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ツケ
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仮眠室は倉庫と同じくらいのスペースで、二段ベッドが二つ、ソファーが二つ。窓には遮光カーテンがしてある。徹夜で仕事をした人が、十分、二十分の仮眠を取るためにしている配慮だろう。こういう部屋は各階に一つ、二つはあるようで、掃除も行き届いている。シーツなどのリネンだけは使った人が剥がして洗濯をする。
清子はそのカーテンを閉めると、携帯のアラームをセットした。そして眼鏡を外してソファーに横になると、すっと眠気が襲ってきた。普段は寝付きが良くない方なのだが、今日は疲れていたのだろう。
時間にしたらそう長い時間ではない。だが夢も見ないくらいの深い眠りだった。ふと肩に誰かが触れているのを感じて、薄く目を開ける。そこには史の姿があった。
「編集長……。」
「そろそろ起きないとね。」
携帯電話を見ると、アラームはあと一、二分で鳴る。まだ時間があった。だが起きた方がいいのかもしれない。それにさっきよりは頭がすっきりしている感じもする。
「ありがとうございます。」
清子はそう言って体を起こそうとした。だがその肩を掴んでいる力が抜けない。
「編集長?」
「あのときは史って呼んだのにね。今は二人なのに呼んでくれないのか?」
「……。」
何かしようとしている。それを感じて、清子は首を横に振った。
「呼びません。仕事場ですから。」
晶にしつこく言っているように、ここは職場なのだからちゃんとわきまえたいと思っていたのだ。だが史は違う。
「俺はしたい。あのときからキスすら出来てないのに。」
戸惑っている清子に追い打ちをかけるように、史は顔を近づける。
「やめて……。」
その言葉を無視するように、史はうつむいている清子に顔を近づける。そして軽くキスをした。軽い音が耳に触る。
「ここじゃ出来ないよね。」
「何もしたくないです。」
「だったら家で続きをしようか。今夜、君の新居に行っても良い?」
晶にも史にも知られてしまった住居を軽く来ないで欲しいと、清子は最近引っ越しをしたのだ。前の住居からはあまり離れていないが、それでもどの辺なのかはわからないだろう。
史は住所の変更を知っている。課の統括をしているのだから、人事部から報告のあった住所の変更先も知っているのだろう。だが清子は首を横に振る。
「駄目です。」
「……ついて行くから。」
こう言うとき史は言葉が通じないのかと思う。そしてもう二度と、史とはしたくないと思っているのに、それを拒否できない自分も弱いと思う。
「一人で生きていくためには、強くないといけないよ。清子。強くなりなさい。」
祖母が言っていたことだ。誰も信用してはいけない。だから信じれるのは自分だけだと思う。
オフィスに戻ってきた清子は見覚えのない紙を手にした。それを見て、香子は清子のデスクに近づいてくる。
「徳成さん。さっき下で慎吾さんが来てくれたわ。」
「慎吾さんが?」
開いてみると講習会の案内のようだった。講習会の内容と日付、場所、連絡先やアドレスなどが載っている。
「明神さん。ありがとうございます。それに慎吾さんはわざわざ届けてくれたんですね。連絡をしなきゃ。」
バッグから携帯電話を取り出してメッセージを打ち込み始めた。しかし香子はまだその場から動かない。それを感じてメッセージを打ち込んだあと、香子を見上げた。
「どうしました?」
「慎吾さんと連絡が取れるんなら、直接連絡してって言っておいてくれる?」
いらついているように香子は清子に言う。
「はぁ……。」
「正直、あの人苦手。名前を覚えてくれないのよ。いつまでたってもAVの人って言われてさ。」
実際そうなのだから仕方がないだろう。清子はそう思っていたが、黙ってそのことも追加でメッセージを送っていた。
