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第2章 バグ同士集まって何が悪い!
19. 自称幼馴染は残念でヤンデレで人さらいで…
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◇◇
超人気ゲーム『ファンタジア・ワールド』続編のデバッガーとして、『バグ』を排除する為に、ゲームの世界に転生してきた俺、名前は「ユー」。
しかし事もあろうことか、俺はゲームのバグであった。
その為に、他のプレイヤーやモンスターに執拗に追われる羽目に…
金髪ツインテールで10歳のツンデレ少女「シェリー」。
料理上手だが引っ込み思案の女子高生で『(俺的には)天使』の様に可愛い「イオリ」。
この二人を逃亡仲間に加え、俺は新たな逃亡の旅に出る。
◇◇
拠点である水場を離れた俺たち3人は、転生された街から離れる様に進む事にした。
なぜなら、俺たちを追ってくるであろうプレイヤーは全員その街に転生してきており、そこから、少しでも遠くに離れたいと思ったからだ。
しかし今のところ、逃げる事以外ですべき事が分からない。
まぁ命あっての物種だ。
とにかく逃げて何か『生き残る意味』を見付けだすしかないな…
◇◇
「いやぁ、イオリたんは料理上手だよなぁ」
俺は満腹になった腹をさすって、イオリにこれ以上にない笑顔(自称)を向ける。
安全が確認できたこの川岸が今宵の野営地だ。
いつも通り料理担当は『俺の天使』こと、イオリたんだ。
「俺もう胃袋も心も何もかも掴まれちゃったなぁ…」
幸せな気分に浸っている俺に水を差す幼女。
「その幸せなオツムも掴まれて、少しは賢くして貰えれば、いいかしら!」
「はいはい、妬くな妬くな。お子ちゃまは、もうしゅこしお料理が出来るようになりましょうね~」
「な、な~~~~っ!」
顔を真っ赤にしてポカスカと俺を殴ってくるシェリー。
その様子を優しい微笑みで見つめるイオリ。
なんともほほえましい光景だ。
焚き火の明かりが3人を優しく包んでいた。
そんな平和な状況に、俺は完全に油断していた。
俺は気付かないでいた。
一人の影が3人をジッと見ている事に…
「…やっと見つけたわ…」
◇◇
今宵もテントは二つ。
もちろん女子と俺の二手に分かれる為だ。
以前に比べれば、テントとテントの距離が縮まったのだ。
それで良しとしますか…ぐすんっ。
白いワンピースで俺の前に仁王立ちするシェリー。
「…あんた覗いたりしたら、容赦しないかしら!」
「はいはい、俺はそんな趣味(ロリコン)じゃないって言ってるだろ~」
「わ、わたしはもう立派な大人(レディ)かしら!バーカ!バーーカ!」
「シェリーちゃん、もう寝ましょう。
寝る子は育つって言うしね!」
イオリがシェリーを俺から引き離す。
「まぁ!イオリお姉ちゃんまで、わたしをお子様扱いするかしら!?」
「お前はまだお子ちゃまだろ?
育つとこ育たないと、王子様に振り返ってもらえないぞ~!ぷぷ~っ」
俺はシェリーの『まな板』を指差して笑う。
「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ…」
シェリーさん…小太刀を抜いて何をしてらっしゃるのかしら…?
「ユルサナイ…かしら~~~!!!」
ギァァァァ~~~!
俺は逃げる様にして、自分のテントに駆け込んだ。
俺は心の中で会話を可能とする、俺のユニークスキルである『チャット』をオンにして、シェリーに話しかける。
「へっ!とにかく俺はお前のテントを覗いたりなんかしねぇよ!
