぐにタカシのもとへ走った。
「兄ちゃん! 大丈夫か!? すぐに救急車呼ぶから待ってろ!!」

 タカシの飛び出しかけた目玉が引っ込んで元の位置に戻り出した。曲がった鼻と口も元に戻り出し、顔が徐々に回復してきた。
 男が携帯電話で119番通報しようとすると、タカシがムクッと起き上がった。
 タイヤの痕だけがくっきり残った血だらけのタカシの顔が男を見た。

「救急車を呼ぶな! どこにも電話するな!」
「な、何言ってるんだ! もしものことがあったらどうするんだ!? すぐ呼ぶから待ってろ!」

 男はそのまま119と押そうとすると、タカシは男を指差し、睨みつけた。

「いいか、絶対に救急車を呼ぶな! パトカーも呼ぶなよ! 誰にもこのことを言うんじゃない!言ったらブッ殺すぞ!! わかったか!!」
 ものすごい剣幕で怒鳴ると、
「わわわわ、わかった...」
 男はブンブン首を縦に振った。
「フン!」
 タカシはスタスタと向こうへ歩いていった。

「どうなってんだ...」
 タカシの後ろ姿を見て男はただただ茫然としていた。

 タカシはミルの家に辿り着いた。塀を飛び越え敷地内に入ったが、家のドアに鍵がかかっていた。

(宇宙人パワー使うと美貴に怒られるんだよな~...)

 ワンワン!!
 ドアの向こうでジャックが吠えた。

 仕方ない。ガチャッと宇宙人パワーで解錠しドアを開けた。
 玄関まで迎えに来ていたジャックがワンワン吠えた。
 ジャックのあとをついていくと、リビングで倒れているミルを見つけた。
「ミルさん!」
 反応がないミルの体を透視した。
「心臓が酸素不足になったようだ...」
 ミルがもう死んでいるとわかった。

 ジャックを見て首を横に振ると、ジャックは、「ヒィーン、ヒィーン」と泣き声を出し、ミルのそばで寝そべった。

「あれ? 真佐希まさき君は?」
 ジャックがバウバウと答えた。
「え? 泉田いずみだのところなの?」
 ジャックがため息まじりでバウバウと答えた。
「え! あいつらデキてんの?」
 ばふ~んとうなづいた。
 タカシは悲しい目でジャックを見た。
「おまえ、先越されたな」
 ジャックはくぃ~んと鳴いて、ミルの死体に顔を埋めた。

 警察が来て、ミルの家周りが騒がしくなった。
「君が第一発見者か?」
 昔流行ったパンチパーマでゲジ眉の刑事がタカシに尋ねた。
「第一発見者はジャックです。僕はジャックに呼ばれて来ただけです」
「ジャック...?」
「この犬です」
「君はこの犬に呼ばれてここへ来たのか?」
「はい」
「どうやって?」
「うちはここから歩いて15分ぐらいのところなんですけど、ジャックが吠えると私の耳に届くんです」
「犬の遠吠えが聞こえるということか?」
「ん~、他の人には聞こえない犬の声が聞こえるっていうか...」
「....」
「なんていうか、頭の中に言葉が入ってくるというか..」
「つまり、君は犬と以心伝心でき、且つ、犬語がわかるということか?」
「はい。ジャックが言うには、ミルさんは今日、お昼過ぎに出かけたそうです。その後、16時頃に帰宅してリビングでお茶とケーキを食べてくつろいだ後、晩ごはんの準備でキッチンへ行くと、孫の真佐希君から友人宅にいるから夕飯いらないと連絡があり、ごはんを作るのを止めてリビングに戻ったその時に倒れたそうです」
「それをジャックが君に伝えたと?」
「はい」

 ゲジ眉を上げて、刑事は訝しんだ目でジャックを見ると、続けてタカシも見た。

「心筋梗塞ですね」
 タカシが言うと刑事はムッとした。
「死因は死体解剖でわかる!」
 刑事はタカシを怪しんでいた。

 タカシがジャックにワンワンと質問すると、ジャックはバウバウとすぐに答えた。

 タカシが刑事を見た。
「あなたはここへ来る前、ラーメンと塩豚丼を食べたでしょ」
「なぜわかった?」
「ジャックが匂いでわかると。ちなみに、その店にお気に入りの女の子がいるでしょ?」
 刑事の顔が赤らみタカシをまじまじと見た。
「な、何いってんだ!」
「ジャックのアドバイスでは、女の子も満更ではないからデートに誘えって」
 タカシはニヤッと笑った。

 真佐希が慌てて帰ってきた。
「おばあちゃん!」
 ミルは担架で運ばれていた。
「おばあちゃん! 一人にしてごめんなさい! おばあちゃん、行かないで! 僕を一人にしないで! おばあちゃん! おばあちゃん! わぁぁ!」
 真佐希の泣き声は周りに悲しみを誘った。

 ミルは心筋梗塞で亡くなったことが病院で確認された。
 刑事のタカシへの疑いも無事に晴れた。
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