不完全な人達

神崎

文字の大きさ
20 / 289
映画館と喫茶店

19

しおりを挟む
 普通の映画館よりは狭い。それに何かの匂いがする。その匂いは、あまりいい匂いとは言えないが、理由を考えればわかるだろう。
 史は真ん中あたりに座ろうとしていた清子を止めて、一番後ろに席を座らせた。
「どうして?」
「後ろから首筋を舐められていいなら、真ん中に座ろうか。」
 ぞっとして清子は素直に一番後ろの端の席に座った。史はそれを守るように、清子の隣に座る。
 しばらくすると館内は暗くなり、普通の映画のように予告編が始まる。その全編はヤクザ映画か、AVのタイトルばかりだった。
 そして本編が始まる。序盤は団地に住む若い奥さん。あまりかわいらしいというタイプではないが、胸が大きいのがエプロン越しでもわかる。
 しばらくすると、旦那が酔っぱらって同僚と一緒に帰ってくる。奥さんはそれを介抱して、旦那を寝かしつけてリビングに戻る。そして同僚にお礼を言うと、その同僚がリビングのソファーで奥さんに襲いかかる。
「あっ……やめてください……。」
「そんなこと言ってもほら、体は正直じゃないですか。奥さん。」
 画面一杯の女の胸。それが男の手によって揉みしだかれると、まるでスライムのように形を変える。ピンク色の乳首が隆起し、それに男が吸い付くと、女のあえぎ声が館内に響いた。
「あぁ……。」
 少し離れたところに座っていた男は、もぞもぞと手を動かしているようだった。その様子に、史は清子が気になってちらりとみる。だが清子は何の表情も変えない。
「……あっ!あっ!」
 スカートの中に手を入れられて、下着はまだ穿いたままだが手がその中に突っ込まれ、ぐちゃぐちゃと音を立てる。
 それからモザイクはかかっているが、映画の中で何度か女はセックスをしていた。最後には旦那とその上司と、四人でセックスをする。
「……。」
 その途中で館内に一人の男が入ってきた。そして史の隣に座った。色あせたGジャンの男は、薄ら笑いを浮かべて史に言う。
「兄ちゃん。このあとするのか?」
 手で握り拳を作り、丸めた人差し指に親指を突っ込む。すると史は苦笑いを浮かべていった。
「取材なんですよ。」
「編集者か。つまんねぇな。ねぇちゃん。欲求不満なら相手してやってもいいぜ。」
 ここへくる前に餃子か何か食べたのだろうか。息が臭い。
「何なら三人で……。」
 すると清子は男をぎっとにらむ。
「うるさい。黙って見てろ。」
 ヤンキーやヤクザなどに脅されたことはあるのだろう。だが清子のその表情に、男も、そして史も顔をひきつらせた。
「悪かったな。」
 そういって男は離れていく。そして席に座る。
 清子の表情はどこか血が通っていないように思えた。だが目だけは鋭く、そのままはものでもあったらさしてしまいそうだと史は思う。
 だがそういうところが好きなのだ。
「落ち着いて。」
 史はそういって清子の手を握る。しかし清子はその手を振りきった。
「心配しなくても落ち着いてますから。」
 画面の女は全裸にエプロンをつけたままだった。男を寝かせて、上から挿入し、口にはもう一人の性器がくわえられている。そして手には、三人目の男の性器が握られていた。
 そしてその口にくわえられていた男は、それを離すと、女の下の男と繋がったまま男の方に体を寝かせると、その後ろの穴にも性器を入れ込んだ。すると女は耐えきれないように、ひときわ高い声であえぐ。

 映画館を出ると、清子はぐっと伸びをする。
「どうだった?」
 史は聞くと、清子は少し笑って言う。
「現実離れは確かにしてましたね。非現実的。」
「そう言わない。」
 まるでファンタジーだ。一人の女に寄ってたかってセックスを強要するというのもあり得ない。だいたい、最初の時点で同僚にフェラチオを強要されるのだから、そのまま噛みちぎってやればいいのにと思う。まぁそんなことをしたら、AVの材料にならないだろうが。
「これからどこかへ行くの?」
「もう家に帰ります。」
「その前に食事にでも行く?少し早いけど、美味しい食堂があるんだ。」
「……いいえ。今日の講習もチェックしたいし。」
 普通の女なら、疑似でセックスをしているとは言ってもAVを観て興奮したりするはずだ。そしてその裏にあるホテルへ行くこともあるのだろう。
 そもそもカップルで成人映画をしている映画館へ来るというのは、そういうことが目的なのだ。
 だが清子は全くそういうことに関心を持たない。普通の映画を観てもこういう反応なのだろうか。
「チケット余っちゃったね。結局使わなかったし。」
「誰かと行ってください。」
「俺は君と行きたいけどね。来週、気になっていた映画が封切りするんだ。一緒に行かないか。」
「……別の方を指名してください。」
 あくまで相手にしたくない。そう言われているようだった。夕べの話を本気にしていない証拠だろう。
「徳成さん。あのさ……。」
「私と行かなくてもいいでしょう。明神さんを誘った方が喜ばれますよ。」
 その言葉に史は軽くため息を付く。そして清子をまっすぐに見た。
「夕べのことがわかってて言っているの?君は、人の気持ちを何だと思っているのか。」
「独占欲や嫉妬から言っている言葉が、信じれるわけがありません。それに……編集長の言葉は、私には軽く感じます。」
「今日は酔っていないよ。」
「えぇそうでしょうね。」
「だったら本気だと思わないのか。」
 さすがに清子もその言葉に言葉を詰まらせた。だが答えるわけにはいかない。
「徳成さん……イヤ、清子。これから俺に付き合って欲しいところがあるんだ。」
「イヤです。仕事をしたい。」
「いいや。付いてきてもらう。」
 清子は戸惑いながら、それでも史に手を握られる。そして引きずるように、喫茶店の横にある小道を行った。
「え……。あの……。」
「付いてきて。」
 その先はラブホテルがある界隈だ。そこへ連れて行って何をしようと言うのか。
「アレは……。」
 そんな二人をじっと見ている人がいた。そしてその女は晶に連絡する。
「ねぇ。史は、いつ彼女が出来たの?」
 愛は史の古い知り合いだった。だから史が言い寄るのを初めて見た気がする。
 いつも言い寄られて、勝手に別れを切り出されるとため息を付いていたのが嘘のようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...