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第2章 バグ同士集まって何が悪い!

14. 森の中の美女②

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「イオリちゃんかぁ~…」

ジャブジャブと川で着ていた防具を洗いながら、先程偶然出会った女の子を思い出していた。
パンツ一丁で。

「一目見ただけで、しかも逃げられた女の妄想なんて、よく出来るかしら!?いやらしい!」

「お子ちゃまには分からんよ。これは運命の出逢いってやつだな!いてっ!何しやがる!?」

背中に石つぶてが当たる。
素肌にダイレクトなだけに、超痛い。
俺は後ろを振り返る。

そこには、こちらに背を向けて、同じくパンツ一丁の少女が、自分の服をジャブジャブと洗っている。

「しかし、カボチャパンツとは、お前、色気のかけらもねえな」

「な~~~!あんた何こっち見てんのよ!」

「はいはい、別に見て得になるもんじゃないから、元に戻りますよ」

俺は元の向きに戻る。
戻った瞬間にまた石つぶてが背後から飛んでくる。
ちくしょう、面倒だがココは機嫌を取っておかないと、俺の背中が傷ものになってしまう。

「お前って肌白くて綺麗だよなぁ」

ピタリと投石が止む。

「な、なにを急に言うのかしら…!」

おっ、満更でもなさそうだ。

「髪も綺麗だしさぁ、若々しいっちゅーか」

10歳なのだ。若いのは当然である。

「そ、そうかしら?」

ぷ~~っ、効いてやがる。

と、ほくそ笑んでいると、目の前の水面に波紋が広がる。

「ん…?」
防具を洗う手を止めて、顔をあげる。

クマ型の大型モンスターだ。こちらをじっと見ている。

俺は急いで、『チャット』をオンにする。

「つぶらな瞳綺麗だねぇ」
「丸々した手も可愛いし」
「お尻もプリッとしてキュートだし」

背中から、クネクネしながら
「そ、そこまで言われると、流石に照れるかしら」
という空気を全く読めない言葉が聞こえるが、全く無視だ。

「毛づやも輝いてるのもグ~~!」
「はいっ?」
「足とかすっごい太くて、力強そうでイイね!」
「おいっ!?どういうことかしら!」
「大きなお腹なんて包容力ありそ~!いいわぁ!」
「な…ちょっと気にしていることを!むきぃぃぃ!」
石が飛んできているが、完全に無視!

しかし、俺の褒め殺し作戦は全く通用しなかった。

「言いたいのはそれだけか?ニンゲン!では、食ってやる~!!」

クマが襲ってくる。
おれは、パンツのままで、防具を片手にシェリーの方へ振りかえり逃げだした。

「ぎゃぁぁぁ!!逃げるぞ~~!!」
「な~~~!!もっと早く言うかしら!?」
「お前が勝手に勘違いしてたんじゃねぇか!」

シェリーもカボチャパンツのまま、服を片手に逃げ出す!

「しかし、クマ、足はえぇぇぇ!!!」

「どうした!?ニンゲン!!もう追いつくぞ!!ガハハハ!」

これはヤバい!サイの時と同じくらいヤバい!
変な汗で始めてるし…

とにかく今は走るしかない。
わき目も振らず、シェリーの手を引きながら、
走る!走る!走る!



その時、頭の中に声が直接響く。
あの運命の女の子の声が…

「右よ!森の中に入って!」

俺はシェリーを引っ張って、森にダイブした。

「いたた~~っ!ちょっとはレディの扱いに気をつけるかしら!」
「カボチャパンツの幼女に言われても説得力ないっつーの!」

転げ落ちるように森の中に入った俺たち。

目の前には、前と同じ輝きを持った美少女が、幾分真剣な面持ちでこちらに近づいてきた。

俺は、狭域マップを開く。

クマは森に侵入しようとしている。
これ、マズくない…?