「そうですね。そう言っておきます。」
メッセージを送ると、今度は別の女性がやってきた。
「徳成さーん。週末のビアガーデンだけどさ、その前にちょっとおめかしとかしない?」
「しません。」
きっと浴衣を着て、人並みに足並みをそろえれば二十五歳の女性になるだろうと思っていた女性の思いを、ばっさりと切り捨てたのだ。
「何で?おしゃれしたくないの?」
「そうよ。浴衣なんてこういうときにしか着ないしさ。」
そうは言ったが香子は内心、清子が浴衣など着たらますます史が清子に心を揺らされるのではないかと思っていた。そうさせたくない。だから綺麗になどならなくても良いと思っていたのだが、肝心の清子にその気はない。
そのとき、すぐに慎吾からのメッセージが届いた。ふと見ると、清子は少し笑った。
「どうしたの?」
「名前なんだったかと聞かれました。」
名前すら覚えていないのだ。呆れてため息をつく。
だったらどうして清子は覚えていたのだろう。しかも徳成ではなく清子と名前で呼んでいた。それだけ清子の印象が強かったのか。あるいは、女としてみているのか。それはわからない。
仕事が終わったのは十八時。やはり今日も少し残業をしてしまった。清子はそう思いながら、パソコンをシャットダウンする。中にはしつこい男もいて、ウェブ上の加工を解かなければどうなっても知らないと脅しまでかけてきたのだ。刑事事件に発展させてまでも加工を解りたいのか。そう思いながら、清子は席を立つ。
中にはまだ人が残っていて、ライターは文字のチェックをまだ終わらせられないようだ。清子は給湯室へ行き、コップを洗うとバッグを持った。
「お先に失礼します。」
「お疲れさま。」
ライターはヘッドフォンをはずして、清子にそう言う。そしてエレベーターへ向かい、一階に降りる。
玄関先でイヤホンを取り出すと、雑踏の音を消すように音楽を流した。音楽にこだわりはない。ただ自分の好きな音は、激しい音楽でいわゆるヘビーメタルだった。激しいギターの音と、ドラムのベース音が利いていて、男の高い声が心地良いと思う。
ライブまでは行ったことがないが、こんなバンドのライブへ行ったら倒れるかもしれないな。清子はそう思いながら、駅の方向へ歩いていこうとしたそのときだった。
「清子。」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこには史の姿がある。先に出たはずなのにどうしているのだろう。
「編集長。どうしたんですか?」
イヤホンをはずして、史の方を見る。すると史は少し笑っていった。
「待ってた。君の家に行きたいといっただろう?」
呆れたように清子は史を見上げる。
「嫌です。帰ってください。」
「ついて行くよ。」
「ストーカーって言われますよ。」
「どうとでも。」
最近は清子にこう言われるのも心地いい。自分がMだったのだろうかと勘違いする。だがベッドの中では違う。清子はベッドの上では史で感じてくれる。声を上げて、求めてくる腕が愛しい。
「食事はどうするの?」
「適当に。」
そう言って離れようとしたのに、史は駅まで着いてきそうだ。駅へ向かうサラリーマンや主婦たちに紛れて逃げてしまおうかと思う。
そのとき清子は妙な人を見た。この暑いのに黒いパーカーのフードをすっぽり被った人。手元を見ると、何か握っている。
「どうしたの?」
史は少し笑って、足を止めた清子を振り返って見る。そのときだった。
「危ない!」
清子はそう叫ぶと、史を横に突き飛ばした。史は思わずしりもちをつき、その上に清子が多い被さるように倒れ込む。
「きゃああああ!」
女の叫び声がした。地面にうつ伏せたまま、清子は振り返るとフードの男は別のサラリーマンの腕を切ったらしく、切られた男は呆然として流れている血を見て錯乱したように倒れ込んで叫び声をあげていた。
「ひっ!ひいいいい!」
