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第三話
第三話 居酒屋『だいご』 若葉の初任給 ①
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◇◇
五月も終わりに差しかかったある日のこと――
ついに待ちに待ったその瞬間がやってきた。
それは、私にとっての初めての……。
「お給料!!」
とっても嬉しくて、その日は一日中浮かれっぱなしだった。
担任のともみん先生に「廊下をずっとスキップしている生徒は初めて見たぞ」と、あきれた顔をされたが、この日ばかりは周囲の目などいっさい気にならない。
あっという間に放課後となると、たまちゃんとマユの二人とは校門の前で別れて、自転車にまたがる。
そうして「ふっふふーん!」と、鼻歌まじりにペダルを力強くこいだのだった――
◇◇
真っ直ぐ家には帰らずに、居酒屋『だいご』へ向かったのは、南坂戸駅北口商店会の会長であるパパからお給料を受け取ることになっているからだ。
弾むような軽い身のこなしで自転車を居酒屋の脇に止めた私は、喜びを抑えきれずに急いでドアに手をかける。
そして勢い良くそれを開けると同時に大きな声であいさつしたのだった。
「ただいまぁぁ!! 来たよ!!」
「おう! 若葉か! おかえり! 待ってたぜ!」
と、パパはいつも通りに明るい声で答えると、仕込中だった手を止めて、カウンター奥のキッチンから出てきた。
その手には真っ白な封筒。
それを見た瞬間に、背筋がぴんと伸びてしまった。
初めてのお給料に緊張とワクワクで胸がはちきれそうだ。
そして、直立して待っている私の目の前までやってきたパパは、うやうやしい手つきで封筒を渡してきたのだった。
「はい、ご苦労さん。よく頑張ったな」
「わあっ! ありがとう!!」
封筒のあつみに感動して目を輝かせたまま固まっている私に対して、パパが苦笑いを浮かべた。
「まあ、中身を確認してみろよ」
「えっ!? ええ、そうだったね!」
ドキドキしながらゆっくりと封筒の口を開くと、中身のお札の束を取り出す。
ご丁寧にすべて新札で揃えられたその束には、一万円札が一枚と、千円札が六枚。
合計一万六千円分のお札が入っていたのだった。
「あんまり無駄づかいするんじゃねえぞ」
「うん!」
これがお給料なのね!
自分で頑張った結果が、こうしてお金になって戻ってきたように思えて、今までにない格別の喜びが溢れだした。
「パパ! 私、すっごく嬉しい!! ほんとうにありがとう!」
「バカヤロウ! 礼を言うのはこっちの方だ! 若葉が一生懸命がんばってくれたおかげで、みんな喜んでるんだぜ」
パパの言葉が胸にじんと響く。
なんだか今日は世界がすごく綺麗に見えるのは気のせいかしら。
私は背中に羽が生えているかのように軽い足取りで、居酒屋を出ていったのだった――
………
……
夕食を終え、お風呂にゆっくりとつかった私は、自分の部屋に戻ると、ふかふかのベッドへうつぶせにダイブした。
同時に視線を机の上の封筒に移すと頬がひとりでに緩む。
「うふふ、うっれしいなぁ!」
パパから封筒を受け取ってから、かなり時間がたったがまだ夢心地のままだ。
お年玉はママが全部貯金に回してくれるから、一万六千円も大金を手にしたのは人生で初めての経験なのだ。
浮かれちゃうのも仕方ない。
そしていよいよお楽しみの時間を迎えようとしていた。
ベッドの上からぐいっと手を伸ばして、机の上にあるノートとペンを取る。
そして罫線だけが敷かれたまっさらなページの一番上の部分に、大きな字を書いた。
「お給料の使い道!」
と。
そう……それは手にしたお給料を何に使うか計画する時間だ。
「えーっと、まずは……。新作のクレープでしょー。それからムンフロのフラッペでしょー。カフェ・チャイナのジャンボ肉まんでしょー……」
一度書きだすと手がまったく止まらない。
次から次へと、食べたい物や欲しい物が出てきて、あっという間にノートの見開きは字で埋まってしまった。
それでもまだ一万六千円に届かない。
あらためてお給料の偉大さを私は身に沁みて感じていた。
「うーん、あとはどうしよう……。 はっ! そうだ!」
頭をひねらせていたところで、ぱっと思い浮かんだのは、「人生の先輩たちの意見を参考にしよう!」という考えだった。
そこで、一度ノートから目を離した私は、枕の横に無造作に置かれていたスマホを手に取ると、『音声検索』を示すマイクのボタンをタップした。
「えーっと……。初任給の使いみちを教えて」
「初任給の使いみち、ですね。こちらが検索結果になります」
無機質な女性の声がスマホから聞こえてくると同時に、画面にずらりと検索結果が並ぶ。
それを一件一件確認していくと、とある意見に目が止まったのである。
「家族に日ごろの感謝をこめて、プレゼントを買う……。これだっ!!」
パラッとノートをめくる。