そう思った次の瞬間、俺の肩に柔らかい女の子の手を感触がした。


狭域マップから、俺たち3人のマーカーが消えた。


クマは、目標を見失うように、ピタリと動きが止まる。
そして、周囲を探す素振りもなく、川岸へと消えていった。

再びマーカーがマップに戻ってきた。
その間、およそ10秒。

「…こ、これって…」

「そう、私のユニークスキル…『忍び足』…」
「き、きみはプレイヤーなのか!?」

ガバっと起き上がると、女の子――イオリの前に立った。
イオリは、大きく瞳を見開くと、顔を赤らめた。
ああ、そうなのか…やはり君も運命を感じたんだね。

やはり俺たちは結ばれ―「とりあえず、服着てくれるかな…?」


◇◇
服を着た俺だが、完全に白い眼で見られている。

つ、冷たいのは視線のせいじゃない、服が濡れているからだもんね!

ただ、このまま俺が話の窓口だと、何か上手くいかないような気がする。
別に、嫌われてるとか、生理的に受付けられてないとか、そんなんじゃないのよ!
それ以上、考えると、ナイーブな俺のチキンハートが折れてしまうので、やめよう。

とにかく、イオリへの会話の窓口は、シェリーに任せる事にした。

ひとまず、俺たちは、今までの経緯を簡単に説明する。
その上で、洗濯できて、野営できそうな場所がないか聞いてみる。
シェリーが。
ぐすんっ。

「…それなら、あるわ…付いてきて…」

そう言われてたどり着いたのは、奥地の小さな滝つぼになっている場所だった。

彼女はタオルも持っており、シェリーに一つ渡した。

「…あなたは…裸でも問題ないでしょ…?」

と、俺にはタオルはくれなかった。
そろそろ本格的に泣いちゃおうかな…

「今夜はお姉ちゃんと一緒に寝たい…ダメかしら?」
「…うん、いいよ」

シェリーの上目づかいの交渉に、イオリはあっさりOKしてくれた!
流石!俺の相棒!今日は、同じテントで…むふふ…

イオリは、指をさす。
ここから少し離れた草むらがある。

「あなたのテントはあそこに張って…わたしはここに張って、シェリーちゃんと一緒に寝るから」

今宵の枕は涙に濡れることが決定した瞬間だった。
シェリーが「ざまぁみろ」って顔で、こちらを見て笑っている。

あいつ、絶対いつか泣かせてやる。

テントの設営が終わると、夕食の準備に取り掛かる。

イオリが手料理を振舞ってくれるらしい。
生きてて良かったぁ!
女の子の手料理なんて、生まれて初めてで、感動してます。

イオリの料理は、すごく優しい味だった。
美味しい。素材の味がすごく活かされている。
塩でごまかす俺の味付けとは天と地の差があった。

「お姉ちゃんの料理、誰かさんのクソまずい料理に比べると、すっごく美味しいわ!比べるのも失礼でしたわね…お姉ちゃん、許してくださる?」

「…うん。シェリー可哀想…毎日、まずい料理を食べさせられていたのね…」
「お姉ちゃん、わたし、こいつのパートナー止めて、お姉ちゃんと一緒にいたいわ」
「うん、いいよ。私もこんな妹欲しかったの。嬉しい」

イオリが笑顔を見せる。

笑顔も初めて見た。やはり可愛い。天使だ。
俺の扱いをもう少し優しいと最高なんだけどなぁ…

俺は、二人の光景を、微笑ましい気持ちで眺めていた。


「…あんた、チャット機能が『オン』になりっぱなしなの、まだ気づいてないのかしら…?」
「…天使とか…キモい…」
「女の子の手料理が初めてとか、よく恥ずかしげもなく、告白できるかしら!?」


俺は凍りついた。


ゲームなんだし、出会った瞬間までリセット出来ないかな…

「だから、リセットできなくてよ!それよりも早く『オフ』にするかしら!気持ち悪い」
「うん…すごく気持ち悪い…」

俺はチャット機能を、静かに「オフ」にした。

今日は泣きあかそう。そう決意した。



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