パーカーの男は、返り血を浴びて史の方を真っ直ぐに見ていた。そして再び史の方へ向かってくる。すると清子は立ち上がり、史を背に男をひらっと避けると刃物を持っている腕を両手でつかみあげる。
そしてその腕をひねりあげると、男は叫び声を上げた。
「いたっ!いてぇ!」
思わず刃物を落とす。かまわず清子はその腕に力を込める。その時、やっと警備員と警察がやってきた。
清子はそのカーテンを閉めると、携帯のアラームをセットした。そして眼鏡を外してソファーに横になると、すっと眠気が襲ってきた。普段は寝付きが良くない方なのだが、今日は疲れていたのだろう。
時間にしたらそう長い時間ではない。だが夢も見ないくらいの深い眠りだった。ふと肩に誰かが触れているのを感じて、薄く目を開ける。そこには史の姿があった。
「編集長……。」
「そろそろ起きないとね。」
携帯電話を見ると、アラームはあと一、二分で鳴る。まだ時間があった。だが起きた方がいいのかもしれない。それにさっきよりは頭がすっきりしている感じもする。
「ありがとうございます。」
清子はそう言って体を起こそうとした。だがその肩を掴んでいる力が抜けない。
「編集長?」
「あのときは史って呼んだのにね。今は二人なのに呼んでくれないのか?」
「……。」
何かしようとしている。それを感じて、清子は首を横に振った。
「呼びません。仕事場ですから。」
晶にしつこく言っているように、ここは職場なのだからちゃんとわきまえたいと思っていたのだ。だが史は違う。
「俺はしたい。あのときからキスすら出来てないのに。」
戸惑っている清子に追い打ちをかけるように、史は顔を近づける。
「やめて……。」
その言葉を無視するように、史はうつむいている清子に顔を近づける。そして軽くキスをした。軽い音が耳に触る。
「ここじゃ出来ないよね。」
「何もしたくないです。」
「だったら家で続きをしようか。今夜、君の新居に行っても良い?」
晶にも史にも知られてしまった住居を軽く来ないで欲しいと、清子は最近引っ越しをしたのだ。前の住居からはあまり離れていないが、それでもどの辺なのかはわからないだろう。
史は住所の変更を知っている。課の統括をしているのだから、人事部から報告のあった住所の変更先も知っているのだろう。だが清子は首を横に振る。
「駄目です。」
「……ついて行くから。」
こう言うとき史は言葉が通じないのかと思う。そしてもう二度と、史とはしたくないと思っているのに、それを拒否できない自分も弱いと思う。
「一人で生きていくためには、強くないといけないよ。清子。強くなりなさい。」
祖母が言っていたことだ。誰も信用してはいけない。だから信じれるのは自分だけだと思う。
オフィスに戻ってきた清子は見覚えのない紙を手にした。それを見て、香子は清子のデスクに近づいてくる。
「徳成さん。さっき下で慎吾さんが来てくれたわ。」
「慎吾さんが?」
開いてみると講習会の案内のようだった。講習会の内容と日付、場所、連絡先やアドレスなどが載っている。
「明神さん。ありがとうございます。それに慎吾さんはわざわざ届けてくれたんですね。連絡をしなきゃ。」
バッグから携帯電話を取り出してメッセージを打ち込み始めた。しかし香子はまだその場から動かない。それを感じてメッセージを打ち込んだあと、香子を見上げた。
「どうしました?」
「慎吾さんと連絡が取れるんなら、直接連絡してって言っておいてくれる?」
いらついているように香子は清子に言う。
「はぁ……。」
「正直、あの人苦手。名前を覚えてくれないのよ。いつまでたってもAVの人って言われてさ。」
実際そうなのだから仕方がないだろう。清子はそう思っていたが、黙ってそのことも追加でメッセージを送っていた。
「そうですね。そう言っておきます。」
メッセージを送ると、今度は別の女性がやってきた。
「徳成さーん。週末のビアガーデンだけどさ、その前にちょっとおめかしとかしない?」
「しません。」
きっと浴衣を着て、人並みに足並みをそろえれば二十五歳の女性になるだろうと思っていた女性の思いを、ばっさりと切り捨てたのだ。