そして今までで一番でっかい文字で書き記したのだった。
「家族へのプレゼント!」
と――
五月も終わりに差しかかったある日のこと――
ついに待ちに待ったその瞬間がやってきた。
それは、私にとっての初めての……。
「お給料!!」
とっても嬉しくて、その日は一日中浮かれっぱなしだった。
担任のともみん先生に「廊下をずっとスキップしている生徒は初めて見たぞ」と、あきれた顔をされたが、この日ばかりは周囲の目などいっさい気にならない。
あっという間に放課後となると、たまちゃんとマユの二人とは校門の前で別れて、自転車にまたがる。
そうして「ふっふふーん!」と、鼻歌まじりにペダルを力強くこいだのだった――
◇◇
真っ直ぐ家には帰らずに、居酒屋『だいご』へ向かったのは、南坂戸駅北口商店会の会長であるパパからお給料を受け取ることになっているからだ。
弾むような軽い身のこなしで自転車を居酒屋の脇に止めた私は、喜びを抑えきれずに急いでドアに手をかける。
そして勢い良くそれを開けると同時に大きな声であいさつしたのだった。
「ただいまぁぁ!! 来たよ!!」
「おう! 若葉か! おかえり! 待ってたぜ!」
と、パパはいつも通りに明るい声で答えると、仕込中だった手を止めて、カウンター奥のキッチンから出てきた。
その手には真っ白な封筒。
それを見た瞬間に、背筋がぴんと伸びてしまった。
初めてのお給料に緊張とワクワクで胸がはちきれそうだ。
そして、直立して待っている私の目の前までやってきたパパは、うやうやしい手つきで封筒を渡してきたのだった。
「はい、ご苦労さん。よく頑張ったな」
「わあっ! ありがとう!!」
封筒のあつみに感動して目を輝かせたまま固まっている私に対して、パパが苦笑いを浮かべた。
「まあ、中身を確認してみろよ」
「えっ!? ええ、そうだったね!」
ドキドキしながらゆっくりと封筒の口を開くと、中身のお札の束を取り出す。
ご丁寧にすべて新札で揃えられたその束には、一万円札が一枚と、千円札が六枚。
合計一万六千円分のお札が入っていたのだった。
「あんまり無駄づかいするんじゃねえぞ」
「うん!」
これがお給料なのね!
自分で頑張った結果が、こうしてお金になって戻ってきたように思えて、今までにない格別の喜びが溢れだした。
「パパ! 私、すっごく嬉しい!! ほんとうにありがとう!」
「バカヤロウ! 礼を言うのはこっちの方だ! 若葉が一生懸命がんばってくれたおかげで、みんな喜んでるんだぜ」
パパの言葉が胸にじんと響く。
なんだか今日は世界がすごく綺麗に見えるのは気のせいかしら。
私は背中に羽が生えているかのように軽い足取りで、居酒屋を出ていったのだった――
………
……
夕食を終え、お風呂にゆっくりとつかった私は、自分の部屋に戻ると、ふかふかのベッドへうつぶせにダイブした。
同時に視線を机の上の封筒に移すと頬がひとりでに緩む。
「うふふ、うっれしいなぁ!」
パパから封筒を受け取ってから、かなり時間がたったがまだ夢心地のままだ。
お年玉はママが全部貯金に回してくれるから、一万六千円も大金を手にしたのは人生で初めての経験なのだ。
浮かれちゃうのも仕方ない。
そしていよいよお楽しみの時間を迎えようとしていた。
ベッドの上からぐいっと手を伸ばして、机の上にあるノートとペンを取る。
そして罫線だけが敷かれたまっさらなページの一番上の部分に、大きな字を書いた。
「お給料の使い道!」
と。
そう……それは手にしたお給料を何に使うか計画する時間だ。
「えーっと、まずは……。新作のクレープでしょー。それからムンフロのフラッペでしょー。カフェ・チャイナのジャンボ肉まんでしょー……」
一度書きだすと手がまったく止まらない。
次から次へと、食べたい物や欲しい物が出てきて、あっという間にノートの見開きは字で埋まってしまった。
それでもまだ一万六千円に届かない。
あらためてお給料の偉大さを私は身に沁みて感じていた。
「うーん、あとはどうしよう……。 はっ! そうだ!」
頭をひねらせていたところで、ぱっと思い浮かんだのは、「人生の先輩たちの意見を参考にしよう!」という考えだった。
そこで、一度ノートから目を離した私は、枕の横に無造作に置かれていたスマホを手に取ると、『音声検索』を示すマイクのボタンをタップした。
「えーっと……。初任給の使いみちを教えて」
「初任給の使いみち、ですね。こちらが検索結果になります」
無機質な女性の声がスマホから聞こえてくると同時に、画面にずらりと検索結果が並ぶ。
それを一件一件確認していくと、とある意見に目が止まったのである。
「家族に日ごろの感謝をこめて、プレゼントを買う……。これだっ!!」
パラッとノートをめくる。
そして今までで一番でっかい文字で書き記したのだった。
「家族へのプレゼント!」
と――
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