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映画館と喫茶店
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昼休憩を挟んで、撮影を再開した。AVの撮影は、一日で撮り終わるときもあるが、一週間かけて撮る場合もある。今日の女優は単体女優としてはキャリアが長く、プロフィール上では二十五となっていたが、実際は二十八くらいだという。自慢の胸は確かに大きく、漫画から出てきたようだと思っていた。
午前中の撮影は一体一のノーマルなものが主だったが、午後からは男優が増える。その中には、昨日晶が撮った男優も含まれていた。相変わらず無気力な感じだが、撮影になると人が変わるのが男のいいところだ。そして女優に決して手を出さないのもいいところで、女優によっては気が多い女も多いので言い寄るようだが、男は全くと言っていいほど相手にしない。それが男の評判がいいところだった。それにキャリアが長いと主導権を握りたがるものだが、それにこだわりもない。
何が楽しくてしているのだろう。晶はそう思いながら、シャッターを切っていた。件の男は、女優の後ろに回りその男の手でも余る胸を揉みしだいている。そしてもう一人の男は、自分の性器をくわえさせ、手にはもう一人の男優の性器をしごいている。
そして主になる男は、女の性器に指を入れている。それはもう男の手をぬらすくらいの愛液が溢れ、女が絶叫すると同時に晶はシャッターを切る。潮を噴くのは写真に乗せやすい。何度噴くかわからないから、一度は撮ってやりたい。何度か噴けば「潮の噴きやすい、感じやすい女」として重宝されるのだ。
それを見ながら、晶は少し清子を思いだしていた。清子も感じやすかった。あのとき自分も清子も初めてだったから、手探りでしたセックスは稚拙だったに違いないのに清子はそれでも感じてくれていた。それが忘れられず、似たような女ばかりを選んでいた。
愛もその一人だ。
細身で、手足が長く、そして清子のように気が強い。よく似ている女だと思うが、清子がいれば清子の方がいいに決まっている。清子がまだ忘れられない自分が女々しい。
「あっ……あっ……。」
「失神しそうだな。」
監督はそう言って、手加減するようにカンペを見せる。だがあまり見ていないらしく、主になる男は容赦なく性器に激しく指を突き立てていた。
「おい。」
背中に回っていた男が声をかけて、やっと気が付いた。それでやっと男は女から離れる。
「気を失ったら話にならねぇ。ちょっと休憩入れるか。」
監督はそう言って伸びをする。すると女性に女たちが手をさしのべる。女のケアは女がする。男の出番ではないのだ。
晶はそのとき携帯をとりだした。愛からの着信が入っている。廊下にそっと出て行くと、通話を押した。
「もしもし。え……。」
愛は一足仕事を終えて、S区である野外の撮影に行く途中だったという。そこで史の姿を見たのだ。史は女と一緒に成人映画をしている映画館から出てきた。それから女を引きずるようにしてわき道へ消えたのだという。
その奥にはホテル街しかない。ホテル街を抜ければまだ開店前の居酒屋やホストクラブ並んでいるだけだ。そんなところに用事はないだろう。だったらやはり用事があるのは、ラブホテルだ。
史は愛の昔からの知り合いだった。だから目に付いたのだろう。そして史の隣には、今日、晶と一緒に階段を下りてきた派遣の女がいる。
「史は、いつ彼女が出来たの?」
「さぁ。わからないな。俺は外に出ていることが多いし、あまり関わりがないから。」
課の仕事だけではなく、こういう仕事もしているのだ。朝会社へいき、夕方撮ってきた写真を厳選する。修正は清子なり、他の人が見た目の良いようにするのだ。体や顔をあまり修正することはないが、移ってしまった性器などにモザイクをかける修正は、清子にとってきつい仕事かもしれない。
「あの女の人も見たことがある。」
「お前が見た子がある人って誰だろう。あまり共通の知り合いなんかはいないはずだけどな。」
付き合っていることを公に出来ないから、共通の知り合いがいない方がいいと思っていた。だから共通の知り合いとなると限られる。
「……あぁ。思い出した。派遣の子よ。」
「派遣?」
「昼にあなたと一緒に階段を下りてきた子。徳成さんって言っていたっけ。若そうだけど、いいんじゃない?史は主導権を握りたいタイプみたいだし、あぁいう若い子の方が従順よ。」
思わず携帯を落としそうになった。清子が史と成人映画を見て、その後ホテル街に消えた。それが何を意味しているのか、晶には理解できる。
夕べの感覚では付き合っている感じではなかった。確かに二人で飲みに言ったのかもしれない。しかし二人はその後別々に帰った。そしてそれを見ていた女の噂を払拭するために開いた飲み会で、史とはあまりくっつけさせないようにしていたはずなのに、どうしてのこのこついて行ったのかわからない。