だからお前もこのテントに夜襲かけに来るなよ!」
「誰がそのクッサイ中に入るかしら!」
「あれぇ~?イオリたんが来る前までは、このテントで一緒に寝てましたよね~」
「な~~~~っ!他人の黒歴史を暴くなんて!サイテーかしら!」
「はいはい、もういいよ。おやすみ~」
「くぅ~~~!次会った時は覚えてらっしゃい!」
どこかの悪役みたいなセリフだな…
それに明日の朝から顔合わせるだろ…
そんな風に思っていた。
そして、それが叶わないと言う事は、露にも思っていなかった。
◇◇
今日も何だかんだでよく逃げた。
出てきたモンスターは小型の肉食獣のトサカリザードばかりだか、やつらは集団で襲ってくる上に、すばしっこい。
意外と逃げるのに苦労するのだ。
そんなやつらとの追いかけっこも、もう慣れっこだが、疲れる事には変わりない。
防具を脱ぎ、いつも通りパンツ一丁になる。
そしてすぐさま寝袋に入り込んだ。
心地好い疲れが、すぐさま俺を眠りへと誘う。
それに何故か甘い匂いも漂っている気がした。
「イオリたんの香りかなぁ~…
香りまで素敵なんて…さすが天使だぜ…」
「…誰よ、その『イオリ』ってやつ?」
むむっ?
なんか聞き覚えのあるような、少し高い女性の声…
気のせいか…
ここ女子禁制のテントだしな…
いや!俺は女子もウェルカムなんだよ!?
そんな事を考えながら、もう一度俺は眠ろうと頭を空にする。
すーっと意識落ちていく。
しかし、それを邪魔するように、またさっきの声…
「ちょっと!折角私が来てあげたのよ!無視とかヒドくない!?」
うん、これはっきり聞こえる。
誰かいる!!
俺はとっさにメニューを開こうと、装置のある左腕を触ろうとする。
しかし、何故か身体が言う事を聞かない…
痺れている…何か毒を吸い込んだのだろう…
まさか、さっきの甘い香りの正体か!?
「んで、『イオリ』って誰よ?まさか、あっちのテントで寝てる、地味そうな女の子?
それともロリロリな幼女?
後者だったら、引くわぁ~」
「…って、お前誰だよ…?」
テントの中は勿論明かりなど点けていない。
女性の声を聞き分けられる程、俺は女性も知らんし…ってそれはどうでもいいだろ!?
「え~~っ!?私を忘れたの?
それってヒドくない?」
「忘れるも何も、夜中に急に襲って来るような痴女の知り合いなんぞ、俺は知らん!」
明らかなのは相手が女性と言う事位だ。
俺は話の糸口から、相手の正体を明かそうと、少し揺さぶりをかけてみた。
しかし、相手はその揺さぶりに、
「ち、痴女ってヒドいわ!
そっかぁ、気付かなかったかぁ…」
と、あっさりと乗ってくる。
チョロイな…
「何をだ?」
「10年振りの再会で、美少女から美女に成長した幼馴染に気付かない、純朴な青年って訳ね!」
10年振りだと…?
10年前、すなわち俺は10歳の時に、田舎町から都会に引っ越した。
その時以来と言う事か…
聞き覚えのある声というのは、10年振りだからか…
しかし、10年前にそんな仲良かった女子なんていたか…?
「…もう、こうでもしないと思い出せないかなぁ?」
「…なっ!?おい!やめっ…」
ぶちゅ…
俺の唇がその女に奪われる…
俺の初めてが…
あっ…シェリーにもなめ回す様に、ぶちゅぶちゅされたか…
でも、あれはノーカウントだよな…
今回もノーカウントだよな…
俺の初めてはイオリたんの…
「いてっ!今噛んだだろ!?何すんだよ!血が出るだろ!?」
「今、他の女の事を考えてたでしょ…?」
ぞくりっと悪寒が走る…
何故分かった…?
