小江戸・川越 神様のいるドッグカフェ 楓庵

友理潤

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第四幕 よみがえりのノクターン

54.

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◇◇

 ノクターンが黄泉にいない――。

 ガクリと全身から力が抜けて、後のことはあまり覚えていない。
 なすすべなく、ソラの背中にしがみついて引き返したのだと思う。
 思う、としたのは、本当に記憶があいまいだからだ。

「そう落ち込むな。現世にとどまっている霊魂もいるって話しただろ? 黄泉にいないことが分かっただけでも、探す手間は半分になったってもんだ」

 鳥取神様の前までやってきた後、人の姿に戻ったソラが励ましてくれた。
 でも彼の言葉が右の耳から左の耳へ抜けていく。
 レオ、フク、ソラ、それに鳥取神様が私を心配そうに見つめていた。
 何か口にしなくちゃ。

 ――ごめんなさい。

 言うべきなのは、この言葉一つなのは分かってる。
 目からぽろぽろ落ちる涙をそのままにして、私は口を開こうとした。
 しかし――。

「謝るつもりだったら、やめとけ」

 ソラの言葉が私の心をえぐった。
 感情が一気にあふれ出してくる。

「なんで……? だってわたしが悪いんだよ? みんなを振り回して。八尋さんとの約束も守れなくて。全部、私のせいなんだよ? ううっ……。うわああああああ!!」

 涙と泣き叫ぶ声が体のあらゆるところから噴き出している気がした。
 でも私は気づいていた。
 みんなや八尋さんに申し訳なくて泣いてるんじゃない。

 本当は……。
 嫌われてしまうことが怖くて怖くて仕方なかったから――。

 私は……何も変わってなんかいなかったのだ。

「だったらよ……」

 ソラが震えている。顔は真っ赤だ。
 きっと私に怒ってる。彼も私のことが嫌いなんだ。
 そう思って「ごめんなさい」と頭を下げた瞬間。

「だったらとことん振り回してみろよ!! バカ野郎!!」

 ソラの声が空気を震わせた。
 眉間にしわを寄せ、大きな瞳からは滂沱として涙が流れている。
 彼は口から唾を飛ばしながら、それでも懸命に続けた。

「中途半端に振り回して、一度ダメなら、もうあきらめるつもりかよ!? 悔しいのはおまえだけじゃねえんだ!! 俺だって同じなんだよ!! 全部、自分のせいにして、逃げようったって、そうはいかねえからな!!」

「ソラ……」

「うだうだ考えずに、やるんだよ!! 勇気を出して、全部をぶん回してみるんだよ!! とことんやってダメなら、あきらめがつくじゃねえか! まだ終わってなんかいない。むしろこれから始まりだ!!」

 あまりの剣幕におされて、涙がピタリと止まる。
 ソラはそんな私の両肩を強く掴んで締めくくった。

「怖がるな、美乃里!! おまえの強さは俺がよく分かってるから」

 こんなところで諦めたくない――。
 
 心に……

 火がついた。

 
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