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第2章 バグ同士集まって何が悪い!

23. お前ら!俺の一世一代のカッコつけを台無しにするな!

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◇◇
こんにちは、ユーです。

こっちの世界に転生してきてから早10日経ちました。

『バグ』と認定されてからは、一週間だ。
その間に色んな事がありました。

金髪ツインテール幼女のシェリーに心を救われました。
料理上手のイオリは、この世の『天使』で、その出会いは運命的でした。
自称幼馴染でヤンデレ残念美人のアカネには、大切な唇を奪われてしまいました。
トサカリザードだが、トサカがなくツルッパゲのツルツルには、空気キャラになると、ここまでセリフがないのかと、戦慄を覚えました。

そんな彼女たち&モンスターと、今日も逃亡の旅に出ます。

今日も何か出会いの予感がします。
あまり良い出会いの予感がしないのは、なぜなのでしょうか…?

「お兄ちゃんの日頃の行いのせいかしら!」
「…ユーさん…マイナス思考は…めっ…です」
「あは!私との再会で『幸運』は使い果たしたってことよね!やっぱり私、愛されてるわぁ」

◇◇

「むっ、目の前に大きな建物が見えるでござる」

既に日は高く、感覚的には正午を過ぎてから、2時間程経った頃だっと思う。
それまで無色透明の空気の様な存在のツルツルこと、トサカリザードが声を出したのだ。
その事に皆ビックリしている。

しかも「ござる」って!
そう言うキャラだったのか!

思わず、ぷぷ~っと笑いが込み上げてきてしまう俺は、不謹慎だろうか?

「…あれは…お城?」

イオリの一言で我に返った俺は、あらためて眼前に見えてきた、建物を見つめた。

確かに、中世のお城の様な風貌だ。
まだ距離があるせいか、ぼんやりとしか分からないが、かなり大きな建物である事は間違いない。

この世界に転生してから、建造物はギルドの街でしか見ていないから、新鮮な感じがする。

「どうだろう?一応何か調べてみるか…」

俺は広域マップを開いた。

「あれ!?」

マップが開かない…
いや、正確には、開いたマップが砂嵐のようなもので覆われ、レーダーが表示されないのだ。
それは、イオリやアカネも同様な様である。

なんかすごく嫌な予感しかしないんですけど…

そして、その予感はすぐに的中する。

一瞬、空が何かに覆われる様に、大きな影を落とした。俺はふと上空を見上げる。

「なっ!!!?」

声を失う程に焦らせるような、絶望的な体躯の影がそこには存在していた。

そして、その大きな影は、驚くほど滑らかに、俺たちの目の前に降り立った。



真っ黒な鱗のドラゴンであった。



「あわわ…初めて見たかしら…」
「あは!これは死ぬかもね。でも愛する人と一緒に死ねるなんて…すっごい幸せ」
「お前のその歪んだ死生観をどうにかしろ」

イオリは目を回して倒れそうになっているのを、ツルツルが支えている。
その手があったか!と俺はポジショニングを悔やんだ。

「あんた…くっだらない事を考えている暇があるんだったら、この状況をどうにかしなさいよ」
アカネがジト目で俺を睨んできた。
だから、どうしてコイツには俺の考えている事が分かるんだ?

そんなやり取りをしている間にも、ドラゴンは一歩二歩と近付いてくる。

あんな風に飛ばれては、逃げてもすぐに捕まるのが落ちだ。
ハッタリが通用しなそうなのは、その雰囲気を見ればすぐに分かる。
これはいよいよヤバいな…

その時ドラゴンがニヤリと笑った…気がした。

ここは全員無事で逃げるのは、どう考えても困難だ。
誰か一人が犠牲になれば、あるいは一人くらいは逃げられるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。

イオリをちらりと見る。
既に目は覚めているようだが、青くなって震えている。
次にシェリーを見る。
不安そうに俺を見つめている。

この二人だけは、なんとかしてあげたい。
「おい!恋人の私を忘れてるだろ!」
とアカネが突っ込んでくるが、無視だ。

ここは、俺が囮になると決心した。
ろくな思い出も作れてないが、こうなっては仕方ない。
一瞬の判断の遅れが、全滅につながるような気がしていた。

意を決して、黒竜に向かって叫ぶ。


「食うなら、俺から食え!ドラゴン野郎!!」

俺の叫びに、皆が目を丸くする。
俺はそんな反応を無視するように、全員に指示を出す。

「皆はバラバラの方向に逃げるんだ!
一人でも助かる可能性を考えるんだ!」

そして俺はドラゴンの方へ駆け出していった。

せめて一人でも生き残ってくれよ…
そんな悲壮感に浸りながら…


「お兄ちゃん!」
「…ユーさん!」
「私も一緒に食われるわ!」
「くっ!お主だけではいかせん!」

なぜか皆付いてきた…

「おい!お前ら!俺の一世一代のカッコつけを台無しにするな!俺を逝かせてくれ~!」

「お兄ちゃん!シェリーとずっと一緒に居てくれるって約束したもん!」
「…もう一人ぼっちにさせてなんてあげない…ってわたしも同じ気持ちだから…」
「生まれた所は違えど、死ぬ時は一緒よ~!それにまだ結婚式終えてないし!!」
「一人でかっこつけなどさないでござる…」

「え~~~い!!お前ら死んだって、俺に文句言うんじゃねえぞ!!」

「置いてかれる方が文句言うかしら!!」

おそらくこのシェリーの一言が、みんなの気持ちを代弁していたのだろう。
皆静かにうなずき、俺に続いた。

黒竜が目前に迫る。

「うお~~~~!!」

訳も分からず『チャット』をオンにして、黒竜にも聞こえるような、心の雄たけびを繰り出す。

黒竜の表情は変わらない…
「効かなかったか…」
俺の最期のハッタリだったのにな…少しがっかりする。

その時、黒竜から声が聞こえる。心の声だ。

「おお!きみ!いいねぇ~!お話できるじゃん!」


ゴツイ黒竜に似つかわない、10代を思わせる女の子の声だ…


「あは、その声似合わないなぁ」
「ぶ~~~!アイドル捕まえて、声が似合わないとか、ちょー失礼なんですけどぉ」
「ア、アイドルだと!?その風貌で!?」
「ククク!ごめん!ごめ~ん!この姿だとビビッちゃうよね~」

呆気にとられている俺たちの目の前で、黒竜が…消えた。

「おい!!?消えただと!?」

そして黒竜のたっていた場所に女の子が現れた!


いや、女の子?なのか?


見た目は女子高生っぽい。

しかし、頭には2本の角。背中には小さな翼。そして、お尻には細長い尻尾が生えているのだ。

うん、こいつ『悪魔』ってやつだ。

その悪魔が、満面の笑みで俺たちを迎えた。

「やっほ~!私は魔王で、名前はりのりん!魔界のアイドルやってま~す!よろしく…ね!」

そう魔王と名乗ったこの少女は、「ね!」のところで片足を跳ねて、ポーズを決めるのだった。




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