という単純な疑問よりも、前にもこの悪寒を味わった事ある…
そう確信した…
「…お、お前…」
「あら、やっと思い出した?」
「アカネか…?」
雲の合間から顔を出した月明かりがちょうどテントの中を照らし始めた。
女のシルエットがはっきりと見える。
大きな胸にくっきりとしたくびれ。
肩まで伸ばした髪の毛先はフンワリとまとまっている。
そして、大きくて少し釣り上がった瞳と小さめな鼻。厚い唇。
間違いなく美人の部類に入る。
10年前と変わらない、その面影…
俺の記憶にくっきり残されていた、あの女の子に間違いない。
アカネだ。
しかし、幼馴染ではない!
俺は認めない!
こいつはストーカーだ!
「あはっ!思い出してくれて嬉しい!
やっぱり、身体は覚えていたのね」
アカネは既に身を起こして、俺の上にまたがっている。
「人聞きの悪い事言うな!
昔だって小学校の演劇で、何を血迷ったのか、『木』の役の俺に、『王女』役のお前がキスしただけじゃねぇか!」
「あらぁ、そうだったけ?もう10年以上も前の事だし、経緯なんて忘れちゃったぁ。
キスした事実だけは、まだ覚えてるけど…」
「…ふんっ!随分ご都合の良い事で!
…で、何しに来たんだよ?」
アカネが顔を近づけてくる。
「迎えにきたのよ。ほら、よくあるでしょ?
絶世の美女の王女様が、囚われの身である王子様をさらいに来るってお話…
あれをしてみたかったの」
「…逆ならよく聞く昔話だけどな…」
「あらぁ、じゃあ私をさらってくれる?」
「…どうしてそうなる?」
アカネの指が俺の頬をなでる。
気持ち悪すぎる…
「あらぁ、冷たいのね…こんな美女が誘ってあげてるのに…」
「自分の事を『美女』という奴を、『残念』と世の中では言うんだぜ?
とにかく俺は、お前と関わりたくないんだ!
帰ってくれ!」
俺はアカネをそう言い突き放す。
確かにコイツは美人かもしれん。
それは、昔からだ。
その目立つ美貌と、快活で聡明な性格ゆえにコイツはいつもクラスの中心にいた。
一方の俺は…端っこで周囲に背を向けているタイプだった…カッコつけて…
本当は中に入りたかったが…
そんな俺を端から中に入れようと、ことある事に構ってきたのがアカネだ。
遠足行った時は、弁当を作ってきた。
運動会の借り物競争で『好きな人』って書かれてれば、俺を引っ張ってきた。
そこは普通、父親だろ!
泣くぞお前のパパ!
そんな事ばかりだったから、人気のある女子をムゲにする男子として、俺は当然の様にイジメにあった。
だから、ある時
「もう、俺に構うな!ストーカー!」
と突き放した事を覚えてる。
今思えば、10歳の少女に対し、随分なモノの言い様だったと反省したりしてる…
しかし、当時の俺は、そんな事を考える事も出来ない位に参っていた。
あの時のアカネの悲しそうな表情が、今でも目に浮かぶ。
アカネは一瞬、あの時と同じ表情を浮かべた。
俺は少し後悔する。
「あはっ!相変わらずユーはツンデレなのね!そういう所がゾクゾクしちゃう!」
後悔したことを後悔した…
「あはっ!じゃあ、行きましょうか!
誰も邪魔が入らないところへ」
「おいおいおいおーい!な、何をしにどこへ連れていくつもりだ!?」
アカネはニタリと笑う。
俺の「ヤバイよ!ヤバイよ!」センサーが心の中でなり響く…
「どこかは言えないけど、何かって…決まってるでしょ…?」
あぁ、俺今日大人の階段登っちゃうのか…
このヤンデレ残念美人のせいで…
「あはっ!今イヤらしい事を考えてたでしょ!?
でも残念~」
き、期待なんてしてなかったかしら!
