小江戸・川越 神様のいるドッグカフェ 楓庵

友理潤

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第二幕 星になって見守るから

11.最高のプレゼント?

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◇◇

 私が楓庵で働くようになってから早3ヵ月。

 ――あの時は上手くいったからいいからいいものの、もしレオとおばさんの間をこじらせたらどうするつもりだったんだよ! ったく、まあ……、そういう美乃里のお節介なところのおかげで俺の腹も満たされたんだけどな……。とにかくだ! これからはあんまり口を出すじゃねえぞ! 分かったな!

 ……と、ソラからきつく(?)言いつけられているから、あの一件以降は大人しく接客だけに精を出している私。
 いや、そうせざるを得ないくらいに、楓庵に来店するお客様が多くて、忙しかったのだ。
 ちなみに楓庵は完全予約制。多くても一度に2組までしか店内にいれない。
 お客様には他人の目を気にせずにペットと最後のひとときを過ごしてほしいという八尋さんの配慮からだそうだ。
 本当に今まで八尋さんひとりで切り盛りしていたのかしら?
 そう疑ってしまうほど、オープンの午前11時からラストオーダーの午後7時まで予約はぎっしり埋まっている。
 ドリンクにお料理と、何でも手際よく作る八尋さん。私もようやくコーヒー、紅茶、ハーブティーを淹れることができるようになったけど、それでも八尋さんはほとんど休む間もなく動き続けていた。
 一方のソラはというと、黄泉送りの時間がくるまでは、何もやることがないし、その儀式もわずか数分で終わってしまう。

「なんだよ!? 人のことジロジロと見やがって! こう見えても俺だって忙しいんだからな!」

 カウンターの隅の席でマンガ片手にそう言われても、まったく説得力ないんですけど……。
 あきれ顔を八尋さんに向けると、彼はいつも「ソラ様しかできないことがあるからね」と優しい笑みを浮かべるだけ。
 だけど、プイっと背を向けてマンガに没頭しているソラの背中を見ても、「まあ、仕方ないっか。ニンゲンの物差しではかれる子じゃないようだし」と許せてしまうのは、私が少しだけ変わったからかしら。
 何と言うか、他人に対して寛容になったのだ。
 これもペットと飼い主が哀しみを乗り越えて、最後に愛を伝え合うのを何度も見ているからだろう。
 相手に優しくして、微笑むこと。
 それが相手への最高のプレゼントであり、平和な関係を築く秘訣であることを学んだのである。

「何をニタニタしてんだよ。気持ち悪りいなぁ。ボケっとしてる暇あったら、店の前の掃除でもしろよな。黄泉送りする時に俺が石でつまづいたらどうしてくれんだよ。ったく、これだから……」

 前言撤回。
 生意気な小僧には、きっつーいお仕置きこそ最高のプレゼントよね。

「こらぁぁぁ!! ちょっとは手伝いなさぁぁぁい!!」
「のあぁぁぁぁ!! 鬼だ! 鬼ババだぁぁぁ!!」

◇◇

 10月も半ばを過ぎ、ようやく暑さがやわらいできた。
 午後の陽ざしは柔らかくなり、木々が少しずつ赤く色づきはじめている。
 壁掛け時計が午後3時をさした頃、この日は珍しくお客様が途切れて、ほっと一息つく余裕ができた。午後5時から『佐藤智也《さとうともや》』という方の予約が入っているが、それまでお客様はこない。
 ゆったりと流れる時間に身を任せていると、いつも冷静沈着な八尋さんが珍しく、「しまった!」と焦った声を出した。
「どうしたんですか?」と目を丸くして八尋さんを見つめた私に対し、彼はポリポリと頬をかきながら答えた。

「牛乳を切らしているのをすっかり忘れてたんだ。お料理にも使うからね。美乃里さん、少しだけここを任せても平気かな? ちょっと通りまで出て買ってくるから」

「あ、それなら私とソラが行ってきます!」

「はぁ!? なんで俺が行かなきゃなんねえんだよ。めんどくせぇ」

 露骨に嫌な顔をするソラの腕を強引に引っ張っる。
 だって普段から忙しい八尋さんが休憩できるチャンスなのに、ソラがいたのではおちおち休んでられないもの。

「おいっ! 八尋! こいつを何とかしろ!」
「では、八尋さん、いってきますね!」
「美乃里さん、ありがとう。次の予約までは時間があるから、町でのんびりしてきてもいいよ」
「だから俺は嫌だって!」

 私は暴れるソラを抱きかかえるようにしながらお店を出た。
 お言葉に甘えて、ちょっとだけ寄り道をしよう。
 そうだなぁ、何か甘いものでも八尋さんに買って帰ろうか。
 何がいいかな?
 くらづくり本舗の「べにあかくん」っていうスイートポテトにしようかな?
 それとも「芋クリームどら焼き」がいいか。いや、「小江戸川越シュー」という手もあるわね!
 ああ、迷っちゃう。どれも絶対に美味しいに決まってるわ!
 早く食べたい!
 ……と、いつの間にか自分で食べることを妄想しながら、弾むような足取りで、駅前の方へ向かったのだった。


 



 
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