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第2章 バグ同士集まって何が悪い!

幕間 お兄ちゃん直伝の『ハッタリ』でなんとかするかしら!

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◇◇
お久ぶりなの、わたしは「シェリー」。

「ファンタジア・ワールド」の世界で生まれ育った、10歳の立派なレディなのよ。

しかしこともあろう事か、このわたしが『バグ』と認定されて、追われているかしら!

むっき~~~!!そんなことあってはならないかしら~~!

…コッホン。取り乱しましたわ。

そんなわたしを救ってくれた、運命の王子…いや、『ただのお兄ちゃん』である「ユー」お兄ちゃん。
途中で一緒になった、お料理がとっても上手で優しい「イオリ」お姉さま。
今はこの3人で、逃亡という冒険に出ているところなの。

でもある晩、ユーのバカお兄ちゃんが、見知らぬエロ女に色仕掛けでさらわれてしまいましたの!

その様子は、お兄ちゃんの『チャット』機能で、離れていても、詳細に生々しく聞こえてましたわ!
まだ殿方との逢瀬の経験がない…いや『少ない』わたしには、刺激が強すぎて、思わず鼻血が出てしまったかしら…

でも、そんなバカお兄ちゃんでも、「助けてくれ…」って、わたしに助けを求めたかしら!

仕方ないわね!貸しってことで、わたしが助けに行ってあげるかしら!
べ、別にお兄ちゃんを返して欲しい、とか思ってなくてよ!

◇◇

「…シェリーちゃん…そんなに急いだら、誰かに見つかっちゃうよ…」

イオリお姉ちゃんは心配そうな顔をして、わたしをたしなめてるの。
でも、そんな悠長な事を言ってたら、お兄ちゃんにもしもの事があったら…
べ、別に、わ、わたしには『全然』関係ないかしら、でも後味は悪いから…急ぐかしら!

森の中をお兄ちゃんの声が消えていった方向へ駆ける。

幸いなことに、モンスターやプレイヤーに合う事は全くなかったわ。
さすが、『持ってます』、わたし!

懸命に走っていると、なぜかお兄ちゃんの顔が浮かんできましたわ。

わたしが助けてあげたら、頭をなでてくれるかしら?
それとも、だ、抱きついて、またあの時みたいに『キス』をしてくれるかしら?

「…シェリーちゃん?なんか、顔がにやけているけど…何かいい事思いついた?」
「べ、別にヤマシイ事なんて考えていなかったかしら!
お兄ちゃんの事助けたら、お兄ちゃんに褒めてもらえるなんて思ってないかしら!」
「…ふふ、褒めて欲しいのね。たぶん、ユーさん褒めてくれるわ…優しいもの」
「べ、べ、別に…「シェリーちゃん!前!!」

急にイオリお姉ちゃんが、わたくしの腕を掴んだの!
意外と強い力だったから、びっくりしましたわ。

仁王立ち…という表現が正しいかしら?
頭がツルツルと眩しい、トカゲの大きなモンスターが立ちふさがっていたの!
「ここは意地でも通すまい!」
という気迫みたいなものを感じましたわ!

すると、思いのほかダンディなおじさまの声で、トカゲが話してきたの!

「…ここは大人しく立ち去るがよい…」

おおおお!トカゲが人の言葉を話したかしら!!
その事にビックリして、何を言われたか、さっぱり分からなかったですわ!
だから、ここは大人しく通してもらいましょ。

「やい!ツルツルトカゲ!大人しくここを通すかしら!」

「…お主…さっきのわしの言った事を聞いておったのか?
わしは大人しくここから立ち去れ、と言ったのだ」

くっ!あくまでわたしの恋路を…もとい、救出作戦を邪魔するかしら!

ここは、お兄ちゃん直伝の『ハッタリ』でなんとかするかしら!

「…シェリーちゃん…大丈夫…?無理をしたら、ダメだよ」
「大丈夫!わたしに任せるかしら!」

「…あと、ツルツルトカゲではなくて、『トサカリザード』ってモンスターらしいよ…」
「な~~~!トサカのないトサカリザードなんてただのリザードじゃないかしら!?」

「…おい、お主ら随分と失礼な事を話していないか?」
「ふん!トサカがないあんたが悪いかしら!!」

まずは、こっちに有利になるように『ゆさぶり』ですわ!

「…とにかく早く立ち去れ…」

おお!効きましたわ!
話題をそらしたのは効いている証かしら!
次は『こーしょー』かしら!

「ふふふ…ここは一つ取引といかなくて?」
「…ふん、嫌じゃ」

トカゲはプイっと横を向く。
きたぁぁぁかしら!
これは『嫌よ、嫌よも好きかしら』パターンね。
お兄ちゃんから聞いたわ!『つんでれ』というやつかしら!

よし!ここは一気に押し通すかしら~!

「いいわ!取引といくかしら!」

「…おい!?お主…!」

「ふふふ、そんなに照れなくてもよくってよ。あなたが『つんでれ』なのは分かっているかしら」

「…なんのことだ?お主は何を言っているのだ!?」

「まぁまぁ、ツルツルの言いたい事は分かるわ!取引の条件は…
ここを通して、お兄ちゃんを助けなさい!
無事助けられたら、大人しくここを立ち去ってあげるかしら!!」

どうだ!
決まったかしら!

イオリお姉ちゃんもポカンと口を開けている。
ツルツルは、何か可哀想なモノでも見るような情けない顔をしている。

わたしの『こーしょー』が決まったかしら~~!!

「…シェリーちゃん…ツルツルさん、すごく怒っているみたいよ…」

え…?
よくよく見ると、ツルツルの頭に青筋がいくつも浮き出ている。

「あれ?なんでかしら?すごく良い条件だと思ったかしら?」
「キサマァ!!侮辱するにも程がある!!もう、許さん!!!」
「な~~~!!それって『ぎゃくぎれ』ってやつかしら!!」

ツルツルが大きな口を開けて、わたしたちに襲いかかってこようとしている。
このままじゃ…このままじゃ…お兄ちゃんを助けられない…
そんなの嫌だ…

「うぁぁぁぁぁ~~~ん!!ツルツルのバーーカ!!お兄ちゃんが危ないのにぃ~!!」

「ちょっ!突然泣きだすな!!」

「うぇぇぇ~~~ん!だって…だって…お兄ちゃんが…わたしのお兄ちゃんが危ないの!
死んじゃったら、いやなの!わたしはお兄ちゃんとずっと一緒に居たいの!うぇぇぇ~ん!!」

「分かった!分かったから!!もう泣くな!!」

「…ぐすっ。何が分かったのかしら…?」

「誰も通すなと主人に命じられていたのじゃが、仕方あるまい。
一緒に近くまで行ってやろう…ただし、ご主人の邪魔立てはさせぬぞ」

「…うん、分かったかしら…」


なんか良く分かっていないけれど、『こーしょー』は成立したようですわ。
流石、わたし、ですわ!


そして、わたしたち3人は、『結婚式』の会場近くで身をひそめてる事に成功したわ。

その後、アカネお姉ちゃんに呼ばれてに入ったのよ。

◇◇

今回はわたしが大活躍したかしら!
これで、わたしの事を大人(レディ)とお兄ちゃんも認めざるを得なくてよ!

なのに、この話をしたら、お兄ちゃんは呆れるばかり…
悔しい…何がダメだったのかしら…?



でも、「ありがとな」って言って、頭を撫でてくれたから、チャラにしてやるのかしら。
ほ、本当は、抱きしめて欲しかったなんて、思ってないかしら!!







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