…と誰かさんの口癖が移る…
「お楽しみは、元の世界に戻ってから…
今はこの世界にバイバイしに行きましょう」
そして、俺の意識が完全に落ち始める…
さっきの口づけで何か飲まされたらしい…
た、助けて…
俺は来るはずもない助けを、心の中で念じて、意識を絶ち切った…
超人気ゲーム『ファンタジア・ワールド』続編のデバッガーとして、『バグ』を排除する為に、ゲームの世界に転生してきた俺、名前は「ユー」。
しかし事もあろうことか、俺はゲームのバグであった。
その為に、他のプレイヤーやモンスターに執拗に追われる羽目に…
金髪ツインテールで10歳のツンデレ少女「シェリー」。
料理上手だが引っ込み思案の女子高生で『(俺的には)天使』の様に可愛い「イオリ」。
この二人を逃亡仲間に加え、俺は新たな逃亡の旅に出る。
◇◇
拠点である水場を離れた俺たち3人は、転生された街から離れる様に進む事にした。
なぜなら、俺たちを追ってくるであろうプレイヤーは全員その街に転生してきており、そこから、少しでも遠くに離れたいと思ったからだ。
しかし今のところ、逃げる事以外ですべき事が分からない。
まぁ命あっての物種だ。
とにかく逃げて何か『生き残る意味』を見付けだすしかないな…
◇◇
「いやぁ、イオリたんは料理上手だよなぁ」
俺は満腹になった腹をさすって、イオリにこれ以上にない笑顔(自称)を向ける。
安全が確認できたこの川岸が今宵の野営地だ。
いつも通り料理担当は『俺の天使』こと、イオリたんだ。
「俺もう胃袋も心も何もかも掴まれちゃったなぁ…」
幸せな気分に浸っている俺に水を差す幼女。
「その幸せなオツムも掴まれて、少しは賢くして貰えれば、いいかしら!」
「はいはい、妬くな妬くな。お子ちゃまは、もうしゅこしお料理が出来るようになりましょうね~」
「な、な~~~~っ!」
顔を真っ赤にしてポカスカと俺を殴ってくるシェリー。
その様子を優しい微笑みで見つめるイオリ。
なんともほほえましい光景だ。
焚き火の明かりが3人を優しく包んでいた。
そんな平和な状況に、俺は完全に油断していた。
俺は気付かないでいた。
一人の影が3人をジッと見ている事に…
「…やっと見つけたわ…」
◇◇
今宵もテントは二つ。
もちろん女子と俺の二手に分かれる為だ。
以前に比べれば、テントとテントの距離が縮まったのだ。
それで良しとしますか…ぐすんっ。
白いワンピースで俺の前に仁王立ちするシェリー。
「…あんた覗いたりしたら、容赦しないかしら!」
「はいはい、俺はそんな趣味(ロリコン)じゃないって言ってるだろ~」
「わ、わたしはもう立派な大人(レディ)かしら!バーカ!バーーカ!」
「シェリーちゃん、もう寝ましょう。
寝る子は育つって言うしね!」
イオリがシェリーを俺から引き離す。
「まぁ!イオリお姉ちゃんまで、わたしをお子様扱いするかしら!?」
「お前はまだお子ちゃまだろ?
育つとこ育たないと、王子様に振り返ってもらえないぞ~!ぷぷ~っ」
俺はシェリーの『まな板』を指差して笑う。
「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ…」
シェリーさん…小太刀を抜いて何をしてらっしゃるのかしら…?
「ユルサナイ…かしら~~~!!!」
ギァァァァ~~~!
俺は逃げる様にして、自分のテントに駆け込んだ。
俺は心の中で会話を可能とする、俺のユニークスキルである『チャット』をオンにして、シェリーに話しかける。
「へっ!とにかく俺はお前のテントを覗いたりなんかしねぇよ!