もしかしたら本当に付き合っているのだろうか。あの濡れやすい体を好きにするのだろうか。清子は十年前に晶と体を重ねたとき以来、セックスをしていないのだという。処女と変わらない。だが、史は元AV男優だ。そう言うことにも慣れているだろう。
「晶?」
電話口から愛の声が聞こえる。少し黙っていたらしい。
「あぁ。聞こえてる。」
「あたしね、ちょっと誤解してたみたい。」
「誤解?」
「昼に二人で階段を下りてきたじゃない。だから、晶が浮気しているんじゃないかって。でも取り越し苦労だった。ごめんね。」
「いいや。俺も軽率だった。」
愛がこの建物で仕事をしていたのなんか知っていたはずなのに、清子を誘って階段を下りた。それは愛と鉢合わせする確率が高くなることを意味していたのだろうに。
「今日は無理だけど、今度温泉にでもいこうね。」
「あぁ。そうだな。」
マニュアルのように出てくる言葉は、愛を安心させる。電話を切って、晶はため息を付いた。
清子は仕事で史に呼び出された。そしてその後にホテル街に消えた。外を見ると、まだ太陽は高い位置にある。こんな昼間からホテルに消えるというのは、それだけ離れたくないということなのだろうか。
真実なのかはわからない。話をしているわけではないし、実際自分が見たわけではない。だが愛が誤解させるようなことをいうわけがない。そんなことをしても何のメリットもないからだ。
ピンク色の看板には休憩三千円からとか、宿泊七千五百円からとか、カラオケ、食事、アメニティなどが充実していると書いてある。
清子は不安そうな顔をしながら、史に手を引かれていた。男の方が力は強く、いざとなれば女を力ずくでいうことを聞かせるだろう。前にもそんなことはあったが、そのときも必死で振り切って逃げたことがある。
だがそのときは男も黙っていたから良かったが、今回は違う。直属の上司だ。振り切って逃げれば問題になるかもしれない。かといって黙ってホテルへ行く真似はしたくない。
そのとき史は足を止めた。そして視線の先にはホテルとホテルの間にある、小さな建物を見ているようだった。看板が下がっていて、「喫茶 ひととき」と書いてある。そこに史は足を踏み入れた。
「いらっしゃい。」
ドアを開けると可愛いドアベルが鳴り、薄暗い店内にはテーブル席が数席、そしてカウンター席がある。そのカウンターの向こうには、一人の女性がいた。
「葵さん。」
「あら、あら、史さんじゃない?お久しぶりねぇ。」
背が低く、ころころとした印象の女性だった。白いエプロンに見覚えがあり、清子は少し首を傾げる。
「さっき、葵さんの映画を見てきて、久しぶりに顔を見たくなったんだ。」
「あら、やだ。そんな昔のをするなんて、やーねぇ。」
くねくねと体をよじらせて、恥ずかしがっている。
そのとき清子ははっと気が付いた。この女性はさっきまで四人の男とセックスをしていた女だ。こんなところで会うと思ってなかった。
午前中の撮影は一体一のノーマルなものが主だったが、午後からは男優が増える。その中には、昨日晶が撮った男優も含まれていた。相変わらず無気力な感じだが、撮影になると人が変わるのが男のいいところだ。そして女優に決して手を出さないのもいいところで、女優によっては気が多い女も多いので言い寄るようだが、男は全くと言っていいほど相手にしない。それが男の評判がいいところだった。それにキャリアが長いと主導権を握りたがるものだが、それにこだわりもない。
何が楽しくてしているのだろう。晶はそう思いながら、シャッターを切っていた。件の男は、女優の後ろに回りその男の手でも余る胸を揉みしだいている。そしてもう一人の男は、自分の性器をくわえさせ、手にはもう一人の男優の性器をしごいている。
そして主になる男は、女の性器に指を入れている。それはもう男の手をぬらすくらいの愛液が溢れ、女が絶叫すると同時に晶はシャッターを切る。潮を噴くのは写真に乗せやすい。何度噴くかわからないから、一度は撮ってやりたい。何度か噴けば「潮の噴きやすい、感じやすい女」として重宝されるのだ。
それを見ながら、晶は少し清子を思いだしていた。清子も感じやすかった。あのとき自分も清子も初めてだったから、手探りでしたセックスは稚拙だったに違いないのに清子はそれでも感じてくれていた。それが忘れられず、似たような女ばかりを選んでいた。
愛もその一人だ。
細身で、手足が長く、そして清子のように気が強い。よく似ている女だと思うが、清子がいれば清子の方がいいに決まっている。清子がまだ忘れられない自分が女々しい。
「あっ……あっ……。」
「失神しそうだな。」
監督はそう言って、手加減するようにカンペを見せる。だがあまり見ていないらしく、主になる男は容赦なく性器に激しく指を突き立てていた。
「おい。」
背中に回っていた男が声をかけて、やっと気が付いた。それでやっと男は女から離れる。
「気を失ったら話にならねぇ。ちょっと休憩入れるか。」
監督はそう言って伸びをする。すると女性に女たちが手をさしのべる。女のケアは女がする。男の出番ではないのだ。
