不完全な人達

神崎

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花火

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 唇を離しても、またその唇を味わいたくなる。清子も同じことを思っているのだろうか。少し体を離すと、清子の頬が赤く染まっている。その頬に手を置くと、びくっと体を震わせた。
「今日、しようと思わないよ。体調が悪いだろうし。」
「……もう平気です。」
「したい?」
「そうじゃないんですけど……。」
 史は清子の頬に伝っている流れていた涙を拭い、軽く唇を合わせると体を離した。
「抱きしめて眠るだけで良い夢が見れそうだ。」
 すると清子は少しため息を付いて言う。
「本当に息を吐くように甘い言葉を言うんですね。」
「君だけだから。」
 史はそれだけを言うと、ソファから立ち上がった。
「シャワーを浴びてくる。君は?」
「浴びてきました。」
「だったら少し待っていて。」
 隣の部屋へ行って手に下着を持つと、史はバスルームへ消えていった。それを見て清子は深くため息をはく。本当に史に自分のことを言って良かったのだろうか。そこまで信用していいのか。自問自答しながら、清子はテーブルにおいてある煙草に手を伸ばし火を付ける。
 そのとき清子のお尻のポケットに入れていた携帯電話が鳴った。それを取り出してみてみると、そこには慎吾の名前がある。
「もしもし。」
 電話に出ると、それは慎吾ではなかった。
「お前、今日大丈夫だったか。」
 それは晶だった。晶の連絡先は知らない。だがどうして慎吾の携帯を持っているのだろう。
「えぇ。もう平気です。あの……どうして慎吾さんの……。」
「お前の連絡先を知りてぇって、慎吾に聞いたら無理に教えたくねぇっていうから。」
 悪意はない。そういう人なのだろう。だがそれで他人の怒りを買うということを知らないのだろうか。
「今、家にいるのか?」
 言いたくなかった。史の所にいるなどと言ったら、乗り込んでくるかもしれない。
「いいえ。ちょっと出先です。」
「あれだけ顔色が悪くてよくふらふら出て行くよな。」
 出先としか言わない。それはどこにいるのかも言いたくないということだろうか。もしかしたら男の所だろうか。そしてその男とは史の事だろうか。色んな想像が頭をよぎり、消えていく。何も確信はないからだ。
「こっちはもう解散した。」
「慎吾さんも合流したんですね。」
「あぁ。バス停でうろうろしてたから女に声をかけられてて、そっからみんなで飲み直し。」
「……そうだったんですね。」
「お前さ、明日帰るか?」
 その言葉に清子は少し言葉を詰まらせた。だが言うしかない。
「様子を見に。」
「だったら俺も行くから。いつ迎えに行けばいい?どこにいる?」
「……一人で行きますから。」
 史もついてくると言っていたが、やはり一人で行くべきなのだろう。何とか説得したいが、その見返りは大きいものかもしれない。その見返りを払ってまでも、一人で行かないといけないのだ。
 清子の言葉に呆れたように晶は口を開く。
「清子。お前なぁ……。」
「家の問題です。久住さんには関係ない。」
 灰皿で煙草を消すと、清子は立ち上がって窓側へ行く。カーテンから外の様子を見ると、夜遅い時間なのにヘルスなどに入る男がまだいるようだ。
「お前はお前の問題だってずっと言ってるけど、あの家だって親父の話によると、変な宗教団体がいるらしいぜ。毎日お経みたいなのが流れてくるって、近所でも評判だ。それに……。」
「何?」
「お前が家を出る何年か前か、殺人事件があったの覚えてるか?」
「……そんなこともありましたね。」
 清子のいた家から少し離れたところにあった家。清子が出る前に、父親が母親を殺す事件があった。その父親は自殺をした。その家には二人の姉妹が住んでいたが、どちらとも行方しれずになっているらしい。
「それが何か?」
「フリーライターの西川って知っているか?」
「何度かお見かけしたことがあります。」
「そいつがあの殺人事件のことを嗅ぎ回ってる。犯人死亡の事件に何を記事にするのかわからないけど、お前、あの姉妹と仲が良かったんじゃないのか。」
「……。」
 忘れかけていたことだった。友人というのは少なかったが、まだ何も知らない幼い頃に一緒になって海で遊んでいた記憶がある。
 だが楽しそうに遊んでいる清子に、祖母は厳しいことを言った。
「人は裏切るのだから、あまり信用するものじゃないよ。あの姉妹だってどんな形でお前を裏切るかわからないのだから。」
 それ以来、海へ行かなくなった。そしてその姉妹とも顔を合わせることはなかったが、その数年後に父親が母親を殺し、父親が自殺をしたというニュースが話題になった。当時は、警察やライター、テレビ局がやってきて、ヒステリックにニュースを伝えていたのを覚えている。
 祖母はそれを見て「やっぱり」と言っていた。だから清子もそんなものなのだろうと、黙って黙ってその事件を傍観していたのだ。
「そうですね……。確かに思い出しました。」
「仲が良かったんだったら、お前にも話が行くかもしれない。そのとき正直に話すのか?」
「繋がりはありません。私に話を聞いてもわからないとしか言いようがありませんよ。」
 そのときバスルームから史が出てきた。清子はソファから立ち上がり、携帯電話で何か話をしているようだ。それは誰だかわからない。清子の周りにどんな人がいるのかもわからないのだから。だがその表情は陽気という感じではない。真剣に何かを話している。
「強引な男らしい。何かあってからでは遅いんじゃないのか。」
「だからといって久住さんは頼りませんよ。」
「清子。」
 やはり晶だったのか。史は飲みかけている水を口に含み、清子の方をみる。
「久住さんはもっと守る人がいるはずです。私ではない相手が。」
 愛のことを言っているのだろう。晶は悔しそうに舌打ちをする。
「とにかく……何かあったら連絡をしろ。あとでメッセージでお前の所に連絡先を入れておくから。」
「連絡することはありません。慎吾さんにもそう言っておいてください。」
「清子。」
 呼び止めようとした。だが電話を切られる。悔しそうに電話を晶も切ると、慎吾に携帯電話を手渡した。
「番号教えろよ。」
 すると慎吾は呆れたように晶に言う。
「断られたんじゃないのか。」
「断られたからって、のこのこ「はい。じゃあ聞きません。」とはいかねぇんだよ。こっちにはこっちの事情がある。」
 ますます呆れたように慎吾は携帯電話を手にする。だがその手が止まり、晶の方を見た。
「お前、もしかして優越感に浸ってるのか。」
「は?」
「清子とは確かに幼なじみかもしれないし、俺もそんなに清子の内情に詳しい訳じゃない。それはあの正木ってやつも一緒だ。だから知らない一面を知ってるって言う優越感。」
「そんなんじゃねぇよ。」
「まぁ……どっちでも良い。昔はどうあっても、今は連絡先を交換するほどの関係ではないのだろうし。」
 慎吾はそう言って、携帯電話の発信履歴から清子の番号を呼び出す。
「これだったな。ほら。」
 すると晶はその番号を自分の携帯電話に入れる。明日、また連絡してみよう。それに気になることもあった。
 外にでていると言っていた割に風の音もしなかった。もしかしたら部屋の中にいるのかもしれない。誰の部屋の中にいるのだろう。それは史かもしれないと思ったとき、晶の拳が握りしめられた。
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