だからお前もこのテントに夜襲かけに来るなよ!」
「誰がそのクッサイ中に入るかしら!」
「あれぇ~?イオリたんが来る前までは、このテントで一緒に寝てましたよね~」
「な~~~~っ!他人の黒歴史を暴くなんて!サイテーかしら!」
「はいはい、もういいよ。おやすみ~」
「くぅ~~~!次会った時は覚えてらっしゃい!」
どこかの悪役みたいなセリフだな…
それに明日の朝から顔合わせるだろ…
そんな風に思っていた。
そして、それが叶わないと言う事は、露にも思っていなかった。
◇◇
今日も何だかんだでよく逃げた。
出てきたモンスターは小型の肉食獣のトサカリザードばかりだか、やつらは集団で襲ってくる上に、すばしっこい。
意外と逃げるのに苦労するのだ。
そんなやつらとの追いかけっこも、もう慣れっこだが、疲れる事には変わりない。
防具を脱ぎ、いつも通りパンツ一丁になる。
そしてすぐさま寝袋に入り込んだ。
心地好い疲れが、すぐさま俺を眠りへと誘う。
それに何故か甘い匂いも漂っている気がした。
「イオリたんの香りかなぁ~…
香りまで素敵なんて…さすが天使だぜ…」
「…誰よ、その『イオリ』ってやつ?」
むむっ?
なんか聞き覚えのあるような、少し高い女性の声…
気のせいか…
ここ女子禁制のテントだしな…
いや!俺は女子もウェルカムなんだよ!?
そんな事を考えながら、もう一度俺は眠ろうと頭を空にする。
すーっと意識落ちていく。
しかし、それを邪魔するように、またさっきの声…
「ちょっと!折角私が来てあげたのよ!無視とかヒドくない!?」
うん、これはっきり聞こえる。
誰かいる!!
俺はとっさにメニューを開こうと、装置のある左腕を触ろうとする。
しかし、何故か身体が言う事を聞かない…
痺れている…何か毒を吸い込んだのだろう…
まさか、さっきの甘い香りの正体か!?
「んで、『イオリ』って誰よ?まさか、あっちのテントで寝てる、地味そうな女の子?
それともロリロリな幼女?
後者だったら、引くわぁ~」
「…って、お前誰だよ…?」
テントの中は勿論明かりなど点けていない。
女性の声を聞き分けられる程、俺は女性も知らんし…ってそれはどうでもいいだろ!?
「え~~っ!?私を忘れたの?
それってヒドくない?」
「忘れるも何も、夜中に急に襲って来るような痴女の知り合いなんぞ、俺は知らん!」
明らかなのは相手が女性と言う事位だ。
俺は話の糸口から、相手の正体を明かそうと、少し揺さぶりをかけてみた。
しかし、相手はその揺さぶりに、
「ち、痴女ってヒドいわ!
そっかぁ、気付かなかったかぁ…」
と、あっさりと乗ってくる。
チョロイな…
「何をだ?」
「10年振りの再会で、美少女から美女に成長した幼馴染に気付かない、純朴な青年って訳ね!」
10年振りだと…?
10年前、すなわち俺は10歳の時に、田舎町から都会に引っ越した。
その時以来と言う事か…
聞き覚えのある声というのは、10年振りだからか…
しかし、10年前にそんな仲良かった女子なんていたか…?
「…もう、こうでもしないと思い出せないかなぁ?」
「…なっ!?おい!やめっ…」
ぶちゅ…
俺の唇がその女に奪われる…
俺の初めてが…
あっ…シェリーにもなめ回す様に、ぶちゅぶちゅされたか…
でも、あれはノーカウントだよな…
今回もノーカウントだよな…
俺の初めてはイオリたんの…
「いてっ!今噛んだだろ!?何すんだよ!血が出るだろ!?」
「今、他の女の事を考えてたでしょ…?」
ぞくりっと悪寒が走る…
何故分かった…?
