そしてふたりでワルツを

あっきコタロウ

文字の大きさ
3 / 78
本編

第ニ話    ☆侯爵様は退屈している※

しおりを挟む
 舞踏会が開催されるオフィーリア城は、国の中心部にそびえ建っている。
 城を囲む森を挟んで丁度裏側には、吾妻あがつまという侯爵の屋敷がある。

 吾妻の当主ジュンイチは、汚れた白衣にれたシャツ、目の下には常時クマが浮かび、伸びた黒髪を輪ゴムでしばって、丈の少し短いジーンズを履いている。というおよそ貴族であるとは思えない外見の男で、オフィーリア国軍に所属する研究者。

 彼は地位と資産という職権を乱用して、自分専用の研究室を軍の施設内に増設。侯爵家当主が果たすべき仕事を執事のセバスチャンに一任し、自分は日がな一日勝手気ままな研究に明け暮れている。
 これといった専門は特に無く、医学、物理学、生物学をはじめとして興味があれば四方八方手を出しやりたい放題好き放題。彼を微細にでも知る人々からは、「傍若無人が歩いている」と囁かれる体たらく。
 

 そんな彼はこの日、デスクで天井を仰いでいた。熱中していた実験が終了し、次の行動を思案中。
 一言で表現するなら、退屈という心理状態。

 退屈を払拭するには、未解明な謎が必要。新種の病原菌や、理解不能な理論。
 それらに遭遇できそうな手軽な選択肢のひとつとして現状最も高確率なのは、数日後に開催される舞踏会。
 白衣のポケットに手を突っ込めば、皺の寄った封書に触れた。先日、城から届いた招待状だ。



 開催の規模次第では参加する価値がある。大規模であればあるほど好条件。
 体調不良の人物がいれば捕獲して診察しよう。それが謎の新種の病である可能性は、限りなく低くもゼロではない。

 この舞踏会の規模はいかほどか?
 誰かから情報を引き出すべく、ジュンイチは研究室から踏み出した。



 適当な人物を探し歩いていると、士官学校時代の同級生に遭遇。彼は子爵の爵位持ち。階級で言えば下から二番目。彼にも招待状が届いていれば、舞踏会の規模は大きいと踏んで支障ないだろう。

「やあ。きみのところにもこれ届いた?」
 ジュンイチは相手を呼び止め、手にした招待状を目の前に掲げた。

「舞踏会の招待状ですか。届きました。お話はそれだけですか。では私は仕事がありますので、大佐も自身の研究室へお戻りください」
「戻っても今はすることが無いんだ。あ、そうだついでに」
「ちょっ、何をするつもりですか! 突然メスを取り出して」

 相手は声を荒げ飛び退る。

「ちょっと皮膚の在庫増やそうかなと思って。少しくらい剥がしても死にはしない。たいしたことないでしょ」
「たいしたことです! 確認もなく人の皮膚を切り取ろうとするのはやめてください! そういう感覚だから、『天才だが変人』なんて言われるんですよ。できれば関わりたくない人物を十人に聞けば、十人が全員大佐の名前を出すってご存知ですか?」
「知ってるけど、それで困ったことは無いから問題ない」

 やりたい研究ができれば不満はない。他人からの好意は無用。好感が無くとも功績をあげることは可能。研究の成果によって軍にも国にも多大に貢献しているのは明確な事実。

「でしょうね。そういうところも含めて、です。私はもう仕事に戻ります。さようなら」
「ちぇ」

 とりあえず彼の元にも招待状は届いた。という情報は入手した。
 自らも出席することを決意し、ジュンイチは研究室へと、とんぼ返り。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...