晶はそのとき携帯をとりだした。愛からの着信が入っている。廊下にそっと出て行くと、通話を押した。
「もしもし。え……。」
愛は一足仕事を終えて、S区である野外の撮影に行く途中だったという。そこで史の姿を見たのだ。史は女と一緒に成人映画をしている映画館から出てきた。それから女を引きずるようにしてわき道へ消えたのだという。
その奥にはホテル街しかない。ホテル街を抜ければまだ開店前の居酒屋やホストクラブ並んでいるだけだ。そんなところに用事はないだろう。だったらやはり用事があるのは、ラブホテルだ。
史は愛の昔からの知り合いだった。だから目に付いたのだろう。そして史の隣には、今日、晶と一緒に階段を下りてきた派遣の女がいる。
「史は、いつ彼女が出来たの?」
「さぁ。わからないな。俺は外に出ていることが多いし、あまり関わりがないから。」
課の仕事だけではなく、こういう仕事もしているのだ。朝会社へいき、夕方撮ってきた写真を厳選する。修正は清子なり、他の人が見た目の良いようにするのだ。体や顔をあまり修正することはないが、移ってしまった性器などにモザイクをかける修正は、清子にとってきつい仕事かもしれない。
「あの女の人も見たことがある。」
「お前が見た子がある人って誰だろう。あまり共通の知り合いなんかはいないはずだけどな。」
付き合っていることを公に出来ないから、共通の知り合いがいない方がいいと思っていた。だから共通の知り合いとなると限られる。
「……あぁ。思い出した。派遣の子よ。」
「派遣?」
「昼にあなたと一緒に階段を下りてきた子。徳成さんって言っていたっけ。若そうだけど、いいんじゃない?史は主導権を握りたいタイプみたいだし、あぁいう若い子の方が従順よ。」
思わず携帯を落としそうになった。清子が史と成人映画を見て、その後ホテル街に消えた。それが何を意味しているのか、晶には理解できる。
夕べの感覚では付き合っている感じではなかった。確かに二人で飲みに言ったのかもしれない。しかし二人はその後別々に帰った。そしてそれを見ていた女の噂を払拭するために開いた飲み会で、史とはあまりくっつけさせないようにしていたはずなのに、どうしてのこのこついて行ったのかわからない。
もしかしたら本当に付き合っているのだろうか。あの濡れやすい体を好きにするのだろうか。清子は十年前に晶と体を重ねたとき以来、セックスをしていないのだという。処女と変わらない。だが、史は元AV男優だ。そう言うことにも慣れているだろう。
「晶?」
電話口から愛の声が聞こえる。少し黙っていたらしい。
「あぁ。聞こえてる。」
「あたしね、ちょっと誤解してたみたい。」
「誤解?」
「昼に二人で階段を下りてきたじゃない。だから、晶が浮気しているんじゃないかって。でも取り越し苦労だった。ごめんね。」
「いいや。俺も軽率だった。」
愛がこの建物で仕事をしていたのなんか知っていたはずなのに、清子を誘って階段を下りた。それは愛と鉢合わせする確率が高くなることを意味していたのだろうに。
「今日は無理だけど、今度温泉にでもいこうね。」
「あぁ。そうだな。」
マニュアルのように出てくる言葉は、愛を安心させる。電話を切って、晶はため息を付いた。
清子は仕事で史に呼び出された。そしてその後にホテル街に消えた。外を見ると、まだ太陽は高い位置にある。こんな昼間からホテルに消えるというのは、それだけ離れたくないということなのだろうか。
真実なのかはわからない。話をしているわけではないし、実際自分が見たわけではない。だが愛が誤解させるようなことをいうわけがない。そんなことをしても何のメリットもないからだ。
ピンク色の看板には休憩三千円からとか、宿泊七千五百円からとか、カラオケ、食事、アメニティなどが充実していると書いてある。
清子は不安そうな顔をしながら、史に手を引かれていた。男の方が力は強く、いざとなれば女を力ずくでいうことを聞かせるだろう。前にもそんなことはあったが、そのときも必死で振り切って逃げたことがある。
だがそのときは男も黙っていたから良かったが、今回は違う。直属の上司だ。振り切って逃げれば問題になるかもしれない。かといって黙ってホテルへ行く真似はしたくない。
そのとき史は足を止めた。そして視線の先にはホテルとホテルの間にある、小さな建物を見ているようだった。看板が下がっていて、「喫茶 ひととき」と書いてある。そこに史は足を踏み入れた。
「いらっしゃい。」
ドアを開けると可愛いドアベルが鳴り、薄暗い店内にはテーブル席が数席、そしてカウンター席がある。そのカウンターの向こうには、一人の女性がいた。
「葵さん。」
「あら、あら、史さんじゃない?お久しぶりねぇ。」
背が低く、ころころとした印象の女性だった。白いエプロンに見覚えがあり、清子は少し首を傾げる。
「さっき、葵さんの映画を見てきて、久しぶりに顔を見たくなったんだ。」
「あら、やだ。そんな昔のをするなんて、やーねぇ。」
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