という単純な疑問よりも、前にもこの悪寒を味わった事ある…
そう確信した…
「…お、お前…」
「あら、やっと思い出した?」
「アカネか…?」
雲の合間から顔を出した月明かりがちょうどテントの中を照らし始めた。
女のシルエットがはっきりと見える。
大きな胸にくっきりとしたくびれ。
肩まで伸ばした髪の毛先はフンワリとまとまっている。
そして、大きくて少し釣り上がった瞳と小さめな鼻。厚い唇。
間違いなく美人の部類に入る。
10年前と変わらない、その面影…
俺の記憶にくっきり残されていた、あの女の子に間違いない。
アカネだ。
しかし、幼馴染ではない!
俺は認めない!
こいつはストーカーだ!
「あはっ!思い出してくれて嬉しい!
やっぱり、身体は覚えていたのね」
アカネは既に身を起こして、俺の上にまたがっている。
「人聞きの悪い事言うな!
昔だって小学校の演劇で、何を血迷ったのか、『木』の役の俺に、『王女』役のお前がキスしただけじゃねぇか!」
「あらぁ、そうだったけ?もう10年以上も前の事だし、経緯なんて忘れちゃったぁ。
キスした事実だけは、まだ覚えてるけど…」
「…ふんっ!随分ご都合の良い事で!
…で、何しに来たんだよ?」
アカネが顔を近づけてくる。
「迎えにきたのよ。ほら、よくあるでしょ?
絶世の美女の王女様が、囚われの身である王子様をさらいに来るってお話…
あれをしてみたかったの」
「…逆ならよく聞く昔話だけどな…」
「あらぁ、じゃあ私をさらってくれる?」
「…どうしてそうなる?」
アカネの指が俺の頬をなでる。
気持ち悪すぎる…
「あらぁ、冷たいのね…こんな美女が誘ってあげてるのに…」
「自分の事を『美女』という奴を、『残念』と世の中では言うんだぜ?
とにかく俺は、お前と関わりたくないんだ!
帰ってくれ!」
俺はアカネをそう言い突き放す。
確かにコイツは美人かもしれん。
それは、昔からだ。
その目立つ美貌と、快活で聡明な性格ゆえにコイツはいつもクラスの中心にいた。
一方の俺は…端っこで周囲に背を向けているタイプだった…カッコつけて…
本当は中に入りたかったが…
そんな俺を端から中に入れようと、ことある事に構ってきたのがアカネだ。
遠足行った時は、弁当を作ってきた。
運動会の借り物競争で『好きな人』って書かれてれば、俺を引っ張ってきた。
そこは普通、父親だろ!
泣くぞお前のパパ!
そんな事ばかりだったから、人気のある女子をムゲにする男子として、俺は当然の様にイジメにあった。
だから、ある時
「もう、俺に構うな!ストーカー!」
と突き放した事を覚えてる。
今思えば、10歳の少女に対し、随分なモノの言い様だったと反省したりしてる…
しかし、当時の俺は、そんな事を考える事も出来ない位に参っていた。
あの時のアカネの悲しそうな表情が、今でも目に浮かぶ。
アカネは一瞬、あの時と同じ表情を浮かべた。
俺は少し後悔する。
「あはっ!相変わらずユーはツンデレなのね!そういう所がゾクゾクしちゃう!」
後悔したことを後悔した…
「あはっ!じゃあ、行きましょうか!
誰も邪魔が入らないところへ」
「おいおいおいおーい!な、何をしにどこへ連れていくつもりだ!?」
アカネはニタリと笑う。
俺の「ヤバイよ!ヤバイよ!」センサーが心の中でなり響く…
「どこかは言えないけど、何かって…決まってるでしょ…?」
あぁ、俺今日大人の階段登っちゃうのか…
このヤンデレ残念美人のせいで…
「あはっ!今イヤらしい事を考えてたでしょ!?
でも残念~」
き、期待なんてしてなかったかしら!
…と誰かさんの口癖が移る…
「お楽しみは、元の世界に戻ってから…
今はこの世界にバイバイしに行きましょう」
そして、俺の意識が完全に落ち始める…
さっきの口づけで何か飲まされたらしい…
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