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映画館と喫茶店
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会社に行き同じフロアの週刊誌に呼ばれた清子は、そのまま仕事を始めた。いつものスーツ姿ではなく、ラフな格好をしている清子に男性社員がこそこそと話をしている。だが校了前。あまり余裕はないようだ。
「これで大丈夫です。」
同じIT部門の男が感心したように画面を見ていた。
「休みの日に悪かったね。」
でっぷりと太った男が清子に声をかける。
「いいえ。講習が終わった後だったので間に合って良かったです。」
そばには史の姿もあったが、史は何をしているのかさっぱりわからなかった。だが清子がキーを押したとたんに、暗かった画面がぱっと明るくなったようで、正常に動いたことを安心の目で見ている。
「正木さんも悪かったね。」
「俺は休みって言っても暇でしたから。」
すると男は、正木に封筒を手渡した。
「これ、良かったら持って行って。」
「何ですか?」
封筒を開けると、映画のチケットがある。このチケットを出せば好きな映画をただで観れるものだ。それが二枚ある。
「この間、映画会社の人が来てね。それを置いていったんだ。」
「いいんですか?」
「いいよ。二枚しかないのに、ここの人たちにやったら争奪戦だ。」
その言葉に史は少し笑う。
「じゃあ、ありがたくいただいていきます。」
清子を見ると、同じ部門の男に簡易的な処置の仕方を教えているようだった。それもやり方がわからなかったのだろう。
「もし今度こういうことがあれば、このような処置でとりあえずはいけますから。」
「ありがとう。また何かあったら呼ぶよ。」
「はい。いつでも。」
清子はそういって一礼すると、オフィスを出て行く。
「あ、徳成さん。」
史もその後を追うように出て行った。その姿を見て、男たちは少し笑う。
「デキてる二人みたいだな。まるで夫婦だ。」
「でもほら、正木さんはあんな感じが好みだとは言ってなかったですけどね。」
「明神さんみたいな感じだろ?正木さんの好みって。」
「真逆っぽい。」
「だとしたら相当床上手なんだろうな。」
「言える。あの課にいても平然と仕事をこなしてるみたいだし。」
そんな噂をされているとは思わないまま、清子はエレベーターホールへ向かおうとしていた。そこへ史が駆け寄ってくる。
「徳成さん。」
「どうしました?」
「さっきの編集長が、これを持たせてくれた。」
さっきの封筒を清子に見せて、中身の映画のチケットを見せた。すると清子は少し笑った気がする。
「映画は好きですね。」
「意外だな。どんな映画が好きなんだろうか。」
「息抜きになりますし、出来るなら現実離れしたものがいいです。」
そういって清子はその封筒を手にすると一枚抜き取った。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」
いい暇つぶしが出来た。そういって清子はまたエレベーターホールへ向かおうと足を進めようとしている。それをまた史が止めた。
「一緒に行かないか。」
「いいえ。映画は一人で見る主義なので。隣に誰かいると気が散りますし。」
「気を使わなくてもいい。」
おそらく夕べのことを根に持っているのだろう。だからこんなに突っかかるのだ。
「それに、君と観たい映画がある。このチケットが使えるかわからないけれど。」
「……どんな映画ですか?」
その言葉に史は携帯電話を取り出して、何かを検索した。そして画面を清子に見せた。
「……この映画って……。」
「古い映画館だけど、レトロなものが放映されている。お客さんも今の時間ならそんなにいない。」
「私は結構です。」
史が見せたのは成人映画。昔の映画のもので、モノクロだったが男と女が抱き合っているポスターに、清子はすぐに拒否反応を示したのだ。
「現実離れしている。そして古い映画が未だに上映されているのは、内容はともかく芸術性に優れているからだとも言えるだろうね。君は、割り切ってうちの仕事をしてくれているみたいだけど、あまりにもそういう部分が幼いと思う。」
清子は少し黙り込み、そしてため息を付いた。
「編集長は、とても言葉が上手いですよね。誰でも納得するでしょうし、説得力があるから反論もしないのでしょう?」
「そうかな。」
「わかりました。お付き合いしましょう。でも……。」
「どうしたの?」
「人のセックスを二時間も観るのは苦痛ですね。」
その言葉に史は少し笑う。そして二人はエレベーターに乗り込んでいった。