「何で?おしゃれしたくないの?」
「そうよ。浴衣なんてこういうときにしか着ないしさ。」
そうは言ったが香子は内心、清子が浴衣など着たらますます史が清子に心を揺らされるのではないかと思っていた。そうさせたくない。だから綺麗になどならなくても良いと思っていたのだが、肝心の清子にその気はない。
そのとき、すぐに慎吾からのメッセージが届いた。ふと見ると、清子は少し笑った。
「どうしたの?」
「名前なんだったかと聞かれました。」
名前すら覚えていないのだ。呆れてため息をつく。
だったらどうして清子は覚えていたのだろう。しかも徳成ではなく清子と名前で呼んでいた。それだけ清子の印象が強かったのか。あるいは、女としてみているのか。それはわからない。
仕事が終わったのは十八時。やはり今日も少し残業をしてしまった。清子はそう思いながら、パソコンをシャットダウンする。中にはしつこい男もいて、ウェブ上の加工を解かなければどうなっても知らないと脅しまでかけてきたのだ。刑事事件に発展させてまでも加工を解りたいのか。そう思いながら、清子は席を立つ。
中にはまだ人が残っていて、ライターは文字のチェックをまだ終わらせられないようだ。清子は給湯室へ行き、コップを洗うとバッグを持った。
「お先に失礼します。」
「お疲れさま。」
ライターはヘッドフォンをはずして、清子にそう言う。そしてエレベーターへ向かい、一階に降りる。
玄関先でイヤホンを取り出すと、雑踏の音を消すように音楽を流した。音楽にこだわりはない。ただ自分の好きな音は、激しい音楽でいわゆるヘビーメタルだった。激しいギターの音と、ドラムのベース音が利いていて、男の高い声が心地良いと思う。
ライブまでは行ったことがないが、こんなバンドのライブへ行ったら倒れるかもしれないな。清子はそう思いながら、駅の方向へ歩いていこうとしたそのときだった。
「清子。」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこには史の姿がある。先に出たはずなのにどうしているのだろう。
「編集長。どうしたんですか?」
イヤホンをはずして、史の方を見る。すると史は少し笑っていった。
「待ってた。君の家に行きたいといっただろう?」
呆れたように清子は史を見上げる。
「嫌です。帰ってください。」
「ついて行くよ。」
「ストーカーって言われますよ。」
「どうとでも。」
最近は清子にこう言われるのも心地いい。自分がMだったのだろうかと勘違いする。だがベッドの中では違う。清子はベッドの上では史で感じてくれる。声を上げて、求めてくる腕が愛しい。
「食事はどうするの?」
「適当に。」
そう言って離れようとしたのに、史は駅まで着いてきそうだ。駅へ向かうサラリーマンや主婦たちに紛れて逃げてしまおうかと思う。
そのとき清子は妙な人を見た。この暑いのに黒いパーカーのフードをすっぽり被った人。手元を見ると、何か握っている。
「どうしたの?」
史は少し笑って、足を止めた清子を振り返って見る。そのときだった。
「危ない!」
清子はそう叫ぶと、史を横に突き飛ばした。史は思わずしりもちをつき、その上に清子が多い被さるように倒れ込む。
「きゃああああ!」
女の叫び声がした。地面にうつ伏せたまま、清子は振り返るとフードの男は別のサラリーマンの腕を切ったらしく、切られた男は呆然として流れている血を見て錯乱したように倒れ込んで叫び声をあげていた。
「ひっ!ひいいいい!」
パーカーの男は、返り血を浴びて史の方を真っ直ぐに見ていた。そして再び史の方へ向かってくる。すると清子は立ち上がり、史を背に男をひらっと避けると刃物を持っている腕を両手でつかみあげる。
そしてその腕をひねりあげると、男は叫び声を上げた。
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