電車でS区にある繁華街にやってきた。その片隅に喫茶店があり、その隣には成人映画が専門でしている古い建物があった。
清子はそれをいぶかしげに見ていると思ったが、清子の興味は映画館よりも隣の喫茶店に注がれている。
「どうしたの?」
「……この喫茶店、同伴喫茶ですね。珍しいと思って。」
そんな単語が出てくると思わなかった。よく見ると、入り口に張り紙がしていた。「性交、スワッピングなどをお断りしています。」という書き込みに、思わず史も苦笑いをした。
「今時あるんですね。それに……この界隈は、ずっと昔にタイムスリップしたみたい。」
ストリップ劇場、成人映画、ソープランドではなくトルコ風呂という看板が修正された跡があった。
「この辺はヤクザの力も強いんだ。興味があるからといって一人で来てはいけないよ。」
「……。」
「来るときは俺と一緒に来て。」
「来ることがあるんでしょうか。」
清子はそういって映画館に目を向けた。入り口には今上映されている映画のタイトルが書かれている。この映画館では少し新しい作品が一番近くの時間にある。
「人妻ものが一番近いね。」
「それでいいですよ。」
「すいません。」
史は受付をしていた年増の女性に話をする。さすがに今日もらったチケットは使えないらしい。
「料金も安いしね。昔の映画のリバイバルだから。」
そういって史は清子にチケットを手渡した。もう二十分ほどで次の映画が始まる。
「あの……お金は……。」
「これくらいかまわないよ。」
入り口のそばにあるある灰皿に近づくと、清子は落ち着かないように煙草を取り出した。何だかんだと強がっていてもまだ二十五の女性なのだ。史がいるとは言っても、どんな客がいるのかもわからない。
そのとき隣の喫茶店から、若い男とその男の母だというくらいの女性が出てきた。
「あの人たちはこれからどこへ行くのでしょう。」
「さぁ……この裏にホテル街があるからね。」
「性交もスワッピングも禁止と書いているのに。」
「そんなこと誰も守ってないよ。本当に同伴喫茶ならね。今度一緒に来てみる?」
「いいえ。」
「取材対象にはなるかもしれない。」
「そのときは明神さんと一緒に来てみてください。」
きっと香子は史をまだ見ている。だから邪魔をしたくなかった。だがこの関係はきっと誤解を生む。
「……そろそろ時間だね。」
青い色あせたジャンパーを着た男が入っていき、そのほかは若いが太った男。ビジネスマン風の男も入っていく。女はきっと清子だけだ。
「これで大丈夫です。」
同じIT部門の男が感心したように画面を見ていた。
「休みの日に悪かったね。」
でっぷりと太った男が清子に声をかける。
「いいえ。講習が終わった後だったので間に合って良かったです。」
そばには史の姿もあったが、史は何をしているのかさっぱりわからなかった。だが清子がキーを押したとたんに、暗かった画面がぱっと明るくなったようで、正常に動いたことを安心の目で見ている。
「正木さんも悪かったね。」
「俺は休みって言っても暇でしたから。」
すると男は、正木に封筒を手渡した。
「これ、良かったら持って行って。」
「何ですか?」
封筒を開けると、映画のチケットがある。このチケットを出せば好きな映画をただで観れるものだ。それが二枚ある。
「この間、映画会社の人が来てね。それを置いていったんだ。」
「いいんですか?」
「いいよ。二枚しかないのに、ここの人たちにやったら争奪戦だ。」
その言葉に史は少し笑う。
「じゃあ、ありがたくいただいていきます。」
清子を見ると、同じ部門の男に簡易的な処置の仕方を教えているようだった。それもやり方がわからなかったのだろう。
「もし今度こういうことがあれば、このような処置でとりあえずはいけますから。」
「ありがとう。また何かあったら呼ぶよ。」
「はい。いつでも。」
清子はそういって一礼すると、オフィスを出て行く。
「あ、徳成さん。」
史もその後を追うように出て行った。その姿を見て、男たちは少し笑う。
「デキてる二人みたいだな。まるで夫婦だ。」
「でもほら、正木さんはあんな感じが好みだとは言ってなかったですけどね。」
「明神さんみたいな感じだろ?正木さんの好みって。」
「真逆っぽい。」
「だとしたら相当床上手なんだろうな。」
「言える。あの課にいても平然と仕事をこなしてるみたいだし。」
そんな噂をされているとは思わないまま、清子はエレベーターホールへ向かおうとしていた。そこへ史が駆け寄ってくる。
「徳成さん。」
「どうしました?」
「さっきの編集長が、これを持たせてくれた。」
さっきの封筒を清子に見せて、中身の映画のチケットを見せた。すると清子は少し笑った気がする。
「映画は好きですね。」
「意外だな。どんな映画が好きなんだろうか。」
「息抜きになりますし、出来るなら現実離れしたものがいいです。」
そういって清子はその封筒を手にすると一枚抜き取った。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」
いい暇つぶしが出来た。そういって清子はまたエレベーターホールへ向かおうと足を進めようとしている。それをまた史が止めた。
「一緒に行かないか。」
「いいえ。映画は一人で見る主義なので。隣に誰かいると気が散りますし。」
「気を使わなくてもいい。」
おそらく夕べのことを根に持っているのだろう。だからこんなに突っかかるのだ。
「それに、君と観たい映画がある。このチケットが使えるかわからないけれど。」
「……どんな映画ですか?」
その言葉に史は携帯電話を取り出して、何かを検索した。そして画面を清子に見せた。
「……この映画って……。」
「古い映画館だけど、レトロなものが放映されている。お客さんも今の時間ならそんなにいない。」
「私は結構です。」
史が見せたのは成人映画。昔の映画のもので、モノクロだったが男と女が抱き合っているポスターに、清子はすぐに拒否反応を示したのだ。
「現実離れしている。そして古い映画が未だに上映されているのは、内容はともかく芸術性に優れているからだとも言えるだろうね。君は、割り切ってうちの仕事をしてくれているみたいだけど、あまりにもそういう部分が幼いと思う。」
清子は少し黙り込み、そしてため息を付いた。
「編集長は、とても言葉が上手いですよね。誰でも納得するでしょうし、説得力があるから反論もしないのでしょう?」
「そうかな。」
「わかりました。お付き合いしましょう。でも……。」
「どうしたの?」
「人のセックスを二時間も観るのは苦痛ですね。」
その言葉に史は少し笑う。そして二人はエレベーターに乗り込んでいった。
電車でS区にある繁華街にやってきた。その片隅に喫茶店があり、その隣には成人映画が専門でしている古い建物があった。
清子はそれをいぶかしげに見ていると思ったが、清子の興味は映画館よりも隣の喫茶店に注がれている。
「どうしたの?」
「……この喫茶店、同伴喫茶ですね。珍しいと思って。」
そんな単語が出てくると思わなかった。よく見ると、入り口に張り紙がしていた。「性交、スワッピングなどをお断りしています。」という書き込みに、思わず史も苦笑いをした。
「今時あるんですね。それに……この界隈は、ずっと昔にタイムスリップしたみたい。」
ストリップ劇場、成人映画、ソープランドではなくトルコ風呂という看板が修正された跡があった。
「この辺はヤクザの力も強いんだ。興味があるからといって一人で来てはいけないよ。」
「……。」
「来るときは俺と一緒に来て。」
「来ることがあるんでしょうか。」
清子はそういって映画館に目を向けた。入り口には今上映されている映画のタイトルが書かれている。この映画館では少し新しい作品が一番近くの時間にある。
「人妻ものが一番近いね。」
「それでいいですよ。」
「すいません。」
史は受付をしていた年増の女性に話をする。さすがに今日もらったチケットは使えないらしい。
「料金も安いしね。昔の映画のリバイバルだから。」
そういって史は清子にチケットを手渡した。もう二十分ほどで次の映画が始まる。
「あの……お金は……。」
「これくらいかまわないよ。」
入り口のそばにあるある灰皿に近づくと、清子は落ち着かないように煙草を取り出した。何だかんだと強がっていてもまだ二十五の女性なのだ。史がいるとは言っても、どんな客がいるのかもわからない。
そのとき隣の喫茶店から、若い男とその男の母だというくらいの女性が出てきた。
「あの人たちはこれからどこへ行くのでしょう。」
「さぁ……この裏にホテル街があるからね。」
「性交もスワッピングも禁止と書いているのに。」
「そんなこと誰も守ってないよ。本当に同伴喫茶ならね。今度一緒に来てみる?」
「いいえ。」
「取材対象にはなるかもしれない。」
「そのときは明神さんと一緒に来てみてください。」
きっと香子は史をまだ見ている。だから邪魔をしたくなかった。だがこの関係はきっと誤解を生む。
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青い色あせたジャンパーを着た男が入っていき、そのほかは若いが太った男。ビジネスマン風の男も入っていく。女はきっと清子だけだ。
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